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発明創出AIで知財をもっと身近に!子供発明が日本の未来を救う AI Samurai播磨里江子氏

経営ハッカー編集部
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世界知的所有権機関(WIPO)によると、日本の特許出願件数は年間約31万件で年々減少傾向にある。一方、中国は2018年に日本の約5倍の150万件超にまで急増して世界一の特許大国となった。このままでは日本の国際競争力が失墜してしまう。そんな危機感から株式会社AI SamuraiはAIを駆使して、特許取得業務のイノベーションに挑む。さらにベースの問題である知財教育の裾野を拡げることも重要だ。学校教育にも知財の教育を取り入れ「子供でも特許がとれるほど知財を身近にしたい」と同社 CIPO(知的財産最高責任者)の播磨里江子氏は言う。これまで特許といえば、弁理士が膨大な文献から類似特許を調査し、難解な用語を駆使して数十ページの申請書を作成、多くの場合申請まで数ヵ月、さらに申請から受理まで早くても1~2年程度かかるのが一般的だった。しかし、同社の「AI Samurai」は、アイディアを入力するだけで誰でも特許の取得可能性について審査シミュレーションをし、自身の発明創出内容を見える化できる。しかも、現在開発中の「明細書作成支援AI」では、半自動で申請書が作成できるため、例えば発明教室に参加する小学生でも特許申請ができる。これにより最短1か月のスピード審査に持ち込むことも可能という画期的なプロダクトなのだ。そんな内閣府、特許庁、弁理士会も注目する「AI Samurai」が切り拓く人とAIが共創する社会、子供発明の人材育成の取り組みをAI Samurai播磨氏に聞いた。

目次

    特許庁も推進する企業の知的財産戦略を担うCIPO(知的財産最高責任者)とは?

    ―はじめに事業内容をお聞かせください。

    当社は特許に関するAIシステムを開発している会社です。

    AI Samuraiは、特許庁が公開する特許情報をデータベース化し、類似する先行技術の事例をもとに出願予定の特許が取得できる可能性をランク別に評価する特許審査シミュレーションシステムです。従来、数週間を要していた先行技術調査が数秒でできるだけでなく、発明を生み出していくだけで各発明が強さに応じて武将や侍といったキャラクターに変身して、知財マップ表示できるという、ゲーム感覚で直感的に利用できるのが特長です。

    企業の知財担当者はもちろん、知財について詳しくない方でも使えるように開発を進めています。こうした点が評価され、2019年度グッドデザイン賞、第4回JEITAベンチャー賞にも選出されました。

    ―ところで、播磨さんは当社のCIPOという役職を担われていますが、日本ではまだ馴染がない肩書ですよね。

    そうですね。CIPOとは「知財財産最高責任者」の略で、企業の知財戦略の責任者のことです。海外企業では知財を重視する企業の多くが採用しており、数年ほど前から日本の特許庁も企業にCIPOを置くことを推進しているのですね。

    ―特許庁がCIPOの設置を推進しているのは、どのような背景があるのでしょうか?

    その背景には、知的財産が企業経営に与える影響が年々大きくなり、「管理としての知的財産」から「戦略としての知的財産」への意識改革がなされていることにあると思います。

    我が国における知的財産の問題として、例えば日本の国際特許出願件数の低迷があります。

    2000年代初頭、日本の特許出願件数は年間50万件ほどあり、世界一の水準を維持していました。しかし、その後日本は特許件数は低迷を続け、今や年間約30万件を下回る水準にまで落ち込もうとしています。2005年に米国に世界一の座を明け渡し、2010年以降は中国が圧倒的な特許大国に成長しました。2018年時点で中国の特許出願件数は日本の約5倍の年間154万件にまで達しています。

    こうした中、買い集めた特許で他社を訴えるパテントトロールと呼ばれる企業も増加しており、米国では中小企業も弁護士等と知財戦略を練り、特許侵害リスクを避けることが一般的になっています。

    翻ってみれば日本企業も国内にいながら知財リスクに晒されているとも言えるわけです。しかし、多くの中小企業には知財に専念できる担当者が少なく、「人もいないし、知財など気にしている暇などない」という意識の企業が多いのが実際のところです。そもそも日本人の多くは知財にほとんどなじみがなく、学校でも教育されてこなかったことから、企業でさえ知財をさほど重要視していないのが実情なのではないでしょうか。

    私たちは、日本のこうした現状を変えていくための中長期的な視点からAI Samuraiというツールを開発しました。そして、AI Samuraiを活用した草の根の知財教育を展開するために、まずは子供たちを対象とした「発明寺子屋」というワークショップを開催して人材育成にも取り組んでいます。

     

    小学生でも特許申請できる!?発明寺子屋で特許の敷居を限りなく低く

    ―「発明寺子屋」というのはどのような活動なのでしょうか?

    発明寺子屋は、ワークショップ形式で若い世代の問題解決力やイノベーション創出力を高めていくプロジェクトです。一見難易度の高そうな「発明」や「特許」を楽しみながら体験・学習する場を提供しています。日本の未来を担い、世界を変えていく子供たちの想像力の芽を大切に伸ばすために、素朴な疑問や問題意識をポジティブにとらえ、「誰かのために」という自らの思いや考えを表現できるような人材を育むことを目的にしています。

    これまで、「こたえのない学校【発明×探究】ポラリスこどもキャリアスクール」「子ども発明学教室」などを開催し、いずれも子供たちの活発な学びの場として大きな反響を頂いてきました。

    「発明寺子屋」という名称には、江戸時代の寺子屋のように、地域の大人たちが各分野のプロフェッショナルとして学びを提供し、一人一人に合わせた指導で子供たちが楽しく学べる環境を作りたいという思いが込められています。

    ―具体的にはどのような活動をされているのでしょうか?

    たとえば、2019年末に開催した「こたえのない学校」主催の発明寺子屋では、20名の小学生たちに発明教室を開催しました。まず、校内で「誰がどんなことで困っているか」を洗い出し、それを「どのようにすれば解決できるか」をディスカッションして、最終回でその「発明」を発表していただくといった演習が中心です。演習の過程では、発明をAI Samuraiで評価して、評価が低い場合にはどうすれば評価が高くなるかグループで話し合って発明に磨きをかけるという取組も行われました。AI Samuraiの評価に意気消沈する子供もいましたが、先生や親の評価ではなく、普段とは違った「AI」という率直な評価結果を受け止め、真剣に取り組んでいる姿が印象的でした。また演習の最後は、希望があればチームや個人が特許申請ができるという非常に実践的な全3回のワークショップでした。

    AI Samuraiでは、このようにして子供が考えた発明を画面から入力するだけで、特許出願用の書類に自動的に出力できる「発明創出支援AI」を開発中です。この申請書を弁理士の先生や知財を学ぶ学生さんなどがチェックして修正をし、印刷して印紙を張り、特許庁に提出するだけで、特許出願ができてしまうのです。2019年冬に開催した時は、7グループのうち5グループが特許申請をして、現在「特許出願中」の状況です。

     

    実際にはこのように子供でも特許申請ができるわけです。しかし、これまでの日本の特許申請は、難解な用語が多く、申請者本人が読んでもわかりにくいというのが当たり前でした。発明教室にいらした親御さんにお話を伺っても、まさか自分の子供が特許を出願できるとは思っていなかったと口々におっしゃいます。やっぱり特許は遠い世界で敷居が高い。今後、AI Samuraiや発明寺子屋の活動によってもっと特許が簡単で身近になれば、子供でも主婦でも特許が申請できるようになります。もちろんベンチャーや中小企業にとっても敷居が低くなります。私たちは、このように未来を担う子供たちが当たり前のように特許を出願できる環境となるプラットフォームを構築したいと考えているのです。

     

    発明創出AIで人間とAIの共創社会を実現したい

     ―今後の展開についてお聞かせください。

    直近では、2020年春に「春休み発明寺子屋」を開催します。このプログラムは、現在特許庁で無料公開されている「IP Samurai」を使って、多くの子ども達に発明の経験をしてもらうという内容のものです。春休み期間中のちょっとした時間でも、「誰かのために」という想いがあれば誰でも発明はできる、ということを体験してもらいたいと考えています。

    さらには、よりエンターテイメント性を高めて楽しさを感じてもらうために、某アニメ製作プロダクションとのコラボレーション企画も検討しているところです。こうした様々な取り組みを進めて、知財をより身近なものにしていきます。

    ―中長期的にはどのようなビジョンを目指しているのでしょうか?

    私たちは、AI Samuraiをインフラとして、人間とAIが共創する社会を実現したいと考えています。つまり、人間が考えた発明をAIが判定して、もっとこうしたほうが良いのではないか?という新たなアイディアが提案できるようになれば、人間とAIが一緒に発明を生み出していくイノベーティブな世界が実現できます。私たちはこのようなことができるAIを「発明創出AI」と命名しました。

    このように、発明創出AIの開発と発明寺子屋などの人材育成の取り組みを同時に進めていくことで、誰でも特許が身近になり、皆が知財を理解ができる社会を実現したいのです。知財戦略というと知財ポートフォリオなど特許を単純に群として捉えてしまいがちですが、特許には1件1件に意味があり、そこには誰かの役に立ちたいという物語があります。こういった発明に宿る1つ1つの想いを大切にしていきたいと考えています。

    ―未来を担う子供たちが日本のイノベーション社会を牽引してくれることを願っています。本日はありがとうございました。

     

     

    <プロフィール>
    播磨里江子(はりま・りえこ)

    株式会社AI Samurai(旧ゴールドアイピー)取締役CIPO、弁理士、東京都医工連携HUB機構APM、日本弁理士会知財教育支援委員
    慶應義塾大学理工学部卒・大学院修了(管理工学科)。小学生のときに海岸でテトラポットを見て「特許」を知り、在学中に弁理士資格を取得。修士課程で技術的距離による特許評価指標の研究を行う。特許事務所及び企業知財部を経た後、2016年に株式会社AI Samuraiの取締役に就任。

    株式会社 AI Samurai
    URL    https://aisamurai.co.jp/
    本社 :〒100-0004 東京都千代田区大手町一丁目6番1号 大手町ビル4階
    AI技術融合開発研究所    :〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2-8 大阪大学吹田キャンパス 産学共創B棟506号

    事業内容
    ・人工知能技術の開発
    ・人工知能技術製品の販売
    ・特許調査、技術調査

    設立日:2015年9月11日

    資本金:4億9,978万円(2019年8月31日時点)
    株主
    白坂 一、その他弊社取締役
    大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社
    未来創生ファンド
    SMBCベンチャーキャピタル株式会社
    日本技術貿易株式会社
    ナントCVC2号投資事業有限責任組合
    みずほキャピタル株式会社西武しんきんキャピタル株式会社三生キャピタル株式会社
    横浜キャピタル株式会社
    きらぼしキャピタル株式会社

    技術顧問
    大阪大学 鬼塚 真 教授
    中嶋 謙互 05年IPA未踏ソフトウェア創造事業「天才プログラマー/スーパークリエータ」認定

    産学連携
    大阪大学大学院情報科学研究科 鬼塚真研究室
    北陸先端科学技術大学院大学 知識科学研究科 神田陽治研究室
    鳥取大学医学部附属病院新規医療研究推進センター 研究実用化支援部門 植木賢教授
    顧問弁護士
    ディーエルエイ・パイパー東京パートナーシップ
    外国法共同事業法律事務所
    石田 雅彦 弁護士
    フォーサイト総合法律事務所 代表パートナー弁護士
    大村 健 弁護士

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