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2019年09月13日(金)

「グロースハック」を「事業成長請負」に再定義。プロフェッショナル集団「電通グロースハックプロジェクト」の始動で、スタートアップ、大手企業の新規事業はどう変わる?

経営ハッカー編集部
「グロースハック」を「事業成長請負」に再定義。プロフェッショナル集団「電通グロースハックプロジェクト」の始動で、スタートアップ、大手企業の新規事業はどう変わる?

2018年の国内スタートアップによる資金調達額は3,848億円に上り、前年比は122%(「Japan Startup Finance Report2018 国内スタートアップ資金調達状況<速報>」)。スタートアップを巡る動きが熱を帯びています。このような状況の中、広告会社と企業との関係も大きく変化。従来のマーケティング領域にとどまらず、早い段階でコンタクトするなど、起業家を後押しする動きが活性化しています。
 
電通も、スタートアップ企業向けの支援機能を強化。クリエイティブ面を中心に支援する「GRASSHOPPER」、スタートアップ向けコミュニケーション支援サービス「TANTEKI」、立ち上げからエグゼキューションまでをトータルサポートする「電通グロースデザインユニット(DGDU)」などのチームが次々に立ち上がってきました。
 
そして、2019年3月に始動したのが、様々なフェーズでスタートアップの成長を支援する「電通グロースハックプロジェクト」です。実は本プロジェクトは、水面下では2015年から電通内で始まっていました。2018年夏頃に電通デジタルが合流、2019年3月にはバーチャル組織の主幹グループが立ち上がり、 6月には電通と電通デジタルの公認となったもの。電通及び電通デジタルから多様な領域のプロフェッショナルが集結したチームが提供する価値とは? スタートアップは、どのようにチームのサポートを受け、豊富な知見を活用できるのか? 注目のプロジェクトについて、代表 を務める上野雅博氏とメンバーの石田宗隆氏にお話を伺いました。

グロースハックを再定義。「成長請負」が目指すものとは

―まずは、電通グロースハックプロジェクトとは、どのような組織なのかを教えてください。

上野:電通グロースハックプロジェクトは、電通の事業企画担当と電通デジタル全8部門から30名ほどが集ったチームで運用しています。立ち上げに至るまでには2つの流れがあり、ひとつは2015年に電通で始まったプロジェクト。もうひとつが電通デジタル内で2018年に起きた動きです。僕自身がコンサルティングの施策を打つ中で様々な課題を感じていたところ、他部門の社員もそれぞれに課題を抱えていたことがわかったんです。「アプリをインストールした後にリテンションが上がらない」「Webでやっていたようにアプリでも改善できないだろうか」など話をする中で、部門を超えて課題解決に取り組もう、という動きが自発的に始まりました。その後、電通サイドとつながり、合流する形で2019年3月にバーチャル組織運営の主幹グループ「グロースハックグループ」を設立、6月に電通デジタルでも公認化されたという流れです。僕は、成立時よりバーチャル組織「電通グロースハックプロジェクト」の代表と主幹の「グロースハックグループ」のマネージャーを務めています。

―グロースハックは、かなり以前から見聞きしている言葉です。2019年にスタートしたプロジェクト名に、あえて使ったことに心意気のようなものを感じます。

上野:グロースハックは2011年頃に登場した言葉ですが、解釈の仕方が未だに多様です。ABテストやアプリ改善など限定的な使われ方をされることが多く、それはすごく狭い定義だな、と感じていました。ぼくらが考えるグロースハックはもっと広いのです。「成長請負」という意味合いを持つものとして、世の中に問いかけたい。再定義していきたいという気持ちから名称に入れました。プロジェクトのビジョンは、「新しい価値を形に」です。今、「グロースハックというと新しいの?」と聞かれると新しくない。ですが、広告会社でこれに本格的に取り組んでいるところは聞いたことがありません。広告会社がやる新しい取り組みということを価値にし、かつ手にとれる形にしたい、という想いで全メンバーが取り組んでいます。

―大変意欲的で、チームの熱量が伝わってくるようです。そういうメンバーが30人も揃い、幅広い領域をカバーしていくわけですね。

上野:メンバーはそれぞれ専門性を持ち、現場の第一線でバリバリ活躍している人間ばかりで、それが最大の強みです。具体的な領域としてはビジネス開発からサービスデザイン、KPI設計、広告、SEO、データアナリシス、エンジニアリング、AI研究、UI/UXデザイン、クリエーティブデザインなど様々。今後はコーポレート職側の支援などもできないかと考えています。また、主にスタートアップを対象にしていますから、幅広く知見を仰ぎたいと考え、メルカリで現職の石田さんをはじめ社外からも副業的に参画いただいています。また、専業として、スタートアップから転職いただいている方も何人かいます。
 
実際の動き方は、週1回の定例ミーティングで案件をまとめ、そこでアサインが決まればユニットを組んでいきます。ゆくゆくは、スタートアップも巻き込んだコミュニティのようにしていきたいと思っています。

―今日は、社外メンバーのひとりである石田さんにもお越しいただいています。石田さんがジョインした経緯を伺わせてください。

石田:これまでに複数のスタートアップ企業を経験し、様々な会社でPR、事業開発、サービス開発、マーケティングなどの責任者を務め、メルカリの売上成長を追うチームでCRMマネージャーも担当してきました。
今は副業としてスタートアップのコンサルティングや、大手企業のアドバイザリーもやっています。
グロースハックプロジェクトに参加したのは株式会社LINEに在籍していた時に取引先の広告会社にいた人がたまたまチームのメンバーで、5月に久しぶりに会い、プロジェクトを共有してもらったことがきっかけです。とても興味をひかれ、これまでに蓄積してきた知見を活かせると思い、参加しました。ジョインしたのは6月ですから、本格的にはこれからというところです。

Web とアプリ、多彩な人材を現場に投入し、グロースを強力に支援

―社内外の知見を集結し、成長を強力に支援するのは、スタートアップ企業にとって大変心強いと思います。どのタイミングでの依頼が多いなど案件の傾向はありますか。

上野:シリーズBやCの成長期・成熟期のスタートアップで、ドライブをかけていきたいけれど自社内ではどうにもならない、人はいるけれど知見がない。そのタイミングで我々が入るケースが多いですね。企業の事業は、ヘルスケア系や旅行系、メディア系、金融系など結構多岐にわたっています。あとは、大手企業の新規プロジェクトの案件。上からのお達しで新しいプロジェクトができ、お金があるけれどやり方がわからずに1年くらい放置されているというようなケースです。
 
声がかかるのは、ほとんどが電通から。電通の全営業部にスタートアップチームがあるのですが、デジタル系の案件に知見がないケースがある。そこで、手にあまるものがうちにくることが多いですね。

―Webとアプリ、それぞれに人材が揃っているのは強みですよね。

上野:受注した案件は、アプリが多いです。それは、最近のスタートアップはアプリが主戦場なこと、電通グループ内にアプリのサービスを改善する部署がないことも理由です。これまでの実績では、これから投資を受けるフェーズの企業や、「ここで事業成長のアクセルを踏みたい」という企業からの反応がとてもよく、グロース専門の人材が不在の顧客企業を中心に継続でご契約いただいています。

―電通には事業成長支援チームのDGDUがあり、弊サイトでも先日インタビューさせてもらいました。同じグロースのチームということで、どう棲み分けしているのでしょう。

上野:DGDUは兄弟プロジェクトという位置づけです。彼らがグロースを「デザイン」するのに対し、僕らは「ハック」していく。DGDUには戦略コンサル出身の人やマーコムに強い人間が多いので、ビジネスの創出や場作りが得意なんです。僕らはスタートアップ出身やデジタル系に強い人材が多いので、事業の現場でグロースさせていくという違いですね。DGDUとは非常に親密で、サービス改善のパートを我々が請け負うことも多いです。

―戦略作りと現場のコンサル、それぞれ持ち場が異なる訳ですね。現場でのグロースはどのように進めていくのでしょうか。

上野:ヘルスケア系の女性向けオンライン診療のアプリの例でお話します。まずWebサービスを成長させたいという依頼でしたので、SEOやCRO、CRMをやってきた僕ともうひとりがサポートして成長させます。Webが成長してアプリローンチの可能性が見えてきたタイミングで、スタートアップ出身と広告事業部出身のメンバー2人が組になり、アプリの立ち上げからマーケットフィットの検証、広告の打ち出しをサポートします。その後のコンサルは同じ2人がそのまま入るか、課題に応じてまたメンバーを変更します。
 
石田:アプリの場合、サービス立ち上げ時期と100万ダウンロードを達成してからの運用はまったく違うので、ひとりの人間が継続してずっと担当し成長させ続けるのはあまり現実的ではありません。このプロジェクトにはPR、事業開発、オンラインマーケティング、グロースなどの様々な領域の人材リソースが揃っていて、フェーズや顧客企業の担当者のリテラシーに合わせてアサインを変えながら寄り添っていける。非常に効果的なサポート体制です。僕自身は、新規事業の立ち上げから何千万ダウンロードまで到達したアプリまで、いろいろなフェーズを見てきているので、お客様やサービスに合わせて広告にとらわれない事業成長に必要なソリューションを提案していく予定です。

―受注件数が増えていくと、「立ち上げからトータルでまかせたい」「このフェーズから部分的にお願いしたい」など、顧客企業の要望も多様になっていくと思います。

上野:「代行プラン」「アドバイザリー」「投資前プラン」の3つのプランを用意しており、案件に合わせて運用していきます。
 
「代行プラン」では、メンバーを顧客企業企業に常駐または半常駐ではりつかせてサポートします。場合によっては社員として勤務することもあるかもしれません。
 
「アドバイザリー」は、現在いちばん需要のあるプランです。パワーポイントを作成するなどのアウトプットはなく、テキストやチャットでやりとりしつつ、定期的なMTGを通して壁打ちするスタイルです。顧客企業側に手を動かす人はいるけれど、どう考えていいのかわからない、考えたものを第三者にチェックしてほしいというケースですね。
 
「投資前プラン」は、投資家向けにどのような戦略を描くべきかアドバイスしていきます。先ほどお話ししたヘルスケアのアプリは、サポート内容への満足度とともに「電通と一緒だと安心感がある」というお声もいただいています。

―プランによってアサインの仕方も変わっていきますよね。

上野:3プランとも我々メンバーだけで完了させるのではなく、必要に応じてほかのセクションと連携します。投資前プランなら電通グループの投資会社や電通の投資事業部(CVC)に入ってもらう。メッセージが尖りすぎていて一般ユーザーや投資家に伝わりづらい時などは、スタートアップ向けコミュニケーション支援サービス「TANTEKI」に依頼する。ビジネスの協業やマス全体を絡めた話になれば、DGDUと連携が可能なので、顧客企業への貢献度は高いと自負しています。

地方スタートアップが日本全国の豊かさを底上げする

―スタートアップを巡って活況が続く中、プロジェクトが活躍する領域はさらに広がると思います。今後の展開についてお聞かせください。

上野:現状、スタートアップは東京に集中していて、地方のスタートアップは少数です。立ち上がってもVCが少ない。また、地元で起業したいけれど、相談できる人や成長を支援してくれる人が周りにいない、そもそもデジタルに強いマーケターがいないというケースもあると思います。実は現在既にやり取りさせていただいている地方のスタートアップさんを中心にヒアリングを繰り返していており、そのような声をよく耳にします。また、「電通グループって高いよね」「電通グループってマス広告の会社だから声をかけるのは…」と思われることも多いようです。しかし、僕らのような存在がそうした機会損失を解消することで、地方の優秀な人材だけでなく、日本全国から「そこで働きたい!」と思えるようなスタートアップを育てる可能性があると思います。電通グループにあるアセットを日本全国へ広げ、東京に集中していたヒト・モノ・カネ・情報が地方に流れていけば、やがて地方が活性化し、日本全国の豊かさの底上げへとつなげていくことができると信じています。全国の起業を志す人にリーチできるよう、今は東京が中心ですが、関西、九州などへもどんどん進出していきたいです。
  
石田:僕が今現在、もしも社員数十人くらいのスタートアップに在籍していたなら、どのフェーズでもこのプロジェクトに依頼したくなると思いましたね。また、僕のようなスタートアップを実際に経験した人間が参加することで、現場の課題を解決して事業成長を促進するような知見が集まるプラットフォームにしていければと考えています。さらには、上野さんがおっしゃっていたようにそこにコミュニティが生まれれば、次世代の人材育成の場にも発展すると思っています。

―「電通グロースハックプロジェクト」の事例が増え、石田さんのようなメンバーがどんどんアサインされることで、有機的なコミュニティが生まれそうです。

上野:今後は副業が可能な会社員は多くなるので、石田さんのような優秀なマーケターに数多く参画いただき、活躍の場としてきたいですね。ここに集まったノウハウをコミュニティにためるだけではなく、電通が行っているアクセラレータープログラムに還元するなど、電通のグルーブ全体に拡散していければ、とも考えています。
 
また、対外的にもプロジェクトについて発信する機会を増やしていきます。第一弾として、9月末に京都の事業共創拠点「engawa KYOTO」でスタートアップ対象のイベントを打ちます。電通グロースハックプロジェクトの公式サイトで、その他イベントやセミナーなどの告知を行いますので、ぜひチェックしてみてください。

<プロフィール>
 
電通グロースハックプロジェクト 代表 上野雅博(うえのまさひろ)

 
早稲田大学政治経済学部卒業。大手ネット専業広告代理店でSEOコンサルタントのキャリアを経て、2016年に電通デジタルへジョイン。CRO(Conversion Rate Optimization)サービスの立ち上げに関与し、サイトへの集客から収益化まで一気通貫のコンサルティングを行う。並行してアプリ改善のコンサルティングサービスを開発し、電通及び電通デジタル共同で電通グロースハックプロジェクトを設立。スタートアップ企業を中心にデバイスやソリューションに捉われない事業成長支援を行っている。
 
電通グロースハックプロジェクト アサインメンバー 石田宗隆(いしだむねたか)
 
大学卒業後、複数のスタートアップ企業にて、営業/事業開発/広報PR/オフラインマーケティング/オンラインマーケティング/開発PM・グロースハッカーなどの領域で責任者として従事した後、2017年株式会社メルカリへ入社。子会社でのグロースマーケティング活動を経て、2018年4月からは日本版メルカリアプリのCRMチーム立ち上げを行い、GMV最大化に貢献。また、この数年は個人事業主としてスタートアップへのコンサルティングや大手企業へのアドバイザリー業務も行っている。2019年6月に電通グロースハックプロジェクトにジョイン。

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