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2020年02月17日(月)

難聴者にも聞こえる魔法のスピーカーメーカー、サウンドファン~山地浩代表に聞くスムーズな経営移行法

経営ハッカー編集部
難聴者にも聞こえる魔法のスピーカーメーカー、サウンドファン~山地浩代表に聞くスムーズな経営移行法

ものづくりスタートアップ企業は、ユニークな技術で新しいプロダクトを創造するが、そこから飛躍的に伸ばすためには、スムーズなマーケティングステージへの移行が必要となる。しかし、発明とマーケティングにはまったく異なったスキルが必要となり、本来1人の人間が兼務することは難しい。そこで、経営者も次世代に交代するのが有効なのだが、なかなかうまくいかないのが実態だ。そんな中、円滑に移行を遂げつつあるのが「ミライスピーカー ®️」を製造・販売する株式会社サウンドファン。新代表の山地氏は、カルチャー・コンビニエンスクラブなどでネットビジネスの新規事業を立ち上げ、数々のネットマーケティングを仕掛けてきた。難聴者も音が聞こえるようになるという魔法のスピーカーを社会に普及させるというミッションを担う山地氏に、今後の展開を聞いた。

スピーカーの常識を覆す「曲面サウンド」方式

ー事業内容をお聞かせください。

世界初の特許技術「曲面サウンド」を用いた「ミライスピーカー ®️」を製造・販売しています。ミライスピーカー®️ の特長は、高齢の方など聞こえにお困りの方でも、言葉が聞き取りやすい音声を出すことができるスピーカーです。個人の方では、ご自宅のテレビに接続して使えば、大きな音量にしなくてもテレビが楽しめます。法人向けには、全国の病院・福祉施設・銀行・空港・駅などの公共施設でのアナウンスや、企業のセミナー・イベントなどでご利用いただいています。ミライスピーカー®️のもう一つの特長として、健聴者にとっても音量を上げなくても、音声が広く遠くに届く利点があります。

ープロダクトはどのように開発されたのですか?

じつは創業者である佐藤の父が老人性難聴だったんです。当時コンサルタントだった佐藤が「名古屋学院大学の増田先生が、高齢者向けに、蓄音機を使い音楽療法をしている」という情報を聞きつけました。蓄音機の音は耳が遠い高齢の方でも聞こえやすいらしく、教授に話を聞きに行ったことが始まりです。
 
その後、ケンウッドでスピーカーを開発していたことがある創業メンバー宮原(現 名誉フェロー)と蓄音機のどこにヒントがあるのか仮説を立てながら、蓄音機の曲面部分にヒントがあるのではないかと見当をつけました。それから試作品の開発とテストを繰り返してきました。当時はオフィスがなかったので、カラオケルームで音出ししながらミーティングをしていたそうです。
 
試作初号機が完成して、佐藤の父に聞かせてみたところ、なんとテレビにつないだスピーカーからの音が聞こえたそうなんです。普段全然聞こえないのに、この初号機から音を出すと聞こえるというのは、どういうことか。きっと誰かの役に立てるに違いないというくらいの、ある面、衝動的な気持ちで、佐藤が起業を思い立ったというのが実際のようです。
 
その後、ケンウッド時代の同僚だったエンジニアの坂本(現 技術フェロー)も合流して、この3人がチームを組み、本格的な製品開発を始めることになりました。坂本は多くの特許を取得した実績があるベテランエンジニアですので、当社には音響に関する高い技術力があるわけです。

 

蓄音機の原理を応用した先端領域の研究成果

(オルゴールの音が遠くまで聞こえる)

ー技術的な特徴を教えてください。

「曲面サウンド」は、「言葉」をハッキリとクリアに伝えるために開発された技術で、聞こえにお困りの方でも聞き取りやすく、さらに、健聴者にも音量を上げなくても広く遠くまで音を届けることができます。一般的なスピーカーは、円すい形の振動板を前後運動させて音波を出しています。一方で、私たちのミライスピーカー®️は平板を弧を描くように湾曲させた振動板から音を発生させており、 耳の遠い高齢の方も言葉が聞き取りやすく、さらに、誰にとっても、近くの方にはうるさくなく、広く遠くまで音声を届け、さらに、雑音下でも、クリアな音声をしっかり届けることができます。
 
この平板を弧を描くように湾曲させた振動板から音が出ることはスピーカー業界では知られていたのですが、難聴者にとっても聞こえやすいというのは考えられていなかったようです。現在、この技術について、国内特許、および海外特許は8カ国(その他主要国審査中)で取得しています。
 
この「曲面サウンド」によって、なぜ難聴者の聞こえが良くなるのかについては、原理解明の研究を続けています。この原理が解明されればノーベル賞ものだという学者さんもいらっしゃるほどでして。現在、私たちはこの先端領域について日本を代表する複数の大学との共同研究で解明を進めています。
 
まだ原理的に解明がされていないのですが、確実に聞こえると多くのお客様に言っていただいている以上は、我々のようなベンチャーが原理解明も含めて先端的に技術開発に取り組むべきだと考えています。

 

難聴者にも音が聞こえる魔法のスピーカーは、高齢化社会に必須の技術

ー多くの自治体などの公共施設、病院、高齢者施設、金融機関、航空会社などにも導入されています。

はい。難聴の方はもちろん、耳が聞こえにくい高齢の方も利用する公共施設でご利用いただくことが多いですね。日本航空さんでは、法人向けのポータブルワイヤレスアンプモデル「ミライスピーカー®️ ・モビィ」を、空港のチェックインカウンターのアナウンス等にお使いいただいています。企業が開催するセミナーや会議用のスピーカーにもご利用いただいています。最近では、寺院さんにもご購入いただくことが多いです。お坊さんも参列者の方はお年寄りが多いので喜んでいただいています。
 
事業スタート時は代理店販売をしていましたので、大企業を中心に法人顧客に販売してきました。高齢者施設での導入事例では、高齢者はイベントに参加しても話す声が聞こえないので参加自体されなくなってしまうことが多いのですが、ミライスピーカー ®️をご利用いただくことで、話が聞こえるので積極的にイベントに参加されるようになっているそうです。耳が聞こえることで行動を促すことができるということをお客様から教えていただきました。

ー効果がはっきりあることをデータで説明できると良いのでは?

先日、早稲田大学で、このスピーカーの音波を可視化することに成功しました。

左の図が私たちのミライスピーカー®️ が出した音波の波形です。右の図が一般的なスピーカーが出した音波の波形です。違いがはっきるとわかると思います。私たちのスピーカーのほうは、広く波が出ていることがわかります。一般的なスピーカーは正面に音が出ていることがわかります。音が向かう方向、つまり指向性の違いですね。
 
もう1つは、位相のずれがあります。一般的なスピーカーのほうは、黄色と青の色をつけた部分の位相にずれがありませんが、ミライスピーカー®️の方は途中に位相のずれがあるんですね。
 
この2つの違いがあることが判明しました。ただ、どういうメカニズムで曲面振動版からこのような音波になるのか、なぜこのような音波の違いが聞こえ方の違いに影響しているのかは今後の研究を待つ必要があります。一歩一歩ですが解明に近づいていると言えると思います。

 

事業承継を機にBtoBからBtoCへのビジネスモデルの発展を目指す

ー山地代表が経営に参画された背景は?

当初は経営コンサルタントのような形で顧問になりました。これまではインターネット関連事業に携わりました。たとえば、2000年頃にCCC(カルチャー・コンビニエンスクラブ)社でネットビジネスの責任者をしていました。当初は苦労しましたが徐々に会員数を増やして、月2,000円のサブスクリプションで数年で100万人程度に会員を増加させました。
 
その後、ツタヤオンライン(EC)事業などネット事業を手がけていました。その前は、スクエアやGAGAで映画やゲームなどエンターテインメント系の仕事に携わっていました。
 
当社は、下町シニアベンチャーとして2017年にマスコミで取り上げていただいていたこともあるくらいで、平均年齢が60歳に近い時代もありました。
 
年齢層が高いためどうしても健康問題が出てきますので、知り合いからの紹介でコンサルタントとして顧問という形で会社のサポートをさせていただいていました。
 
多くの聴覚障害がある方に役に立つ技術で、かつ非常にユニークでしたのですごく面白いなと思いました。同じ製品が他になく値下げ競争になりませんし、オリジナルの技術です。
 

ユニークで世の中の人ためになるという、この2つを兼ね備えた製品を生み出せる企業はなかなかありませんので、やりがいがあるなと思い引き受けることにしました。特許は押さえているので、あとはこれをどうマーケティングするかというステージに来ていますし、自身の強みを発揮できるかなと。

ースムーズに世代交代が進んでいると?

当社は一般的な法人向けの代理店販売のビジネスモデルでしたので、ネット系のマーケティングのノウハウがありませんでした。もともと販売力もブランドもあるわけではありませんので、法人向けの代理店販売型のビジネスモデルは、小さなベンチャー企業が得意とする売り方ではありません。大きな販売力をもっていなくても、ネットで個人向けにアピールできたり、お客様の手元に直接届くようにできる可能性があるんじゃないかと思ったんですね。いい化学反応が起きるんじゃないかという想いはありました。
 

サブスクリプションでBtoC市場に参入

-個人のほうが受け入れやすい?

今までの製品は10万円以上しますので、どうしても法人向けの販売が中心でした。今後はコンシューマー向けのモデルを投入していきます。
 
法人の場合、難聴者やお客様向けのサービスの一環として導入されるため、現場では良いものだと理解いただいても、決裁権限を持つ方が健聴者の場合、あまり重要性が理解されない場合があります。一方で、ご家庭の場合は、難聴者がいらっしゃると通常の音量では聞こえないためテレビの音がものすごく大きくなったりして、家族やご近所との間でトラブルになるケースもあり、深刻な問題になっています。
 
2018年テレビ東京の「ガイアの夜明け」で、小型機を開発していることが放映され、多くの方から「小型機の発売はまだですか?」という問い合わせが入ってきていましたので、この1、2年は、コンシューマー向けの小型機の開発を進めてきました。
 
現在、サブスクリプションサービスでは、月額2,000円程度で提供していますが、小型機については、市場販売価格をできるだけお求めやすくする予定です。

ーWebでの販売戦略は?

これまでは販売単価も10万円を超えていましたし、難聴度の高いユーザーのみをターゲットにしていました。今後は、価格も抑えて、様々な会員組織とも提携して販路を拡大していく方針です。
 
これまでネット上であまりプロモーションはしてきませんでしたが、様々な個人のユーザーさんにご活用いただく機会が増えてくれば、ネットでも話題になってくると思います。

ー個人の方がミライスピーカー ®️を利用できるようになるのはいつ頃なのでしょうか?

2020年春、一般の個人の方でもご利用いただきやすい、小型でデザイン性の高い新製品をリリースする予定です。続いて、2020年秋には、無線でスマホなどに接続できるコードレススピーカーのリリースに向けて開発を進めています。テレビだけでなくbluetoothでスマホやPCにも簡単に接続できるようになります。
 
今後の開発計画は、様々な方向性があります。難聴のご家族をお持ちの方からは、臨場感が欲しいのでステレオにして欲しいという意見もあります。ただ、重度の難聴の方はモノラルのほうが聞こえやすいこともあって現在はモノラルだけなのですが、今後は、軽度の難聴者の方向けにも、音楽も楽しめてテーブルの上にも置けるようなデザイン性の高いモデルも検討しています。

2020年春発売予定のコンパクトモデル(カラーやデザインなどは変更になる可能性があります)

一方で、公共施設での利用も期待されています。ミライスピーカー ®️は、特に音が拡散するうえに距離減衰が少なく、遠くまではっきりと言葉が聞こえるのが特長ですので。特に防災無線や、電車・バスの駅などの交通機関のアナウンスへの期待が大きいため、課題はありますが乗り越えていける可能性がありますので、積極的に研究開発を進めています。東日本大震災でも防災無線が聞こえないことで命を亡くされたり避難が遅れるケースがあり、私たちの技術がお役に立てるのではないかと思います。

ー今後の課題は?

 

今後は家庭でどんどん使われて一定の評価が得られると、法人にも導入いただけるようになると考えています。法人向けの市場への浸透には時間がかかりますので、まずは個人の方から声をあげていただき、法人や自治体さんにも理解を得ていくほうが導入いただきやすいのです。
 
たとえば丸山ワクチンは、世界中で約40万人が使用していますが、がんの治療薬として確固たるエビデンスがあるわけではありません。現時点では、この特許技術はそれに近いかもしれません。原理解明は大学等での研究成果が得られてきていますが、もう少し時間がかかると思います。
 
また、聞こえの課題には国境がありませんので、今後は海外にも展開していきたいと考えています。

-ありがとうございます。新しい戦略に期待しております。


 

<プロフィール>
山地浩(やまじ・ひろし)

株式会社レントラックジャパン取締役、株式会社ツタヤ・ディスカス代表取締役社長、株式会社ツタヤオンライン代表取締役社長などを歴任。2018年10月株式会社サウンドファン代表取締役社長就任。

株式会社サウンドファン
設立:2013年10月、資本金:1億円(資本準備金含む:2億円)
事業内容:音で世界の人を幸せにする!を企業理念として、”安心、安全、快適な”音にかかわる事業で、世の人々に役立つための事業展開を行う。
「言葉」が伝わり、音のバリアフリーを実現する「ミライスピーカー®️ 」の開発、製造、販売、及びサブスクリプションサービスの提供(特許・商標取得済)
・法人向け:各種「ミライスピーカー®️」の販売、「ミライスピーカー®️・モビィ」のレンタル
・個人向け:「ミライスピーカー®️」サブスクリプションサービスの提供(月額定額課金)及び販売

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