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2019年08月09日(金)

地方創生に関わりたい企業は何を見るべきか?人口減少率No.1といわれた村を再興する川上村栗山村長に聞く

経営ハッカー編集部
地方創生に関わりたい企業は何を見るべきか?人口減少率No.1といわれた村を再興する川上村栗山村長に聞く

奈良県東南部に位置する川上村は、かつて国立社会保障・人口問題研究所の統計発表で人口減少率が全国 ワースト1位とされた村だ。同統計によると日本一高齢化が進み、何もしなければ、2045年までに14歳以下の子どもの数がゼロになるとも予測されていた。
 
ところが、川上村の内情を伺ってみると、ここ数年では毎年平均50名以上の「社会増加」があり、以前より村への若者の移住は増えてきているとか。移住促進対策を着実に進め、子育て世帯を呼び込む中で次回の統計では違った結果が出るだろうと栗山忠昭村長は手ごたえを感じている。今回、川上村がどのような取り組みによって若者の誘致にこぎつけたのか、また地方創生に取り組みたい企業が自治体を選ぶべきポイントはどこなのかを栗山村長に伺った。

大滝ダム建設による村の水没をどのように乗り越えたのか?

—川上村が掲げる「水源地の村づくり」のきっかけともなった、大滝ダム建設の経緯について教えてください。

大滝ダムの建設構想が発表されたのは1960年のこと。1990年に着工し、実に53年の歳月をかけて2013年に完成しました。大滝ダムは群馬県長野原村の八ツ場ダムと並んで「東の八ツ場、西の大滝」と呼ばれ、大規模な反対運動が起こったことで全国に知られた場所です。反対運動の最中、村役場の職員として働いていた私は、実はダム反対派の急先鋒でした。当時はずいぶん建設省を憎んだものですよ。
 
しかし、激しい反対運動をやりながらも悩み抜いた結果、私たち村民はダムを受け入れる決断をしたのです。私たちには県内だけでなく、和歌山県にも水を供給する重要な水瓶を保有しているという自負がある。その立場が過去も未来も普遍であるなら自然の水瓶も、コンクリートの水瓶もあっていいじゃないかと考えたら腑に落ちました。受け入れるからには水源地としての活路を見出すしかない。しかし実際には、ダムの建設によって1,500世帯のうち500世帯、実に3分の1 が水没、村の中枢機関である役場のあった場所まで沈んでしまうわけですから、大きな行動を起こさないとダメだと再興の決意をしました。
 
そこでダム建設と平行して進めたのが、今も地域おこしの核となっている「水源地の村づくり」という考え方でした。緑の水がめである吉野川の源流とコンクリートの水がめである大滝ダム、この二つを維持していくことが村人の誇りであり村の大きな使命だと心定めし、1994年に第3次総合計画として基本理念の「吉野川源流物語」を完成させました。
 
外から人を呼び込むにも、村民に仕事を作り出すにも、まず村の理念作りが重要になってきました。もともと川上村は吉野林業の中心地でもあり、吉野川の源流である山が村民の暮らしを支えてきました。だからこそ私たちは、水源地としての立場を確立する作業が肝心であると考えました。理念のない村では地域外にいる人に強いメッセージが届かないと判断し、吉野川の源流という位置づけをしっかり保持することにこだわったのです。

水源地の森(吉野川・紀の川源流)

—村長が外部とのネットワーク作りを始めたのはいつ頃からになりますか?

実は、川上村はもともと比較的裕福な村でした。80年代初頭までは村の基幹産業である吉野林業の生産力も高く、生活様式も文化的で、少し派手なところもあったほどです。ところが、ちょうど平成に入る少し手前くらいから林業の衰退が始まりました。さらに大滝ダム建設が進むと同時に、村の過疎化も急速に進んでいきました。
 
村からどんどん人が減っていく状況に、私は強烈な危機感を覚え、いろいろな場所へ出かけていくようになりました。村づくりの話を少しでも聞いてもらい、協力を得たい一心で人脈作りを始め、たくさんの方に会って、新しい知識を吸収しました。少しずつですが、川上村の「水源地の村」としての位置づけが外部にも広まっていきました。そういった流れの中で、政府の地方創生政策が始まり、当村においても「第5次総合計画~都市にはない豊かな暮らしの実現」の最初の5か年の未来を開拓する計画として「川上村まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定しました。中でも川上村では「人口ビジョン」をテーマに、村人の暮らし(居ここち)を整えることと外から人を呼びこむ活動に力を入れました。いくら川上村が風光明媚で暮らしやすいと言っても、それだけでは村を維持できません。村民が生きていくためには、移住者の確保とともに雇用創出や生活のサポートが急務だろうと考えたのです。
 
具体的には、村民がいつまでも暮らし続けられる村づくりを推進し、毎年3世帯以上を村に呼び寄せる移住促進に取り組むこと、そのために子育て支援を徹底させることを念頭に施策を練りました。地域存続のシミュレーションをしてみると全体人口の1%を新たに確保できれば、その地域は存続していけるのです。であれば、川上村のような1,300人規模の村に必要なのは約13人。つまり年3組の子育て世代に移り住んでもらうことが目標になります。

逆境の中で人を呼び込む施策

—実際に人をどのように呼び込んだのでしょうか?

実は以前から私は「川上村に住むことを仕事にしよう」、「住んでくれる若者にはお金を出してもいい」と、村に若者が移り住むための施策を考えていました。ですから、総務省が地方活性化のため、過疎化地域に住み込んでボランティア業務を行う若者たちに報酬を与える地域おこし協力隊のプランを打ち出したときには、願ったりかなったりという思いでした。若者が高齢者の多い集落で実際に暮らし、同じ目線で生活する行為は重要な役割を持っていますから。
 
地域おこし協力隊が2009年にスタートした際には、パイロット的に総務省に指名された市区町村だけが参加したと記憶していますが、本格的に全国で始動すると川上村もすぐに手を上げました。初年度である2013年の受け入れは6人、現在までにOBも含めて24人の隊員を受け入れてきています。協力隊は3年経ったら卒業する制度なのですが、卒業後に私たちの村に残る割合は70%に上り、大多数の隊員たちが今も居住を続けています。

地域おこし協力隊の活動(山遊び塾ヨイヨイかわかみ)

—人口増加の最大の要因は地域おこし協力隊になりますか?

その点は、今まで取り組んできた活動や「総合戦略」で策定したいろいろな施策が作用した結果もあります。人口増加の原因は村の中から生まれた試みによるものが半分、協力隊が半分といったところです。村発信の施策の中に、職員が自主的に始動させた「川上ing(かわかみんぐ)作戦」というプロジェクトがあります。これは移住・定住を推進する施策で、住まいや仕事、子育て環境といった移住希望者が抱えがちな不安を取り除くことを目的に、若い職員たちが始めた事業です。
 
自然減で見れば今なお高齢化率は高く、厳しい現状ですが、自然の豊かな地域で子育てをしたいご夫婦や、水源地の理念に共感して引っ越してきていただける移住者の方々のおかげで、転出と転入の差を表す社会増減は改善しています。かつては子どもの高校進学を機に、家族で近隣の町へ引っ越してしまうことが社会増減のマイナスの原因となっていましたが、ここ3年間で明らかにマイナスが減っています。「川上ing作戦」の効果が出て移住者が増えているところに、総務省の地域おこし協力隊も重なって、いわゆる関係人口が増え始めたのが2013年頃です。

—「川上ing作戦」で移住された方々は紹介が多いのですか?

独自に情報を得て移住して来られる家族もいます。東京に限らず、「ここがいいんだ」と心から信じて住居を構えている方は案外少ないのではないしょうか。大勢の方が何かしらの形で、今の暮らしを変えたいと望んでいるのかもしれません。もともと関心のある方はあちこちにアンテナを張っていますから、村のメッセージがいいタイミングで上手に届けば、川上村への移住も可能性の一つとしても考慮に入れてくださることもあるでしょう。実際に移住した方々は、水源地の村づくりを通じた子育てや暮らしのあり方に共鳴してくれていますから。もちろん、「川上ing作戦」で移転された家族の連携や交流がまた新しい人を呼ぶこともありますし、地域おこし協力隊の卒業生から川上村の話を聞いて来てくれた方もたくさんいます。
 
地域おこし協力隊で何より嬉しいのは、任期が終わり卒業して村から出ていった隊員たちとも、その後の交流が続いていることです。こうした繋がりを持てているのは、隊員たちが私たちの村づくりに共感してくれているからにほかなりません。仕事で付き合いを続けている方たちもいれば、プライベートで交流を続けてくれる方もいますが、それが川上村にとってかなり大きな活力になっていると思います。

人を呼び込む力の源泉は何か?

—かつて「人口減少率ワースト1位」との発表もありました。

もともと山間へき地は皆厳しい闘いを強いられています。しかし、我が子から「もう街に出てきたらどうだ」と言われても、踏ん張って田舎に暮ら続けている高齢者たちもまだまだいます。そんなふうに暮らしている中で、「あなたの町は将来なくなりますよ」と言われてしまったら心が萎えてしまうのは当然です。しかし、私たちはあの数字を「何も努力をしなければ、町の過疎化は止まりませんよ」という警告と受け止めて、悲観せずに奮起の材料にしてきました。日本全体の人口も減っていますし、実際にはどこの市区町村も人口減少は避けられないのが実情です。そうであるならばどうしていくか、思考を変えるだけです。地域の価値は、人の多い少ないで決まるものではないと思っています。

—現実に若者を呼び込めているのは、施策による努力もあると思いますが、その背景にある力の源泉は何なのでしょうか?

それは、私たちの村がコミュニティの強化つまり、社会関係資本の充実に注力しているということです。端的にいうと人間関係の繋がりの強化です。それを意識し始めたのは、もうずいぶん前からになります。東京にはない人の繋がりの暖かさをしっかりと根付かせれば、かならず川上村の村づくりに共鳴してくれる方がいらっしゃるはずです。とはいえ、定住人口を増やすのは現実的に厳しくなっているのが現状と考え、ネットワークを広げていく中で、「関係人口」という概念に辿り着きました。
 
総務省でも今は、定住人口ではなく関係人口を増やしていく方向で動きつつあります。総務省による関係人口の定義とは、物理的に村に住む定住人口とも、観光やボランティアに来てくれる交流人口とも違い、村外に住んでいても川上村のために多様な関係を築いて活動してくれるような人々のこと。様々な施策で築き上げた人的ネットワークを資産と捉えて、地域を活性化させようとする新しい人口の考え方です。この関係人口のネットワークを増やす努力が結果として、定住者を呼び込むことに繋がっていくのです。

—関係人口の増加こそが自治体が取るべき方向だと?

行政が制度を利用するのは当たり前ですし、ふるさと納税や地方創生加速化交付金なども含め、お金を援助して頂けるのは喜ばしいことです。しかしその一方で、村の外に住んでいても「川上村のために自分の時間を使いたい」と言ってくれる人たちとの絆を強くしていく施策に頭を使うのも重要です。お金ももちろん有難いですが、私は人の繋がりを最も大事にしたい。今後は人口数を聞かれたら「定住人口は1,313人です」と答えるのではなく、「関係人口は3,424人です」というように答えていきたいと思っています。もう定住人口だけがものさしではない時代に突入しています。

雇用創出にもつながる仕事づくりの取り組みは?

—地場産業である林業の活性化に対して取り組まれていることは何でしょうか?

私が主導して「吉野かわかみ社中」という組織をつくり活動しています。もともと、川上村森林組合と言えば業界で知らない人はいないくらい有名だったのですが、木材需要と販売価格の低下で林業は30年ほど前から低迷していました。「吉野かわかみ社中」は林業の独自産業化を目指して、「森林調査・施業」「製品加工」「販売マーケティング」の3つを一体的に行っていこうと立ち上げたシステムです。これには、行政がリーダーシップを発揮しつつ村内にある4つの組合を一つにし、力を結集しました。
 
木材の値段は上がりませんが、マーケティングの要素を入れて製品として加工すれば価値が上がりますので、そこを狙っています。今はオフィスの環境改善を図る取り組みとして、中央省庁などへの売り込みにも挑戦しています。また、2020年開催の東京オリンピックではVIPルームに吉野杉が利用されることが決定していますし、何より木材を使った高層建築の工法も開発されてきていますので、木材利用環境は改善してきています。

—民間企業さながらですが、他にも同じような取り組みはあるのでしょうか?

「かわかみらいふ」という村民の生活をサポートする組織も作りました。これは職員たちから出てきたアイデアで、村民主体の一般社団法人です。食品・日用品の個別宅配や移動販売、高齢者への声かけ、コミュニティカフェ、体操教室や巡回診察など、日々の暮らしに根付いたサービスを「かわかみらいふ」が行うことで、村内に雇用と活気を生み出そうという試みです。2016年10月からスタートしました。さらに村ではエコツーリズムとインフラツーリズムを合体させた「源流ツーリズム」にも力を入れ、村の豊かな自然、歴史、文化を保全・継承しながら、村民、村内外の事業者など皆が関わる取り組みにより旅行者への魅力的な地域資源とふれあいや学びの機会を提供し、村に関わる人たちにも利益を還元する施策も進めています。
 
私は日頃から株式会社川上村を経営するような気持ちで、林業、福祉、子育てプラン、雇用創生、移住者誘致、観光、環境、その全てをリンクさせて総合的に地域創生事業を行っていきたいと考えています。産業構造が確立されていなかった地域で、どうやって食べていくか、緑を守っていくか、究極のチャレンジをしているわけです。幸いにも川上村では村民の生活を維持していく基盤ができあがりつつあります。

—企業が地方創生に取り組もうとするとき見るべきポイントはどこでしょうか?

私たちからすれば、今後も企業を丸ごと誘致するのは難しいですが、今や、働き方改革によるテレワークやパラレルワークも進んでおり、IT企業などの小規模開発拠点を置いていただくなどの可能性はあると思います。その時に、重要なのはやはりその地域の人の繋がりであり、そのコミュニティがいかに充実しているかといったことが重要だと思います。単に自然環境が素晴らしいといっても、その地域のコミュニティと共に価値創造が出来て行かないと非常にもったいない話になります。
 
また、人口が多い自治体だと、協力してくれる方々が動いたが結果が目に見えて現れませんが、私たちのような規模ですと、一定期間活動すればかならず成果が表れますので、非常にやりがいがあると思います。社会関係資本を創造するコミュニティに注目すると、ネットワークを成す皆さんとの様々な接点も持て、広がりがあります。是非一度川上村にいらっしゃって現地を体験してみてください。

—よくわかりました。ありがとうございます。

【プロフィール】
栗山忠昭(くりやま ただあき)
1951年、奈良県川上村生まれ。1969年、奈良県立吉野林業高等学校卒業後、川上村役場へ。村営「ホテル杉の湯」支配人、産業振興課長、収入役、副村長を務め、2012年7月の村長選で初当選。2016年7月から2期目の村政をスタートさせた。
 
川上村 
奈良県東南部、吉野川(紀の川)の源流に位置する。
人口 1313人
面積 約269.26㎢、約97%が山林の吉野林業発祥地。 
概要:
1994年から第3次総合計画で「水源地の村づくり」に取り組み、1996年に川上村宣言を発信。1999〜2002年に水源地の森約740ha(東京ドーム約170個分)を購入、源流の保全活動を行う。2002年には「公益財団法人吉野川紀の川源流物語」設立し、「森と水の源流館」オープン。2013年大滝ダム竣工。日本遺産に認定、ユネスコパークに拡張登録された大峯奥駈道(おおみねおくがけみち)など、豊かな観光資源を誇る。2017年には優れた施策で地方自治の発展に貢献した村として総務大臣表彰を受けた。

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