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2019年10月21日(月)

今、日本企業に求められているOKRとは?~OKRの神髄を知るピョートル・F・グジバチ氏に聞く

経営ハッカー編集部
今、日本企業に求められているOKRとは?~OKRの神髄を知るピョートル・F・グジバチ氏に聞く

プロノイア・グループを率いるピョートル・フェリクス・グジバチ氏は、ポーランドに生まれ、モルガン・スタンレーやGoogleをはじめ、数社の外資系企業で日本やアジアを舞台とする事業に携わってきた。日本在籍は19年に亘り、グローバルな視点から日本企業の良い面や悪い面が俯瞰できる。
 
日本企業の人材マネジメントの問題として、ピョートル氏が指摘するのは 仕事を評価する際に、時間で評価し、結果で評価しないことだ。頑張って長時間働いている姿勢が評価されるので、頑張っているふりをする社員が増え、肝心の成果が上がらない。
 
ならば、結果評価をしっかりやろうとKPIやMBO(Management By Objectives=目標管理制度)によるマネジメントを徹底すればよいのかというと、それもまた違う。トップダウンでPDCAを厳密に回す運用法では、ルーティンワークの精度は高まれど、何も新しいものは生まれない。今や、先の見えないVUCA時代、そもそもPの目標設定自体が問題となっている。
 
そこで必要となってくるのが、OKR( Objectives and Key Results)だ。チャレンジングな目標をたて、社長が思いつかないアイデアを社員がどんどん出していく。その結果イノベーションを生み出し、業績が上がることで社員が評価され、会社へのエンゲージメントが高まり、企業価値が向上するという好循環を生み出せるのがOKRの強みだ。
 
しかしOKRの運用は簡単ではなく、誤解も多い。そこでGoogleでOKRと出会い、プロノイア・グループとして多くの日系企業に対してOKRの導入を支援してきたCEOのピョートル氏および、COOの星野珠枝氏に、日本企業の課題や、正しいOKRの運営ポイント、そしてOKRによって企業はどのように進化できるのかについて聞いた。

変革期にある日本企業の人材マネジメント

-まずはピョートルさんからご覧になった日本企業の強みと問題点を教えてください。

ピョートル:日本企業の社員に対してのフィロソフィーには素晴らしい点があります。たとえば終身雇用制度は、社員とその家族の生活を一生守り続けるという考え方なので、その心意気にはロマンチシズムすら感じます。しかしその一方で、心理的安全性の確保された場づくりや、社員をしっかり育む風土がありません。また、メンバーシップ型でゼネラリストを育成していくというのはよいのですが、社員のウェルネスや成長、自己実現などをサポートしていく仕組みが欠けています。社員が自分のスキルを活かせる部署に異動してパフォーマンスを上げたいと意欲を燃やしても、人事に口を出せず異動できないなど、自己実現の場がないのです。

-とは言うものの、今や旧態依然とした日本企業は減ってきているように感じます。日本的経営のキーワードであるピラミッド型のマネジメントや終身雇用制、年功序列も変わってきているように感じます。今はちょうど過渡期にあるのではないでしょうか。

ピョートル:そもそも日本では管理職のマネジメント力が弱いですね。人を育み、結果を評価するのが本来、あるべき姿なのに対し、頑張る姿勢が評価の対象となり、年功序列で出世の順番が決まったりします。しかしOKRをしっかり運用している組織ではパフォーマンスで評価され、年齢を問わずに出世できます。

星野:OKRは横並びに可視化されるので、個人のマインドや動きなどから「価値観のプロフィール」といったものが見えてきます。その人そのものが評価されるため、結果はどうあれ、納得感を得られるという面があります。

-OKRは働き方改革のムーブメントにぴったりマッチしていますね。            

ピョートル:そうなのです。超少子高齢化社会の進展に伴う労働人口の減少により、どの企業も副業や委託業務、テレワークなど、雇用形態や働き方を見つめ直す必要に迫られています。その結果、価値観や境遇の異なるメンバー全員が納得できるOKRを運用し、成果を上げて行かないと、企業の存続は難しいでしょう。性別から言語まで多様化が進むこの時代、採用条件や雇用形態の異なるメンバーが集まって何かを生み出していくには、しっかりしたコミュニケーションが必要となります。また、最初からVUCAの時代に育ったジェネレーションZは自分のやりたいこと・できることを重要視するので、自発的に達成目標を決定できる企業でないと、採用の場面で選ばれなくなってしまいます。
 
現在はまだ経済状態が良好なので、たくさんのポジションが用意され、マッチングするのが容易です。しかし経済が縮小すると、無駄な労働や生産性の低い仕事を削らねば、会社の財務が危うくなっていきます。まだ景気のよい今こそ経営改革に力を入れ、将来の危機に備えるのが大事です。経営状態が悪化してから動くのでは遅いのです。一歩、早く動くのが肝心ですね。

組織も個人も共に成長する、マネジメント変革システムとしてのOKR

—改めて、OKRとはどのような人材マネジメント法なのかを教えてください。

ピョートル:そもそもOKRとは、何をやるか(目標=Objective)、そしてそれをどのようにやっていくかを決める目標管理の手法です。企業全体、部門、個人といった企業の階層ごとに目標を設定し、さらにその目標を実現できたことを示す、より具体的な「成果=Key Results(KR)」を複数決定します。よくある勘違いとしては、OKRを決められたフレームとして導入しなくてはならないという固定概念があることです。単にフレームワークとして導入しても成果は出ません。
 
星野:最初は多くの企業が、従来のKPIやMBOからOKRというフレームへ移行すると考えがちですが、実際にお話をしてみると、がちっとしたフレームとしてではなく、よい要素を取り入れればよいのだと理解していただけます。各社、自社に合った形にカスタマイズしていけばよいのです。中には、社員にアナウンスすることなくプロジェクトの一部として運用し、社員は知らず知らずのうちにOKRを実行しているといったケースもあります。
 
ピョートル:OKRの導入は、組織づくりの変革に繋がります。MBOとKPIは上司が目標を設定し、部下が実行するという方法で運用されることがほとんどですが、OKRは共有された階層ごとの目標に向かって、チーム、上司、部下がお互いの価値観や基準、希望などをシェアしながらオープンに運用します。それにはチーム全体を「可視化」し、ボトムアップでの擦り合わせが必須です。フラットな会話のできるチームミーティング、上司と部下が信頼し合い、心理的安全性が確保された1on1、部下が自分で答えを出せるような問いかけ型のコーチングなどを適宜、行わなくてはいけません。そこをおざなりにしてしまうと、ただのフレームワークで終わってしまいます。つまり、OKRは単なる目標管理手法ではなく、組織を進化させるマネジメント改革システムなのです。もちろん、部下の目標設定力を高めるなど、個人の育成という点でも優れ、ポテンシャルを極限まで引き上げます。

—ピョートルさんとOKRとの出会いについてお聞かせください。どのような気づきや成長を得られましたか。

ピョートル:以前在籍していたモルガン・スタンレーでは、MBOに近い形で目標を設定していました。しかし私は、出世するためにはボスのさらに上のボスの立場で仕事を捉える必要があると感じていました。なぜなら、上司との間で設定されたゴールに到達するのみでは上を目指せない。自分自身で定めたストレッチゴールに向かって挑戦することで、期待以上のアウトプットが実現し、成功に繋がると考えていたのです。知らず知らずのうちに個人的にOKRを実践していたと思います。
 
管理職として転職したグーグルではしっかりとOKRが根付いており、部下とミーテイングした際に、部下の自発性や自立性の高さに驚きました。今期はこれをやりたい、こうしていきたいのだと、部下がはっきり示してくるのです。まだ入社したばかりで、OKRに正式に関わるのは初めてだった私は焦りました。しかし慣れると、部下が自発的に目標達成について約束してくれるので、上司としてはマネジメントが非常に楽でした。自発的な姿勢は、目標達成の確率も高めてくれます。これは上から一方的にゴールを押し付けるMBOやKPIでは考えられない事です。「こんな目標、自分には無理です」などというネガティブな言葉は絶対に出てきません。

—MBOやKPIとはコミュニケーションの取り方が大きく異なるのですね。

ピョートル:OKRは毎週、状況を確認するので、現状や課題、対策などが素早く分かり、場合によっては変更が可能です。全員が納得して行動しているため、メンバーのOKRに対するコミットメントは非常に高くなります。一方、MBOとKPIはトップダウンのため目標が変えられないことや、四半期や半期に1回など評価スパンが長いために、メンバーのコミットメントは低くなりがちです。
 
星野:通常、悪い報告はしづらいものですが、OKRは達成目標を高く設定しているので、必ずしもクリアできるわけではないことを前提として対話するのがポイントです。悪い状況を素直に開示できる雰囲気づくりから、メンバー全員でボトルネックを探って支援していく縦・横、双方のコミュニケーションの充実がOKRのよいところであり、難しいところでもあると思います。
 
企業にありがちなのが、目標を管理する会社や人事と、目標を課せられた個人が、全くの別軸で動いているという事です。評価を気にして、意図的にタスクを100%達成できるレベルに設定してしまうといった可能性も出てきます。目標達成と評価を連携させた瞬間、出来レースになってしまうのです。しかしOKRではムーンショットを評価制度と直結させないため、伸び伸びと大きな目標に向かって進むことができます。

—OKR導入にあたって、最低限、押さえておくべきことは何でしょうか?

ピョートル:長年、KPIに慣れ親しんできた社員間にOKRを浸透させるには、まず、管理職はサポーターでありコーディネーターなのだというマインドセットに変えることが必要です。部下の意識を変える教育はもちろん、戸惑う心のケアをしなくてはなりません。最初はお互いに面倒に感じ、従来のトップダウンの発想から抜け出すのに時間が掛かると思いますが、失敗覚悟でスタートしてみてください。上手く運用できるようになったら、マネジメントが圧倒的に楽になります。そしてさまざまな改革が実現していきます。個別の具体例については、著書「日本企業のケースからポイントを学ぶ OKR導入・運用メソッド~成長企業はなぜ、OKRを使うのか」に紹介していますので、是非ご参照ください。

VUCAの現代、組織のさらなる進化の可能性は?

—OKRの導入によって、どのような変革を期待できるでしょうか。

ピョートル:OKRはチャレンジ精神を育む仕組みです。目先の改善だけでなく、将来に向けてムーンショット的考え方で挑戦することができます。個人が自己実現できるのはもちろん、会社と個人がビジョンとミッションを共有するため、会社と個人のベクトルが一致し、組織の一体感が高まります。また運用する中で、部下と同様に上司もOJTでマネジメントについて学習し、ステップアップできます。
 
今、人生100年時代を迎えています。大きな組織に新卒で入社し定年退職まで勤め上げ、老後は趣味を楽しむという時代は終焉を迎え、個人が自身のポテンシャルや、やりたいことを見極めてキャリアを再構築する環境が整いつつあります。自分がマッチングする領域で自己肯定感や高揚感を得るには、目標設定力が必要です。現在の仕事での学びを次に生かし、数多く用意された選択肢の中から何にフォーカスすべきかを見極める力があると、圧倒的に有利になるでしょう。

—プロノイア・グループではOKRをどのように運用しているのでしょうか。

星野:メンバー全員が経営者の目線で、日々、OKRについて考えを巡らせています。目標を起点として現状や理想、期待できる変化などを多角的に思考し議論すると同時に、個人のOKRと組織のOKRの擦り合わせ方についても全員で考察しています。それは個人の目先のミッションを超えて、チームマネジメントや会社全体の運用について考えるきっかけとなり、日を追うごとに着々と進歩しています。私はこの会社に入って初めて、昔、夢見ていたビジョンに向かって前進していると実感できました。
 
ピョートル:もしOKRを導入していなければ、きっと今頃、会社は存在していません(笑)。組織や事業が常にレベルアップするには、一人一人に細かく指示を出していたのでは、回らなくなってしまいます。前例のない新しいプロジェクトが多いため、OKRがなければ、メンバーは何をどうすればよいのか分からずに終わっていたでしょう。自発的探求や学習も期待できなかったと思います。

—御社の今後の展望、そしてOKRによって期待される未来について教えてください。

ピョートル:プロノイア・グループでは今後もOKRを重視し、導入を推進していきます。最近ではスタートアップ企業だけではなく、地方銀行や商社など、一見、OKRとは遠い存在に思える大手企業や保守的な業種からの問い合わせも増えており、今後はサポートプロジェクトをさらに充実させていきたいと考えています。
 
デジタル化などが急速に進展し、社会や教育が大きく変化する、多様で混沌としたVUCAの現代。ジェネレーションYやジェネレーションZと呼ばれる世代の多くが、自分で問いかけ、答えを探すメンタリティーを持っています。マネジメントにも正解がなく、経験則は通用しません。そんな時代の潮流の中でOKRの必要性はさらに高まり、ボトムアップの企業文化が進化を遂げるでしょう。個人でも上手にOKRを取り入れチャレンジし続けることで、自分の人生にイノベーションを起こすことができます。企業と個人の双方が周囲を巻き込みながら、革新的な素晴らしい未来を切り開くことを期待しています。

—有意義なお話、ありがとうございました。

〈プロフィール〉
 
ピョートル・フェリクス・グジバチ(Piotr Feliks Grzywacz)
プロノイア・グループ株式会社CEO

 
ポーランド生まれ。ドイツ、オランダ、アメリカで暮らした後、2000年に来日。2002年よりベルリッツにてグローバルビジネスソリューション部門アジアパシフィック責任者を経て、2006年よりモルガン・スタンレーにてラーニング&デベロップメントヴァイスプレジデント、2011年よりGoogleにてアジアパシフィックでのピープルディベロップメント、さらに2014年からはグローバルでのラーニング・ストラテジーに携わる。2015年から現在はプロノイア・グループ株式会社のほか、新しい働き方といい会社づくりを支援する人事ソフトベンチャー、モティファイ、次世代人材を育む教育事業を手掛けるTimeLeapの3社を経営している。日本在住19年。著書に『成長企業はなぜ、OKRを使うのか』(ソシム)など。
 
著書:日本企業のケースからポイントを学ぶ OKR導入・運用メソッド~
成長企業はなぜ、OKRを使うのか
https://www.socym.co.jp/book/1198
 
星野珠枝(ほしの たまえ)
プロノイア・グループ株式会社 COO シニアコンサルタント

 
NECグループのSIerに勤務。マーケティング部門にて、マーケティングプロモーション、コンサルティング業務に従事し、働き方改革、テレワーク推進、観光DMOサービス開発など多数プロジェクトリーダーを経験。2018年よりプロノイア・グループで、組織改革、人事戦略、新規事業開発のコンサルタントとして活動中。
 
会社概要
プロノイア・グループ株式会社

www.pronoiagroup.com
 
2015年6月設立。未来創造事業を通じて、社会・組織・個人に変革をもたらすことを掲げ、企業経営における戦略、ビジネスイノベーション、組織・人材開発、ブランディング、ビジネスモデルクリエーションなどを支援。グローバルかつさまざまな世代やビジネス領域を超えた人材やテクノロジーを融合し、常識を超えた新しい価値を追求している。

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