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2020年03月30日(月)

AIはどこまで 進化するか?「人工意識」でAIが人類と共創する未来図とは~アラヤ金井良太代表に聞く

経営ハッカー編集部
AIはどこまで 進化するか?「人工意識」でAIが人類と共創する未来図とは~アラヤ金井良太代表に聞く

人類にとって期待と不安が入り混じるAIだが、その進化の先は果たしてどうなるのか? AIを人間同様クリエイティブで面白い存在にしようと「人工意識」が宿るAIを提唱するのが株式会社アラヤだ。人間の意識×AI研究のフロントランナー、金井良太代表が率いる同社は、単なる先端分野の研究企業ではなく、未来への開発ロードマップに基づいた、エッジAIの実用化や自律AIの実証でも先行する「社会実装志向」の企業でもあるのだ。金井氏いわく「研究かビジネスかという二分思考ではなく両方やるから価値がある」と。そんな先端基礎研究とビジネスの相乗効果を追求するアラヤの金井代表に、来るべきAI社会のビジョンと、先端領域の開発・研究に必要な人材像を聞いた。

最先端を行く3つのAI事業

―はじめに事業内容をお聞かせください。

「人類の未来を圧倒的に面白く!」。これがアラヤのミッションです。そのために私たちはすべてのモノにAIが宿り、人工意識を持つアンドロイドなどが人と共存する社会を見据えて、AIのアルゴリズムやプロダクト開発を行なっています。事業としては、ディープラーニング事業、エッジAI事業、自律AI事業の3つの領域があります。

ディープラーニング事業は、主に画像認識に関連したケースが多く、例えば製造業では製品の外観検査や原材料の異物検知、建設関係では構造物の検査・点検、作業現場での安全確保などに活用されています。

また、自動運転車向けには人や障害物・標識の識別、農林水産分野では家畜の状態推定などでも利用されています。

ここ数年で、ディープラーニングの活用がかなり進みました。無料ツールも提供され始め、現在はディープラーニングのさらなる用途開発や、解析の高度化・精度向上の段階に来ています。新規参入企業も増加し、レッドオーシャン化が始まっている状況です。

しかし、実際にクライアントが自社のプロダクトにAIを組み込んで実用化するまでには、非常に根気のいる技術開発が必要となります。私たちは主に大手企業とプロジェクトを組成してそのような技術開発面で丁寧に実用化をサポートしていく役割を担っています。

アラヤの提供するディープラーニングソリューション

―ディープラーニングでまずAIの社会実装を着実に進めているのですね。その先のエッジAI分野ではどのような取り組みをされているのですか?

エッジAIは、スマートフォン、自動車、ドローンなどのデバイス上でAIを動かす技術のことです。AI(推論)を動かすためには大きな計算リソースが必要なため、これまではクラウドで動かす必要がありました。

また、デバイス上で動かす方法にはGPUなどの高速処理ができるチップを使うこともできますが、十分な処理能力を確保できる高性能なチップは高価であるという課題があります。

そこで私たちは、元のAIモデルの精度はほぼそのままに、演算量を最大約1/30に圧縮する技術を開発しました。演算量を削減することで、処理の高速化やメモリ使用量の削減ができます。

この技術で、比較的安価なCPUやFPGA上でAIを動かすことが可能になります。

一方、この技術で計算量が減らせてもCPUなどのチップへの実装ができなければ高速化はできません。そのため、これらのAIモデルを自動で圧縮・処理最適化できるアプリケーション「Pressai(プレッサイ)」の開発も進めています。この技術によって、今後様々なデバイスへのAIの搭載が可能になるわけです。

エッジAI実現のプロセスとPressaiの役割

―エッジAIもスケールする可能性が見えてきたということですね。では、もう1つの事業領域の「自律AI」とはどのようなものなのでしょうか?

あらゆるデバイスにエッジAIが搭載されていく時代の先にはAIの自律化があります。AIの自律化というのは、人が手順を教えなくてもロボットやドローンなどが自ら状況を判断し、与えられたタスクを遂行(自律的に動く)できるようにすることです。

「自動」と「自律」の違い

たとえば、アラヤで開発を進めている自律AIを搭載したドローンは、曲がりくねった軌道上でも、その軌道を認識して、進路を自動判別しながら飛行を継続することが可能になっています。

現在の多くのAIは、人が行っている作業の「手順」を覚えさせて自動化していますが、私たちは自律AIに深層強化学習を採用していて、AIが自ら試行錯誤しながら学習しますので、作業の自動化が難しかった高度なタスクを行うAIが実現できると考えています。

自律AIの時代の先には、人間と同様の意識を持ったAIが実現できるのではないかと考えています。この人間のような「人工的な意識」を持ったAIを「汎用AI」と我々は呼んでいます。

 

AIが人間と同じような「意識」を持てるようになるには

―人間と同じような意識を持つ汎用AIと現在のAIの違いは主にどのような点にあるのでしょうか?

人間の脳は同時並行で情報を処理し、複雑な事象に対応できます。しかし、現在のAIでは人間のように同時に多数の情報処理や判断ができないのです。つまり、それはAIが人間の「意識」のようなメカニズムを持ち得ていないからです。「意識のメカニズム」の有無が、汎用AIと現在のAIの大きな違いです。

たとえば、人間が視覚的に世界を認識するとき、目に映ったものが見えたとき「見えた」と意識します。現在のAIには、その「見えた」という感覚がありません。

さらに言えば、人間には目の前で起きていないことを想像する能力があります。これを、現実と異なることを想像できるという意味で「反実仮想」と言います。一方で、たとえば人間は、熱いものを知覚したとき、熱いと感じて無意識に手を引っ込めるといった、刺激(入力)に対して自動的に反応(出力)するパターンが決まっているものがあります。

私たちは、このような人間の意識が、どのような情報に基づきどのような計算をして働いているのか、そのメカニズムがわかれば汎用AIが開発できるのではないかと考えています。初めての事象にも対応できるような学習を、フューショットラーニング(Few-shot Learning)、あるいはゼロショットラーニング (Zero-shot Learning)という言い方をしますが、私たちはこうした反実仮想や無意識的な反応をAIが学習できるようにする研究を行っています。

―なるほど。AIが意識を持つためには、想像力や無意識の働きといった科学的に扱いづらい領域の研究が必要になるのですね。

そういうことです。今のAIのニューラルネットワーク(神経網)では、音声(聞くこと)と画像(見ること)ではインプットされる情報のデータ形式や意味が異なり、それぞれを別々に処理する必要があるため、同時にこれらを統合して処理をすることができないのです。

では人間はなぜこのような複雑な処理が瞬時にできるかというと、人間の脳には様々な情報や機能を統合するプラットフォームがあるのです。その統合プラットフォームと意識のメカニズムは関係があると考えられていますので、そのプラットフォームを機能させる意識のメカニズムの計算方法をAIに持ち込むことができれば、AIが画像や音声などのバラバラで複雑な要素を統合化できるようになるのではないかと考えています。

ただし、バラバラな情報をプラットフォームで統合するだけでは、まだ起きていない未来の現実に対して適切な意思決定をすることはできません。インプットされた情報が持つ「意味」を正しく理解できなければならないのです。私たちのような生命科学領域の意識の研究者も、様々な情報が持つ「意味」をどのようにAIで表現すべきか、ようやくその答えが解ってきたのです。

―人工意識を実現する鍵となる、情報が持つ「意味」を理解するというのはどのような機能なのでしょうか?

意識とは情報の集合体です。人間は、個々の情報が持つ「意味」をどのように理解するかによって意識や行動が変容します。

たとえば、私たちは、赤いものが見えたときに、赤いものが持つ意味を知っているので正しい反応ができます。物理的には赤色の波長は太陽や火のように熱量を持つ存在が放つことが多い光として人間の目に映ります。また、信号で赤は止まれ、消防車の色は赤といった様々な社会通念上の記号としての意味もあります。その人の過去の体験から想起される赤いものが持つ心理的な意味もあるかもしれません。

このように人間は赤いものが見えたときに瞬時に情報から多層的に意味を理解し、反応をしています。このような多層的な赤の意味をAIも理解できれば、人間と同様の反応を導き出しやすくなるわけです。

お金の概念もそうです。100円玉そのものには100円の価値があるわけではありません。100円玉に100円らしさというものもない。でも100円玉でこれが買えるということがわかる。色の概念と同様に、お金も多くの人の信念や物事との関係性が成立しているから相対的に価値をお金で測り、意味を持たせることができているわけです。

脳の中でも同様のことが起きていて、特定のニューロン同士の組み合わせが連動して反応したときに、それを赤と認識するという関係性があるとしたら、赤という色が持つ意味が決まってくるという法則があるのではないかと思います。

しかし、なぜ人間の脳は赤いものに赤という意味を持たせられるのかというメカニズムがまだ科学的には解明されていないのです。

このような概念を詳細に説明するのは難しいので割愛しますが、将来的には、こうした意識研究から派生してきた要素技術をつなぐことで、今のAIでは難しいと言われていることができるAIを創っていこうと考えています。

―この意識領域のAI研究が御社の強みということですね?

AIと脳の意識研究の領域は我々が先駆者と言えます。脳科学は客観の世界ですのでデータなどで証明ができますが、意識は主観の世界ですので、データも収集しにくく、物理現象としての客観的な証明が難しい。そのため未だ人間は他人に意識があるかどうかを証明することができないという非常に扱いにくい研究領域なのです。

そのため、この意識研究の領域はそもそも研究戦略すら立案できないと言わるほどの難問であり、この難問を解けばノーベル賞以上の価値があるとも言われています。そこに私たちが果敢に挑戦しているわけです。

 

無謀とも言われた先端領域への挑戦がビジネスにもたらす価値

―意識研究の難問をクリアした先の未来はどのような社会になっていくのでしょうか?

100年後には人工意識をもったAIが人間のような意識をもって自律的に行動する世界が普通になっているのではないでしょうか。DNAの仕組みが理解され、生命というものはこういうものかということが解るのと同様に、心や脳もメカニズムが解明されていくことになるでしょう。課題としては難しいテーマですが、長期的にみれば科学は指数関数的に進歩していますので、十分可能性はあると考えています。

―人工意識を持つ自律AIの研究開発の現状は今どのフェーズにあるのでしょうか?

自律AIは現時点では実証フェーズで、社会実装フェーズへの移行にはもう少し時間を要するのではないかと思います。しかしながら、私たちのこの分野への先駆的な取り組みは、ビジネスとしての価値を考えれば正しいと選択だと判断しています。

なぜなら私たちにはエッジAIという既に実装済みのものがあるから、その先に挑戦しているわけですので。こうした長期的なビジョンこそが私たちが先鋭的に挑戦し続ける原動力であり必然性なのです。

先行投資も必要ですし、当初は無謀だと言われたこともありますが、現在投資家の方から評価いただいているのは、私たちのこうした先端的な研究の成果に基づくビジネスのポテンシャルなのです。

 ―生命科学における意識研究の最先端の知見があることでAI研究においても御社が業界をリードすることができているわけですね。

その通りです。私たちのビジネスモデルは、まず足元のビジネスとしてディープラーニングなどの社会実装を大手企業と共同で進めていますが、その次のフェーズの様々なデバイスでエッジAIを機能させるところでスケールするだろうと投資家が評価してくださっています。

また、AIの分野における私たちの強みは、その先の未来社会では当たり前になっているであろう、自律AIや人工意識といった先端テクノロジーの基礎研究の知見に基づく長期的なビジョンがあるという点です。このビジョンに賛同する方々が集まってきてくださいますので、世界的にも研究レベルも高く、エコシステムも形成されつつあります。このような強みを形成する仕組みが今後のビジネス的な成功につながってくるのではないかと考えています。

 

ビジネスで世界を動かし、理想の研究環境を実現するために必要なエンジニア・研究者とは?

―先端的なAI研究に注力するためには研究に集中できる環境も必要になると思いますが。

たしかにそうなのですが、私たちはAIを未来の面白い話で終わらせるのではなく現実化させるために事業をしていますので、AIの開発や研究をビジネスのロジックに乗せることが重要だと考えています。

Googleのビジネスモデルは、ビジネスを成立させながら研究者が先端的な探求を可能とする非常に良くできた仕組みだと思います。私たちもGoogleのようにビジネス的にも成長していく仕組みを構築しながら研究を進めていきたいのです。

多くの場合、A or B、研究かビジネスか、シーズかニーズといった二分化思考になりがちですが、私たちは両方取ることが重要だと考えています。どちらかでもなく、バランスでもなく、両方やるから価値がある。両方やるからよりよい状態を目指すことができ、相乗効果を生み出すことができるのです。

―ビジネスで成果を創出することが研究で世界を動かすために必要だと?

その通りです。英国の大学で教鞭をとっていた2013年に当社を設立したのですが、AIの研究は今後は大学よりも民間がメインになるだろうと予測していました。予算的にも、AI研究に必要なビッグデータの収集という意味からも、企業ベースのほうが研究しやすいです。
私たちは、ビジネスをしながら研究をしていると言っても、「最強のAIをつくるとこうなる」といった理論構築をメインとしています。AIの研究というよりももう少し基礎的な情報理論や数学的な研究領域です。そのため社内が産学連携のようなスタイルで自由な発想で研究を進めているのです。

―御社は本来、大学でやるべきアカデミックな基礎研究にも力を入れているように思います。

そうですね。むしろ大学のほうが国の研究予算を活用しながらAIの応用レベルの実務的な研究をされていると思います。しかし、AIはビジネスと基礎研究をつなぐところが実は難しいのです。それを両方できないといけない。だから私たちの存在価値があるのです。

―今後、御社で求められる人材像を教えてください。

まず、ビジネスを成立させるという点で、3つのAI事業を支えるエンジニアを多く採用しています。AIの経験があればベターですが、未経験でもAIに挑戦したい、AIを自主的に勉強しているといった意欲的な方にぜひ来ていただきたいと思っています。AI技術でクライアントの課題を解決するために、仮説検証力があったり、スケジュールを立てて自主的にプロジェクトを進めたりといったプロ意識が大切です。

一方で、最先端の研究を支える研究者については、ある研究領域の研究者としてプロになる覚悟を持った人が望ましいと思います。それが民間であれ研究機関であれ求められる人物像ではないでしょうか。そういう意味では、大変うれしいことに、アラヤの現在のメンバーは、プロ意識の高いメンバーが集まってきてくれています。私たちには、個人の得意分野に多くの時間を投下して研究開発に集中できる環境がありますので、皆、仕事が楽しいと言ってくれています。今後も、より理想の環境を追求し、ビジネス的にも成長させながら、研究開発をより一層加速させてきたいと考えています。

-大変興味深いお話でした。本日はありがとうございました。

<プロフィール>
金井良太(かない・りょうた)

京都大学生物物理学科卒業。オランダ・ユトレヒト大学で実験心理学の博士号を取得。カルフォルニア工科大学にて、下條信輔教授のもとで視覚経験と時間感覚の研究に従事。前英国サセックス大学 准教授(認知神経科学)。脳構造画像の解析において、世界的にリードしている。2013年に株式会社アラヤを設立。

株式会社アラヤ
URL:https://www.araya.org/
設立:2013年12月
社員数:52名(2020年3月9日現在)
Mission:人類の未来を圧倒的に面白く!
Vision:すべてのモノにAIを宿らせる
事業内容:AIアルゴリズム・プロダクト開発(ディープラーニング事業・エッジAI事業・自律AI事業)

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