戦略は名刺に宿る!? Sansanを活用した、BtoBマーケティングに必須のABMとは
「それさぁ、早く言ってよ〜」のCMは何度見ても共感と笑いを誘う。このクラウド名刺管理サービス「Sansan」は82%という圧倒的なシェアを有するサービスなのだが、CMのインパクトに隠れて見過ごされている本質的な機能がある。
実は名刺は単なる顧客アプローチのきっかけに過ぎず、BtoBマーケティングの効果を高めるアカウントベースドマーケティング(ABM)こそがより重要なのだ。アカウントベースドマーケティングとは米国発祥の概念であり、法人マーケティングの一手法であるのだが近年改めて注目度が高まっている。このABMを具現化するのが、クラウド名刺管理サービスSansanをハブとして、インサイドセールスやフィールドセールスのERPなどの外部システムとの組み合わせで効果を発揮する仕組みだ。これにより法人アカウントに紐づくマーケティング情報の収集が生きてくる。BtoBマーケティングの効果を高める真のABMとは何か?今回Sansan株式会社Sansan事業部マーケティング部の福永和洋氏と柳生大智氏に話を聞いた。
アカウントベースドマーケティング(ABM)とは
-BtoBマーケティングというと、比較的新しい概念かと思いますが、まず日本のBtoBマーケティングが生まれた背景はどういったものでしょうか?
福永:そもそも1990年代、日本国内の製造業等では「マーケティング」という概念は希薄で「営業」が起点に各社にアプローチして売上を作っていることがほとんどであったと思われます。そのような中、1990年代後半にデルコンピューターが日本に進出、SMBとエンタープラインズを中心にPCのオンライン販売を始めたことが、BtoBマーケティングが日本に持ち込まれたきっかけとなったのではと個人的に思っております。以来日本国内でも、外資に影響されてSONYや富士通等がBtoBマーケティングに積極的に取り組んできているのではと考えております。
-今のBtoBマーケティングではセールス部隊とコールセンターといったもの、さらにSEOやオウンドメディア、イベントなどの、チャネルの多様化により、インサイドセールスが必要となっており、リアル営業との統合的な推進が必要となっているのが、昨今のBtoBマーケティングではないでしょうか?
福永:ご指摘のようにマーケティング、プロモーション、インサイドセールスによるリードの獲得、リードへのアプローチと関係構築。フィールドセールによるクロージング、サービスを利用いただく企業のカスタマーサクセスの取り組み強化、といったビジネスの各フェーズで生産性を向上させるために、BtoBマーケティングが重要となり、顧客の属性等をより統合的に把握するABMが必要となってきたわけなのです。今までは理論が先行していましたが、当社のクラウドテクノロジーにより一部ではありますが理論を実践可能なものにしました。
また、外部環境ではIT投資に対する企業への各種助成金が設定され、国の政策的にもIT化の促進がなされるようになると企業側も営業の効率化・先進化への機運が高まりました。併せてネット環境の整備により、見込み客へリーチする手段が新聞、雑誌、ラジオ、テレビの4マス媒体だけでなく、ネットを活用し、法人企業にリーチできるようになったこともBtoBマーケティングが発展する背景になっていると考えられます。
-そういったBtoBマーケティングの中から出てきたABMとはそもそもどのようなものでしょうか?
福永:概念としては米国では1990年代から言及されており、国内でも徐々にBtoBの業界に浸透してきました。BtoBマーケティングの第一人者として知られる庭山一郎氏が著した『究極のBtoBマーケティングABM』(日経BP社、2016年)では、ABMとは「法人単位で重要顧客をターゲットし、ターゲットごとに個別化したメッセージに基づいて、コミュニケーションを図るマーケティング手法」であり「社内情報と社外情報を統合したデータ分析により、契約確度が高いと合理的に推測されるターゲットを決める」ことと指摘されています。
柳生:また、BtoBでは獲得したリードにやみくもにアプローチするだけでは非効率です。それではクライアントの決裁ラインを捉えたコミュニケーションをすることができないからです。目の前のリードだけではなく、企業の中の決裁権のある方や、キーマンにきちんとアプローチしなければなりません。このように、BtoBではBtoCとはやり方を変える必要があることが大前提ですし、自社にとって優先すべきターゲット企業を策定して戦略的にマーケティングしていくことが必要になります。
アカウントベースドマーケティング(ABM)の実践
-ABMはどのように進めるのでしょうか?
柳生:まずは戦略を立てることから始まるのですが、この戦略を立てるためのステップは大きく分けて、2段階に分かれます。
まず、第一段階としてデータをとにかく企業単位に集約する段階です。これには内部情報、外部情報の双方が必要です。内部情報と呼んでいるのは、例えば自社の活動により得た情報で収集された名刺情報、問合せ履歴情報、これまでの営業の商談記録データや契約データなどです。法人は意思決定に関わる人物が多い、組織変更がある、部門部署により担当者が変わる等、情報は多岐にわたるとともに変更も多いです。このような状況下で人の情報を収取・蓄積・分析し適切な決裁権者にアプローチします。アプローチのステップを可能にする入口が名刺管理です。当社が提供しているサービスですと、「Sansan」をご活用いただけます。次に外部情報ですが、総務省統計局の「日本標準産業分類」による産業分類のような統計情報や、帝国データバンク社(TDB)のような調査能力を持った企業による企業の属性データなどのことです。企業の所在地や、従業員数、業種・業態などデータがこれにあたります。これらの内部情報と外部情報をすべて企業単位に集計する処理をおこないます。
つぎに第二段階として企業毎の情報を集約分析します。第一段階で集約したデータを分析することで、例えば自社の顧客がどのようなエリア、業界、従業員規模に属しているかの顧客分布等が分かり、まず優先してアプローチすべき企業の属性を選定することができます。
-ABMの観点からSansanについて改めて教えてください。
柳生:当社は「出会いからイノベーションを生み出す」という事業ビジョンのもと、前述のように法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」、 個人向け名刺アプリ「Eight」等のサービスを提供しています。 Sansanではスキャナやスマホで名刺をスキャンするだけで、名刺の情報を99.9パーセントの精度でデータ化が可能となり、データ化された名刺データベースは、PCやスマートフォンからすばやくアクセスが可能。検索機能や、相手先への電話・メール機能によりビジネスパーソンの生産性を大幅に向上させることができます。キーマンへのパスや、人事異動情報をいち早くキャッチアップ、名刺交換に基づいた接点情報を共有することで、新たなビジネス機会を創出。あらゆるコミュニケーションの基点としてのプラットフォームとして活用いただいています。
さらに正確にデータ化された名刺情報は、全社の営業活動や顧客管理に活用可能であり、APIを利用した外部サービス(Salesforce、zapier、Marketo、Kintone等)と連携することにより高度なマーケティングが実現可能になります。また社内にあるさまざまなデータベースと「Sansan」を連携させることで、データの整理・統合(名寄せ)が可能で、既存のデータベースへ還元することで元のデータをアップデートもできて、社内横断のデータ・プラットフォームとして機能します。
具体的には、「名刺管理が個人まかせになっている」「リスト作成に時間がかかる」「展示会やイベントで交換した名刺を活かせていない」「人脈が可視化できない」「社内の顧客情報が一元管理できていない」「顧客情報が蓄積されていない」「営業スタイルが個人任せになっている」「CRM/SFAがうまく運営されていない」「営業プロセスがブラックボックス化している」「部署間の連携がとれていない」といった各企業の幅広い課題を解決しています。
-御社自身も、ABMで成果をあげられているのでしょうか?
柳生:当社もこの機能を活用しABMを展開しています。一端をご紹介しますと、我々はターゲット企業を社員数によって7分類しています。社員数によって受注までのリードタイムや、対応いただくご担当者が変わる等の特性があり、分類ごとの特性にあわせて戦略を作成しています。このマーケティング戦略ですが、BtoB企業では事業規模の拡大に伴い、共通の課題に直面することがあります。例えば共通する課題は営業の効率化です。事業規模の拡大により、自社の営業マンも増加、またターゲット企業も増加します。ターゲット企業の規模、業種に応じ効率化、細分化、どの企業を優先するのか、優秀な営業マンをどう貼り付けるかを判断することが重要な課題になります。当社では近年、エンタープライズ領域の注力度を上げていますが、属性にあわせた戦略により、エンタープライズ企業のリード(見込み客)、従業員1,000-3,000人の法人で約2倍、3,000人以上の法人で約3倍の獲得数となり大幅増となっています(2016年.4時点と2019年4月時点比)。
-導入企業ではどのように活用されているのでしょうか?
柳生:現段階で6,000件の導入先があり多くの企業に活用いただいています。ちなみエンタープライズは社員数1,000人以上を目安としております。
福永:導入企業の例ですが、例えば200~1,000人くらいの組織では事業成長するなかで顧客データの管理が課題になってきます。このような組織では各種データが部署部門ごとに点在しています。(経理的企業情報、営業的企業情報、契約的企業情報等々)、このように情報が散在しており一気通貫で把握することができていません。そこで当社のSansanサービスを導入いただくことにより、データ管理を名刺情報の収集から始め、企業情報の整理、アプローチ、セールスステップの管理を行い、成約率をあげる成果を出していただいております。
柳生:BtoB企業のマーケティングの段階ですが、以下の三段階に分けることができると考えられます。
第一段階として、起業して日が浅い段階での営業展開は知人やかつての勤務先の人脈などを活用することが中心です。この段階でまず必要になるのが、名刺情報はじめデータの共有化と管理です。
第二段階として営業マンが数十人規模レベルに規模の拡大が進むと、展示会への出展や、WEBサイトの開設などの施策が実施され顧客数も増大します。この段階で必要な機能が、獲得したリードの情報を一元管理しクロージングに向けてマーケティングを自動化するマーケティングオートメーションなのです。
第三段階は、これまでのステップを経て成長してきた段階で、顧客数も増えていますが、SMBが大半で、大手企業との接点ができていても、大手企業への商材の販売には至っていない状態です。この段階がABMを始める段階と言えます。
-全体の流れはわかりました。内部情報、外部情報の連携を図り情報を一元的に管理するうえで心臓部となるABMのデータベースの設計はどうなっているのでしょうか?
福永:Sansanでは、絶え間ない機能向上を実施しており、例えば名刺情報のデータ入力や社内人脈をビジュアライズすることなどにおいてはAIを活用しています。またこのたび、ABMの推進を促進する「顧客データHub」という機能を実装しています。
「顧客データHub」とはあらゆるデータに、「会社情報」を付与するしくみであり、人物データや商談データ、契約データが、どの会社に紐づくデータなのかを瞬時に判断できるものとなっています。
特長は次の3点となります。まず、企業ごとに多様になっている部署名、役職等の表記の揺れをなくする正規化です。これによりデータベースの顧客情報もよりわかりやすく管理できるようになります。
次にSFAやMAなどの異なるシステム間を連携するデータ統合です。これにより外部システムと連携した顧客データを半自動的に統合し続けることができます。
そして、登記情報、法人番号、帝国データバンクの情報を付与して企業に関する情報を豊富にするだけでなく、その企業の役職ランクや部署分類など人に関する情報も付与するリッチ化です。これにより企業の顧客情報をさらに充実させることができます。
「顧客データHub」の役割としてはこのようにシステムをつなぎ合わせて使うことにより、システム内に自動的にABMデータベースが構築されることと、CSVファイルで出入力・データを簡単に企業単位で統合できることにより外部のツールで分析可能になることがあげられます。これにより当社においても取引先に紐付く人物レコードは78%と3.2倍になりました。また取引先に登録された法人レコードも約3.3倍になりました。
-仕組みはよくわかりましたが、実際にSansanの「顧客データHub」を活用し成果を上げている導入事例を紹介ください
福永:「顧客データHub」を実装したSansanはABMを展開するツールとしてご利用いただき始めています。例えばリースファイナンスを起点に多様な事業を展開する三菱UFJリース株式会社様は、SFA(営業支援ツール)の更新を機に、Sansanを全社導入いただきました。同社では、顧客情報の管理に手間と時間がかかっておりSFAのデータ品質も低く、検索性も悪かった等の課題がありました。例えば、営業担当者が顧客との面談履歴をSFAの日報に記入する際に、担当者名が抜けるなど正確に情報が入力されていないなど、不完全な登録が起こりがちで、データの精度が下がるということがありました。
これに対し、SFAの「顧客データHub」を実装したSansanにより、全社的に名刺管理に関する作業が効率化され、スキャンするだけで、営業担当者が面談した方の部署名と名前などが正確にデータ化され、それをSFAのデータとして利用できるようになったことでSFAのデータ品質も向上しました。営業担当者が代わっても社内の引き継ぎの作業が短期間で済ますことができるようになったり、客先で以前の担当者がどのような話をしていたが把握しやすくなったりするなど営業の効率と質の向上につなげていっていたただいています。
本社全体と一部のグループ会社を含めた2,000名弱でSansanを利用していただき、登録された名刺の枚数は、既に数十万枚を超えています。営業部署以外でも人事異動に合わせて行っていたあいさつ状の送付やメールの送信などにかかる情報検索の手間と時間が大変少なくなったということもあり、全社的に名刺管理業務の効率化と顧客管理の一括管理が実現するという成果をあげていただいております。
現状、企業は利益があがっているのであれば、自部署の情報管理の効率化の問題意識はあるにせよ、部署間の情報をつなぎ合わせる改革をするまでの意思決定はなかなない下せない現状があるとは想定されます。しかし部署間をつなぎ合わせて、データ―を精緻化しようという企業は増大していくでしょう。当社はABMの啓発を進め、このようなABMを推進する企業に対してABMの情報共有プラットフォームを提供して行きたいと考えます。
アカウントベースドマーケティング(ABM)はどこまで進化するか
-出会いのイノベーションという観点からすると、「顧客データHub」の進化形はどうなるのでしょうか?
柳生:前述のように法人単位でデータがまとまるとABM戦略の中で戦略立案がしやすくなります。
当社ではそれをさらに深化させ、AIを活用した、ターゲット企業の予測を行っています。
例えばターゲット企業選定では、データを機械学習ツール(Data Robot)に取り込みモデルを生成、予測モデルを作りターゲットを選定することができます。下記の図表は当社保有の企業に関する内部情報、外部情報をもとにターゲット企業を選定しる際の予測データになります。
この予測モデルでは、当社が情報を持つすべての企業を分析しプロットした際に、どの企業のから優先的にアプローチすれば成約の可能性が高いかという相関性を示唆することができるものとなっています。つまり、具体的にどの企業からアプローチすべきかという戦略立案に役立てることができるのです。この機能をさらに進化させ、今後、挑戦を考えているのは、データソースとして「決算情報」「統廃合情報」「企業単位のアクセスログ」の企業データの拡充し、それに基づいた「企業スコアリング」に取り組むことです。これらの情報により攻めるべきターゲット先や攻めるべきタイミングをタイムリーに知ることができる世界を実現したいと考えています。
まず我々がプロダクトのモデルを開発し、使ってみて成果が出ると、実装していくという取り組みをしています。
-よくわかりました。ありがとうございます。
<プロフィール>
福永和洋(ふくなが かずひろ)
Sansan株式会社 Sansan事業部 マーケティング部 副部長 戦略企画グループ・マネジャー 。2001年マーケティング支援の会社からキャリアをスタート。 トランスコスモスでログ解析や自然言語分析等のデータ分析担当を経てB to Cのマーケティングに従事。その後、リクルートエージェントやキャリアデザインセンター、ゴルフダイジェスト・オンラインでのプロモーションやCRM、メディア事業の責任者を経て、2019年2月にSansan株式会社へ入社。 現在は法人向け名刺管理サービス「Sansan」のマーケティングに従事している。
柳生 大智(やぎゅう だいち)
Sansan事業部 マーケティング部 戦略企画グループ 2016年に新卒でSansan株式会社へ入社。インサイドセールスとして市場開拓に従事したのち、マーケティング部に異動。Web広告のインハウス運用担当、MAツールやSFAの構築・運用担当を経て、現在はSansan事業の戦略立案業務に従事している。
Sansan株式会社
https://jp.sansan.com/
所在地:〒150-0001 東京都渋谷区神宮前5-52-2 青山オーバルビル 13F
設立:2007年6月11日
資本金:62億34百万円(2019年7月17日現在)
代表者:寺田 親弘(代表取締役社長)
事業内容:クラウド名刺管理サービスの企画・開発・販売