人気M&Aプラットフォーマーに聞く!ベンチャー企業が売却に成功するコツとは?
少し前まで、ベンチャー企業を立ち上げた起業家の多くが夢見るのは、IPO(新規上場)というゴールでした。ところが最近では、株式上場ではなく、M&A(合併・買収)を選ぶベンチャー企業が増えています。実際、中小企業のM&A成約件数は、2012年に比べ2017年には3倍以上に増えているという統計も(2018年「中小企業白書)。
ところがベンチャー企業が「会社や事業を売却しよう」と思い立っても、買い手企業の情報収集やアプローチで戸惑うことが多く、買い手企業側も、売り手企業の発掘に苦心しているところが多数あります。
こうした売り手、買い手双方の課題を解決するべく株式会社M&Aクラウドが立ち上げたマッチングプラットフォームが「M&Aクラウド」です。同サイトには、買い手企業の情報がずらりと掲載され、売り手企業がコストゼロで、買い手候補を選び売却提案することが可能。従来のM&A仲介には無かった“売り手視点”のサービスが反響を呼び、利用する企業が急増しています。そんなM&Aクラウドを運営する代表取締役CEOの及川厚博氏に、最近の業界動向やM&A成功のポイントなどを聞きました。
“テクノロジー”という薬を使い、2つの社会課題を解決する
―まずはM&Aクラウドさんの事業概要を教えてください。
私たちは「M&Aクラウド」というM&Aのマッチングプラットフォームを運営しているベンチャー企業で、フェイズでいうとシリーズB(事業の拡大段階)にこれから移行しようという段階にいます。
当社がミッションに掲げているのは「テクノロジーの力でM&Aに流通革命を」起こすこと。M&Aは非常に難しいプロセスですが、技術の力でスムーズに行えるようにしたいと考えていて、将来的には「M&Aクラウド」を、年間1万件のM&Aが起こるような革命的なプラットフォームに成長させることを目標にしています。
私たちが解決したい社会課題が2つあります。ひとつが「事業承継」です。現在60歳以上の経営者が経営する黒字経営の会社が約60万社あるのですが、毎年、そのうちの約3万社が後継者を見つけられずに廃業していると言われています。これに対し、日本の中小企業のM&A件数は年間約1,500件しかありません。
これを医療に例えると、60万人もの重い病気にかかっている患者がいるのに対して、年間1,500人ほどしか手術を受けられていないという状況です。しかも手術できる医者が少ないため、手術代がものすごく高額になっている。こういった状況が、日本の事業承継を取り巻くM&A市場に起こっているわけです。私たちはテクノロジーの力を活用することで、こうした事業承継に苦しむ会社の回復を、一社でも多く手助けできればと考えています。
もうひとつの課題が「ベンチャーのEXIT(出口)」です。国による後押しもあって、ベンチャーの資金調達環境は改善し、約4,000億円以上もの資金が注入されるなど、市場は今非常に盛り上がっています。ところが、ここ数年のIPO社数は横ばい。IPO以外のEXITが増えないと、投資家の熱が冷め、次世代のベンチャーに資金が調達されなくなる可能性があります。こうした課題を解決するため、私たちは、ベンチャー企業のもうひとつのEXITであるM&Aの活性化に尽力しているのです。
―そんな思いを込めて作った「M&Aクラウド」とは、具体的にどのようなマッチングサイトになっているのでしょう?
基本的は、売り手企業が買い手企業を探すためのサイトで、買い手企業の情報がたくさん載っているサイトになります。売り手企業が買い手企業の情報を閲覧し、直接打診できるのが特徴で、売り手側は買い手候補探しから売却完了まで完全無料で利用できます。
―売り手企業に優しいシステムになっているのですね。買い手企業側にはどのような利用メリットがあるのでしょう?
従来のM&A仲介サービスを利用すると、仲介料が入るなどし、買収コストが跳ね上がります。またM&A仲介サービスでよく行われている、M&Aアドバイザーが売り手企業を紹介する仕組みだと、アドバイザーは一番高く買ってくれる企業に案件を持っていこうとするため、やはり買収コストが高くなってしまいます。その点「M&Aクラウド」は、買い手企業と売り手企業が直接やりとりできる仕組みになっているため、買収コストの大幅な削減につなげられます。
ちなみに2019年6月時点での掲載している買い手企業の数は100社以上。売り手企業の登録数は1,000社を超えており、2019年末までには、買い手企業の登録数を500社、売り手企業の登録数を2,000社にすることを目標にしています。
ベンチャー買収を望む企業は着実に増えている
―「M&Aクラウド」を運営する及川さんから見て、現在のM&Aの市場はどういった状況にあると感じますか?
まず私たちの業界の話をすると、M&Aプラットフォーム自体の数が大幅に増えています。半年前には、プラットフォームを運営する会社の数は国内で10社未満だったのが、現在は40社ほどに増えました。単純計算で4倍に増えたことになります。
「M&Aクラウド」の利用状況で大きく変わってきたこととしては、売り手企業の登録数が伸びていることがあります。毎月、150社から160社ほどの売り手企業が登録してくれるようになりました。半年前と比べると約3倍に増えたことになります。これは、おそらく買い手企業の掲載数が急増したことが影響していると思いますね。
あと、売り手企業については、当社のサイトを利用するだけでなく、他のプラットフォームサイトも並行して利用するところが増えています。つまり複数のサイトをうまく利用する売り手企業が増えてきたわけですね。売り手企業のリテラシーが徐々に高まっているのかもしれません。
―売り手企業、買い手企業ともに登録数が増えてきたということですが、全体として、IPOよりもM&Aの方を選ぶベンチャー企業が増えているのでしょうか?
感覚的には、確度の低いIPOよりも、成果の出やすいM&Aを選ぶベンチャー企業が増えていると思います。当社のサイトは、ITベンチャー企業の利用が多いのですが、今起きているM&A案件の増加は、ITベンチャー企業とVC(ベンチャーキャピタル)の関係が大きく影響していると思います。
2011年、2012年頃にITベンチャーへの投資が大きなブームとなり、VCから資金を調達して起業したITベンチャー企業がたくさん出てきました。実は、そのときに出資を受けた資金の償還期限が迫っているITベンチャー企業がとても多いのですね。出資を受けたら、M&Aするかか、上場するか、株を買い戻すかしないといけません。そうした状況にあるベンチャー企業がどんどんM&Aに流れているのだと思います。
―御社はITベンチャー企業に強いとのことですが、買い手側もやはりIT企業が多いのでしょうか?
以前はそうでしたが、最近は業種が広がっています。ただIT企業を買収したいというニーズは強く、弊社掲載の約9割がITベンチャー企業を買収したがっています。つまりIT分野に強い会社だけではなく、もともとIT分野には疎いのだけど、今後の会社の成長のためにITベンチャー企業を買収したがっている会社が増えているのです。そういう意味では裾野は広がっていると言えますね。
例えば、今は「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉がバズワードになっていますが、組織や業務フローなどあらゆるものをデジタル化しようとするときに、ITの専門知識がある人を採用するよりも、会社を買ってしまった方が早いと考える企業が増えているのですね。
ちなみに、ITに疎い企業がいきなりITベンチャー企業を買収して巧く取り込めるのかと疑問に思う人も多いようですが、私自身は、ITの専門家を個人で採用するよりもうまくいく確率は高いと思います。というのは、個人で採用してしまうと、IT部門がない会社になじませるのは難しい。でも会社ごと買ってしまうと、その中には連携が取れたチームができあがっているので、新しい事業を始めやすいというわけです。
会社売却の成功のポイントはどこにあるのか?
―ここからM&A成功のコツを聞きしたいのですが、御社のサービスを利用する際の成功するコツや実際の成功事例を教えていただけますか?
「M&Aクラウド」はサービス開始から一年が経ちますが、この間に11件の成約が成立しました。成約が成立した売り手企業の行動パターンを見てみると、大体6件以上の買い手企業に打診をしたところは、面談まで行ける確率が高くなっています。そのうち3件以上面談できた売り手企業は、ほぼ高い確率で成約まで至るといった状況にあります。ちなみに、成約に至った売り手企業は、ある程度、買い手が想定する金額を把握できているところが多いですね。
―M&Aを成功させるためには、自社を客観的に評価したり、売却条件を整理したり、思いの伝え方を考えることが大事なのですね。そのほかに成功のコツのようなものはありますか?
当社のサイトでは、売り手企業が買い手企業に打診をする際に、打診理由を記載する箇所があるのですが、そこをきっちり記入することが大事ですね。例えば「御社の事業と当社の商品はすごくシナジーがあると思います」とか、「むかし御社と取引したことがあって、そのときに良い会社だと感じたので、ぜひ一緒に事業をしていきたい」とか、そういった言葉を添える。そうすると買い手企業側に「うちのことをしっかりと調べている」「一緒にやっていこうという熱意がある」など思ってもらえて面談までつながりやすい。
あと、実際に面談になったときには “盛らないこと”が大事です。自社のことを正直に誠実に話す。業績などを盛ったとしても後で必ずバレます。面談のときにはフェアにフラットに話すことが重要です。
―最後にもうひとつ、連続して起業することで資産を形成していく「シリアルアントレプレナー(連続起業家)」が日本でも増えていますが、そういった人たちの利用状況について教えてください。
起業家の資産形成において、会社を作って売却するというのは非常に効率的なやり方ですから、今後シリアルアントレプレナーのような人はどんどん増えてくると思います。実際に当社のサイトで会社を売った後に、もう一度事業を作って売却しようとしている人はいます。一度売却に成功した後に、「どうすれば向こう一年ぐらいでもう一度事業を作って売却できるか」といった相談に来るユーザーもいます。今後、2回、3回と連続して事業や会社を売却するシリアルアントレプレナーの利用が増えてくると思いますね。
―ベンチャー企業のM&Aはこれからもどんどん盛り上がっていきそうですね。M&Aが活況となっていることや成功率を上げるポイントがよくわかりました。本日はありがとうございました。
【プロフィール】
及川 厚博(おいかわ あつひろ)
2011年、東洋大学在学中にMacropus株式会社を立ち上げる。東南アジアを中心としたオフショア受託開発事業などを展開し、年商数億円規模にまで成長させた後、同業他社に売却。その際、売却価格の算定や買い手企業探しに苦労したことや、自身が事業承継問題の当事者であることから、ベンチャー企業のM&Aに興味を持ち、株式会社M&Aクラウドを設立。現在、同社・代表取締役CEOを務める。
【会社概要】
株式会社M&Aクラウド
代表取締役CEO:及川 厚博
代表取締役COO:前川 拓也
設立:2015年12月7日
資本金:8,800万円(資本準備金を含む)
所在地:〒104-0032 東京都中央区八丁堀4-9-13 ニチレックビル6F