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2019年11月11日(月)

経営をもっとシンプルに!NPSとeNPSで顧客ロイヤリティと従業員エンゲージメントを一気に改善する方法~株式会社Emotion Tech

経営ハッカー編集部
経営をもっとシンプルに!NPSとeNPSで顧客ロイヤリティと従業員エンゲージメントを一気に改善する方法~株式会社Emotion Tech

NPSとはネット・プロモーター・スコアのことで、amazonやアップル、Facebookなど米国フォーチュン500の名だたる企業の1/3が使っている、顧客ロイヤリティを測定する手法だ。自社プロダクトを他人にどれだけお薦めしたいかで指標自体は簡単に測定できる。これを、自社への入社を他人にどれだけお薦めしたいかにすると、従業員のエンゲージメントも測定できる。
 
ご推察のとおり、この2つは密接に連動している。企業ブランドに対する愛着や信頼を示す「顧客ロイヤリティ」の高さが従業員の自尊心をもたらし、会社の理念を共有し、自発的に貢献する「従業員エンゲージメント」が高いことがプロダクトの品質向上につながっていく。理屈は簡単なのだが、こういった指標をどのように経営に連結させるかが重要だ。これが難しかったため日本の企業ではあまり導入がすすんでいない。
 
そこで、これら指標を用いて「CX(顧客体験)」「EX(従業員体験)」をマネジメントするクラウドサービスを開発し、大手企業を中心に顧客を獲得しているのが株式会社Emotion Tech社だ。同社は「NPS®」「eNPS℠」にいち早く着目することで、収益性とリンクさせながら課題を改善するサービスを構築した。昨年には中小企業向けのソリューションを開発し、さらなる浸透を図っている。代表の今西良光氏によれば、これらの指標により投資対効果=ROIが明確に測定できるため、経営の定量化、可視化が実現でき、もっと経営はシンプルになるという。今回、その今西氏に、「NPS®」「eNPS℠」を活用する具体的な仕組みと企業活動にもたらす効果について聞いた。

マネジメントのあり方への疑問からCX・EXを向上させるシステムを考案

―まず、御社のサービスがどのようなものかを伺わせてください。

当社のコアとなっているのは、人の感情をデータ化して集めて分析し、そこから重要な要素を導く統計的なアプローチを行う技術です。それを生かし、顧客が企業のブランドやサービスをどう感じているのか、従業員が会社についてどう感じているのかをアンケートのような形で行い、分析し、どこを改善すべきかを提示します。企業の顧客向けにアンケートをとり、CXを向上させる「Emotion Tech」、従業員にアンケートをとってEXを向上させる「Employee Tech」の2つがサービスラインです。
 
クライアントは、今までは特に飲食業など店舗型の事業者、対面でコンサルティングや提案を行う人材紹介会社、フィットネスクラブなどの会員系ビジネスで使ってくださっていましたが、次第に業種業態が増えています。規模的には社員数が数万人の大企業が多いのですが、中堅規模の企業様向けのソリューションも昨年から提供し始め、社員が数千人~数十人の規模の企業様にも使っていただいています。
 
2つのサービスは単独で導入していただけますが、企業の中で従業員が生き生きと働き、それによって商品やサービスのクオリティが上がり、そのことがお客様のロイヤリティ向上につながって企業の収益にはねかえる。その収益をEX、CXに投資し、より企業の価値を高めていく。そのサイクルが回り続ける状態を作り出すのが真のねらいです。

―顧客満足と従業員エンゲージメントの向上により経営の成果を高めることは多くの企業が熱望するものですが、自社開発のクラウドシステムという、これまでにないサービスはどのように生み出されたのでしょうか。

そもそものきっかけは、私自身のビジネス体験で感じた課題にあります。新卒で入社した日立製作所では、官公庁向けにインフラ系の営業を行っていたのですが、大企業はプロジェクトが巨大であり、組織の硬直性も高く、会社のアイデンティティーと個人のモチベーションを結びつけて社員が仕事をするのがなかなか難しい。それをマネジメントで変えることはできないだろうか、と考えはじめたことから自分がマネジメントに携わりたい気持ちが強くなり、ユニクロの店舗マネジャーに転身しました。
 
ユニクロで働いてみると、その当時はPOSなど売り上げ管理のIT化は進んでいたのですが、人対人のマネジメントやサービスの改善は非常に属人的でした。店長個人の経験で店舗のサービスクオリティやお客様の満足度が変わってしまう。そこで、お客様の声などのファクトから導き出したものを起点に経営できれば、顧客に愛される店づくり、従業員に愛される組織づくりができるのではないか、と課題が見えてきました。コミュニケーションやサービスにおける人と人の間にあるものを可視化し、データを使って示唆を導いていくビジネスを行いたい、と起業を模索しました。

―2つの会社での経験からマネジメントの課題を見つけ、起業につながった訳ですね。

ただ、すぐには起業のステップは踏まず不足していると思われた知見を増やすために1年間早稲田大学大学院のMBAコースに通いました。当時はEXの方に課題意識があり、従業員が生き生きと働けるマネジメントのあり方に関連した事例や論文を読み込んで研究し、従業員間コミュニケーションのアプリで起業しました。ところが、こちらは思うようにうまく立ち上がらず、途中でピボットしました。

―EXの向上を目的に開発したアプリは、何が問題だったのでしょうか。

アプリは、ユニクロで使っていた、良い行動をした人に「ありがとう」を送る「サンクスカード」を元に発想したものです。カードを皆でシェアして良い行動を真似し、ランキングで評価することで、CS(顧客満足度)を向上させるというツールで、やりきれればすごく力がつきます。ただ、店長が皆に促してやってもらい、確認し続けるという属人的なパワーを使わないとうまく回っていかない。そこで、シェアやランキングを自動化できるアプリを開発しました。
 
そのアプリがうまくいかなかった理由は2つあって、ひとつはROI(投資利益率)がうまく可視化できなかったこと。経営サイドからすると「いくら収益が上がればアプリ使用にかかるコストが下がるのか?」という疑問が発生しますが、それを明確に紐づけることが難しかったんです。2つ目は、企業にプレゼンした時に、「従業員の体験より、むしろお客様にツールを使ってもらい、企業や店舗に対する感想をフィードバックできないか。それを元にサービス改善し、売り上げを向上させたい」という声が大きかったんです。
 
それでわかったのは、従業員の体験と収益向上との距離が遠いということ。そこで、顧客から感想や意見をもらうことでサービスを改善し、収益を上げていくツールの開発に方針転換しました。そこで出会ったのがNPS®(ネットプロモータースコア)です。

NPS®とeNPS℠を活用し、日本人の国民性に合致したツールを開発

―NPS®は、主にアメリカで使われている顧客体験の指標と聞いています。どのように御社のサービスに取り入れていったかを教えてください。

ROIを可視化するため、より収益に近い顧客の声を吸い上げて分析結果を示すことができるツールを独自に考案しましたが、それでもまだ弱い。悩んでいた時にたまたま行った講演でNPS®のことを知ったんです。これまでのふわっとした顧客満足度ではなく、ダイレクトに収益とのつながりが説明できる指標で、海外の企業はNPS®の概念を当たり前のように経営に取り入れている。この指標を使えば、今の課題を解決できるのではないか。NPS®を測定しながらお客様の声を集めて分析するツールにしよう、と決めました。

―NPS®は具体的にどのように顧客の意見を集めていくのでしょうか。

お客様に「サービスや商品を友人や知人にどの程度すすめたいか」を訊ね、11段階で数値化します。「強くすすめたい」に該当する9・10点が推奨者、7・8点が中立者、0から6点が批判者で、推奨者が40%、批判者が25%なら前者から後者を引いたものがNPS®の数値で、お客様ロイヤリティの指標となります。NPS®の考案者は、アメリカの大手コンサルティング会社であるベイン・アンド・カンパニー社のフレドリック・F・ライクヘルド氏で、10年近くの実証実験で様々な産業においてNPS®のスコアと企業収益がリンクしていることを確認し、2003年に論文を発表しています。

―これまでの顧客満足度ではわからなかった収益性との関連がNPS®で実証できたのはなぜでしょう?

顧客満足度だけでは必ずしも収益につながらないのは、例えば会員系サービスから離反したお客様に「サービスに満足していたか」を聞くと、満足していた人の割合は意外に高く、ある調査では8・9割は満足という回答が出ました。その一方、「サービスをおすすめしたいか」を聞くと40%に減ってしまう。つまり、満足していることとおすすめできることの間にはかなりの乖離があるんです。会員ビジネスの場合、継続してもらうことが収益につながりますが、収益性をシビアに見ていくには満足度だけを聞いてもあまり意味がない。親しい人に自分の信頼を削ってまでおすすめできるか、というレベルまで高まっていって初めて愛されるサービスになり、継続してもらうことができます。

―そのロジックを取り入れることで、裏付けのあるCX向上のサービスを開発できた訳ですね。もうひとつのEX向上のサービスは、どういうロジックなのでしょうか?

EXの向上に採用したeNPS℠は、ロジックはNPS®と同じで、質問が「あなたが今働いている職場を親しい友人におすすめしたいですか?」になります。eNPS℠をグローバルにしたのはアップルなんです。アップルでは事業の重要指標にNPS®を使っていたのですが、あるときアップルストアの従業員のエンゲージメントを高めていく指標としても使えることに気付き、用いはじたのが、eNPS℠の開発のきっかけになったと言われています。

―アメリカでは当たり前に使われてきたNPS®、eNPS℠ですが、日本ではこれまであまり使われてこなかったのはなぜですか?

日本は、人対人はツーカーが当然で、感情や事実をデジタルに捉えた上で改善していこうということが遅れてきました。今、大企業を中心にNPS®がやっと浸透してきたところです。一方で国民性の違いもあります。アメリカ人はいいものはいい、悪いものは悪いとドライなので、評価の点数にもダイレクトに反映されます。反対に、日本人は真ん中に点数をつけがちなので、NPS®のロジックをそのまま適用すると全体の平均はマイナスになってしまいます。NPS®では5・6点も批判者になるのです。そこで早稲田大学の教授と共同で研究し、NPS®をそのまま使うのではなく、日本人の国民性や回答志向に合わせた補正を行い、オリジナルのロジックを作りました。

「課題の発見、施策の実施、改善」のプロセスで、顧客単価が32%向上した事例も

―御社以外に、NPS®を活用している国内のコンサルタント会社やディストリビューターはあるのでしょうか。

NPS®はライセンス契約で、グローバルの競合プレーヤーが何社かあります。しかし、当社の強みは、日本の各産業のNPS®のデータやオリジナルの設問設計をもっていて、他社と比べて内容が厚いことです。データは、クライアントである約400社から社名を伏せたうえNPS®の数値を統計として使用することを承諾いただき、プールしています。それを業態ごとの固有の設問設計に生かしています。分析のノウハウも特許をとっていて、深く分析できるのも強みです。内製のクラウドツールを使い、CXとEXの両面から改善ができる仕組みも今のところ当社以外に存在しないですね。

―実際にサービスを導入し、成果を上げた企業のケースを伺わせてください。

株式会社フルスピード様というインターネット広告代理店のケースでは、成果につながる営業マンの行動改善の打ち手がわからないという課題がありました。そこで、営業マンが接触する顧客の意見を集めて分析すると、NPS®を下げている要素の中でポイントの大きなものとしてメールのレスポンスが遅いということがわかったので、「即レスキャンペーン」を徹底的に実施しました。その結果、NPS®が年間で6%上がり、顧客単価が平均で1件あたり32%も上がりました。

―eNPS℠の活用例はどんなものがありますか?

eNPS℠の活用では、成功している事例のひとつが、焼肉チェーンの株式会社カルネヴァーレ様です。導入の目的は、飲食業の厳しい職場のイメージを払拭して採用に活用したい、上場に向けて従業員の労働環境を改善したい、というものです。アンケートを行って分析したところ、労働時間、評価、給与が課題であることがわかりました。いずれも経営陣が感じていたことですが、従業員の声として裏付けができたことで、思い切って改善の施策を打っていくことができました。具体的には、全体ミーティングの結果を共有する、業務の都合で休暇を取れない場合は休暇を会社が買い取る、コミュニケーションを行いやすくする、ビジネスチャットツールを導入するなどです。eNPS℠の効果はロングスパンで見ていくものですが、経営側からは社内がオープンになった、従業員側から仕事がやりやすくなったという声があがり、今会社のあり方がトップダウンから徐々にボトムアップに変わっていっています。

―NPS®とeNPS℠をセットで導入し、経営の成果を上げた事例もあるでしょうか?

詳しくは言えませんが、準大手の携帯の販売会社のケースでは、eNPS℠の活用で離職率が年間数%下がっています。一方、NPS®について言えば、携帯販売ショップでは売り上げ系の指標を携帯の付帯商品で見ていくのですが、窓口で接客する人がエンゲージメント高く働き、お客様のニーズを汲み取った接客ができているのかをNPS®で見ていったところ、付帯商品の受注率が年間で数%向上していっています。このように連結してマネジメントしていくと、経営の成果が目に見えて改善していきます。他にも事例は、いくつもありますが本を出版しましたので、そちらを是非参考にしてください。

―最後に、今後の事業の展開や目標についてお聞かせください。

前述のように、NPS®と eNPS℠、つまりCXとEXは両輪であり、片方で捉えている限り本当の経営課題に行き着くことができません。2つを一気通貫し、マネジメントのツールとして定着させていくことを目指しています。
 
また、これまでに蓄積したデータを二次使用し、新しいビジネスを立ち上げることを構想しています。例えばですが、顧客が企業を評価するNPS®は企業の競争力や商品・サービス自体の優劣を現し、従業員が会社を評価するeNPS℠は企業の健全性を現わします。これらを企業活動の信頼・信用を現すデータとして、金融機関が中小企業に融資する際に活用してもらうビジネスを育てていきたいです。
 
何と言っても指標がシンプルで、可視化できるため、応用の範囲も広く、最終的に会社の業績向上と従業員の幸せを同時に実現する、わかりやすい経営の軸となれるよう当社のソリューションを提唱していきたいと思います。

―ありがとうございました。

<プロフィール>
 
今西 良光(いまにし よしみつ)

1982年10月、東京都生まれ。大学卒業後、日立製作所に入社。官公庁向けITソリューションやシステムコンサルティングサービスの提案営業を行う。2010年にファーストリテイリングに転職し、「ユニクロ」の店舗マネージメント業務に従事。2013年3月、株式会社Emotion Techを設立。顧客や従業員の声を起点とした経営課題の解決を行うサービス「Emotion Tech」「Employee Tech」を提供する。
 
著書
実践的カスタマー・エクスペリエンス・マネジメント
https://www.nikkeibp.co.jp/atclpubmkt/book/19/271140/
 
会社概要
社名  :株式会社Emotion Tech (エモーションテック)
所在地 :東京都千代田区平河町2-5-3 Nagatacho GRID 4F
資本金 :6億226万円(資本準備金含む)
事業概要: カスタマー・エクスペリエンス解析クラウド「Emotion Tech」及び従業員エンゲージメント解析クラウド「Employee Tech」の開発・運営

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