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2019年08月20日(火)

デザインの持つ計り知れない力!?営業しなくても注文が絶えないデザイン会社のブランディング戦略と人材マネジメントに学ぶ

経営ハッカー編集部
デザインの持つ計り知れない力!?営業しなくても注文が絶えないデザイン会社のブランディング戦略と人材マネジメントに学ぶ

デザインと聞くと、多くの人はプロダクトに対して施すものを思い浮かべるだろう。「かっこいい」デザイン・「かわいい」デザインは、消費者の“欲しい”を掻き立てる。しかし、デザインの本質はものごとの内面に宿る抽象的な目に見えないものを鮮やかに具現化する部分にこそある。この本質を捉えられれば、自分の描きたい未来をデザインの力によって描き、人を感動させ、それを実現していくことが可能なはずだ。つまり、デザインとは強いパワーを秘めた概念なのである。
 
パドルデザインカンパニー株式会社は、正にそういったデザインの本質的な力を追求し結果を出し続けている会社だ。デザインの力を使って、企業のブランディングや組織活性化、採用コンサルティング、ひいては芸術家とビジネスのマッチングに至るまで、一般的なデザインカンパニーとは一線を画し、デザインを経営マターに引き上げた幅広い事業を展開している。今回そんなデザインが生み出すブランディング戦略や、質の高いデザインを生み出しつづけるクリエイターを束ねるマネジメント手法について、代表取締役クリエイティブディレクター豊田善治氏にうかがった。

デザインの力で企業のブランディングは劇的に変わる

-デザイン会社とは思えないほど多角的な事業展開をされていますが、改めてどのような事業を行われているか教えていただけますでしょうか。

私たちパドルデザインカンパニーは、一言でいうと“ブランディング会社”です。企業のブランド価値を上げるために、クリエイターが“デザインというツール”を駆使して様々なサービスを展開している会社です。例えば皆さんがイメージしやすい“デザイン“の部分でいえば、web媒体においてはコーポレートサイトだったりキャンペーンサイト、紙媒体だと会社案内やカタログを制作しています。それ以外にも、企業ムービーや商品ムービーなどの映像制作、オフィス空間のデザイン、ユニフォームのデザイン、イベントの企画・制作、ウォールアート制作、採用コンサル、商品プロモーションや経営コンサルなど、デザインを使って様々な事業を行っています。なぜ、そうなっているかというと、最終アウトプットの商品サービスを生み出すには、プロダクトそのものだけではなく、それを支える人や、人が働く環境を調和的、一体的に変えていく必要があるものだからです。つまり、ブランディングとは経営という営みの表現そのものなのです。お客様の規模でいうと従業員1,000人以下の中小企業や個人経営をされている方がメインです。

-本当に多様ですね。そのように包括的に取り組まれるに至ったいきさつを教えてください。

私自身もともとは広告代理店のサラリーマンだったのですが、決まった媒体を扱い、販売手法やスキームが決まっているという仕事が、自分の肌には合わず、クリエイターとして活動したいなと思って独立したのが2000年です。当時はパソコンの普及率も高くはなく、webサイトを持っている企業も半分もいっていなかったと思います。もちろんブランディングという言葉も使われていない時代でした。当初は、引き合いの多かったプロモーションを中心に展開していましたが、そこから情報化が加速度的に進み、やがてSNSの時代が到来すると、企業とユーザーが双方向かつ即時的に繋がりやすくなりました。同時に、広告やプロモーションの在り方が大きく変わってきたことを実感したのです。良いと思うものにお金をかけて売り出していくのではなく、いかにメイン顧客とうまく接触し、わかりやすい表現を用いて購買意欲を高められるか、入れ替わりが激しい環境の中でどのように長期的にファンでいていただくかが大切になってきました。そういった面から、他と差別化するデザインが必要となってきたといえます。
 
そのあたりから、すでにあるものをプロモーションするという名目の仕事は減らしていき、潜在的な価値を磨いていく”ブランディング”に舵を切っていくようになりました。なぜならデザインというのは、表面的な色形を表すだけでなく、最終的には内側にあるコンセプトや会社の在り方を外面化したものだからです。つまり、私たちは時代のニーズに合わせて活動していたところ、SNSの時代が訪れそれに合わせて事業を展開していた結果、必然的に現在のようなブランディング会社に形を変えていったという感じです。

-プロダクトについてはある程度理解できますが、デザインによって成し得る組織活性のポイントとは、どういうことがあるのでしょうか。

一言でいうとお客様のゴールモデルを形にしてあげられるということだと思います。どんな成功者も共通しているのは、自分の夢やビジョンを語っているということです。むしろそういう意志を言葉にできない限り、事業を成功には導くことはできないでしょう。つまり、事業を成功させる経営者は、みんなビッグマウスだと思うんです。ただ、意志があっても周囲が理解でき、共感できる言葉やイメージといった形にしていくことは非常に難しい。とくにスタートアップから間もないベンチャーや中小企業の経営者は、様々な仕事を掛け持ちしていて、本来重要である、ビジョンを伝え形にするということまで十分手が回らないという状況をよくお聞きします。そこを我々のデザインの力を使って、具現化し形に残してあげるのです。先に未来を描き、それを形にしてみると、経営者自身がそれをゴールにしようとエネルギーのレベルが上がってきます。すると、それを社員に伝えるのも素早く的確になり、意思統一の精度は上がるので、おのずと無駄が減り生産性は上がっていくのです。

ブランディングの活用例~誇りを取り戻した鉄鋼会社

-実際にどのように企業が変わっていったか、事例を教えていただけますでしょうか。

千葉県にある鎌ケ谷巧業という、ビルやマンションに使用する鉄骨を加工して組み立てている会社があるのですが、この会社との取り組みにおいて、ブランディングの力によって会社が劇的に変わることを目の当たりにして、我ながらブランディングの力に驚かされた経験があります。依頼としては当初、50周年の周年事業として、記念誌と映像を作りたいとのことで、我々含めて制作会社が3社でコンペを行うことになっていました。ただ、お話をいただいた時に感じたのは、ずいぶんと多くの予算を取っているものの、いかにも“記念事業然“として、そこで完結してしまうような依頼だったので、せっかくの予算がなんだかもったいないなと思ってしまったのです。そこで思い切って、「お金の使い方を変えませんか」と進言し、先方の依頼内容とは全然違うプランを提案したのです。すると「映像と記念誌を作りたいと言っているのに、君たちは面白いね」という評価をいただき、他の2社のプレゼンを聞かずして、採用していただいたのです。
 
そこからは、徹底したヒアリングを行い、ミッション・ビジョン・バリューを決めるなど、まずは社長はじめ社員の皆様の内側にある思いを“言語化”していきました。そこには普段は黙々と工事現場で働いている職人さんが内に秘めている、素晴らしい言葉たちが眠っていました。何十何百と言葉を出していき、最終的に「巧であれ」「鉄に命を、人に夢を」など、コアになる言葉を抽出し、それを大きく掲げました。その後は、現場の声や絵を用いてブランドブックを制作していきます。このあたりから、現場含め社員さん達の士気が上がってくるのが感じられてきます。「自分たちの会社ってこんなにカッコイイんだ」という誇りが、会社内で沸々と上がってくるのです。この表情の変化は私達も見ていて嬉しいものでしたし、より制作に身が引き締まる思いがしました。
 
こうしてインナーの活性化を行ったら、続いてコーポレートムービーを作ったりパンフレットやHPを刷新するなど、対外的な制作を開始していきました。そして、最後の締めくくりとして、浦安にあるホテルで記念式典を企画させていただき、内外共に向けて、会社が新しい道を歩んでいくことを大きく打ち出し、盛大にお披露目をした結果、その会自体も大盛況に終えることができました。

(ブランディングに活用したビジュアル例)

-どうしてそこまで、コミットできたのでしょうか。

もともとその会社の社長さんがエネルギー溢れる男気に満ちた方だったので、私もどうしても応援したいという気持ちになっていったのです。工事現場の仕事っていわゆる3Kと思われがちで、求人を募集しても殆ど人が来なくて、もし応募があれば即採用というような業界なのです。でも実際に話を伺ってみると、社長含め従業員の方々の経歴だったり現場での活躍や思いを聞いていると、誇りをもって働いている職人さんたちの集団であることが分かったのです。こんな魅力を持った会社は応援しなくては、と自然と頭も体も動いたというような感じです。ちなみに、ご褒美のような話もありまして、その次の年に行われた新聞社と銀行主催の“千葉元気印大賞”で鎌ケ谷巧業が見事選ばれたのです。先日も社長から「君たちとの出会いによってうちの会社は別物に生まれ変わったよ」と言われたときは本当に嬉しかったですね。

アーティストをビジネスの世界へ アーティスト集団のプラットフォーム作り

-一方で、デザイン力強化のためのプラットフォーム作りも展開されているようですね。その「THE ART」という取り組みについて教えていただいてもよろしいでしょうか。

これは、ライブペイントやウォールアートなどのアートを、企業の活動の中に融合させる取り組みです。事例を申し上げると、例えば幼児向けのインターナショナルスクールに併設された学童施設の空間をデザインして欲しいという依頼があったのですが、そこで我々が行ったのは、作風のマッチするアーティストを起用してオフィスの壁にアートを描くというものでした。アメリカではアートと教育が一体になっていますので、教室自体も想像力を育むような教室にする必要があるのです。アートが描かれている空間は、一般的な学童施設とは一線を画し、子供たちや親御さんからものすごく喜んでもらえて、2施設目が開設した時も依頼をいただくことができました。

(インターナショナルスクールに併設された学童施設のオフィスアート)

-アーティストをビジネスに取り込むというのは大胆ですね。どうしてそういうことをやろうと思ったのでしょうか。

私自身もクリエイターですしアートにはとても興味があって、周囲には素晴らしい表現力を持ったアーティスト仲間がけっこういるんです。ただ、アーティストの宿命として、生活するためには致し方ない…と本領を発揮できずに手をこまねいている方って結構多くいるんです。これはとても勿体ないことですし、そういった有能なアーティストを何とか世に出してあげたいという思いがありました。初めは、個人的に大好きなアーティストがいたので、彼のサポートを受けながら手探りで始めたのですが、1年くらいしてお客様から評価をいただき始めると、自分の中でもイケるなと思いました。そしてその評判が伝播したのか、“私もぜひ起用してほしい”とアーティスト仲間が集い始めたのです。
 
ちなみに、各アーティストには個性がありますから、依頼主のブランドイメージと作風が必ずしもそぐうわけではありません。その点、我々はブランディング会社として、企業のニーズをイメージする力は培ってきましたから、企業とアーティストの媒介になって、〇〇のイメージなら~~のアーティストが適役だろうという、いわば芸能事務所のような役割を果たすことで双方のニーズを結び付けているというわけです。

-まさにアーティストにとっては救世主のような立場ですし、企業活動にもアートが浸透しますし大切な役割を果たされていますね。

はい、埋もれてしまっている表現者が活躍できるプラットフォームになればと思っていますし、夢みたいな言い方かもしれませんが、日本のアートの文化を変えていく一助になれるんじゃないかなと思って取り組んでいます。今の時代、そうした“場やプラットフォーム”の重要性を感じるんですよね。SNS上での交流もさることながら、オンラインサロンだったり、自宅でも仕事場でもないサードプレイスの流行だったり、企業の枠組みを越えた朝活だったり、場を設けることで、人と人・思いと思いが繋がっていく時代なんじゃないかなと思います。

(鴨川青年会議所から依頼された九十九里浜のウォールアート)

有能なクリエイターをマネジメントするコツとは

-今度は社内に目を向けると、良いブランディングを生み出す担い手である有能なクリエイターをまとめるマネジメントはどのように行っているのでしょう。クリエイターは感性や技術力がある分、個性が強いイメージがあるのですが、そういった点はどのようにお考えでしょうか。

人のマネジメントは確かに難しい面はありますよね。クライアントのブランディングを考える上でも、最も大きくブランドを左右するのは、商品ではなく社員全体が醸し出している社風だったり人間関係だったりします。仰るように我々の会社に属しているクリエイターも、発想力や表現力が豊かな方が多いので、経営者としてマネジメントの重要性を日々感じています。そんな中私が実践していることをお伝えすると、2つあります。
 
一つは「評価方法はみんなで決めてかつ透明性を保つこと」もう一つは「偉そうにしないこと」です。
 
一つ目についてですが、私たちの会社は、従業員の評価方法に関しては、チームリーダーを全員収集して全てを納得するまで説明を行い、全員の総意がないと決められないというルールにしています。例えば、賞与に関しても売り上げだけでなく能力に関する指標を全て数値化して分配するという方式にしたり、360度評価も取り入れたりしています。つまり、評価のブラックボックスをなくしたのです。よく中小企業の会社にありがちなのは、社長の一存が大きくて、フェラーリを買ったから、今年のボーナスに影響しているんじゃないかとか、そういった不透明な状態は社員の不信を生んでしまいますよね。頑張ったことが何であって、だからどう評価に影響しているということが明確になれば、本人自身も次なる行動指針が立てやすくなりますし、マネジメント側も把握しやすくなります。
 
二つ目は、社長としてのあり方に関してなのですが、評価透明化にも通じますが、社長の機嫌を取ったとしても給料もボーナスも上がらないし、そもそも気にする必要がないという状態になるように心がけています。私たちはポジションと役割が違うだけであって、人としては対等なのですから、そういった意味では、個人を尊重していますし、年齢・経験・社歴に問わずプロジェクトチームを作るようにしています。私のことも社長とは呼ばず豊田さんと皆さん呼んでいます。いい意味で社長扱いしないというか、私の言うことを聞かないというか。こうした個を尊重する姿勢は、HPでも“マネジメントポリシー”として、明文化しています。
 
ちなみに、我々の会社には営業職が存在しないのですが、これもお客様を尊重する姿勢から来ています。

営業部をおかない理由

-え、営業部がないのですか?それは驚きです。しかもそれがお客様を尊重することに通じるというのはどういうことでしょうか。

ブランディングという仕事で大切なのは、“お客様と対等であるスタンス”だと思うのです。一般的に営業職というと、どうしても数字が欲しい・受注したい・売り上げを伸ばしたいと思ってしまうものです。これは仕事ですから仕方のないことです。しかし、必要以上にお客様にへりくだってしまうと、相手もこちらを品定めするような視線になってしまいますし、自分たちもそれに応えるためにどうすれば良いか、というようなことが目的となったサービスになってしまいます。こうなってくると、クリエイターとしての想像力や発想を十分に発揮できないですし、生産性も下がってしまうのです。つまり、対等な関係を結んでいないと、結果として双方にとって幸せではなくなってしまうのです。だからあえて、営業部を置かず、所属している全員がクリエイターという体制をとることで、お客様と対等に協力してブランディングしていくという姿勢を貫いています。事実、おかげさまでプッシュ営業はしていないのですが、webを見てくださるお客様か、お客様からの紹介だけで、事業を成り立たせることができています。

ブランディングの前に覚悟と決意だ

-最後に、数々の企業ブランディングを行ってきた豊田さんから、ブランディングに困っている経営者にメッセージをいただけますでしょうか。

普段からそういうことをしていない人が、急に絵にしよう、言葉にしようというのは簡単なことではないと思います。ただ、我々も日々接する中で思うことは、だいたいそこに踏み込まない人って”覚悟が足りていない”ということだと思います。言い方は厳しくなってしまいますが、決断しきれない経営者には「とにかく覚悟して決意して前を向こう。そうすれば必ず変わります。」という励ましの言葉をかけるのです。それを決めない限り会社は前に進まないし、社員もついてこない。覚悟が見えないから形にならないということだと思います。
 
ただ、これまで多くの経営者とお会いしてきて思うのは、想いを持っていない経営者は誰一人いないということです。必ず全員がビジョンやポリシーを持っていますが、それを表現することが苦手だったり、覚悟を決めていないだけだと思うんです。経営者は、常に従業員からどんな姿勢で取り組んでいるかを見られていますから、ぜひ自信をもって、覚悟を決めて、自分の想いを言葉にしたり形にしてみてもらいたいなと思います。

-まずは経営者の覚悟ありきということですね。大変参考になりました。本日はどうもありがとうございました。

【プロフィール】
豊田 善治(とよだ よしはる)
パドルデザインカンパニー株式会社 代表取締役 クリエイティブディレクター
 
【企業情報】
会社名:パドルデザインカンパニー株式会社
電話番号:03-5411-2202
代表取締役:豊田 善治
本社所在地:〒107-0062 東京都港区南青山2-18-2竹中ツインビルA-3F
従業員数:23名(2019年7月時点)
URL:https://www.paddledesign.co.jp/

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