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2019年10月09日(水)

ゆるやかに拡大するユニリーバ“WAAの輪”!他企業や自治体も巻き込む「島田由香流マネジメント」に迫る

経営ハッカー編集部
ゆるやかに拡大するユニリーバ“WAAの輪”!他企業や自治体も巻き込む「島田由香流マネジメント」に迫る

「働き方改革」への取り組みが活発になっている昨今、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社が2016年7月から先駆的に導入した「WAA(Work from Anywhere and Anytime)」。働く場所や時間を社員が選べる新しい働き方として反響を呼びました。

2017年1月には、WAAのビジョンに共感する企業・団体・個人のネットワーク「Team WAA!」が発足。さらに今年は「テレワーク・デイズ2019」に合わせ、ユニリーバ式ワーケーション「地域 de WAA」もローンチされ、全国的な広がりを見せています。

この拡大現象について、WAA導入の旗振り役である同社取締役人事総務本部長の島田由香さんは「周囲が勝手に巻き込まれて広がっていく感じ」だと表現します。WAAがここまで共感を呼ぶ理由は何か、全国的な広がりの背景には何があるのか。島田さんに聞きました。

明確なビジョンと信念が推進力の源

-WAAに取り組まれた背景について教えてください。

まず原体験としてあるのは、高校生のときに経験した満員電車です。受験日の朝に乗った地下鉄がギュウギュウ詰めで、これは一体何なんだと。社会人になると毎日のことになるわけです。「こんなに意味のないことを毎日続けるなんて、どうかしてる!」と強く思っていました。

そもそもなぜ、会社は9時に行かなければならず、会社でなければ仕事ができないのでしょう?台風で交通がマヒしているときも、どうにかして出社しようとする。もう「こんなに大変な中、頑張って来ました」とアピールする目的のためだけに出社していますよね。そんな無意味なことに、どれだけのエネルギーと時間を使っているか…。

どこで働いても結果さえ出していればいいわけですし、どういう仕事の仕方がもっとも効率的かは、人それぞれ違うはずです。それなのに、なぜ一律に枠にはめてしまうのか。WAAの構想は以前からずっと温めていましたが、時代がまだ追いついていなかったのか、そのときのトップに提案してもそこまでのコミットメントはありませんでした。

-WAA導入に向けて大きく動き始めたのはいつですか?

転機が訪れたのは、2014年。トップとして新たに着任したイタリア人のフルヴィオが、日本は驚くことばかりだと言うのです。日本人の礼儀正しさなどポジティブな驚きだけでなく、「なぜあんな満員電車に乗るの?」「なぜこんなに遅くまで働くの?」「家族とはいつ過ごしているの?」というネガティブなものもありました。毎朝、ビルの外までつながるエレベーター待ちの行列を写真に撮り「見て、今日もまた!」と(笑)。

そこで以前から考えていたWAAのアイデアを彼に提案してみたんです。「こういうことをやりたいんだ」と伝えたら、二つ返事で「やろう」と快諾してくれて。その4か月後には全社にWAA導入を告知しました。スピード感をもって導入できたのは、本当にフルヴィオがいたからこそです。

-導入するにあたり、困難や紆余曲折もあったのではないでしょうか。

立ち向かっている事象に対して、それを困難と捉えるのか、挑戦やチャレンジと捉えるのかは別です。私は基本的に、苦労や困難だと捉えず、「私がやりたいことをどうやったら実現できるか」ということしか考えていないんです(笑)。

もちろん、最初は社員もWAAに対して懐疑的だったと思いますし、全員が賛同してくれたわけではありません。「チームワークはどうなるのか?」「サボる人が出たらどうするのか?」などの意見も噴出しました。

でも、やってみなければ何もわかりません。だから私の思っていることを伝えて、まずはやってみようとスタートしたんです。今があるのは「やりたいと思うこと」にどれだけ本気かを自分で確かめながら、私の信念に従って進めてきた結果だと思っています。

-それはどのような信念ですか?

WAAは「社員がよりいきいきと働き、健康で、それぞれのライフスタイルを継続して楽しみ、豊かな人生を送る」というビジョンからスタートしています。さらに、WAAという仕組みを通じて日本をより良くしたい、そして世界平和を成し遂げたいという明確な信念があります。

世界には戦争や貧困などの課題が山積していますが、残念ながら私がそれらに対して、今すぐ具体的に取り組めることはありません。しかし、日本がもっと世界に発言をして、日本人が持っている素晴らしさを活用することで、日本という国から世界平和に貢献することはできるはずです。

今、日本から海外を訪れる人や留学生の数が減っている一方、海外からの労働者は増加しています。でも実際に働くと、通勤ラッシュや長時間労働にみんながっかりして帰るんですよ。せっかく日本にいい印象を持って来ているのに、すごくもったいない。豊かなライフスタイルのために、まずは「働く」という部分から変えていきたい考えです。

もともと、働くことで自分を押さえつけたり、分かっていないのに分かったと言ったり、好きじゃないのに好きなふりをして影で本音を言ったり、そういうのが嫌なんですよ(笑)。みんながもっと自分に素直であれば、世界はより良くなると思うんです。WAAは私の中に燃えている信念の火種が、自然に飛び火して広がった感じですね。

-変革に向けての課題を教えてください。

私たち日本人には、独特の審美眼や伝統を重んじる心、自然の美しさ、手先の器用さやクリエイティビティ、それらを活かして発展させてきた産業などのアイデンティティがあります。しかしグローバルにおけるプレゼンスになったときに、そのポテンシャルを発揮しきれていない印象があるんです。

その理由としては、「私が何をしても変わらないから仕方がない」「指示されていないから行動しない」という雰囲気が、まだまだ日本全体に残っているからではないでしょうか。自分の強みを知らない、自分の強みに自信を持てないという人はとても多い気がします。これは危機的な状況だと思うんですよね。

会社が変われば、社会が変わります。社会が変われば、日本が変わる。日本が変われば、世界が変わります。だから、会社から何かが変わっていくことは、とても意味があることなんです。まだまだ道半ばですが、現状が変わるまでこれからも取り組んでいきます。

周囲を巻き込むプロジェクトマネジメントの3要素

-「Team WAA!」では、どのように周囲を巻き込んでいったのですか?

実は、最初からTeam WAA!を作ろうと思っていたわけではないんです。WAAを導入した直後から驚くほどの反響があり、たくさんの問い合わせをいただきました。そこで、みんなも同じような疑問や課題を抱えていることに気づき、「だったらみんなで解決しない?」と呼びかけたことが発足のきっかけです。今では関西にも「ナニWAA!」というチームが立ち上がり、主体的に活動をしています。

この広がり方を私は「タンポポ作戦」と呼んでいます。私にできることはタンポポの綿毛をフーッと吹くことだけ。種が飛んでいって、それぞれの場所に地に足をつけて花を咲かせる。そしてまた、それぞれの花が綿毛を飛ばすというイメージですね(笑)。

-タンポポ作戦が奏功しているのですね。参加者が主体的に活動できている裏には、新しいプロジェクトマネジメントのあり方のヒントも隠されていると思います。

私が主催者として行っていることは、3つしかありません。まず1つ目は、とにかく「やりたい!」という気持ちを大事にすること。パッションこそすべてという考え方なので、あらかじめ役割分担すらしません。各自がやりたいと思うことをやればいい、やりたくなければやらなくていい。

2つ目は、正直であること。困っていることや嫌なことがあったとしても、率直にオープンにするように求めています。だから信頼できる安心安全な組織になる。

3つ目は、罪悪感を持つ必要性がないということ。セッションに参加できなかったり、自分で決めた役割をまっとうできなかったりすると、みんなすごく罪悪感を持って謝るんですよ。でもそれはエネルギーの無駄遣いで、かつ人間の体の中に悪いものを生むんですよね。みんな良い意図を持って集まり、行動しているんだから「ごめんなさい」はやめようと。

とにかく自分のやりたいことをやって、強みを生かしてほしいということしか言っていないんです。そういう意味では、ティール組織の要素が多分にあるのではないかと思いますね。

自治体連携で日本全国に広がる“WAAの輪”

-今年は「地域 de WAA」が導入されました。同じ問題意識を持つ自治体のリーダーと新しい繋がりが生まれているのでしょうか。

まさにその通りで、本当に勝手に繋がっていく感じなんですよ。いつでもWAAができる場所さえあれば、滞在して仕事をする間に、社員が持つ商品開発やマーケティングなどの知見を活かし、地域の課題解決に向けた活動に参画できます。社員も地域の自然や人との交流から刺激をうけ、新しい発想のきっかけを作れるかもしれません。

このコンセプトを聞いて最初に「それいいね、やろう!」と言ってくださったのが宮崎県の新富町です。導入を決定してから1か月後には、社員が無料で利用できる地域施設「コWAAキングスペース(コワーキングスペース)」ができていました。今はまだ6自治体との連携ですが、ゆくゆくは日本全国に連携の輪を広げていければと思っています。

-やはり首長が強いリーダーシップを発揮する自治体には広がりが早いのですか?

そうですね。首長のリーダーシップは欠かせない要素です。あとは、私たちを信頼して任せてくれる現地の方のサポートと、その地域以外から来たやる気のある方々。この3つが融合する地域は、変化が早いのでWAAの活動の広がりも早いのだと思います。

-そもそも地域 de WAAを始めたきっかけは何ですか?

WAAをスタートしてから1年ほど経ったときに、地域創生とWAAはすごく親和性があるのではないかと思いました。地域には場所や自然など東京にないものがあり、東京には人材やアイデアが豊富にある。「だったら両方をくっつけたらすごいことになるんじゃないか」と思ったんですね。

それに、地域には「この地域をなんとかしようという」という熱量を持った魅力的な人が多いんですよ。美しい自然や食も豊かで、「これに気づかないなんて、私はなんてもったいないことをしていたんだ」と感じました。それから機会があるときには地域に行くようになり、次第にWAAが融合していったというわけです。

形骸化したルールはどんどん変えていけばいい

-地域 de WAAを利用した社員からは、どんな報告がありましたか?

「今まで会ったことがない人と会えたことで、自分の視野が広がった」「目に入るものがあまりに違っていて、すごく集中できた」といった声をはじめ、「地域が抱えている問題は死活問題であって、自分が今まで仕事で悩んでいたことが些細なことに思えた」という報告もありました。もう最高じゃないですか。

それは自分も地域 de WAAを通じて感じたことですし、そう思ってまた仕事を楽しんで頑張れるなら、きっと新しい気づきのきっかけになるはずです。まだ利用する社員はまだ多くありませんが、焦らず急がず、ゆっくりとでも広がっていけばいいかなと思っています。

-地域 de WAAを通じて、ほかに見えてきたことはありますか?

地域 de WAAは、「あれこれ考えず、とにかく行ってやってみよう」というマインドセットが前提になっています。しかし、「地域の課題解決のためにどんなことをしなければならないのか」「自治体の期待に応えられなかったらどうするのか」ということが気がかりで踏み出せない人も多いことがわかりました。

日本人のまじめさでもあると思いますが、それがブレーキになって、やってみようと思わないのはもったいないことです。「楽(らく)」と「楽しい」という漢字が同じように、もっと楽に考えて毎日楽しく生きている人が増えたらいいなと思っています。将来的には日本国内だけでなく、世界にも地域 de WAAのネットワークを広げたいですね。

-今後の展望をお聞かせください。

働く場所と時間を社員が選べる。この働き方がシンプルに広がって、当たり前になることを願っています。WAAは、何の目的のために取り組むのかということが大切。長時間労働がなくなる、残業が減る、というのは一つの結果に過ぎません。仕組みや制度を入れることが目的なのではなく、本当に実現したいのは、みんながいきいきと健康で、どんなライフステージでも人生を楽しんで豊かな人生を送るということ。そのための有効な方法の一つがWAAなのです。

リーダーや経営陣がどういうマインドセットを持っているか、どういう信念を持っているかは、会社組織に多大な影響を与えます。制度は、みんながより幸せに、生きやすく働きやすくなるために存在するものですから、現状にそぐわなければ変えたり新しく作ったりすればいいんです。

私はいつも、「枠」にはまらず「わくわく」することを考えようと言っています。これまでの会社の常識といった枠にとらわれず、一人ひとりの物の見方でわくわくすることだけを考えて取り組めば、絶対にうまくいくんですよ。WAAの取り組みがきっかけとなり、新しい働き方改革の波が広がっていくといいなと思っています。

【プロフィール】
島田由香(しまだ ゆか)

ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長。1996年慶應義塾大学卒業後、パソナ入社。2002年米国ニューヨーク州コロンビア大学大学院にて組織心理学修士取得後、日本GEにて人事マネジャーを経験。2008年にユニリーバ入社後、R&D、マーケティング、営業部門のHRパートナー、リーダーシップ開発マネジャー、HRダイレクターを経て2013年に取締役人事本部長就任。2014年から現職。米国NLP協会マスタープラクティショナー、マインドフルネスNLP®トレーナー。

【会社概要】
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社

本社:〒153-8578 東京都目黒区上目黒2-1-1中目黒GTタワー
設立:1964年3月
代表者:代表取締役 社長 兼 CEO 髙橋 康巳
主な事業:パーソナルケア、ホームケア、食品の製造販売

Team WAA!
https://www.unilever.co.jp/sustainable-living/waa/team-waa/

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