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2019年08月14日(水)

良い社長でありたいと思う心が組織停滞の元凶!?スマートに成果を上げるためのマネジメント法とは

経営ハッカー編集部
良い社長でありたいと思う心が組織停滞の元凶!?スマートに成果を上げるためのマネジメント法とは

かつて、経営学者アルフレッド・チャンドラーが提唱した「組織は戦略に従う」という命題の通り、戦略の成果を上げるには組織の設計が重要な意味を持ちます。その中で、実際に企業にとって組織の動態を形成しているものは何かといえば、経営陣と社員の間でなされる日々の指示、結果報告などのコミュニケーションと言えるでしょう。コミュニケーションは軽く捉えられがちですが、方法を一歩間違えば、最悪の場合「組織崩壊」につながってしまうこともあります。反対に、正しい組織内のコミュニケーションは企業のスムーズな発展を可能にしていきます。

昨今、One on Oneミーティングが推奨されるなど、上司が部下に時間を割いてやる気にさせる、コミュニケーション冗長化のマネジメントが流行っていますが、それに異を唱えロジックによるスマートな組織マネジメント法として注目を集めているのが「識学」です。人間の意識構造に着目した独自の理論をベースにした組織マネジメント理論「識学」メソッドは、経営者にとっては目から鱗のマネジメント手法と言えるでしょう。『常に良い上司でならなければいけない』という考え方こそが、会社や部下の成長を止めてしまう」と株式会社識学の代表取締役社長、安藤広大氏は指摘します。組織の生産性を高め、本当に社員のことを思う組織マネジメントとはどのようにあるべきなのか?この度、 安藤氏に伺いました。

経営陣が部下に迎合しすぎているのが問題

―まず、創業の背景を教えてください。

「識学」は、創始者の福冨氏が20数年前から研究を始めたもので、企業が優秀な人材を集めることが難しい中、どのように人を戦力化していくのかを考え、人間の意識構造に着目して、臨床を中心に作ってきた独自の理論です。私が識学について学んだのは、6年半前。友人の勧めでセミナーを受講してみたところ、これは実践する価値があるぞと直感したのです。

当時、私はジェイコムホールディングス株式会社(現ライク株式会社)を退職した後、半年間ほど次の会社に在籍していました。学んだ識学を実際に組織運営に試したところ業績が伸び、非常に手応えを感じたのです。そこで、識学の講師として独立し、私が指導する識学導入企業3社がすべて業績を上げたため、識学の有効性と汎用性を確信したというわけです。さらに「識学をより広く日本に普及させなければ」という思いから、2015年3月に株式会社識学を設立しました。

―どのような事業を展開されているのですか?

簡単に言うと、識学を基本メソッドにしたマネジメントコンサルティングと組織運営を支援するプラットフォームの2種類のサービスを提供しています。コンサルティングは基本的に、経営者や幹部層に対してマンツーマンで研修を行い、マネジメント層と現場の意識のズレを修正して、組織のパフォーマンスを改善していくものです。また、2018年3⽉から本格的にスタートしたプラットフォームサービスでは、現在ウェブ上で顧客の識学実践を⽀援するクラウドサービスの拡充に力をいれているところです。主な顧客層は、従業員数が⼤きく変化していたり、従業員定着率に課題を抱えていたりする成⻑フェーズの中堅中⼩企業ですが、今後は大企業への浸透も視野に入れています。

―識学メソッドを実践してこられた中で、日本の企業の組織マネジメントにおける問題点は何だと感じていますか?

一番の問題は「経営陣が部下に迎合しすぎている」という点です。本来、経営陣と部下は見るべき視点が違い、そこを同じにしてはいけない。どういうことかというと、社長の仕事は、未来に目を向けて業績を伸ばすことで、結果的に部下の幸せに繋がる環境をつくっていくことです。だから今その瞬間において“良い上司”である必要はないのです。つまり社長の仕事は未来へのコミットこそが最重要課題で、部下が今抱えているストレスの緩和ではないのですね。

しかし、今多くの社長は「良い上司にならなければいけない」と思い込んでいます。そこで、部下のストレス解消のため悩み事の相談に乗ったり、頑張っている姿勢を評価したり、部下のモチベーションを上げるために時間を費やしたりします。しかし、それは突き詰めれば社員のことをよく見てくれている良い社長だと思われたいという心の現われに過ぎないのです。

この結果、努力する姿勢は見せるが成果を上げない社員が出てきたり、モチベーションを上げてあげないと動かない社員が出てきたりするのです。このようなマネジメントを続けると、社長が社員に接する時間がますます増え、その割には業績が上がらないということになってしまいます。

ではなぜ、そうなるのかというと働くことに対する社員の意識がズレていることを容認していることが最大の原因です。「会社は顧客に対してサービスを提供することで対価を得る」だから、社員に給料を払うという事実に対し、部下は「会社から給料がもらえるから仕事をする」という認識のズレを持っています。つまり、社員は給料がもらえることが仕事の前提になっているので、褒めたりモチベーションを上げようとしたりする必要がでてくるのです。

つまり、肝心のそのズレを修正せず、良い社長と思われたいための努力を行っていることが大いなる無駄を生み出しているということになります。そこが大きな問題だと言えるでしょう。

株式会社識学 2019年2⽉期決算説明資料より

―認識がズレた上で、さらにモチベーション管理を続けるとどうなるのでしょうか?

「ヤル気を出してもらうために部下のモチベーションを上げましょう」というやり方を続けると、いずれ組織に破綻を招くでしょう。なぜなら、部下は、モチベートしてくれるから頑張るというスタンスになります。そうすると、ますますモチベートするために、あの手この手と、働きかける労力がマネジメント側に増えてくるのです。本来、社員はその会社で働くことを自分で決めて入ってきて、お金をもらっている。その上で、さらに会社がモチベーションまで上げなければいけない、そんなことが成立し続けるわけがありません。

成果を出す組織の在り方とは?

―部下のモチベーション管理も業務の一つであるという経営層はまだ多いと思います。しかし、モチベーションの捉え方は日本企業に独特のもので、例えば米国企業ではまた違うのですか?

確かにモチベーションについても、米国から入ってきているのですが、モチベーションの前提がそもそも違うのです。外資系企業の多くは会社側に解雇権がありますし、ジョブディスクリプション(職務記述書)で業務内容や範囲が明確に規定されています。もしそれができなければ、いつでも解雇されてしまう。なので、モチベーションは自ら保ち続けなければならない。根本的な背景が違うと思っています。

日本企業の場合では、本来あるべき会社としての利益追求より、社員個人の権利主張が先に来てしまいがちなのです。なので、モチベーションを上げてもらう権利といったものがあるような勘違いがあると思います。組織における「モチベーション」の概念は、おそらく間違った解釈で日本に入ってきているのではないかと思います。

―ホラクラシー組織やティール組織といった考え方についてはどうでしょうか?

ホラクラシーにしてもティールにしても、仮にジョブディスクリプションがしっかりと明確になっていて、個々の個人事業主と契約するのに近い雇用形態であれば成立する可能性はゼロではありません。しかし、それでも人数が増えていくと難しいと思いますし、組織が機能的に動く仕組みではないと考えています。しっかりした組織として経済的な成果を出すことを目的とするならば、フラット型ではなくヒエラルキー型組織を作るべきでしょう。実際、ある程度の規模でヒエラルキー型以外の組織運営で成果を出し続けている企業を探しても、ほぼ見つかりませんよね。

―昨今は「ヒエラルキー型組織はよくない」といった風潮もありますが、どうお感じになりますか?

それは組織形態の問題というより、経営者の資質が非常に大きな要因ではないでしょうか。経営者が「社員と仲良くふれあいたい」「社長として持ち上げられたい」という考えを変えられなければ、組織は停滞します。なぜなら組織運営をしていくにあたって、社長は誰にとっても常に「厳格なルール」としての存在でなければいけないからです。

ルールの一番根幹にある社長が、「社員の悩みを解決する」という目先の目的にとらわれて、その時々の感情でルールを変えるようでは、組織としてのルールが全部消滅してしまいます。社長は本来、社員とは一定の距離を置かなければなりません。しかし、今まで自分が作った会社内で「社長、社長」と持ち上げられてきた経営者が、社員と距離をおくことに対して覚悟をしきれないパターンも一定数あるのですね。

―業績を上げることより、「良い社長だと思われたい」という思いが先立ってしまうと。

もちろんそういった経営者は、「社員との積極的なコミュニケーションが業績アップに繋がっている」という言い訳を成立させた上でマネジメントしていると思うのですが、私たちは「それは絶対に違う」と言っています。やはり実際、そういう間違ったやり方の経営者がいる企業は伸びません。

本当に社員を思うのであれば、業績を上げて、世の中にとって有益性があると認められる会社になることが第一。給料も上がり、会社の価値も上がることこそが社員にとっての幸せですし、その方向にベクトルが向かえば、会社も社員も成長していくことができます。つまり、会社の発展こそが本当の社員の利益であって、仲良く仕事をすることが目的ではないのです。生産性を上げるには、意識のズレを無くし、頑張っている振りをなくし、無駄なコミュ二ケーションを減らす。そして、出した結果で社員を評価する評価制度を運用すること。こういった、無駄のないコミュニケーションによる組織運営は、働き方改革を進める上でも必須だと思います。

プラットフォームサービスの強化とM&A領域での識学利⽤の拡がり

―1,000社以上の導入実績がある御社から見て、識学メソッドに向いている、または向いていない業種業態などはあるのでしょうか?

物販やサービス業など、顧客が明確に決まっていて満足度の指標も数値化できるところはすぐに成果が上がりやすい傾向にあります。しかし、基本的にはどんな業種業態であっても識学を導入することで成果は上がります。現在はJリーグのサッカーチームなどのスポーツ分野や、エンターテイメント分野にも導入例が増えており、ほかにも医療系や学校法人など、多岐にわたる分野で顧客数が増加しています。

―コンサルティングでは、最初にどのようなことを行うのですか?

まずは、トップや経営陣にマンツーマンでヒアリングを行い、彼らがどういう「思考の癖」を持っているのかを読み解きます。識学では人が行動に至るまでの意識構造を「位置」「結果」「変化」「恐怖」「目標」という5ブロックに分けており、この5つの領域のどのあたりに癖が強いかを確認するのです。経営者自身の思考の癖をカルテ化して、組織の中の誤解や錯覚を認識した上で、過去の経験に照らし合わせて問題点を理解していただき、事実に則した正しい行動を取れるよう、行動の修正を行うという流れです。

―従業員一人ひとりへのトレーニングも行うのでしょうか?

いいえ。経営陣や幹部層に識学をしっかり理解していただき、あとは各企業それぞれが独自に浸透させて組織マネジメントを推進していくというスタンスです。もちろん管理職層まで入り込むパターンもありますが、基本的には上位5〜10%の経営陣・幹部層へのアプローチが主体になりますね。

一方、管理職層以下への識学の浸透や定着を求めるニーズに対応したサービス提供も行っています。識学クラウドで識学の浸透をサポートしたり、識学生産性サーベイで従業員の生産性を個人単位で可視化するといったことも行うことができます。

―今後はそういったプラットフォームサービスにも力を入れていくというわけですね。

そうですね。実際1か月に1回サーベイを取るなど、積極的に活用されている企業様は成果を出しています。サーベイはもっと活用していただきたいと思っていますし、より使いやすいサービスを目指して、日々改善を続けているところです。また、ビジネスチャット向けアナリティクスサービスの提供も開始します。

このサービスでは、例えば部長が課長を飛ばして直接メンバーとコミュニケーションすることが増えていたり、部下が上司からのメッセージへの返信を怠っていたり、識学的にあってはいけないコミュニケーションを可視化するといったものです。これにより、組織内の不適切な指示や、ロスタイムを誘発するコミュニケーションの改善が期待されます。さらに、今後はM&A領域での識学利⽤を拡充していく方針です。

―M&Aでの識学利用は、具体的にどういったことをされるのですか?

買収先企業の組織の状態が「良い成果を上げられる状態」なのかどうかを識学の視点でチェックする「組織デューデリジェンス」や、識学をPMIへ応⽤することで、その後のシナジー効果創出までの期間を短縮する識学トレーニングを行います。もともと識学とPMIは親和性が高いのです。私たちは、どのようにすれば組織が一番機能的に動くかという答えを常に持っています。統合後の組織運営においても、それは非常に有効というわけです。ストライク社など外部と提携したりなどしていますし、今後はM&A領域におけるプレゼンスを高め、識学のニーズを掘り起こしていきたいですね。

―ありがとうございました。

【プロフィール】
安藤 広大(あんどう こうだい)

1979年、大阪府生まれ。2002年、早稲田大学卒業。同年、株式会社NTTドコモ入社後、2006年ジェイコムホールディングス株式会社(現ライク株式会社)へ入社。主要子会社のジェイコム株式会社(現ライクスタッフィング株式会社)で取締役営業副本部長等を歴任。2013年、「識学」と出会い独立。識学講師として数々の企業の業績アップに寄与。2015年、識学を1日でも早く社会に広めるために株式会社識学を設立し、同社代表取締役社長を務める。以後現職。


【会社概要】
株式会社識学(SHIKIGAKU. Co.Ltd.)

本社所在地:〒141―0031 東京都品川区西五反田7―9―2 KDX五反田ビル4階
設立:2015年3月
代表者:代表取締役社長 安藤 広大
事業内容:識学」を使った経営、組織コンサルティング 
「識学」を使った従業員向け研修
「識学」をベースとしたwebサービスの開発、提供
「識学」関連書籍の出版

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