経営ハッカー | 「経営 × テクノロジー」の最先端を切り拓くメディア
2019年10月28日(月)

会社と個人の歪んだ関係を「ストーリー経営」で立て直す!日本型雇用の根本問題に斬りこむ株式会社YourVerse長谷川氏に聞く

経営ハッカー編集部
会社と個人の歪んだ関係を「ストーリー経営」で立て直す!日本型雇用の根本問題に斬りこむ株式会社YourVerse長谷川氏に聞く

今、会社組織と個の関係が揺らいでいる。一言でいえば、会社が個人の面倒を一生見るから、その代わり会社の依頼する無理難題を聞いてくださいねという、労使暗黙の合意の上に成り立つ終身雇用システムが崩壊したということだ。終身雇用が守れなくなったことで、個と組織の関係がギクシャクしている。組織における採用難、離職率の高止まり、メンタル不調の蔓延がそのことを物語る。いくら働き方改革を声高に叫んでも相互に根本の軸がズレていたのでは、成果が出るわけがない。
 
では、新しい組織と個の関係はどうあるべきか?株式会社YourVerse代表取締役の長谷川朋弥氏は次のように指摘する。「企業は『人』の集合体です。 会社のストーリーである理念やビジョンの中に、個々⼈の体験や想いが詰まったストーリーが反映され、⼤きく共鳴し、補完しあうことで、企業は成⻑していきます。新しい多様なストーリーを持った⼈を増やすことで、より成⻑を促すことができるのです」
 
長谷川氏は「ストーリー経営」により、会社と個のストーリーを可視化し、「共感」を生むことでこれからの組織と個の新しい関係が創出できるという。そもそも「ストーリー経営」とは一体何なのか?なぜこのサービスを提供しようと思ったのか?長谷川氏に話を伺った。

会社も個人もストーリーを持たなければいけない時代

-まず、御社のメイン事業である「ストーリー経営」のコンサルティングについてお聞かせください。

現在、⼤企業になっているどの企業もかつては個⼈商店であり、スモールビジネスでした。スモールビジネスが世界で戦えるエンタープライズに成長していくには、ストーリーが必要です。例えば、本田技研工業の創業者・本田宗一郎さんは「世の中のために良い物を作る」「エンジニアが活躍する会社にしたい」というストーリーを念頭に置いて会社を展開していました。また、SONYがまだ東京通信工業だった頃の設立目的には「真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」とあります。SONYの沿革を見れば、成功も失敗もありますが、設立目的を実践しているストーリーがわかるでしょう。
 
しかしながら、経営理念やvisionを掲げ、経営陣がアツイ想いを語り、人を採用し育成していても、なかなかスタッフには浸透していかず、頭を抱えている経営者の方は多いのではないでしょうか?また、スタッフとしても、綺麗な言葉ばかり並ぶ理念と今の業務がどのように紐づいているのか理解しがたいこともよくあるかと思います。
 
つまり、「ストーリー経営」とは、会社のストーリーと個人(スタッフ)のストーリーを見える化し採用、育成、評価、組織活性などの場面でのコミュニケーションを行うことで、共感を見つける取り組みになります(以下図1)。

(図1:ストーリー経営のコンセプトイメージ )

手順としては、企業から現在に至るまでの会社の歴史をヒアリングし、「経営者がどういう思いで起業したのか?」「どこを軸に据えていたのか?」「真に実現したい価値は何か?」といったストーリーを探していきます(以下図2)。

(図2:某コンサルティングファームでの企業のストーリー抽出方法例 )

一方、個人に対しても、これまでの人生の棚卸しをしながら、その人が熱中したこと、困難に合ったこと、その時気づいたこと、それが今の自己形成にどうつながっているか、本当に自分が大切にするものは何かなどを見つけ、会社と個人の「こういったところが共感していますね」といった重なる点を深く掘り下げていくのです。
 
従来の会社と個人の関係は「会社がやりたいことをスタッフに一方的にやらせる」でしたが、私達は個人がその会社で働く意味を見出し「会社と個人のやりたいことがマッチするから仕事が生まれる」という関係を再構築することを目指しています。

 

-「ストーリー経営」の実践は企業にはどのような効果があるのでしょうか?

この「ストーリー経営」が⽣む効果として、まず、候補者の方々が、経営陣、会社の歴史の中に、自身の人生に重なる共感を見出すことで、⼤⼿企業ではなく、「その会社」を選んで⼊社するようになります。弊社のお客様では、内定承諾率が20%代から70%代まで改善した事例もあります。
 
またスタッフ自身、自分のキャリア・人生が、会社自体と共感しイコールになる部分が多くある状態なので、上司に言われたことをやるのではなく、自身のやりたいことが結果として仕事になっている状態になります。その結果、自律的に早期活躍する人材が増え、離職率も低くなります。
 
それだけでありません、スタッフが自身のストーリーをコミュニケーションツールとして使うことで、相手の人生的背景を把握できるようになります。つまり「なぜこの人はこのような行動をとるのか?」「なぜこの仕事が苦手なのか?」など、相互に相手の特性を理解しながら仕事を進めるようになり、組織力、チーム力がより一層高まります。
 
このように組織と個が自身のストーリーをコミュニケーションツールとして利用することで、すべてが好循環するようになることがお分かりいただけるのではないしょうか。

-お互いに会社も個人も自分のストーリーをかなり踏み込んで明確にする必要性がありそうですね。

これまでの日本企業のビジネスモデルは、同じことを均質的・同質的にやってくれる人が求められていました。しかし、今後はそういった人材を育てていても企業を成長させ続けることは難しく、多様な人材がいなければマーケットに刺さる商品やサービスは生み出せません。同じような人材を育て管理するやり方では、多様な人材が活躍することは不可能です。もちろん、ただ多様な人材ばかりを雇っていても、まとまりを欠いてしまいます。ですので、ストーリーを常にアップデートし、コミュニケーションすることで、共感する多様な人達を集め、関係を構築しながら仕事をしていくことが、会社として生き残っていくために重要になります。
 
個人で言えば、最近やりたいことが分からないという人が多くいますが、「良い大学に入社して、良い会社に就職する」というロールモデルを捨てる必要があるかもしれません。最近では、インターネットで多くの情報に簡単にアクセスし人や組織と繋がることで、様々なキャリア、生き方を知り、選ぶことができるようになりました。ですので、一般的なキャリアカウンセリングのように左脳でロジカルに考えるだけではなく、右脳で「自分自身がどう感じるか?」という感情の部分を引っ張り出し「どういったストーリーが自分の中に流れているのか?」という感度を高めることを行なっています。

今後、企業はスタッフや採用候補者との共感があるストーリーを見つけていくことが重要になります。単純に部下に業務を振り管理するのではなく、「このミッションを達成するために、こうする必要がある。そしてあなたのストーリーにとってもこのような繋がりがある。だから、今この業務をしてほしい」というように相互に調和する関係を創っていくことができます。

「ストーリー経営」を広めようとする背景は?

-ではここで、長谷川さんのストーリーを伺いたいですね。どのような経緯でストーリー経営を広めようと思われたのですか?これまでの経歴を教えて下さい。

少し過去から遡ると、小学生の時から野球少年でした。高校まで野球を続けていて、努力したことが成果につながる感覚がすごく嬉しく、毎日練習に明け暮れていました。ただ、大学に進学してからは野球をやめ、アルバイトをしてお酒を飲んで遊ぶという当時の“大学生っぽい生活”を送っていました。ですが、2年間くらいそんな生活を続けていた時、「なんかつまらない」「刺激的じゃないな」といった虚無感に襲われ、大学に通う事さえ億劫になりました。そんな時、株式会社旅武者という会社が実施していた“武者修行”というインターンプログラムで「ベトナムに2週間滞在してビジネス体験をする」というものを見つけて参加しました。
 
この2週間はワクワクの連続で心の底から「ビジネスって面白い!」と実感させてくれ、インターン後もその会社の長期インターン生として残り大阪や京都への展開も手伝わせてもらいました。この時に「頑張ったことが結果になって、それが給与に反映され、周囲からも評価される」という喜びを味わえることで、白球をがむしゃらに追いかけていた高校時代の充実した気持ちを思い出し、「将来は起業家になりたい!」という願望を強く持つようになりました。そして、起業するために必要なスキルを学ぶためにはどうすれば良いかを考えた結果、経営スキルを獲得するため会計を強みにコンサルティング事業を行っているグローウィン・パートナーズを選びました。

-グローウィン・パートナーズではどのような業務を担っていたのですか?

前職では新卒で入社し4年間勤務しました。業務内容は、働き方改革を目的としたRPA導入サービスやペーパーレス化サービスなどの新規事業開発をやっていました。クライアントは主に年商百億円~5千億円の一部上場企業が多かったですね。
 
当時、非常に印象深かったのが「働き方改革の限界」です。日本では人手不足が叫ばれ、大企業を中心に残業削減やモチベーションアップ、リモートワークの導入に取り組んでいる企業は多くあります。ですが、「もっと働きたい人」や「プライベートを優先したい人」「働く場所に縛られたくない人」「グローバルな人」など多様化してしまった価値観、考え方、バックグラウンドをもった人財全員にとっての「働き方改革」を実現するには正直限界があると感じました。実際、終身雇用、労務管理などの既存の人事制度や古くからの組織風土によって、思い切った対策が取りづらく、経営者や管理者は対応に苦心している印象でした。
 
つまり、どちらも変わりたいけど変われないという“組織の歪み”を抱えている会社は非常に多いことを前職で気付かされました。そのことに気付いた時、私はこの歪を解消するためには、お互いが意識を変えて歩み寄らなければ、共倒れしてしまうし、なにより楽しく働くことができなくなると危機感を抱きました。
 
ただ、前職に勤めている時は、あくまで「クライアントの業務プロセスを変えること」がメイン業務だったため、組織の歪みをケアすることはできませんでした。そのため、「会社と個人の関係を再構築するサービスを提供したい」という思いを持つようになりましたね。

-前職で見た組織と個の歪み、この気付きが起業のキッカケになったのですか?

この気付きが完全なキッカケではありません。起業のキッカケは大きく2つあります。1つ目は、僕の弟が2018年12月に亡くなったことです。彼は非常にアクティブな性格をしていて、ドラマーとしてロスアンゼルスの路上でパフォーマンスをしながらお金を稼ぐという生活を送っていました。ただ、24歳の時に「そろそろ働かなきゃ」と思ったらしく、一般企業に入ったんです。しかし、アメリカで路上パフォーマンスをするような性格をしているため、上司との関係性を築くことに苦労し、会社内で浮きがちでした。そして、自分に適した職場を求めて転職を繰り返しているうちに、「自分は意味がない人間なんじゃないか?」と思い悩み、最終的には自分で命を絶ってしまいました。
 
僕はこの事実を知らされた時、「あれだけアクティブな性格だった弟が、会社という箱に入った瞬間、なぜこれだけ苦しまなければいけないのか?」ということに疑問を抱きました。また、「あいつなら日本の企業で働くという選択肢以外にも、道はいくらでもあったのでは?」と思いました。そういった事を考えていると、非常にやるせない気持ちがこみ上げてきましたね。

-もう一つは何でしょうか?

実はこれだけではありません、父が数年前に鬱病になったことです。父はもともと営業マンですごく楽しそうに仕事をしていたんです。ただ、3年前に中間管理職になり、上からの営業目標をクリアしつつも部下を管理しなければいけない立場になりました。父本人も「人を育てるのは好きだけど得意ではない」と言っていましたが、頑張っていたけれどなかなか上手くいかず次第に精神的に追い込まれてしまいました。その結果、鬱病になってしまい「仕事に行きたくない」と言い出すまでなり、あれだけ楽しそうに仕事をしていた父が仕事で苦しんでいる姿を見て、すごく寂しい気持ちになりました。これは現行の働き方に問題意識を持つには十分な経験になりましたね。
 
もともとは前職のグループ会社で事業をやろうと考えていたのですが、弟の死や父の鬱病など僕の中でセンセーショナルな事態が相次ぎ、「悠長なことは言ってられない」「このスピード感では遅すぎるのでは?と疑問を持ちました。そして、「弟や父のように仕事で苦しんでいる人を一人でも多く救いたい」という思いに突き動かされるまま、気がついたら自分で起業していました。

究極の組織と個の関係構築とは?

-最終的に目指されるゴールをお聞かせください。

IT化が進み、人生の選択肢が増えた今だからこそ、仕事はもちろん、趣味や家族との時間など、複数のストーリーを楽しめる人を世界中で増やしていきたいです。
 
平日の電車に乗っている時に疲れた顔をしてスマホゲームをしている人ってよく見かけますよね。もちろん、本人が楽しんでプレイしているなら良いのですが、仕事の辛さから逃れるため、仕事のストレスを解消するためにスマホゲームに熱中している人も多いのではないでしょうか。そのために、自身の熱中できることやビビっとくることなどのストーリーをまず見つけてもらい、そのストーリーを大切にするような働き方ができれば、暗い顔をするビジネスパーソンいなくなると思います。
 
自分らしくやりたいことにまっしぐらな自律した個人と、その活き活きした個人たちが今までの雇用に捉われず調和しチャレンジングな組織をつくれば、新しいビジネス、社会課題の解決がより一層たくさん産まれてくると信じています。
 
実際に、私は起業しても前職との関係を続けており、経営者として対等の立場として業務委託を受けています。企業を卒業しても、お互いに対等で協力者であり続ける。これがこれからの組織と個のあるべき姿ではないでしょうか。

<プロフィール>

⻑⾕川朋弥
株式会社YourVerse代表取締役社⻑CEO 

2015年、早稲⽥⼤学卒。グローウィン・パートナーズ株式会社⼊社。 ⼊社3年で最年少部⻑に就任。新卒2名とともに、新規事業の⽴ち 上げ、⼦会社の設⽴を主導。JTグループ、JCBなど⼤⼿上場企業へ のRPAやペーパーレスサービスを多数提供。他にも⽇⽴グループなどア ライアンス戦略を主導や、セミナー講師も数多く務める。 2019年、当社設⽴。⼤⼿企業、ベンチャー企業向けに採⽤から退 職までの組織開発を⼀⼿に⽀援。個⼈向けキャリアカウンセリングでは 、企業側のビジネス視点と個⼈の⾃⼰実現の視点から、⼊社後活躍 できる転職を⽀援。

この記事の関連キーワード

関連する事例記事

  • 資本金・資本準備金・資本余剰金の違いとそれぞれの役割を徹底解説
    インタビュー・コラム2023年02月28日経営ハッカー編集部

    衆議院議員・小林史明氏×freee佐々木大輔CEO 企業のデジタル化実現のために国が描く未来とは?

  • 資本金・資本準備金・資本余剰金の違いとそれぞれの役割を徹底解説
    インタビュー・コラム2022年10月24日経営ハッカー編集部

    仕事が・ビジネスが、はかどる。最新鋭スキャナー「ScanSnap iX1600」の持てる強みとインパクト

  • 資本金・資本準備金・資本余剰金の違いとそれぞれの役割を徹底解説
    インタビュー・コラム2022年08月30日経営ハッカー編集部

    ギークス佐久間大輔取締役、佐々木一成SDGsアンバサダーに聞く~フリーランスと共に築くESG経営とは?

  • 資本金・資本準備金・資本余剰金の違いとそれぞれの役割を徹底解説
    インタビュー・コラム2022年08月28日経営ハッカー編集部

    サイバー・バズ髙村彰典社長に聞く~コミュニケーションが変える世界、SNSの可能性とは?

  • 資本金・資本準備金・資本余剰金の違いとそれぞれの役割を徹底解説
    インタビュー・コラム2022年08月05日経営ハッカー編集部

    バックオフィスをどう評価する? 経理をやる気にする「目標設定」と「評価基準」の作り方

関連記事一覧