経営ハッカー | 「経営 × テクノロジー」の最先端を切り拓くメディア
2019年09月19日(木)

ベンチャー大国イスラエルのイノベーション思考をどう取り込むか~日本=イスラエルビジネス第一人者、加藤氏に聞く

経営ハッカー編集部
ベンチャー大国イスラエルのイノベーション思考をどう取り込むか~日本=イスラエルビジネス第一人者、加藤氏に聞く

イスラエルは1946年に建国された新しい国で、約900万人の人口を擁しています。それほど大きな国ではありませんが、GAFAを始めとする世界の巨大企業が次々にイスラエルに拠点を構え、日本企業の進出も増えているのは一体どういった理由があるのでしょうか?

実は、イスラエルは国家の基本戦略としてベンチャー起業促進を掲げており、国民一人当たりのベンチャー起業数が世界一の起業大国なのです。イノベーション省という省庁もあり、軍需技術の民生化にも力を入れていて、人工知能や、自動運転、情報セキュリティなど、幅広い最先端技術の宝庫となっています。そして、世界有数の企業が拠点を置きたがる理由は、技術もさることながら、イスラエル人の斬新な発想力、ゼロベースでのイノベーション力に期待しているからです。

これほど世界から注目されるイスラエルのイノベーション力はどこから出てくるのでしょうか。また、日本のベンチャー、中堅、中小企業はどのようにそれを活用すれば良いのでしょうか?本稿はイノベーションの秘密を探るべく、イスラエルのディープな内情を知るため、いち早くイスラエルの可能性に気づき日本とイスラエルのマッチアップを支えている株式会社イスラテックの加藤CEOに話を伺いました。

知られざるイスラエルビジネスの実態

-まず事業内容についてお聞かせください

当社は、イスラエルのスタートアップの調査を得意としています。イスラエルのスタートアップ企業は毎年、1,000社ほど生まれており、弊社はその企業情報をデータベース化し、現在6,000社の詳細データを保有しています。自社データベースに基づいて調査を行い、企業の目利きのhow toをナレッジとして蓄積しています。このデータは当初は私が、直接スタートップCEOに会い、ヒアリングを積み重ねて作ったものです。従い、現地では、face to faceでの人的ネットワークを構築しており、一次情報が届けられるため、クライアント企業からは、弊社の情報の量・質を評価いただいています。
 
普段イスラエルと接点のない日本企業だと、文化や商慣習の違いが理解できないため、テクノロジーが洗練されていて、自社に合った企業と協業まで持っていくのは至難の技であると言えます。そこで、マッチアップさせる役割が必要となり、弊社がサポートを行います。
 
近年では、視察のアレンジやイスラエルに進出したい企業へのコンサルティング、実行支援などの業務依頼が増えてきました。今までのクライアントは50〜60社ほどで、大企業がメインとなりますが、先進的なベンチャー企業の支援も行っています。日本ではまだイスラエルがイノベーション大国だという認知が広くありませんので、まずは知っていただくことが大事だと考え、イスラエルビジネス視察ツアーを定期的に開催しています。他にも、セミナー等でイスラエルの認知を広げていく活動を行っています。

-マッチアップを行う事業の特徴や難しさについてお聞かせください

以前シリコンバレーの友人と話したところ、ツアーや視察などに行く時ははじめから、具体的にこの点を協業したいなどといった期待を持って現地に赴くのは難しいとのことでした。イスラエルでも特にスタートアップ企業にありがちなのは、会ってみて話が違ったというパターンが多いです。そして、意思決定についての感覚のズレもあります。日本側は大手企業が多いので担当者が現地まで行くことになります。イスラエル側はスタートアップが多くビジネス開発の責任者としてCEOが出てくることも多いので、その場で契約書文言の確認などコアな話まで出来、即決可能なのですが、日本側は担当者がやって来るのでそこまで持っていくことが出来ず、一旦持ち帰るパターンが多いです。それが、現地からすれば日本のスピードは遅いという印象になります。
 
個別での対応の場合は、企業側のニーズに基づいてやっているのですが、いざFace to Faceで対面した時にズレが発生しないように特別気を付けています。当然、イスラエル側の企業への対応も重要な役割となってくるので、気の抜けない場面が多くなりますね。
 
イスラエルへの訪問はセンシティブに行かないと日本企業への印象が悪くなっていき、次回の訪問が難しくなってしまいます。よって、イスラエルのスタートアップと面談をしたい日本企業には明確な目的設定が求められます。大手企業でもイスラエルの企業とは苦戦しているところは多く、今後の打開策などの相談を受けることが多いです。日本とイスラエルの企業間をマッチアップさせるだけなら簡単に出来ますが、完全なコミュニケーションの調整も含めると完結させるのは特に難しいと言えるでしょう。そこで我々のような役割が必要とされるのです。

-起業の経緯についてお聞かせください

イスラエルに関する事業を立ち上げたきっかけとしては、最初はブログで、後にWEBメディアとして、イスラエルのスタートアップ企業について情報発信していた経緯があります。イスラエル企業の魅力を主に発信していたのですが、大企業の研究チームや省庁のトップチームからWEBメディアを通して有償でのさらに詳しい調査の依頼を受けるようになりました。一社一社の情報を丁寧に発信していったのが効果的だったと思われます。私の場合、実際に現地まで赴き、肌で感じ現地の人がどういう発想をするのかを体験し、自分が気になった情報を発信していくというスタイルが形になりました。
 
実質的に、日本イスラエル間のビジネスは、イスラエル企業の日本進出を支援するのか、日本企業のイスラエル進出を支援するのかの2つになります。イスラエル企業を日本に展開するビジネスをしている人は一つの企業にしか関わることが出来ません。なので、私のように日本からイスラエル進出という立場であれば、普段から様々な分野に触れられている分、幅広い対応と各方面の視点からのアドバイスが可能となります。特にイスラエルは紹介社会で、横の繋がりを大事にする傾向があるので、新参ですと現地では太刀打ち出来ない可能性があります。そういった企業のマッチアップの支援が出来るように日々活動ができるようになっていったということです。この強みが起業につながりました。

イスラエルとはどんな国なのか

-イスラエルの特徴についてお聞かせください

イスラエルは文化、宗教ともに特徴的な国と言えます。人口は約900万人、面積は四国程度の大きさであり、宗教は国民の20%がイスラム教で70%がユダヤ教になります。日本人からのイメージでイスラエルは危険地域と思われていますが、所以は隣国との問題によるところがあります。隣国のレバノン、ヨルダンとは一回ずつ戦争をしていますし、他のアラブ系国家との問題もあって悪いイメージが定着していると思います。
 
しかしながら、イスラエルは年々人口が20万人くらいずつ増えています。出生率が上がっていることもありますが、世界各国からの移住者も増えています。イスラエルは歴史的に見ても迫害の歴史があり、2000年前のローマ帝国の存在もあるので、1946年の建国により、ユダヤ人の安息の地ができ、ユダヤ教の人々にとっては故郷に戻ってくるという感覚があるようです。こういった歴史の背景があり、世界中から里帰りする人が増えており、イスラエルの人口は増加傾向にあるのです。
 
また、イスラエルには徴兵制があります。高校を卒業すると徴兵されることになり、男女問わず徴兵を受けることになります。一見過酷な徴兵制ですが、軍に一定期間所属するとメンタル強化も含めて心身共に成長して帰って来ます。肉体に関しては一回りも二回りも大きく変わって帰って来るのですが、実はここにイスラエルの人々やスタートアップ企業が優秀になる理由があります。
 
軍隊に所属すると、最先端のハイテク技術を効率良く学べるので、技術的な知識と経験値は積みやすくなるのです。また、軍では過酷な環境の中で、最短ルートのアイデアを導く訓練をしているので、徴兵が終わり社会に出てもそれが活用できます。実際に、水や食料、武器もない極限状態の中で、状況をどのように打破していくかといった訓練を受けることが、ゼロベースでの発想力の豊かさにつながっているようです。
 
イスラエル人の全員が新たに起業をする訳ではありませんが、イスラエル出身の企業が斬新な傾向にあるのもそのためです。GAFAがイスラエルに拠点を置いている理由も、イスラエル人の普通では考えられない発想力に期待していることが多いようです。つまり、拠点を置いているのは潜在的なイノベーションの能力を見越してという点にあり、他の国に比べて新たに優秀な人材の確保が容易となるという点にあるのです。

-イスラエルのベンチャー企業における強さの秘密についてお聞かせください

イスラエルのベンチャー企業が群を抜いて優秀なのは、先述のようにイスラエル人の洗練度の高さにありますが、それだけが要因とは言えません。イスラエルにはイノベーション省という機関を設立するほど、国単位でベンチャー起業の促進をしています。更に国の方針として、軍用技術で使い道の無くなった技術は、効率良く今後に活かすために民間転用しています。資金面に関しても、民間ではリスクがとりにくい研究段階のものでさえ国が投資してくれるシステムを取っており、日本円で5千万円〜1億円の資金を援助して貰うことも可能となっています。
 
さらに、イスラエルの企業はある程度成長するとすぐにバイアウトします。IPOが5%に対し、95%がM&Aです。これが、日本と違った展開スピードの速さを生み出しています。軍用技術を幅広く応用していくので、もともとは通信関係が主に強く、他にも暗号セキュリティ、ソフトウェア、コンピューティングなどにも力を入れています。最先端のAI技術の開発やセンサー技術などにも秀でており、これからの産業発達には欠かせない分野を多く扱っています。GPSの誤差制御なども半端ではなく、衛星で30㎝の差を把捉できるくらいです。

イスラエルのイノベーション思考をどう取り込むか

当然ながら、日本企業も少なからずイスラエルの応用技術の高さには気付いているので、イスラエルへの進出を狙っています。現地の企業買収やファンドの組成も含めて投資も率先して行われており、イスラエルへの期待感は大きいようです。
 
何より彼らはイノベーションマインドにあふれ、失敗を恐れません。なので、イスラエルのそういった考え方を取り入れようとイスラエルに進出する日本企業も多いのです。例えば、日本企業からイスラエルへと短期出張を終えて帰ってくると、マインドセットに変化がみられます。短時間でも、イスラエル人の日本人とは全く違うものの考え方やマインドに接することで、良い影響をうけるようです。厳しい環境に身を置き、限られた時間の中で追い込まれている環境にいるからこそ身に付けたイスラエル人とのやり取りは、上下に関係なく正論をもって、コミュニケーションするというスタイルです。したがって、質問に対してロジカルに答えられなければなりません。イスラエル人とコミュニケーションすると、正しいことを正しいと言える力を身につければいけないと実感します。
 
まずは、イスラエルへの視察をしてみることで、新規事業や現場の人間を揺り動かすようなアイデアのヒントが見つかるかもしれません。イスラエルの文化や風習に直接触れることで、軍のメソッドも経験できて英才教育的な概念を導き出せることにも繋がります。イスラエルにはユダヤ教の経典もあって、実はそこにもロジカルシンキングのメソッドが隠されています。信仰とは関係なく、活用すれば企業内での効率的な人材教育などにも磨きがかかります。
 
何より、内面の弱さを克服出来るメンタルも鍛えられるので、日本人特有の曖昧さをなくしたタフネスの獲得ができます。目下、こういったイスラエルのイノベーション思考を取り入れた研修プログラムを我々は用意しており、2020年3月からは日本とイスラエルの直行便も飛ぶようになるので、是非この機会に一度イスラエルを訪れて体験してみてはいかがでしょうか。

<プロフィール>
 
加藤 清司(かとう せいじ)
株式会社イスラテック 代表取締役
 1980年生まれ。イスラエルの尖った技術に着目し、2006年にイスラエル初訪問。2009年にイスラテックを設立。14年間にわたりイスラエルのスタートアップに特化した事業を行う。日本企業の対イスラエル事業におけるアライアンス支援、進出支援など、実績は、自動車関連会社、大手通信会社など、50社を超える。特定の目線に偏ることのなく、イスラエルのスタートアップ、ハイテク業界を知り尽くすスペシャリスト。
 
株式会社イスラテック
設立:2015年1月
本社所在地:東京都港区南青山2-2-15 ウィン青山ビル UCF 917号
TEL:03-5510-1173
https://isratech.jp/

    関連する事例記事

    • 資本金・資本準備金・資本余剰金の違いとそれぞれの役割を徹底解説
      インタビュー・コラム02月28日経営ハッカー編集部

      衆議院議員・小林史明氏×freee佐々木大輔CEO 企業のデジタル化実現のために国が描く未来とは?

    • 資本金・資本準備金・資本余剰金の違いとそれぞれの役割を徹底解説
      インタビュー・コラム2022年10月24日経営ハッカー編集部

      仕事が・ビジネスが、はかどる。最新鋭スキャナー「ScanSnap iX1600」の持てる強みとインパクト

    • 資本金・資本準備金・資本余剰金の違いとそれぞれの役割を徹底解説
      インタビュー・コラム2022年08月30日経営ハッカー編集部

      ギークス佐久間大輔取締役、佐々木一成SDGsアンバサダーに聞く~フリーランスと共に築くESG経営とは?

    • 資本金・資本準備金・資本余剰金の違いとそれぞれの役割を徹底解説
      インタビュー・コラム2022年08月28日経営ハッカー編集部

      サイバー・バズ髙村彰典社長に聞く~コミュニケーションが変える世界、SNSの可能性とは?

    • 資本金・資本準備金・資本余剰金の違いとそれぞれの役割を徹底解説
      インタビュー・コラム2022年08月05日経営ハッカー編集部

      バックオフィスをどう評価する? 経理をやる気にする「目標設定」と「評価基準」の作り方

    関連記事一覧