2020年04月06日(月)0ブックマーク

身体的な限界を突破し、自分らしく生きられる社会を ~MELTIN粕谷 昌宏氏

経営ハッカー編集部
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未来学者レイ・カーツワイル氏は「2030年代、サイボーグとなった人類は神に近づく」と予測する。サイボーグとは、サイバネティック・オーガニズム(Cybernetic Organism)の略。つまり、生命体(organ)とロボットや自動制御系の技術(cybernetic)の融合を意味する。既に医療分野では人工臓器や義手などの人体の補完・代替機能としての実用化が始まっており、サイボーグ社会はもはや現実となりつつある。そのような中、3歳の頃から「宇宙を理解するためには、圧倒的に人間の寿命や身体能力に限界があることを感じていた 」というMELTINの粕谷昌宏代表は、中学時代からサイボーグ研究を開始して人工筋肉を用いたパワードスーツを自作。それから20年を経て、ベンチャー企業として第一歩を具現化したのが人間の分身とも言えるアバターロボット「MELTANT-α」だ。ロボットでありながらまるで人が手を動かすような滑らかで自然な動きを実現し、地球の裏側の1万8,900キロもの距離でもリアルタイムでの遠隔操作が可能となった。今回、「サイボーグ技術で人類の可能性を最大限に引き出したい」というMELTIN代表粕谷氏に、人間と機械が融合したサイボーグ社会は人類にどのような進化をもたらすのか?また、進化の負の側面についてはどのように考えるのか?今後の事業展開と倫理的な課題解決への取り組みについて聞いた。

 

目次

    サイボーグに命を吹き込む2つのコア技術が事業を牽引

    ―はじめに事業概要をお聞かせください。

    当社は生体信号処理技術とロボット技術を組み合わせた独自技術を用いてサイボーグ技術の研究・開発を行うベンチャー企業です。身体的・物理的な限界を突破し、誰もが自分自身に合った活躍ができる世界を創ることをビジョンとして掲げています。

    事業としては、独自技術を駆使したアバターロボットシステム、医療機器開発、BMI(Brain Machine Interface - 脳と機械を繋ぐインターフェース)等の開発を通じ、サイボーグ技術による社会課題を解決しつつ、それに留まらず、その先にある人類の可能性が最大化される未来の実現をも目指しています。後ほど詳しく述べますが、僕たちのサイボーグ技術には、身体の動作を体に流れる微弱な電気から忠実に解析する「生体信号処理技術」と、生体から着想を得た「ロボット機構制御技術」の2つのコア技術があります。2018年には、これらの技術を活かして、アバターロボットのコンセプトモデル「MELTANT-α」を開発しました。

    (取材後、2020年3月31日にMELTANT-βを発表 )

    このMELTANTシリーズは、人の手に最も近いロボットハンドを備えていて、大きさもほぼ人の手と同様ながらなめらかで繊細な動きを、人に迫るスピード、パワーで実現した「もうひとつの身体」と言えるアバターロボットです。

     現在このアバターロボットを、将来的に様々な業界の課題解決に活用いただけるように、本格的な実用化に向けた実証実験を進めているところです。

     

    3歳で「人間が宇宙を理解するには、寿命と脳の性能が足りない」と気づいた

    ―粕谷さんがサイボーグに興味を持つようになったきっかけは?

    幼少時代から振り返ると、僕は3歳の頃から「宇宙や世界はなぜどのようにつくられたのか」ということに非常に興味がありました。しかし、無限の宇宙を理解するというのは途方もない難題で、この時に宇宙を理解するには、自分自身の寿命や脳の性能などのリソースが足りないということがわかりました。

    まもなく、そんなことを考える自分は、人と違っているということに気づきましたが、こうした違いを許容されない現実もあって僕は、人がそれぞれ自分の望むように生きられる世界に憧れを抱くようになりました。

    このような経緯から、どのようにすればもっと人が生きやすい世界になるのだろうかと思うようになったのです。

    もともとロボット博士に加え、手塚治虫さんの漫画「ブラックジャック」に影響され医者にあこがれていた経緯もあり、小学生の頃には「発明医」という独自の職業を考え出すに至りました。その後、中学の頃にたまたま目にした「サイボーグ」という言葉に触発され、身体能力の不足を補い、自らを望む形に変化させられるサイボーグ技術を開発できれば、人間が身体的な制約に縛られずに生きることができるようになるのではないかと考えたのです。

    そこで、人工筋肉を使って自分の筋力を増幅する補助具を自作するところからはじめました。これが僕の研究のスタートで、思えば20年ほど前からサイボーグの研究を続けてきたことになります。

    ―なるほど。御社のサイボーグ技術には既に20年もの研究の積み重ねがあるのですね。では、その後の起業に至る経緯は?

    僕は大学でサイボーグ技術に必要な知識を学ぶため、早稲田大学理工学部では脳波を使ってラジコンを動かす研究や、義手を生体信号で制御する研究を行いました。卒業後、そのまま大学院の生命理工学専攻に進み、バーチャル空間の中の自分と現実の自分とを生体信号でリンクさせる研究を行い、修士号を取得しました。その後、2012年に電気通信大学大学院の博士後期課程へ進学、知能機械工学を専攻し、義手を題材にロボット工学と人工知能工学の分野で研究を行い、2016年に博士(工学)を取得しました。

    MELTINは電気通信大学大学院在学中の2013年に、当時研究を行っていた仲間と共に設立しました。その後、2016年にシードラウンド、 2017年にシリーズAで約2.1億円、2018年にシリーズBで約20億円の増資を行い、現在に至っています。

     

    世界最先端のサイボーグ技術 人と機械の融合で人類の新たな可能性を拓く

    ―御社のサイボーグ技術の特長について教えてください。

    僕たちのサイボーグ技術を支えるコア技術についてですが、

    1つめは、生体信号処理技術です。生体信号とは、神経を流れ、人の身体を動かし、五感を脳に伝える電気信号のことです。この電気信号が、脳から筋肉に伝わり、筋肉が動くことで、様々な動作ができるわけです。

    電気信号は脳波だけでなく、人が頭や身体を動かしたときにも発生します。脳と体が相互に電気信号で情報伝達をしているわけです。この電気信号を読み解き、脳と身体が適切に情報伝達できるようにする技術が、生体信号処理技術です。

    この生体信号処理技術を使えば、腕を損傷された方でも「つかむ、放す」といった動作を、義手に高精度かつ高速に情報を伝えることができるため、リアルタイムで義手を動かすことができるのです。

     

    2つめは、ロボット機構制御技術です。

    ロボット機構制御技術とは、人のようにコンパクトかつスムーズでパワフルな動作を実現するための制御技術です。MELTINのロボットハンドは人体の構造に近く、腱のようなワイヤーを引くことで動いています。

    一般的なロボットハンドは、関節をモーターで直接動かすことが多いのですが、その場合、関節が多数になるとハンド自体が大きくなってしまいます。それに対して、僕たちは、ワイヤー駆動で関節を動かす方式を採用していますので、複雑な動きでもリアルタイムでスムーズに動かすことができ、強い握力でモノを掴むこともできます。

    ―アバターロボットMELTANTシリーズにはどのような特長があるのでしょうか?

    MELTANTシリーズは、人間の動作を代替することができる、器用さと力強さを併せ持つ手を備えており、従来の産業用ロボットのようにある作業に特化した専用のハンドツールの切り替えが不要なアバターロボットです。

    指も人と同様のサイズですので、たとえば、つまみやノズルなどを「つまむ」、ハンドル、取手、ドアノブなどを「にぎる」、状況にあわせて物を「持ち替え」て作業する、人間が利用する工具や什器を「あつかう」、といった人が通常手を使って作業する繊細な動作も可能です。

    しかも、このような操作を地球の裏側の18,900kmの距離でもリアルタイムで遠隔操作ができるのです。

    ―アバターロボットは様々な用途が想定されますが、今後どのようなシーンで活用されることになるのでしょうか?

    アバターロボットは、命に関わるような危険環境、移動コストが非常に高い遠隔地や広大な場所での労働、過酷な高温、化学汚染環境等の極限環境で利用することができます。

    たとえば、トンネルなどの地下・閉暗所での作業、高温や化学汚染を伴う災害現場やプラント、建設土木現場、放射能環境の発電・研究施設、高所での作業などでの活用を想定しています。さらには、将来人類の生存圏外である深海や宇宙空間での作業も視野に入れています。

    すでに、危険環境下での導入を見据えた実証実験が複数開始されています。

    ―すでに実装されている事例または実装予定はありますか?

    JAXAと行ったプロジェクトでは、ロケットに人間が乗って宇宙に行くことのリスクやコストから、国際宇宙ステーション(ISS)での遠隔作業のニーズがあります。たとえば、ジッパーを開けて箱からモノを取り出す作業や、道具を使ってメンテナンスする作業は、人の臨機応変な対応が求められるため、自動ロボットには困難です。人の手と同じサイズですので、狭い船内でも人間が作業するのと同じようなスペースがあれば遠隔操作ができ、地上のISS模擬環境にて実証実験を行いました。

    災害時現場での活用も期待されています。二次災害が予想される災害現場や、人体に深刻な悪影響を及ぼす汚染環境下での現地調査や復旧作業にアバターロボットを活用することで、汚染源への早期到達、早期の復旧作業が可能になります。

    大型施設内の点検・メンテナンス作業にも活用することができます。複数の場所にそれぞれアバターロボットを設置することで、瞬時に複数の場所を移動して同様の作業を行えますので移動時間を削減できます。

    このように、アバターロボットは、人間がわざわざ命の危険を冒して現地へ行かなくても作業が可能になるように身体を代替してくれます。そのため、人類の生存圏外への活動領域の拡大にも貢献できると考えています。

     

    誰もが制約にとらわれず自分らしく可能性を最大化できる未来をつくりたい

    ―サイボーグ社会では、どのような未来を実現しようとされているのでしょうか?

    僕たちは、サイボーグ技術が普及し、人類の身体的・物理的な制約が解消されることで、人間の創造性を最大限に発揮できる社会が実現できるのではないかと考えています。

    そのため未来に向かって、次の3つの目標を掲げています。

    1つめは、目的に応じて自分の身体を選択することです。たとえば、仕事をする時の身体、スポーツをする時の身体、宇宙で生活する時の身体といった生活シーンでの使い分けなど手足の衰えや欠損を補うだけでなく、新しい身体や感覚器によって自己表現の場を広げることも可能になります。

    2つめは、距離を意識しない世界の実現です。様々なシーンでアバター技術の導入が取り上げられていますが、アバター社会が実現するとその場にいながら地球の裏側にあるアバターにログインし作業が可能となります。つまりは、自宅にいながら海外の工場の点検作業や現場の確認や指示が出せるようになるのです。そうなると会社や作業場所へ行かなければならないといった「場所の制約」がなくなり、通勤・出張が減り、好きな場所へ住むことや人口密集問題の解決にもつながることが期待されます。

    3つめは、情報伝達方法の革新です。今は何かを伝えたい時に、頭で考えたことを、言語化し口や喉の筋肉を動かし声を発することで伝えていますが、たとえばBMI技術を利用すると、頭の中で考えただけでコミュニケーションを取ることができます。そのため、一瞬で意思の伝達が可能となり、また、言語化というステップを踏まず考えをより直接的に伝達可能となるため意図も正確に伝わると考えています。

    この3つの目的が満たされたとき、人間と機械が融合、つまり「Melt-in」したサイボーグ技術が実現するのです。

    ―それはどれくらい先の未来になるのでしょうか?

    僕たちはサイボーグ社会の実現に向けたタイムラインを次のように考えています。2020年代から2030年ごろまでを「前アバター時代」とし、アバターロボットの実用化が始まり、市場が拡大していきます。まずMELTINではBtoB分野である危険環境下や遠隔での作業のニーズのある現場を優先し実用化を進め、その後出張やリモートワークなどBtoC分野へも展開し、完全に社会に浸透した未来を作っていきます。

    2030年代からは「アバター時代」とし、車のように一般の方でもアバターを当たり前に所有する時代が到来し、前アバター時代では別々にあった生体信号処理技術とアバター技術の統合が完成しはじめます。2040年代には「サイボーグ時代」が到来し、アバター時代に統合された2つのコア技術をさらにブラッシュアップされた「サイボーグ技術」が完成。高齢者や障がい者などすべての人が生産可能人口となるといったタイムラインを想定しています。

     

    来るべきサイボーグ社会の倫理的な課題解決に取り組む

    ―一方で、人間のサイボーグ化によって生命の在り方や人間の尊厳といった倫理的な問題が発生すると思いますが、リーディングカンパニーとして来るべきサイボーグ社会に向けて、現在はどのような対策をお考えなのでしょうか?

    直近では、サイボーグ・アバター普及に向けた国際的なコンソーシアム(国際サイボーグ倫理委員会 GCEC:Global Cyborg Ethics Committee)を設立して、サイボーグ社会における倫理面の課題解決と、新たに生まれるアバター産業のエコシステムの形成を目指し、産学官連携のプラットフォームの構築を進めています。

    サイボーグ技術は、現代社会の抱える社会課題や産業、生活に決定的なインパクトをもたらす技術であると考えており、GCECでは、アバター技術の研究開発企業、アバター導入ニーズのある企業、省庁、アカデミアをはじめ、一見すると、サイボーグ技術とは関連が薄いと思われてしまう教育、芸術、歴史、都市、宗教、哲学などといった様々な分野の方にも参加していただきたいと考えています。

    -具体的にGCECはどのような活動をされるのでしょうか?

    サイボーグ社会における倫理面の課題には、生命の在り方や進化について、文化・宗教的な観点からはどのような議論が必要か、BMIなどコミュニケーションの変化がもたらす影響、場所の制約がなくなった時の国籍の考え方など、様々な論点があります。こうした課題について、GCECを通じ議論を深めていきたいのです。

    また、サイボーグ技術の社会実装に向けて、サイボーグ技術の導入検討企業や政府に、新たな市場を創出するためのプラットフォームを提供していきます。ニーズ・シーズの発掘やマッチング、実証実験を踏まえたナレッジの集積とリスク対策から政府への働きかけをもとに、ビジネス面では新たな市場を創出するためのエコシステムの形成を推進していきます。

    サイボーグ社会の実現は、僕たちの暮らしに密接に関わりのある、医療・建設・製造・サービス業など様々な産業分野の課題解決にも繋がります。人口減少社会の労働人口の確保といった社会構造変化への対応や、SDGsなどの地球規模の課題解決にも貢献できます。さらには地球上あるいは地球外での人類未踏の領域へ進出し、自然科学の新たな発見に寄与できるかもしれません。こうした、人と機械との有機的な融合が、人類に進化をもたらすと考えて、僕たちは来るべき未来が、人類にとってよりよい未来になるように、倫理面の課題にも踏み込んで、サイボーグ社会の実現に貢献できればと考えています。

    -リーディングカンパニーとしての責任を意識された活動に感銘を受けました。ありがとうございます。

     

    <プロフィール>
    粕谷昌宏(かすや・まさひろ)

    1988年、埼玉県生まれ。3歳の頃から人類の限界を感じ、サイボーグ技術の実用化を目指して早稲田大学理工学部へ。大学院では先進理工学研究科で生命理工学を専攻。修了後、電気通信大学大学院情報理工学研究科 知能機械工学専攻で2016年に博士(工学)を獲得。在学中からパワードスーツや義手、ロボット開発、BMI等で数多くの賞を受賞し、2013年にサイボーグ技術の実用化を目指すべくMELTIN MMIを設立。2018年にアバターロボットのコンセプトモデル「MELTANT-α」、2020年に実証実験機「MELTANT-β」を発表し、世界的に大きな注目を集めている。
     
    株式会社メルティンMMI
    http://www.meltin.jp
    設立:2013年7月19日
    代表取締役:粕谷 昌宏
    資本金:1億円
    事業内容:生体信号・ロボット技術を利用したサイボーグ事業

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