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2020年01月16日(木)

100人の経営者を育てるLIFULL グループの新規事業提案制度「SWITCH」でイントレプレナーとして起業、LIFULL SPACE奥村代表に聞く

経営ハッカー編集部
100人の経営者を育てるLIFULL グループの新規事業提案制度「SWITCH」でイントレプレナーとして起業、LIFULL SPACE奥村代表に聞く

「2025年までに100社の会社を立ち上げ100人の経営者を育てる」を掲げるLIFULLグループは、利他主義に則り、事業で得た利益を、全てのステークホルダーに配分する「公益志本主義」を実践している。同グループが運営する新規事業提案制度「SWTICH」は公益志本主義のさらなる浸透に向け、社会的課題の解決を行うイントレプレナーを輩出する仕組みとして運用を始めたものの一つだ。毎年100件を超える提案があり、四半期毎に次々と新規事業を生み出し続けている。今回、新卒2年目で「SWITCH」優秀賞を獲得し、3年目で新規事業を立ち上げたLIFULL SPACEの奥村周平代表に、今、日本社会に求められているイントレプレナーの在り方と新規事業でイノベーションを生み出すヒントを伺った。

シェアエコノミーの本質は助け合いの文化、サステナブルな社会を創りたい

-はじめにLIFULL SPACE社の事業内容を教えてください。

当社には、大きく分けると3つのサービスがあります。トランクルーム、貸倉庫、レンタルコンテナなどの検索サイト「LIFULLトランクルーム」、会議室やイベントホールなどの検索サイト「LIFULLレンタルスペース」、個人が収納スペースの貸し借りをする「収納シェア」の3つ検索サイトを運営しています。
これらの中でトランクルームの検索サイトとしては業界最大級*1です。物件掲載数、売上、問い合わせ数などでは、日本では圧倒的だと思いますね。(*1日本マーケティングリサーチ機構2018年9月調べ)

-どのようなビジネスモデルなのでしょうか?

マッチングポータルサイトなのでサイト掲載企業から費用をいただきますが、サービスによって課金モデルが変わります。トランクルームはシステム利用料と問い合わせがあったら課金するモデルです。他方レンタルルームと収納シェアは成約課金です。
他社との違いは、トランクルーム検索サービスでは私たちは圧倒的な掲載数があること。国内市場の8~9割の拠点を網羅しています。また、会議室などレンタルスペースの検索サービスは、他社だと小規模から中規模ルームが中心ですが、私たちは中規模から大規模の会場を探す法人・個人様への情報を充実させていることです。

-トランクルーム業界の動向は?

矢野経済研究所の調査では、国内の収納サービス(レンタル収納、コンテナ収納、トランクルーム)の市場規模は、2018年12月末時点で743億円規模、拠点数は約1万1,500カ所です。市場成長率では毎年5~10%程度で市場が拡大しています。このペースであと数年は伸びると思いますので、2025年までには1,000億円を超えてくるのではないかと予測しています。
世界的に見ると、サービス先進国アメリカでは、すでに60年ほどの歴史があり、3~4兆円の市場規模があります。10世帯に1世帯が利用するほど生活に浸透しているのです。日本は狭小住宅が多いので、個人の方は「第二の押入れ」のような使い方ですね。事業者さんは、機材や在庫の保管など、倉庫はいらないけど、ちょっとしたスペースが欲しい、オフィスの近くにあって気軽に取りに行きたい、というニーズです。やがて日本でも浸透することが見込まれます。
その理由は、利用する側の意識の変化として「所有するモノを必ず手元に置いておくのではなく、不急のものは外部に預けたほうがいい」という意識が高まってきていることがありますね。トランクルームの認知度も高まり、収納拠点数も増えてきた上に、そういった意識の変化があって外に預ける人も増えてきているという状況です。

-「シェアエコノミー」の観点からはいかがでしょうか?

先日、未利用ユーザーにアンケートを取ったところ、「トランクルームは利用したいが自宅や会社の近隣にない」、「利用したいけれどすでに埋まっている」、「料金が高い」、といった声が多かったのですが、その問題をどう解決すればいいかというソリューションとして、個人同士収納場所を貸し借りする、「収納シェア」というサービスを始めました。
事業者さんの場合、例えばヘアサロンや飲食店では空きスペースを貸し出すことで再来店効果も期待できますので、既存のビジネスとの接点としても活用されています。
昔の助け合いの文化がビジネスとして活かされるのがシェアリングエコノミーの本質ではないでしょうか。個人同士のやりとりなので様々な不安があるのは承知していますが、信頼で経済が成り立つことがこれからの世界に必要ですし、ユーザーにとっても良いサービスになると思いますので、もっと多くの方に使って頂けるようチャレンジしています。日本でも法整備が始まっていますし、収入を助ける一つのソリューションとして成立すれば、よりサステナブルな世界がつくれるんじゃないかなと思います。

新卒2年目で提案した新規事業でイントレプレナーとして起業

-トランクルームの検索サイトを始めようと思ったキッカケは?

実は私も昔ルームシェアをしていまして、狭い部屋に2人分の荷物があって、邪魔だなぁと思っていたのですね。そんなとき街を歩いていたらトランクルームがあって、これはいくらするのだろう?と思って調べたのがきっかけです。でも現地にあるのにネットで出てこなかった。これはまとめてくれると助かるなぁと思い好奇心で調べてみたら、アメリカでは既に市場が形成されていた。だったらLIFULL HOME’S((LIFULLが運営する不動産・住宅情報サイト)のノウハウを活かしてまとめサイトつくったら私も助かるし、私と同じ悩みを持っている人も助かるなぁと思い、社内の新規事業提案制度「SWITCH」で提案したのがきっかけです。

-もともと社長の個人的な体験から生まれたアイディアなんですね。

新卒2年目の2012年に、「SWITCH」に応募して賞をいただいたので、実際に事業化させてほしいとさらに詳細な事業計画をプレゼンし、承認されました。その後、事業も軌道に乗ったため、子会社化され、今では他の事業も複数立ち上げながら会社を運営しています。

-LIFULLに入社された理由は?

一つは経営理念、ビジョンに共感したからです。
私は韓国の大学に留学中、4年間の学費と渡航費を自分で稼がないといけなかったのです。そのために完全歩合制のアルバイトで訪問販売をしていたことも。自分の生活のためだけに何度も同じ言葉を繰り返す、売り切りの商品を売り続けていたら心が荒んできて、半鬱じゃないですが精神的にとても苦しい体験をしました。

一方で、留学中は韓国の方々に日本語を教えるサークルの会長をやったり、就職斡旋サークルの会長をやったりした経験から、人の役に立つ働き方ができるのが気持ちがいいなぁという気づきが自分の軸になりました。そんなときネクスト(LIFULLの旧社名)にインターンで出会って、代表である井上や他の幹部の理念や、ビジョンの話を聞いて、ここで働きたいと思ったのが一番のポイントですね。

もう一つは、今回話題の新規事業提案制度のような、若いうちから挑戦できる文化、風土があったからです。

新規事業提案制度「SWITCH」で、理念の実現、組織風土の醸成、人材育成を目指す

-新規事業提案制度「SWITCH」とはどのような仕組みなのでしょうか?

「SWITCH」は、従業員なら誰でも応募、プレゼンできるというものです。書類選考、1次面談、最終プレゼンの3段階のプロセスがあります。
 
面談は、LIFULLのCXOや事業部長、子会社の社長などがアクセラレーターを担当し、企画のブラッシュアップなども含めたサポートをしていくものです。さらに、外部からVCや新規事業に詳しい方を招聘してフィードバックいただくこともあります。年間100~150件の応募があり、書類審査を経て、1次面談に30~50%程度が進み、年4~10件程が受賞に至ります。これまでに花の定期便「LIFULL FLOWER」やフードロスに取り組む「CleanSmoothie」、スポーツ動画、遺品整理事業などの事業化やフィジビリティスタディがすでに始まっています。

-LIFULLというとホームズくんの不動産・住宅情報サイト運営のイメージがありますが、様々な事業を立ち上げて挑戦されているんですね。

ネクストから社名変更をするタイミングで、「あらゆるLIFEを、FULLに。」というコーポレートメッセージを掲げ、住まいだけでなく世界中のあらゆるLIFEや暮らし全般を事業領域として捉えなおしました。
 新規事業提案も若手だけでなく、最近はマネージャークラスや役員も新規事業をやるんだ、という意識でプレゼンを行っています。また、これまで「SWITCH」は、社内向けの取り組みでしたが、エントリーの対象者を社内だけでなく、ひろく一般の方からも募る「OPEN SWITCH」という制度を2019年から開始しました。

-事業の立ち上げ後は親会社の出資がなされるんですか?

事業化するには3段階のフェーズがあります。最初は予算だけを付け、フィジビリをスタートします。その後、事業部に昇格し、子会社として新会社を設立します。基本は、やりたいと手を挙げたメンバーが集まって事業を立ち上げながら新会社へと成長していきます。
また、LIFULLでは「キャリア選択制度」があります。本人のキャリア意向を大切にしているので、希望すれば子会社への出向も検討します。また最近では、社内兼業制度「キャリフル」といって、キャリアの可能性を広げるために、他部署や子会社から携わってほしいプロジェクトや業務のオファー、本人も行きたいと希望者がマッチングすれば、業務時間の一定の割合までを自分の部署以外の業務に使っていいという制度をスタートしたところです。

イントレプレナーとして起業するメリットとデメリットは何か

-イントレプレナーとして起業するメリットはどのようにお考えですか?

今世の中では、起業しても出資や支援を受けやすい環境ですが、当時、私は新卒2年目で何もない状態でスタートしたので、サイトの作り方も、マーケティングも、採用もバックオフィスも何も知識がありませんでした。あの時、自分が独力で起業していたら初期のプロダクト作りにおいて、ユーザーに評価いただける高い品質水準のサービスからスタートできずに、品質の低い機能を適当に組み合わせてとりあえずスタートしなければならなかったと思います。
イントレプレナーとして起業できましたので、社内に既にエンジニアもデザイナーもマーケターも・・・いろんなことが相談できるプロフェッショナルが揃っていました。本当に皆さんに助けられて既存のサービスのいいところを寄せ集めながら土台がしっかりとしたサービスを作れたというのが今伸びているポイントの1つだと思いますね。
 もう1つは、採用面です。一般的には本社で一括採用して、希望する人に子会社に来てもらう方が効率は良いと思います。私も本社での採用と子会社の採用ではかなり差を実感しました。数人でやっているベンチャーの子会社に行きたいという人はそう多くないので、口説きに行かないといけないのですね。
 でも、私たちはあえて子会社独自で採用する方針としています。そういう経験を一からやったほうが経営者の育成のためになる。LIFULL代表の井上もしかり、教育に重きをおきたいと思ってグループ経営を行っているので、起業に近しい経験がしやすいんですね。
LIFULLグループでは、このように人財育成の観点から基本設計がされているところが、自身で起業した経験と社内ベンチャーのハイブリッドな環境がイントレプレナーとして起業するメリットだったと思います。

-一般的に社内起業制度は御社のようなサポートは難しい場合が多いのですが、なぜ御社はうまくいっているのでしょうか?

LIFULLグループがうまくいっているのは、挑戦する人を応援しようという風土があるからだと思います。新規事業は資金やリソースを投下してもうまくいかないこともあります。他の会社では、せっかく営業が稼いできたのに新規事業でお金を使って全然もうけてないじゃん、っていう見方をする人もいると思います。ですが、私たちには「人の役に立ちたい」とチャレンジする人を応援する文化があります。ですので、「これを実現したいんです!」と他部署の方に話を聞きに行くと、気持ちよく教えてもらえるという風土があります。そこが重要かなと思いますね。

-理念を実現するための新規事業という考え方が重要なのでしょうか?

そうですね。新規事業をやることは、事業をつくってうまくいくかいかないかも重要ですが、新規事業に携わっていくことで会社の「挑戦を応援する文化」が醸成されていく。積極的にチャレンジしていくんだ、という理念を組織に浸透させるための重要なアクションにもなっています。
私は長い目で見ると、人のためになる事業を育てていくことのできる経営者を育成するというのが重要だと思っていますし、結局はそこが経営に大きな影響を与えるポイントになると思っています。
新規事業は10本やって1本あたれば良いという世界なので、合理的な判断だけで事業をやろうとするとうまくいかないことが多いと思いますね。

-多くの企業では、人財育成的な観点もないと、新規事業は10本に1本あたればいいという考え方にもならず、これをやるから必ず成功させろとなってしまいがちです。

事業は生き物だと思うので、時代も変われば、その都度、自分たちも変わったり、動いたりしていかないと死んでしまいます。従業員が生き生きと働くためには自分たちで理念に沿ったチャレンジをどんどん実行していくしかないわけですし、それによってワークエンゲージメントも高まります。
新しい事業に挑戦する人や企業は多いですが、メディアに取り上げられる人は、実はほんの一握りの人でしかないと思うのです。どんな企業も新しいチャレンジ・投資をするタイミングがあると思いますが、必ず成功させようというプレッシャーや失敗したら出世が…となると、新たなチャレンジが阻害されてしまうと思うので、企業人が活躍する1つの方法として育成の視点や風土・文化・価値観の醸成の観点をもったイントレプレナー制度がもっと促進されてもいいと思っています。

-一方でイントレプレナーが起業するデメリットにはどのような点がありますか?

上場企業の連結子会社になる場合、独立スタートアップではやらない業務が発生するためスピード感では劣るということはありますね。例えば稟議や会議体を通すという面倒なフェーズがあります。それはガバナンスを効かせて挑戦する人を守ることにも繋がるため大事だと思いますが。
 
それから、社内に頼れる存在がいるときに、いろいろな人の意見を聞いた方がいいんじゃないかなと思うこともありますが、それが逆に悪影響を与えることもありますね。起業家は自分で何でも決めていくことが多いですが、かつていろんな人の意見を聞いて多数決のような判断をしてしまったこともありました。本当はもっと孤独で、もみくちゃになりながらも「絶対こうだ!」っていう意志があって突き進むということが必要だと反省することもあります。

-イントレプレナー制度を経営理念や人財育成につらなる仕組みとして運用することが重要であることがよくわかりました。ありがとうございました。

 

<プロフィール>
奥村周平

株式会社LIFULL SPACE代表取締役
韓国の大学を卒業後、2011年にLIFULLに新卒で入社。入社後、トップセールス賞や年間MVP、マネージャー賞など数々の賞を受賞。新卒2年目に新規事業提案制度「SWITCH」で優秀賞を受賞し、3年目に新卒歴代最短で事業責任者に就任する。立ち上げた事業を子会社化する形で、新卒5年目である2015年にLIFULL SPACEの代表取締役に就任。社内新規事業制度「SWITCH」では最多受賞記録を保持し、複数事業を立ち上げてきたシリアルイントレプレナーでもある。LIFULLグループの「SWITCH」社内アクセラレーターも務めるなど、グループ全体の新規事業創出にも貢献している。

株式会社LIFULL SPACE(ライフル スペース)
本社所在地:〒102-0083 東京都千代田区麹町1-6-2
アーバンネット麹町ビル7F
設立年月日:2015年7月1日
サービス :LIFULL トランクルーム
バイクコンテナ・月極駐車場
LIFULL レンタルスペース
「収納シェア」

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