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2020年03月25日(水)

空のインフラ構想で革命前のエアーモビリティ社会を牽引~A.L.I.Technologies片野大輔氏

経営ハッカー編集部
空のインフラ構想で革命前のエアーモビリティ社会を牽引~A.L.I.Technologies片野大輔氏

まるでSFの世界のようにクルマが空を飛び交う「エアーモビリティ社会」は遠い未来ではない。事実、経済産業省と国土交通省による「空の移動革命に向けた官民協議会」が2018年に発足、ロードマップも発表され、早ければ2023年の社会実装に向けて法整備も進められている。先進的な地方自治体では実証実験が開始され、地方創生への期待も高い。こうした日本の官民一体となったエアーモビリティへの取り組みは世界でも先進的なのだ。

エアーモビリティには、物流が目的の「大型カーゴドローン」、高度100m~300mを飛行する数人乗りの「空飛ぶクルマ」、地上・水上から数十cmを低空飛行する「ホバーバイク」がある。なかでも最も法規制をクリアしやすく社会実装の最短距離にあるのが「ホバーバイク」だ。

こうした中、スタートアップ企業、A.L.I. Technologies(以下、A.L.I.)が開発した1人乗りを想定したホバーバイクが2019年の東京モーターショーで世界初公開され話題となった。2020年中には限定モデルのグローバル販売も計画されている。ホバーバイクが先陣を切るエアーモビリティ社会は、私たちの生活にいかなる未来をもたらすのか?A.L.I.社が提唱する「空のインフラ構想」とは何か?革命前夜のエアーモビリティ社会をリードするA.L.I.の片野大輔社長に今後の事業展開と可能性を聞いた。

 

エンジェル投資家からエアーモビリティ事業経営に参画

―まず事業概要をお聞かせください

私たちは、エアーモビリティ社会のインフラ企業になるというビジョンを掲げ、「エアーモビリティ事業」、「ドローン・AI事業」、「演算力シェアリング事業」の3つのコア事業を推進しています。

まず、エアーモビリティ事業は、エアーモビリティ社会の先駆けとなるホバーバイク“XTURISMO™ LIMITED EDITION”の開発と販売を行う事業です。XTURISMOは人が乗り、宙に浮き、自由に移動できる空飛ぶバイクとも言えるモビリティです。ガソリンエンジンとバッテリーのハイブリッド方式で、主にプロペラを使用して推進する仕組みです。東京モーターショー2019ではその1号機を世界初展示しました。

また、ドローン・AI事業では、大手企業様との新たな産業用ドローンの共同開発や操縦士提供サービスを手がけています。たとえば鉄道・鉄塔などの公的インフラの点検用ドローンなど、様々な産業にドローンを活用するための用途開発を行っています。

続いて、演算力シェアリング事業では、演算力のクラウドシェアリングサービス“BULLET RENDER FARM™”を提供しています。このサービス内で行うレンダリングとは、データをもとに3次元画像などを生成して表示するものです。たとえばドローンで撮影した静止画像や動画などを数値データに変換して演算処理を行って再度グラフィックスとして表示するもので、立体画像などを生成することができます。

(A.L.I.ウェブサイトより)

 

―当社は創業者で会長の小松氏と、片野社長のツートップ体制ですが、どういった経緯で当社の事業に参加することになったのですか?

会長の小松とは、共通の友人から「エアーモビリティ事業を構想している起業家がいる」と紹介され、一度その構想を聞いてみようと思ったのがきっかけで知合いました。当初、小松から事業構想を聞いたときは、これは本当に実現可能な事業なのかどうか、まるで夢物語ののように感じていました。

しかし、彼には東京大学でエネルギー工学を専攻するなど、エアーモビリティの開発に必要な理論的なバックグラウンドがありました。また、当社はもともとは東京大学の宇宙航空の研究チームがドローン開発のために設立し、後に小松が代表となり引き継いだという経緯もあり、ホバーバイクの開発に必要なホバリングの基礎技術が確立されていました。優秀な人材も揃っていましたので技術面での実現可能性は十分あると判断できました。
小松とは大学も同じで年齢が近いこともありますが、彼のこの事業にかける想いを知り、応援したいという気持ちから個人的に株主として出資をすることにしたのです。

―当初はエンジェル投資家だったのですね。

そうです。当時私は英国におりましたので、Skypeで何度か相談を受けながら、小松の事業立ち上げを支援していきました。その後、1年、2年とホバーバイクの開発が進捗し、遂に試験飛行ができるまでになりました。その時から、これはもしかすると世の中を変えるプロダクトになるかもしれないと思うようになったのです。
ただ、技術力だけではエアーモビリティ事業を軌道に乗せることは難しく、国土交通省や経済産業省などの委員会活動を通じた新たな法制度の整備や、事業を成功させるための企業としての事業基盤を確立する必要がありました。

そのため、私がこれまで培ってきた戦略策定や企業経営のノウハウを提供するとともに、関係省庁との委員会活動が可能なメンバーを招聘し、本格的に企業としての体制整備を図ることにしたのです。こうした法整備が整い、事業基盤が確立できれば、日本から世界を変える企業を創ることができるのではないか。そう考えて、本格的に当社の経営に参画することにしたのです。

他の経営陣も各方面から優秀なメンバーが集まってきてくれました。国産ドローン開発などの政府方針にもコミットすることができましたので、順調に体制整備ができつつあるという状況です。

―スタートアップ支援にはもともと興味があったのですか?

私は学生時代から投資家のような視点でリスクをとって事業を立ち上げていくコンサルティングに興味がありました。そのため新卒で新規事業のコンサルティングを手掛けるドリームインキュベータに入社したのです。

入社後は4年程、スタートアップ企業の支援と共に大企業向けの戦略立案のコンサルティングにも携わっていました。その後、ボストンコンサルティンググループに転職し、大企業のコンサルティングを集中的に行った後、YCPグループでは、スタートアップや中堅企業も含むクライアント企業の新規事業立ち上げ支援などを経験しました。

―そのようなスタートアップの実務経験から、エアーモビリティ事業を早期に立ち上げるにはマネジメント機能が重要だと判断されたのですね。

はい。私が経営全般を見て、小松が開発に集中できる環境を整備することが重要だと考えました。日々、最新の開発状況とインフラの整備状況をキャッチアップしながら全体を最適化していくマネジメントをするのが私の役割だと考えています。

 

先行投資が必要なエアーモビリティ事業の垂直立ち上げのために、如何に相乗効果のある収益事業に取り組むか?

―現在の収益モデルは?

収益事業としては、ドローンコンサルティングと演算力処理サービス(シェアリングサービス)が中心です。
ドローン市場は、汎用機まで含めると中国が圧倒的なシェアを持っています。ただし、産業用ドローンの場合、クライアントの規模によっても大きくマーケットが変わってきます。

たとえば、三菱重工さんの火力発電所の点検用のドローンなどは、既存の点検のオペレーションを理解し、その業務にあわせてドローンを用いた業務フローを固め、その仕様に合わせて最適な機体やソフトウェアを共同開発していく必要があります。

私たちはこうした企業独自仕様のドローンの機体やソフトウェアを受託開発していますので、産業用ドローン分野では、私たちがリーディングカンパニーであるという位置づけです。

現在は国内を中心に事業を展開していますが、今後は、日本のインフラ系の産業用ドローンの事業実績をもって海外展開を想定しています。日本は、都市開発や鉄道などのインフラ系ではグローバルな競争力がありますので、まずは日本でポジションを確立して、海外展開を狙う方針です。

その他には、貨物用のドローンとして、20kg~50kg程度の重量に対応できるドローンも開発しています。主に建設工事現場での建設資材などの運搬に利用されています。また、農業分野では、主に農業法人による水田の稲の生育状況などの観測に活用されています。広島県の呉市では西日本豪雨による土砂災害のあった斜面にドローンから稲の種子を直播(じかまき)するといった事業などでも活用されています。

演算力処理サービスは、たとえばドローンで撮影した数十分の動画や数千枚の静止画像を処理するために、ドローン本体やPCで画像解析処理を行うのではなく、クラウドやGPUなどを活用して分散処理をするサービスです。この技術はドローンの飛行ルートのリアルタイム運行モニタリングにも活用できます。また、独自のアルゴリズムにより、高速処理が可能な分散処理型のプラットフォームになっているので他の分野でも活用でき、CG、3D、CM制作会社などの業務効率化のためにご利用いただいています。

―これらの事業はそれぞれどのような関係にあるのでしょうか?

この3つの事業領域は一見別々の事業のように見えますが、それぞれが相互に連携しています。たとえば、「エアーモビリティ」はドローンのプロペラの技術を応用しています。演算力シェアリング事業は、エアーモビリティやドローンの運航をモニタリングするために必要な管制データを高速に処理するための技術を開発しています。これらの事業がエアーモビリティ社会のインフラ構築のために必要な要素技術となっているわけです。

各事業の垂直立上げを実現するために、2019年11月に23億円の資本調達を実現しました。まずはドローン事業と演算シェアリング事業で事業基盤を確立します。その上で、エアーモビリティ社会のインフラになるエアーモビリティの開発と販売促進およびプラットフォームの整備を進める予定です。

 

エアーモビリティ社会の実現に向けてインフラをどのように整備するか?

―今後、限定モデルのホバーバイクは、どのような用途で活用されるイメージなのでしょうか?

ホバーバイクは、飛行機のような高い高度で飛ぶものではなく低空飛行での移動が可能な乗り物です。つまり、航空法ではなく、道路交通法の範疇になります。非接触で移動するため、地上の構造物を痛めませんので、道路などのインフラの老朽化を防止することができます。他にも、水上、砂漠、被災地の瓦礫の上などの路面が整備されていない場所でも低高度で移動できますので、点検などに用いることができます。今回発売するホバーバイク“XTURISMO™ LIMITED EDITION”は、現時点では日本の道路交通法上では公道を飛行できるわけではありませんので、まずはエンターテインメントやレースなどでの利用を想定しています。

―エアーモビリティ社会の実現に向けた日本の法整備の状況は?

現在、当社も経済産業省の検討委員会に参加してエアーモビリティに関する法整備について政府と議論しているところです。まずは道路交通法の範疇での用途が想定されています。飛行高度が高くなると航空法の範囲になるため飛行高度制限があるのです。

エアーモビリティ社会の実現に向けては、2018年8月に経済産業省と国土交通省により「空の移動革命に向けた官民協議会」が発足し、同年12月には「空の移動革命に向けたロードマップ」が発表されました。2019年には実証実験も開始されましたので、早ければ2023年にもエアーモビリティ事業者が国内で事業を開始できる環境が整いつつあります。

―エアーモビリティ社会の実現に向けて、どのような布石を打たれているのでしょうか?

私たちは、「空のインフラ構想」を提唱し、エアーモビリティやドローンを活用した社会インフラの構築を目指しています。

エアーモビリティやドローンを社会インフラとして機能させるためには、安全な運航管理体制を確立する必要があります。そのために、まず必要となる公共インフラの点検や物流などに利用される産業用ドローンの管制システムと関連技術の特許群を整備してきました。

管制システムにブロックチェーン技術を活用することで、個々のドローンやエアーモビリティを認証することが可能となり、認証された飛行体の位置情報や飛行ステータスの管理ができるようになります。そのために必要な、飛行体の位置情報、飛行ステータス管理、遠隔操縦システム、飛行ルートのリアルタイムレンダリングによってVR化する技術など、様々な要素技術の特許群を整備してきました。

 

一部開発中のものを除き、一般構造物や物流シーンへの適用など大半の技術は、既に実用化可能なレベルまで開発が進んでおり、サービスを開始しています。

こうした技術は、ドローンのみならずエアーモビリティの運航管理にも必要となるものです。今後も、「空のインフラ」構築の早期実現を目指し、様々な技術開発に取り組んでいきたいと考えています。

―エアーモビリティ社会の実現を期待しています。本日はありがとうございました。

<プロフィール>
片野 大輔(かたの・だいすけ)

株式会社A.L.I.Technologies代表取締役社長。Boston Consulting Group、Dream Incubatorにて、メーカーから飲食まで国内外の幅広いプロジェクトに従事後、アジア最大級の独立系コンサルティングファームの日本法人代表取締役に就任。欧州への海外展開プロジェクトを推進後、10年以上にわたる戦略コンサルティング・経営支援の経験を経て、エンジェル投資家として参画していたA.L.I.Technologiesに2018年7月代表取締役COO(最高執行責任者)就任。2019年3月に同社社長に就任。東京大学工学部卒業。
 
株式会社A.L.I.Technologies
https://ali.jp/
設立:平成28年9月
資本金:27億6500万円(資本準備金含む)
役員
代表取締役会長 小松 周平
代表取締役社長 片野 大輔
取締役副社長  渡慶次 道隆
取締役     岡本 須美子
取締役(社外) 千葉 功太郎
取締役(社外) 馬渕 健彦
取締役(社外) 岩田 眞二郎
取締役(社外) 三浦 和夫
常勤監査役   中島 俊壽
監査役     栗山 一成
監査役     藤井 陽介
事業内容:UAV(無人小型飛行体)に関する研究及び開発、UAVの販売及び販売促進活動、有人飛行体に関する研究及び開発、テクノロジー事業のコンサルティング業務、ブロックチェーンの開発及び運用、コンピューティングマシンの研究及び開発
取引銀行:三井住友銀行
主要取引先:
Advanced Micro Devices, Inc.
WOODMAN 株式会社
九州旅客鉄道株式会社
株式会社グローバルキャスト
株式会社テクノプロ
東京産業株式会社
東京電力ホールディングス株式会社
名古屋鉄道株式会社
日本航空株式会社
ミサワホーム株式会社
三菱重工業株式会社
三菱電機株式会社
みんな電力株式会社、他

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