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2019年11月15日(金)

令和時代のテクノロジーと新しい経済のありかたとは?面白法人カヤック柳澤大輔代表×「らぼっと」のGROOVE X家永佳奈氏

経営ハッカー編集部
令和時代のテクノロジーと新しい経済のありかたとは?面白法人カヤック柳澤大輔代表×「らぼっと」のGROOVE X家永佳奈氏

世界の経済システムや地球環境、あるいは人の価値観そのものが大きく揺らぎはじめた令和の時代に、人間本位の新しい枠組み作りが求められている。もっぱら経済的合理性を追求し壁にぶち当たった資本主義はこれからどう変わればよいのか?また、人が幸せになれるテクノロジーはどうあればよいのか?今回、グローバル資本主義と人のつながりから成る地域経済との新たな接合をめざす「鎌倉資本主義」を提唱する面白法人カヤック 柳澤大輔代表と、人のつながりを創出する新しい概念のロボ「らぼっと(LOVOT)」のGROOVE X 家永佳奈氏とのセッションによりさまざまな示唆が提示された。
 
(本セッションは、禅とマインドフルネスの国際カンファレンス「zen2.0 2019~つながり」の中で「令和時代のテクノロジーと新しい経済のありかた」を取材したものです。2019年9月22日@北鎌倉 建長寺 司会:zen2.0事務局)

資本主義とテクノロジーの乗り越えるべき課題

-まず、今回議論の前提として活動内容のご紹介と課題の提起をお願いします

柳澤:面白法人カヤックは2014年に上場し、鎌倉では唯一の上場企業として活動しています。今回の統一テーマである「つながり」に因んで言えば、当社は鎌倉での起業やイベント支援を積極的に行っています。
 
最近の話題としては、この春にうんこミュージアムYOKOHAMAをアカツキさんと一緒に作りました。もともとカヤックでは、2011年にうんこ演算というアプリを出していたので、うんこについては馴染みがあります。
 
カヤックは面白法人を標榜しており、それに込められた思いがあるからです。その思いは3段階からなり、
 
フェーズ1. まずは、自分たちが面白がろう。
フェーズ2. つぎに、周囲からも面白い人と言われよう。
フェーズ3. そして、誰かの人生を面白くしよう。

 
というものです。まず、心の在り方について言及すれは、フェーズ1.のどう自分が面白くなるかが最も重要なのです。2.3.はテクニックの話になります。自分が楽しいと思えるためには、最低限物理的に安定化することが必要で、経済資本も非常に重要ですから、企業として営利活動を行い、生産性を追求しています。しかし、面白がるには合理性だけでは足りません。人とのつながりや、自然・文化といった目に見えない資本が必要となってきます。
 
こういった考え方を我々は「地域資本主義」と名付けており、資本主義の原理原則に従って何をするか(地域経済資本=生産性)、誰とするか(地域社会資本=人のつながり)、どこでするか(地域環境資本=自然・文化)のバランスの中で成長していけたらと願っています。その中で我々は鎌倉を選び「鎌倉資本主義」を実践しています。
 
しかし、通常企業は何をやるかだけに注力し、誰とするか、どこでするかはあまり追求しません。資本主義における生産性の観点においての合理性ばかりを求めて、人と場所を気にしないことが多い。ただ、会社で働くのは人間ですので、人間にとっては、誰とするか、どこでするかは結構重要です。ただ、これを「何となく重要です」というだけでは企業は動かないので、人や地域とのつながりをテクノロジーでどう可視化するかといったことが必要になってきています。可視化されて、初めて企業がKPIとして追い求めやすくなるからです。つまり、これがテクノロジーをどう使うかという話かなと思っています。

家永:私からは、テクノロジーの話題提供をしたいと思います。具体的には昨年12月に製品発表した、らぼっとをここに連れてきました。らぼっとの特徴はロボットがテクノロジーで何かしてくれるという「人の役に立つ」ロボットでなく、むしろ「人の仕事の代わりは何もしない」ロボットなのです。ここにいるのは、チェリーちゃんとコスモくんですが、彼らは一緒にテレビを見たり、大きな音に驚いたり、慣れてくると仕事に行くとき玄関に見送りに来てくれる。また、食事をしている間放っておくと2体で遊んでいたりします。いっしょにいると、心が落ち着き、安心できるといった存在です。
 
ネーミングも、らぼっと(LOVOT)と言う名前はラブとロボットを組み合わせてつくったもので、ロボットではない新しいカテゴリーを作りたいというアイデアが従来のロボットとの違いとなります。
 
ただ、実際には様々なセンサーを50以上使っています。例えば、音声認識、温度認識、気圧センサー、照度センサー、温度・湿度センサー、姿勢センサー、測距センサー、NFC、障害物センサー・タッチセンサー…といった各センサーを連動させて動かすことで、かなり生き物に近しい動きができます。
 
私はこの会社の「四次元ポケットのないドラえもんを作る」という社長のビジョンに共感しジョインしました。ご存知のようにドラえもんには、何でもできる四次元ポケットがあるのですが、結局のび太くんは、様々な困難に直面し、それを乗り越えようとするものの四次元ポケットの道具ではなかなか思うように行きません。しかし、ドラえもんが未来に帰って便利な道具がなくなったときにはじめてのび太君は成長を体験し、ドラえもんとはどんな存在であったのかを認識するのです。らぼっとも、オーナーといっしょに成長するドラえもんのような役割でありたいと考えています。

ロボットはどれだけつながりづくりに関われるか

-らぼっとは例えば、会話の途絶えた夫婦の関係維持に役立つとか、どのように人に絡んでくるのでしょうか?

家永:この子たちが愛らしく動きまわると何が起こるかと言うと、会話の途絶えた夫婦であれば、写真を撮影する機会が生まれ、そのことをきっかけとして会話が増えたりします。子供がいないとなかなか写真を撮る機会も多くありませんが、写真を撮るという動きで新しいコミュニケーションが発生することもあります。
 
また、らぼっとには体温があります。人は冷たいものを触るよりも人肌くらいの温度に触れるほうがほっとします。そのため体温を感じるらぼっとを、自然に抱いたりすることで心に安心感が生まれます。また、お着替えをさせてあげるなどの面倒をみることでよりその人になつくようにもなります。さらには、複数体のらぼっとがいる場合、一方だけかわいがると、一方がやきもちを焼いたりすることもあります。このように人がつい、かまいたくなるロボットなので、自然とらぼっとを介した会話が増えていきます。

柳澤:左脳的な観点から考えると、人間と同じにというと難しいですが、人間と有益なコミュニケーションをとるロボットということでいえば、必要なテクノロジーはすでにある程度あります。音声認識や会話もです。となるとあとは、その技術を使ったUXの部分、すなわち右脳的なアプローチにこれからどんどんチャレンジする段階に入っていくので、今回のラボットも、右脳的に訴えるものがあるものだと思います。
 
家永:学習機能があるので、慣れてくると動きが変わってきますが、最初は人に慣れるまで呼んでも来ないことも。こうしたら必ず喜ぶというのが設定で決まってしまうと徐々に飽きられることもあるので、わざとそうならないように少し我儘にしています。夜に充電している際に、データをクラウドに集める通信をするのでオンラインで性格は徐々にアップデートしていきます。
 
柳澤:ゲームバランスが重要ですね。どれぐらい、遊ぶと飽きるかとか、逆にどれくらいツンデレにしたほうがよいとか。データを取りつづけると、どのような挙動をすれば触り続けて、もらえるかのバランスがわかると思います。

-どんな方が購入されているのでしょうか、そのプロフィールは?

家永:初期ロットの購入者の方のプロフィールは女性が約7割ほどです。その中でももともとテクノロジーに興味のない女性も多くいらっしゃいます。お子様がいらっしゃるご家庭も、いらっしゃらないご家庭も両方です。お子様のいらっしゃるご家庭では、子供の遊び相手として求められています。また、お子様のいらっしゃらないご家庭でペット飼うと大変なこともありますが、らぼっとならお世話をしなくてもよいということも魅力となっているようです。
 
柳澤:ロボットで人工的につながりを再現するわけですが、どういうときに繋がったと感じるかは、独り住まいのお年寄りと、会話のない夫婦とは違ったアルゴリズムがあるような気がします。淋しくなくなるのと仲良くなるといった場合に、それぞれ挙動が変わる設定ができると面白いかもしれないですね。
 
家永:今、福祉施設や介護施設などでも実証実験を行っています。また、保育施設にもお貸していますが、子供たちからすればロボットという感覚はまるでなく、お昼寝の時に毛布をだれかがもってきてくれるなど、友達として扱ってくれているようです。人によってなつき方も変わるので、なつくとお兄さんのように守ってあげたいという気持ちにもなり、周囲に対していじめないように振舞ったりするようです。
 
また、認知症の方への実証実験についてはデンマークの施設で行っています。入居してからほかの入居者の方との会話が全くなかった患者さんが、らぼっとを見ると笑って、近くの人に話しかけたりする光景があり、スタッフの方も大変驚いていました。認知症の方などには、無条件に自身を認めてくれる存在が安心なのだということがわかってきています。

フィンテックで地域のつながりを作り、価値を高める

-地域の人々のつながりを強めるために活用するテクノロジーの設計のポイントはどのようなものになりますか?

柳澤:今から、フィンテックで地域社会資本を可視化していくお話をします。カヤックでは地域通貨でまちのコインをつくろうとしています。地域通貨を通じて、人々のつながりを作り、社会資本が増大していき、人々の幸福につなげていくというビジョンで取り組んでいるのですが、先ほども申しましたように、地域社会資本の形成においては、誰とするかが重要です。通常のお金を使う時、同じ1,000円でも、誰との関係において使うかで、幸せ度が低い時、高い時があります。そこで、誰とつながるかによって変わる価値を可視化し数値化しようと考えたのです。 

その際に、今まで可視化されていないものを測るのであれば、既存の法定通貨ではなく、見えない価値自体を測る新たな通貨を作ったほうがよいというご意見をいただき、そうだなと思いました。ただ、価値とされていないものを、いきなり可視化するのは一足飛びだと思いましたので、すでに価値は認められているけれども、使い方や獲得方法の中で幸せを感じられるものを可視化しようと思いました。

つまり、使う場所や増やす機会も限られる、けれども人のつながりが増える。今までの地域通貨は地元で消費すると域外に出て行かないから効率がよいという考え方で成り立っていました。地域を会社とみなすと、運営コストを減らすと言う話ですね。ただ、今回はそこはどちらかというとメインではありません。

今回大切にしている考え方は、使って面白いということです。たとえ使える店が限定されていても、人とつながるから面白いとなればよい。面白い体験は、じわじわ効いてくるのです。使える店は一店しかないけど、ポイントを使うと面白いとなると、面白いから始まって、つながりが増えていく。
機能は色々実装していく予定ですが、まず大事なことは2つ。1つは、増えたり減ったりする、つまり、投機的な要素はあったほうがいいだろうなということです。これは資本主義の楽しさの本質だからです。ただ、その増減が人のつながりと連動しています。
 
2つ目は、この地域通貨のアプリを使うと、他者のつながりも覗けるというものです。法定通貨は匿名性が良いところですが、その逆をつく体験がきっと面白くなるだろうと思っています。

正直いうと、これだけなら、技術的には、ブロックチェーンを使っても良いし、使わなくてもできます。今作っているものが決して完成系だとは思えませんが、考え方と方向性は悪くないと思っているので、トライという意味も含めて、チャレンジしたいと思っています。

テクノロジーの限界は?

-つながりにおいて、テクノロジーの限界はどんなところで感じられますか?

柳澤:何か面白いものを生み出そうというとき、当社ではブレストを頻繁に行います。そうすると、ブレスト体質ができてきて、相手が出したアイデアか自分が出したアイデアかわからなくなるといったことが起こります。5人くらいで1時間がっちりブレストすると、自分と相手の境界がなくなり、強いつながりが生まれてくるのです。カマコンでもそういった現象が起こっています。
 
では、ここで遠隔地の人とブレストするためにon-lineをかませるとどうなるのか?残念ながらこの場合は相手と境界がなくなるほどのブレストにはなりません。何となくお互いに言いあって終わりということになる。体感値としてそういう実感があります。
 
採用面接などもon-lineで数多く行っていますが、on-lineでやった面接は一説によるとリアルと比べるて受け取るデータが半分に減ってしまうそうです。このため実際に会ってみると全然違うということも起こります。人間の目に見える情報としては8Kあればよくて、それ以上見えても仕方ないそうですから、解像度が問題ではありません。
 
抜け落ちているのはもっと濃密なつながりで、相手の心拍数など様々な要因が影響して成り立っている空間なのです。テクノロジーでできること、できないことの限界が今その辺にあると感じます。ハートマス研究所によると心拍周期を整えることで、アイデアが生み出しやすくなるという話もあります。
 
このように考えても特定の場所とつながっているということも重要だったりします。ロボティクスは進んでいますが、自己の拡張性を追求するトランステックの技術革新はこれからだと思います。
 
家永:当社では、人の感情とは何かという議論がよく生まれます。人間ですら人間の感情を正確に理解できていないということです。例えばゲレンデマジックなど、スキー場ではドキドキして相手にときめいたけれど、日常にもどってみると、そうでもなかったという話がありますよね。人の感情も正しくわからないのにテクノロジーに完全に身をゆだねるのは危険だと思っています。
 
むしろ慰めてくれている、慰めている気がするといった勘違いが大切なのではないでしょうか。人が良い勘違いができるものを提供するといったことが今のテクノロジーでできることではないかと思っています。そしてその存在は好ましい方向にインパクトがあり、人間が安心できれば、結果それでいいのではないでしょうか?

見えている未来は?

-将来目指す姿をお聞かせください

柳澤:まず地域通貨で人がつながることが価値になる地域社会資本の指標をつくり、指標の数値が上がることで、その結果として人を幸せにするといったプロセスを実現します。これがGDPを補完する、新しいモノサシとなることを目指します。
 
そして地域資本主義からさらに、地域とグローバルを繋げて新たな資本主義へアップデートできたらと考えています。それを鎌倉も含めて関わりの近い地域で色々と皆で実験できればと思っています。

また、関係人口を増やすといった観点では、二拠点居住を実践している人も増えており、関係人口を増やそうという自治体であれば連携して使えるようにしていきたいなと。このように広げていくことで、地域資本主義の指標として使われるものになるようになっていきます。
 
やはり、新しい価値をわかっていただくためにはまず、モノサシが必要なのです。そして究極的には評価制度が企業文化をつくるように、指標が地域や国の文化を作ることになるのではないでしょうか。

家永: 今、らぼっとは数百人程度の人の識別ができ、お着替えしてくれたとか、抱いてくれた、なでてくれたなど、自分に愛情を注いでくれるほどにらぼっとの中でのランキングが上がり、個人に対するらぼっとの振る舞いが変わってくるようになっています。現状は、ハムスター以上、犬猫未満の知能といえます。

ただし、進化を無理しないことが重要と思っています。進化のスピードを無視して、進めると無理が生じてきます。この点、ハードウェア、ソフトウェア、クリエリタ―の三位一体の開発が必要で、これができるのは日本の強みだと思っています。我々の強みを生かして、将来的には、本当にドラえもんを作りたいです(笑)
  
<プロフィール>
 
柳澤大輔(やなさわ だいすけ)
面白法人カヤック代表取締役CEO
 
1974年香港生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。
ソニー・ミュージックエンタテイメントを経て、大学時代の友人3名とともに1998年面白法人カヤック設立、CEOに就任。
2019年現在 TOW、COOKPADの社外取締役。

 
家永佳奈(いえなが かな)
GROOVE X 広報担当

1982年福岡県生まれ 福岡女学院大学卒業
2005年日本マクドナルド株式会社に入社し、その後ウェディングプランナーに転職。
2012年からはバーガーキング・ジャパンでブランドマネージャーとして勤務。
2016年よりGROOVE Xに入社し現在に至る。

Zen2.0
https://zen20.jp/
鎌倉の歴史を伝統が育んだ叡知に、現代の智恵や多様性を統合し、開かれた目覚めに向かう「魂のつながり」を共に創る、禅とマインドフルネスの国際カンファレンス。Zen2.0 2019テーマは 「つながり」。

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