2020年03月27日(金)0ブックマーク

日本発の宇宙産業創出に挑戦するSpace BD、宇宙ビジネスのつくり方とは?永崎将利氏に聞く

経営ハッカー編集部
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日本政府は2017年に「宇宙産業ビジョン2030」を発表し、宇宙ベンチャーの育成など民間の参入を促進する計画を発表した。宇宙という未知のビジネスチャンスが眠る人類に残された数少ないフロンティアに挑むSpace BDは、2017年創業のスタートアップでありながらJAXA初の事業化案件を受託するなど、官需で成立してきた日本の宇宙産業において稀有な存在感を発揮している。代表の永崎将利氏は、三井物産を退職して、教育事業に取り組むもジレンマに直面する。しかし「日本を代表する経営者になることこそが君にできる最高の教育だ!」という恩師の言葉に覚醒。世界と戦える宇宙ビジネスの産業化に向け、全く新しい業態の「宇宙における総合商社」を立ちあげた。今回、夢を掻き立てて止まない宇宙ビジネスはどのようにつくられていくのかを永崎氏に聞いた。

目次

    宇宙商社とはどのようなビジネスなのか?

    ―事業概要をお聞かせください。

    Space BDの主な事業は、宇宙をもっとビジネスや研究に手軽に利用していただけるように、「衛星の打上げ」や「宇宙空間での実証実験」を目指すお客様に、宇宙空間にモノを運ぶための最適なプランを提示して、当社のエンジニアが技術調整から打上げ実現、運用支援までを、トータルにサポートするといったものです。

    宇宙利用の新たな可能性を開拓し、あらゆる産業の宇宙をベースにした事業開発をサポートする「プロジェクト組成」や、宇宙利用全般を対象とした日本で初めてのプラットフォームサイト『SPACE for SPACE』の運営、宇宙機器の調達・販売なども行います。

    加えて、宇宙飛行士のトレーニングを応用した、教育事業も展開しています。

    これまで日本の宇宙産業は、JAXAや大学などの研究機関がメインプレーヤーでした。日本には、世界に誇れる宇宙技術がある一方、それを民間がビジネスに活用できるまでには至っておらず、宇宙分野での商業化は国際的に遅れをとっているのが実態です。

    Space BDは2018年にJAXAが初めて民間開放した、国際宇宙ステーション(ISS)からの超小型衛星放出事業の選定事業者でもあります。民需を増やし、宇宙の商業化を加速させていくことに我々は注力しています。

    Space for Spaceでは宇宙機器のカタログを展開している

    大手商社を辞め、教育事業の壁に当たった自分が「日本を代表する経営者になろう」と決意した瞬間

    ―創業の経緯をお聞かせください。

    私はもともと総合商社・三井物産の出身で、2年半ほど人事畑にいましたが、その後の8年強は、鉄鋼部門で貿易や資源開発に携わりました。伝統的な貿易から、海外の鉱山開発などのグローバルスケールの投資事業といった商社の両極の仕事を経験することができました。

    その後、大きなシステムの中で役割を全うするというより、自分で意思決定できる人生を生きたいとの想いから退職しました。 自分の人生に言い訳をしたくない、完全燃焼したい、自分に嘘をつきたくないという想いが湧きだし続け、居ても立っても居られなくなり会社を辞めたのです。

    しかし、プランなく辞めてから1年ほど、人生をかけてやり遂げたいと思う何かを探しに日々人を訪ね歩く生活でしたがなかなか見つからず、無職・無収入でした。とにかく稼がないといけない状況に陥り、2014年にナガサキ・アンド・カンパニーという会社を設立して、新規事業のコンサルティングなどをしながら、小中学生を対象に、チャレンジする生き方、主体的に生きる考え方に触れる機会を提供するような教育事業を始めました。その教育事業を「洋服のAOKI」の青木会長が気に入ってくださり、青木会長が設立された公益財団法人の教育事業の企画・運営を任せていただくことになったという経緯で、次第に教育事業に特化していくことになりました。

    ―教育事業が順調に軌道に乗りはじめた?

    経済的にはうまく回り始めていました。しかしあるとき、事業で関わりのあった中学生から「親から『永崎さんの言うことは真に受けるな』と言われてしまいました。どうしたらいいですか?」と相談をされたんです。「ナガサキ・アンド・カンパニーという無名の会社の永崎さんよりも、三井物産で仕事をしている永崎さんのほうが余程多くの人から尊敬されているはずだし収入もいいはずだから、まず塾に通い、いい大学に入学してむしろ三井物産のような有名企業に就職しなさい」と母親に言われてしまったそうなんですね。

    中学生ですから「僕はどうしたらいいんでしょうか?」と素直に相談に来るわけですよ。自分としてはショックだった。社会の実情と私が発信するメッセージには乖離があったことで、彼を板挟みに追い込んでしまった。この事業を続けても板挟みになる生徒を増やしてしまうだけかもしれない、と強く悩むようになりました。

    ―それでどうされたのですか?

    ちょうど同じ頃、青木会長から食事に呼んでいただいたことがありました。「いまやっている教育事業は重要だし素晴らしいけれども、貴方自身が日本を代表する経営者になる、その挑戦する姿を見せることのほうがもっと貴方が目指す社会へのインパクトがあるんじゃないか?」とおっしゃっていただきました。心から尊敬する青木会長からのお言葉で「日本を代表する経営者になろう。その姿をもって次世代に勇気を与え、挑戦に溢れる社会づくりを目指そう」と決めたのです。

     

    「誰もやっていないのでやってみないか?」と相談された宇宙ビジネスとの出会い

    ―その時点ではどのようなビジネスをするかは決めていなかった?

    そうなんです。まず、日本を代表する経営者になろうと。じゃあ日本を代表する経営者とはどういう人だということを考えたとき、もう一度、日本が世界で勝てる産業を創ることだろうと考えたのです。三つ子の魂百までと言われますが、私は商社出身ですので、モノづくり企業ではなく、世界で戦える事業開発をする〇〇商社という形でいこうと思っていました。

    話しは前後するのですが、私が教育事業を立ち上げたころ、Sansanの寺田社長とご一緒する機会がありました。寺田社長は三井物産OBで構成される「元物産会」のリーダー的存在で、ベンチャーの雄として憧れのような存在だったのです。

    「いまナガサキ・アンド・カンパニーという会社で小中学生に起業家教育をしていまして」という身の上話をしたら、「お前のようなタイプの人間は大きな事業を構想したらいいと思う」と、ベンチャーキャピタリストの赤浦徹さん(インキュベイトファンド代表パートナー)のことを紹介いただきました。それで、具体的なステップには進まなかったのですが、人として強く意気投合したんです。

    ―それがきっかけで共同創業者の赤浦さんとの出会ったわけですね。宇宙事業の構想はいつ着想されたのですか?

    前述の「日本を代表する経営者になろう」と決めたとき、赤浦さんを訪ねました。1年半ぶりにお会いしました。何かユニークな領域でCEOが必要な案件があったら声をかけますよ、みたいな話をして別れたのですが、その翌日のことです。ある官僚の方が赤浦さんを訪ねて来られ、今の宇宙産業に必要なものは何か?という話題となり、その方が「宇宙産業には、今、昔気質の商社マンが必要だ」と答えたそうなんです。

    道なき道を切り開いていく、頭をゴツゴツぶつけながらでも前に進み続け、たとえタフな外国人であっても何とか話をつけてくるという昔気質の商社マンが宇宙産業には必要なんだ、という話をしたそうなんですね。それで赤浦さんが「それなら適任者を知っている!」と私にその面談の場でメッセージを送ってくださったのが、宇宙事業の構想の始まりでした。

     

    どうすれば官需しかない宇宙マーケットにゼロから民需を創造できるか?

    -日本の宇宙産業の方向性は?

    日本には宇宙ビジネスという言葉も数年前までありませんでした。宇宙ビジネスはご存じのように米国が先行しています。米国はNASAの事業もできるだけ民間に任せることにして、国家予算は月や火星のプロジェクトに投入したいわけですね。日本でも同様に官から民へという流れがあり、政府もできれば、民で頑張って自走できる会社がどんどん育って欲しいという想いがあります。そうすればJAXAへの予算はその使い道を選択と集中して先端的な開発に回せますし、産業振興の観点からも民間の支援を政府も進めようとしているわけです。

    ―ビジネスモデルはどのように策定されたのですか?

    先にもお伝えした通り、事業開発がやりたかった私にとって、商社というコンセプトは必然でした。現状、世界に勝てる技術がJAXAにあるにも関わらず、それを商業利用する民間企業がない。であればと、JAXAで実証済みの技術を商業利用するビジネスが第一歩と考えました。

    ―具体的には、例えばどのようなビジネス展開なのでしょうか?

    私たちが提供するサービスの一つは、国際宇宙ステーション(ISS)を利用して超小型衛星を軌道上へ投入するというものです。ISSに向けて運航されている補給機に他の荷物と同様にお客様の超小型衛星を乗せて運搬します。そして、ISSに常駐している宇宙飛行士が、その荷物を受け取り、超小型衛星を取り出し、ISSから船外(宇宙空間)に放出します。実績も多くオペレーションも確立され、非常に安定した打上げ手段となります。

    しかし、実際に人工衛星を宇宙に上げて運用するまでには非常に多くのプロセスがあります。例えばISSには宇宙飛行士が常駐しており、実際に手で触れてもらうことになりますので、ISSに荷物を届けるには安全性に関する厳格な審査を通る必要があります。そのためには、JAXAやNASAに膨大なドキュメントを提出し、緻密なレビューを受ける必要があるのです。

    このプロセスを当社のエンジニアが伴走して、プロジェクトの計画からドキュメントの作成、技術調整等を、ミッション策定から衛星の打上げ・放出まで一貫してサポートしていきます。

     

    すべての安全審査・技術調整を終え顧客(スペイン・Satlantis社)の機器をJAXAへ引き渡した際の写真(JAXA筑波宇宙センターにて)

     

    ―今回改めて教育事業も手がけられていますが、起業家教育も構想されているのですか?

    いえ。この事業は、起業家教育とは別のものです。未知に挑む宇宙飛行士を、急激で予測不能な変化をする社会で生き抜くロールモデルと捉え、JAXAが有する宇宙飛行士訓練方法、山崎直子宇宙飛行士の経験・知識、国際的な学力評価ツール・教材開発実績を有する北川達夫先生(星槎大学大学院客員教授)の知見等を総合的に分析・評価し、その能力観及び能力開発を基にする評価・育成モデルを開発、学校教育から企業の人材開発に至る現場への導入を進めています。

    これは私の実体験に基づく問題意識からきています。先にお話ししましたように、総合商社でのキャリアの中で2年半ほど、新卒採用に従事しました。そこで、採用時点での評価基準が、社会人として活躍しうる人材要件と必ずしも一致しないジレンマに直面した経験が原点です。

    学力的な優秀さと、ビジネスでモノを売るあるいは事業をつくっていく優秀さ、は少し違いますよね。でも、後者の優秀さは定義ができない。「人間力」と呼ばれることもありますが、それだとずいぶん曖昧ですよね。思い切って例えば「根性」などと定義したとしても、根性とは「一つの資質・能力としてとらえられるものではなく、複数かつ異なる階層の資質・能力の統合体として発露したもの」、ととらえなければならず、反論は幾らでも起こってしまいます。

    社会で求められる学力以外の「何か」、これを総称して「非認知スキル」と呼ぶことにしますが、このスキルは定義ができない。だから、評価も測定もできなければ、その重要性も言語化できず、育成することもできない。そこで、この「何か」を定義することが、第一歩となるのではないか、と考えていました。

    我々に限らず、非認知スキルを定義し、その定義に基づく評価方法をつくろうとするのは困難です。定義の正統性を説明するのは難しく、それゆえに評価方法の妥当性も信頼性も説明できないからです。特定の価値観の押し付けと言われてしまうことも予想されます。そもそも、非認知スキルの提唱者である、労働経済学者ジェームズ・ヘックマン(2000年ノーベル経済学賞受賞者)も「IQや学力とは異なり、数値化が困難な力」と述べています。

    そこで我々は、北川先生とともに、宇宙飛行士こそ非認知スキルに長けたロールモデルといえること、その訓練プログラムこそ非認知スキルの評価・育成モデルになりうると考え、JAXAに持ち込みました。ISSは、精神的にも身体的にも負荷が高い閉鎖空間であり、そこで宇宙飛行士たちは、国・組織・専門性の異なるクルーと協働しつつ、マルチタスクをこなしながら、生死にかかわる意思決定をしていかなければなりません。そういった困難なタスクをこなす上での、「望ましい行動と心構え」が、詳細かつ実用的に定義されていたのです。正統性のある定義、そして妥当性と信頼性のある評価方法の礎がここにあったのです。

    当社はJAXAによる最初の民間開放案件でISSからの衛星放出事業者に選定され、既にパートナーとしての関係性が得られていたという絶妙なタイミングと相俟って、この事業を立ち上げることができました。

    (2018年11月13日記者会見から。左から山崎直子宇宙飛行士、岩本裕之JAXA新事業促進部長、永崎、藤井孝昭増進会ホールディングス代表取締役社長、北川達夫氏)

    宇宙ビジネスの今後の可能性

    ―最後に、会社名のSpace BDには、どのような想いがこめられているのですか?

    Space BDという社名は、スペースビジネスディベロップメントの略です。スペーストレーディングハウスなどの手段を表すのではなく、本質的に事業開発をするのだというコンセプトが込められています。

    冒頭にお話ししたように、私の場合は製鉄業でビジネスパーソンとして育てていただき、日本の製鉄業の産業発展の歴史において、技術開発と事業開発の両輪が機能したと理解しています。産業発展の中心は間違いなく技術ですが、その技術に挑む人と組織の手間を引き取ること、技術開発の現場にマーケットの声をしっかり届けること、そしてその技術を国内外でしっかり売っていくこと、という大切な役割を担ったのが総合商社でした。

    ―宇宙ビジネスの可能性がよくわかりました。日本を代表するどころか宇宙を代表する経営者としてのご活躍を期待しております。本日はありがとうございました。

    世界で尊敬される技術力を持つ日本の宇宙が産業として発展していくためには、かつて地上において総合商社が担ってきた役割が求められていると考え、宇宙における総合商社、Space BDを掲げています。

    次世代の人たちにとって、日本の宇宙産業は世界で尊敬され、多くの雇用が生まれ、いろいろ前向きなニュースが届けられる産業になっている、そんな姿を目指しています。「日本発で世界を代表する産業と企業をつくる」Space BDのミッションはこれに尽きます。
     

     

    <プロフィール>
     
    永崎将利(ながさき・まさとし)
    2003年、早稲田大学教育学部卒業、三井物産株式会社入社。人事部(採用・研修)、鉄鋼製品貿易事業、鉄鉱石資源開発(投資)事業に従事し、その間ブラジル、オーストラリアに計4年間勤務。2013年に独立し、ナガサキ・アンド・カンパニー株式会社を設立。教育領域における事業開発を中心に手掛け、主なプロジェクトはAOKI起業家育成プロジェクト、経済産業省起業家教育普及促進事業他。2017年9月、Space BD株式会社設立、代表取締役社長に就任。事業開発のプロとして宇宙産業に挑む。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員、横浜国立大学成長戦略研究センター連携研究員。 
     
    Space BD株式会社
    https://space-bd.com/
    代表取締役社長 永崎 将利
    本社 :東京都中央区日本橋室町1-5-3 福島ビル7階
    欧州事務所:ベルギー
    設立 2017年9月1日
    事業内容 宇宙における各種サービス事業・教育事業
    資本金 5億6,900万円(2019年10月時点)

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