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2020年04月17日(金)

iPhoneのようにアップデートする家づくりで住宅流通革命を! SOUSEI Technology乃村一政氏

経営ハッカー編集部
iPhoneのようにアップデートする家づくりで住宅流通革命を! SOUSEI Technology乃村一政氏

政府は10年前に住宅政策を大転換した。これにより「つくっては壊す」新築中心から、「良いものを手入れして長く使う」既存住宅中心の社会に移行するはずだった。しかしながら、未だに年間住宅流通件数が約100万戸、うち新築が85%、中古が15%程度です。中古住宅が占める割合が87%の英国、83%の米国と比べても極めて低い水準だ。背景には、日本の新築・永住神話、短い住宅寿命、未発達の中古市場などの要因がある。さらに深掘っていくと、その根は既存住宅の価値評価や、価値向上が出来ていないところにある。であれば、家の価値を証明する住宅履歴を残し、家をアップデートしながら育てて、住宅の価値上げをする仕組みをつくればよい。その問題に気づいたのが株式会社SOUSEI Technology乃村一政氏だ。ヒントはiPhoneにあった。iPhoneのように、ユーザー履歴を蓄積し、アップデートする住宅が創れないか?。ハードはそれほど変わらずとも、家の内部にOSのような住宅頭脳が宿り、IoT機器を導入して機能を追加するほどに家が進化していくー。そんな理想の家づくりを模索する中、なんとApple元副社長のトニー・ファデル氏がすでにその住宅頭脳を開発しているという。これに衝撃を受けた乃村氏は、いてもたってもいられず、米国在住のファデル氏への直アポという行動に出た…。果たして、住宅頭脳の開発には成功したのか?住宅流通の根本問題に斬りこむ乃村氏に、近未来の家づくりと住宅流通革命への意気込みを聞いた。

住んでいるだけで機能が増やせる「住宅頭脳」と成長していく家創り

ーはじめに事業内容をお聞かせいただけますか?

株式会社 SOUSEI Technologyは、住宅価値の維持向上を目的としたプラットフォーム、アプリケーションサービス、IoTデバイスの開発を行う会社です。主に、家に関するあらゆる情報をスマートフォンで管理できるマイホームアプリ「knot」の開発運営と、家の頭脳となるIoTデバイスHOME OS「v-ex」の開発運営を行なっています。

マイホームアプリ「knot」は、住宅の詳細な履歴を蓄積していくためのツールです。マイホームが完成するまでの図面や施工の進捗確認、引き渡し後の取り扱い説明書やメンテナンス、あるいは増改築など膨大な住宅の履歴情報を一元管理できるアプリです。家づくりのプロセスを共有することで施主と住宅会社のコミュニケーションツールにもなり、ユーザーの満足度は格段に上がります。

 一方、住宅のアップデートの機能を担うのがHOME OS「v-ex」です。ハブとなる端末を設置し、エアコン、照明、テレビなどのIoT家電や住宅設備を、音声もしくはスマートフォンアプリから操作することができるオペレーションシステムです。もちろん、温度・湿度・照度・気圧など住環境のモニタリングにも役立ちます。機器の取付や初期設定までワンストップで提供しているため管理の手間は一切不要です。設置後も様々なIoT機器を増設できますので、住んでいるだけで機能を増やせる「成長していく家創り」を体感いただけます。

元Apple副社長の住宅テックベンチャーに突撃訪問、iPhoneのような家づくりを学ぶ

―乃村さんは吉本興業の学校(NSC)の出身だそうですが、どのような経緯から住宅業界で起業されたのですか?

実家は裕福ではなく、私は欲しいものも買えない環境で育ちました。だからお金がなくても楽しめるものといえば笑いしかなかったんですね。笑いは貧乏にも勝つし、悲しみも消す。病気が治る人もいる。「笑って、楽しい」という感情は、他のどんな感情にも勝る「感情優先度」が高く、もの凄い力がある。子供ながらに、そう気づいてから、どんどんお笑いにハマり、高校時代には他校の文化祭でも漫才のお呼びがかかるようになったんです。その勢いで高校3年の時に芸人になりたいと思い、吉本興業の学校(NSC)の面接を受けてみました。すると結構な倍率だったのに受かってしまって、お笑いの道に入ったんですね。

とは言え、芸の道は険しく、途中で挫折もしながら24歳まで頑張ったのですが、漫才では頂点はとれなさそうだなと気づきました。転職と言っても当時の僕は、企業というと、住宅会社くらいしか思いつかなかったので、採用してくれた住宅会社に就職して、営業マンになったんです。

漫才というのは、コントを演ずる対象人物になりきります。そこで、トップセールスマンだったらこんな営業トークするだろうなとか、漫才をしていたときのように色々ネタを考え演じてみました。そうしたら演じた通り、本当にトップセールスマンになれてしまったんです。

住宅の素人ならではの気付く点も多く、さらに会社の売上を伸ばそうと思って、様々な集客施策を提案したのですが、自分の奇天烈なアイデアは中々理解されませんでした。結局、ひとつも採用されませんでしたね。そんな日々を過ごす中、29歳になった時に「自分はもっと人をあっと言わせて喜ばせ、世の中を変えるようなことをしたいんだ」と気づいたんですね。それで、やるなら土地勘もあって大きなことができそうな住宅業界で起業しようと決めて、実家のある奈良で工務店を立ち上げたという流れです。

―地場の工務店から、住宅テックにシフトした経緯は?

2010年に工務店を立ち上げてからは、2年でエリアNo1の工務店に入るまでに成長したのですが、この時も、いや待てよ、自分は工務店でNo1になるのが目標じゃないんだと気づいたわけです。 

ちょうどその頃、iPhoneが普及し始め、私はその仕組みに衝撃を受けていました。iPhoneはOSをアップデートしてアプリを入れ替えればずっと最新の状態で使い続けられる。様々なサービスのプラットフォームとなり、新機能を追加すれば、どんどん成長していく。ところが、家の場合には完成時が100点で、それから資産価値が年々低下し、リフォームしても価値は下がり続ける。だったら家にもOSのような頭脳があって、必要に応じて機能を追加していけるようになればいのにと思い、iPhoneのようなアップデートする家を創りたいと思うようになったんですね。

それからは独学でIoTデバイスや通信のことを必死で勉強しました。そんなある日、知り合いのエンジニアから、Appleの元副社長トニー・ファデルが立ち上げたnest labというサーモスタットベンチャーが「住宅頭脳」を創っているという情報を聞きつけました。いてもたってもられず、ホームページの問い合わせフォームから、「日本で住宅頭脳を作ろうと思っている者なのですが意見交換しませんか?」というメールをだめもとで送ってみたわけです。すると4日後に何と「CEOが会ってもいいと言ってますよ」という返信があり、その2カ月後、2012年4月にトニー・ファデル氏に会うためにアメリカに渡りました。

現地では、トニー・ファデル氏直々に、本当にいろいろと教えていただきました。帰り際、「日本に進出予定はありますか?」と聞いたら、住宅は地域別にローカライズされているので進出の予定はないという話でした。よし、これはチャンスだと思い、早速、東京でITベンチャーを立ち上げ、エンジニアを採用して住宅頭脳となるIoTデバイスを開発し、翌2013年にリリースしました。

 

自分が施主になり初めて見えた全く違う世界

―住宅テックの事業は順調に立ち上げることができたのでしょうか?

それが、紆余曲折ありまして(苦笑)。当時、私たちの取り組みは先端的で話題性もあり、メディアに大々的に取り上げていただきました。大手ハウスメーカーさんからも数万件の単位で受注もいただいて、これはいけると踏んでいました。 

ところが、その矢先に、私たちが販売促進施策として見込んでいたHEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)の補助金制度の廃止が発表されたのです。大手ハウスメーカーさんはこの補助金制度を利用してお客様に無料でデバイスを提供できると見込んでの契約でしたので、白紙に戻ってしまい、私たちはなす術もなく、新会社は廃業せざるを得ませんでした。

その途端、本業の工務店は順調だったにも関わらず、取引銀行すべてに融資を引き上げられてしまいました。これはまずいということで、とにかく会社を存続させるために、自分の家を建ててまで受注実績を確保することにしました。

実はこのとき初めて自分が施主になったわけですが、これまで何百棟もの家づくりに関わり、住宅を知り尽くしていたはずなのに、いざ施主の立場になった途端、大変な不安に苛まれて…。「ローンを返せなくなったらどうなるんや」、「そもそもなんでこんなに書類が多いんや」、「何でこんな重要な情報が記録に残らず電話一本で済まされてるんや」とか、これまでとは全く違う世界が見えてきたんです。

―ユーザーの立場にたったらプロダクトのヒントが見えてきたということですね。

そうなんですよ。そこで、とにかく家まわりのあらゆる情報をiPadに入れ、一元管理することにしました。Evernoteに写真や必要書類もすべて格納して、施工会社とのやりとりもすべてチャットでできるようにしました。そして、もし将来、家を売ることになったら、iPadも一緒に渡してあげてくださいね、そうすれば住宅の価値も高まりますよ、というお客様向けのサービスを始めたんです。そうしたらこれが評判になって紹介が紹介を呼び受注件数が飛躍的に伸びたんですね。これが今のマイホームアプリ「knot」の開発の背景です。

そもそも中古住宅で新築時の情報が残っている物件は全体の1割しかありません。中古住宅を買う場合、不動産会社からは間取り図程度の情報しか入手できず、あとは現地で確認してください、という物件が多いのが現状です。でもこれでは数千万円もかけ中古住宅を買う対価に見合ったサービスが提供されていないうえに、物件の価値を正しく伝えられるはずもない。こうした経験があって、やっぱり日本の住宅はiPhoneのように、全ての情報が一元管理できて、しかもアップデートを繰り返しながら、家も成長させて価値を高めていく必要があると確信しました。

―物件の評価情報の蓄積だけでなく、家もアップデートするものでなくてはならないと?

その通りです。そこで、もう一度住宅テックで勝負しようと、2015年に大阪オフィスを開設し、2016年にアプリとデバイスの開発に着手することにしました。まず先にマイホーム管理アプリ「knot」のベータ版を2017年にリリース、2018年に分社化をして当社を設立。この時点で本業の工務店は県でトップ3に入るまでに成長していたので、これを機に事業承継をして、私は当社一本で再スタートすることにしました。さらに、いよいよ2019年に住宅頭脳とも言えるIoTプラットフォーム Home OS「v-ex」をリリース。また、「v-ex」を汎用的なものにするため住宅業界に特化したオープンプラットフォームの企業ネットワークHOME OSアライアンスの創設に至りました。

住宅IoTのゲートウェイ化を実現する 「HOME OSアライアンス」で未来住宅のUX(ユーザー体験価値)を

―HOME OS「v-ex」と「HOME OSアライアンス」とはどのような相乗効果があるのでしょうか?

先ほど少しご説明しましたが、HOME OSは、iPhoneでいえばiOsのようなもので、住宅の頭脳とも言える、様々なIoTデバイスを統合的に動かすオペレーションシステムです。そのHOME OSを搭載したデバイスがHOME OS「v-ex」で、iPhoneを使うように家を集中管理できるプラットフォームとなるデバイスです。そして、「HOME OSアライアンス」というのは、私たちの住宅用のHOME OSの思想に賛同していただける企業さんとの提携ネットワークのことです。

なぜHOME OSアライアンスのようなネットワークが必要かと言いますと、日本の様々なデバイスメーカーは、利用者の囲い込みを図るため各社独自の通信規格を採用することが多く、さらには同じ建材メーカーでも、商品ごとにデバイスの通信規格が違うことがある。それが各社ごとにバラバラで、導入する住宅会社からすれば複雑極まりない。実際に、1棟家を建てる際は、玄関ドアはA社、サッシはB社、インターフォンはC社といった使い分けをするのが一般的で、1棟まるごとA社の製品を使うということは現実的にあり得ません。

これが実情ですので、住宅用IoTデバイスを導入する住宅建築会社の立場で考えれば、せめて通信規格は統一するか、もしくは規格が異なっても気にすることなく使えるようにして、施主の方が家をまるごと簡単に管理できるようにして引き渡しをしたいわけです。こうした趣旨に賛同してくださる住宅関連企業さん等との提携の輪を広げているのが、HOME OSアライアンスです。現在、全国で350か所の住宅展示場運営会社でHOME OSを目玉として採用していただき、新しい家のあり方をUXとして体験していただけるようになっています。

 

もっと家は自由でいい。想像以上の創造で住宅流通革命を起こしたい

―今後の展開を教えてください。

今後、3年以内に住宅業界はIT化が急速に進みます。今、まさに家づくりのプロセスが急速にIT化し、家そのもののIT化も始まっています。 

住宅業界は自動車業界の流れを後追いする傾向があります。たとえば、自動車業界は、ハイブリッド・電気自動車といったテクノロジーを駆使して環境負荷を低減した車づくりにシフトしています。住宅業界も、次は、ZEH (ゼッチ)と呼ばれる Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の時代になるでしょう。 テクノロジーを駆使して断熱性・省エネ性能を上げ、太陽光発電などでエネルギーを創り、エネルギー収支をプラスマイナス「ゼロ」にする住宅です。

このような高機能住宅が普及していくと、住宅内のIoT機器や設備を連携させるプラットフォームが欠かせません。さらにユーザー目線で考えれば、異なるメーカーの製品の様々なデバイスをシームレスに繋ぐことができるゲートウェイが必要になります。その時、HOME OSは住宅業界に必要不可欠なプラットフォームとなります。ここに到達するために、まずはHOME OSの認知度を高めるべく分譲住宅を手掛けるハウスメーカーさんを中心に導入を進めます。その次のステージで注文住宅への展開を想定しています。

ーなるほど。住宅業界の未来を見据えて、着々と手を打たれているのですね。では、さらにその先にある、未来の家づくりや住宅業界はどのようになっていくとお考えでしょうか?

未来の家づくりや住宅業界は、私たちが考えている以上に大きく進化することになるのではないでしょうか。「想像以上の創造を」という当社の理念もそうですが、実際に私自身2年前には自分でも想像していなかったような人生を歩んでいます。せっかく生きているんですから、私が生きているうちに、お世話になっている住宅業界をさらに発展させたい。そのために、私は住宅流通を倍増させるようなインパクトのある住宅流通革命を起こしたい。iPhoneのように住みながら家が育ち、快適に暮らしながら住宅の価値が高められれば、住む人も、あぁ楽しいと思って暮らせます。ライフスタイルの変化にあわせて住み替えがしやすい流通システムができ、人生で家を二度買うのが当たり前になれば住宅流通は倍になります。これなら私の人生を賭ける価値がある。そして、自分の想像を超える未来を見届けて、私も、あぁ楽しかった、と思いながら、この世から消えたいなと思っています(笑)。

 

 

<プロフィール>


乃村一政(のむら・かずまさ)
1976年奈良県生まれ。
高校卒業後、吉本興業で芸人活動を経て、2006年奈良県の住宅工務店に入社。54区画の街づくりの総責任者として実績を挙げる。
2010年、奈良県香芝市でSOUSEI株式会社を設立。デジタルを活用した新しい集客・接客スタイルを強みに、2年で地域ナンバーワンの工務店に成長する。2012年からIoT分野に着目し、住宅用OS「v-ex(ベックス)」の開発に着手。2014年、自身の家づくり体験をきっかけに、マイホームの情報を管理できるアプリ「 knot(ノット)」の開発に着手。
2018年8月、IT部門を分社化し、住宅株式会社SOUSEI Technologyを設立。住宅業界に特化したスタートアップとして、住宅プラットフォームサービスを展開している。

株式会社 SOUSEI Technology

https://sousei-tech.com/

資本金 779,280,957円(資本準備金含む)
代表取締役 乃村 一政
所在地 〒107-0052 東京都港区赤坂6-4-10 赤坂ZENビル4F
事業内容
・住宅IT事業
・HOME OS「v-ex」開発(Amazon Alexa対応)
・マイホームアプリ「knot」開発・運営

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