2020年04月20日(月)1ブックマーク

水のマイクロプラットフォームで地球規模の水問題の解決に挑む ワイズグローバルビジョン代表 柳瀬善史氏

経営ハッカー編集部
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2050年、地球規模の人口爆発で深刻な水不足が懸念される中、海水を淡水化する技術に世界の期待が集まっている。海水淡水化市場は2025年に4.4兆円と予測され、日本政府も海水淡水化プラントのインフラ輸出に乗り出した。片や膨大な需要がある世界中の船舶、土木工事現場、農業などの事業用水は全くの手つかず状態だ。ここに着目したのがワイズグローバルビジョン株式会社の柳瀬善史代表だ。柳瀬氏らが開発した「超小型淡水化装置」は、ミカン箱サイズながらNASAが開発したろ過システムを応用して特許を取得。家庭用電源があれば1日あたり約1トンの海水・淡水を浄化する優れモノだ。国土交通省のNETIS(新技術情報提供システム)認定を取得し、国連機関のウェブサイトにも紹介されているこの装置は、ソーラー・風力などの自然エネルギーでも稼働でき、場所を選ばずコミュニティ単位でクリーンな水を自給可能な分散型水供給のマイクロインフラと言える。さらには、この装置をIoTデバイス化し、世界中の水質データを収集、ビッグデータ化すれば水資源モニタリングのプラットフォームとなる可能性を秘めている。水を制する者は世界を制す。地球規模の深刻な水不足、食糧危機も見据えた柳瀬代表に水のマイクロインフラ・プラットフォーム構想とその先にあるサステナブル社会とイノベーションの可能性について聞いた。

 

目次

    世界最小クラスの海水淡水化装置、地球上のどこでも使えるマイクロインフラ

    ーはじめに御社の事業内容をお聞かせください。

    当社は、世界中で海水や河川水などから安全な水をつくることができる小型の海水淡水化装置を製造・販売しています。 

    海水淡水化装置といえば、大企業が政府系のプロジェクトで巨額の投資をして大型海水淡水化プラントを建設し、深刻な水不足に悩む発展途上国などで大規模なインフラ整備事業を行うのが一般的です。しかし、実際に水を必要としているのは、そうした発展途上国だけでなく、もっと私たちの暮らしに身近なところにもあります。たとえば、土木工事現場、農業用地、船舶、災害時など、上水道のインフラがないエリアでは、産業用水や飲料水の需要が膨大にあるのです。

    こうしたニッチな無数のニーズに応えるために、私たちは、巨大プラントに依存することなく、日々の暮らしや仕事の現場、コミュニティ単位で水道水レベルのクリーンな水をいつでもどこでも生成できる海水淡水化装置の開発に取り組んできたのです。

    現CTO大嶺氏との運命の出会いが人生を変えた、海水淡水化市場の可能性に惚れ込み創業を決意

    ー柳瀬さんは以前商社マンだったと伺っていますが、どのような経緯で海水淡水化事業で起業されることになったのでしょうか?

    私は代々事業家の家系に生まれましたので、子供の頃から自分もいずれ起業するのが当たり前というマインドで教育を受けてきました。実際に起業を意識したのは大学時代で、自分が起業家になるには、まず商社に入り、起業家として必要なビジネスの肌感覚を学ぶことが重要だと考え、伊藤忠商事に就職しました。

     伊藤忠商事では、主にブランドやM&A事業などのライセンスビジネスを中心とした業務に携わり、事業成功の要諦はビジネスの上流工程、権利を押さえることだということを学びました。また、ゼロイチで事業を創り出し、「生みの苦しみ」を乗り越え、何とか事業を軌道に乗せたときの喜びも知ることができました。このような経験を経て、自分は単に起業をしたいのではなく、世の中にイノベーションを起こせるような社会的インパクトがある事業をしたいのだと気づいたのです。

    ーそのような気づきがあった後、海水淡水化技術にはどのように出会われたのですか?

    その後、起業する事業領域を探索するためアクセンチュアで様々な業界のコンサルティングに携わり、セシールでは新規事業案件の発掘を担当しました。そんな或る日のこと、とある沖縄の会社からウォーターサーバーの販売代理店ビジネスに興味が無いかという話しが舞い込んできたのです。当初、ウォーターサーバービジネスは東日本大震災の影響でいくつかの企業が手掛けて市場もかなり大きくなってはいましたが、私はその案件にはあまり興味がなくお断りしたのです。ところが、後日、私が元商社マンだということを聞きつけたその沖縄の会社から連絡があり、実は本当にやりたいのはウォーターサーバーの販売ではなく、海水淡水化装置の開発なのだが相談にのってもらえないだろうかと持ち掛けられたのです。その会社の会長さんが後に共同経営者となる当社会長兼CTOの大嶺だったのです。

    沖縄は昔から水不足に悩まされてきました。そのため一般家庭にも自家用の給水タンクがあります。今では断水はほとんどないようなのですが、歴史的に沖縄の方は水が枯渇することに危機意識をお持ちです。水への憧れが大変強い。こうした背景もあり、大嶺は大型プラントから供給される水に頼るのではなく、離島や遠隔地の集落や家庭でも海水を淡水に変えて水を自給できる装置を独自に研究していたわけです。

    ただ、この時点で、海水淡水化装置は影も形もなく、まだ製品化できる前の段階でした。しかし、私はもしも小型の海水淡水化装置が完成すれば、これは非常に大きな可能性があるのではないかと直感したのです。早速現地に飛んで大嶺から構想について詳しく話を聞きました。話を聞けば聞くほど、この超小型海水淡水化装置の可能性が広がり、市場の未来がまぶしく見えてきました。そして遂に「どうしてもやりたい」「この事業に賭けてみよう」という衝動に突き動かされ、何とか開発資金をかき集めて当社を設立したのです。まさに大嶺との出会いが私の人生を変えたのです。

    ーなるほど。大嶺氏との運命的な出会いが当社の原点なのですね。ところで、創業後、開発は順調に進んだのでしょうか?

    それが当初の数年間は海水淡水化装置の開発がうまく進みませんでした。何度も試行錯誤を繰り返し、投資家さんから集めた3~4億円もの資金をすべて試作機の開発につぎ込まざるを得ませんでした。当然ながら金融機関の理解も得られず資金繰りに窮し、まさに暗黒の時代でした。しかし、それでも家庭用商材を開発して細々と販売しながらなんとか窮状を凌ぎ、ここ数年で開発に成功して特許を取得することができました。遠回りはしましたが、その後、販売も順調に推移し、今、ようやくメディアにも取り上げていただけるようになりました。

     

    国土交通省のNETIS(新技術情報提供システム)にも認定、海外船舶や途上国でも導入

    ー御社の小型海水淡水化装置はどのような特長があるのでしょうか?

    小型海水淡水化装置MYZシリーズは、高性能、世界最小・最軽量クラスのコンパクトさ、低価格が特長です。
    持ち運びができるほどのコンパクトさでありながら、非常に高性能で、海水から塩分を除去するだけでなく重金属などの汚染水や泥水なども濾過(ろ過)することができます。しかも、その水質は、厚生労働省が定める水道法の水質基準をクリアするほどのクリーンな真水に変えることができるという万能性のある浄水装置です。

    この水質を実現できたのは、NASAが開発したRO膜(逆浸透膜)ろ過システムの技術を応用しているためです。逆浸透膜ろ過システムは海水に高圧をかけて塩分と水を分離する高度な技術を要します。そのため従来は大型海水淡水化プラントでなければ実現が難しかったのですが、私たちは超小型格納容器(ハウジングケース)を用いた淡水化装置での逆浸透膜ろ過システムの開発に成功し、特許を取得することができました。

    最新モデルのMYZ-E40は、このような高性能なろ過技術を搭載しながら、ミカン箱サイズで50kgという持ち運びも容易な世界最小・最軽量クラスのコンパクトさを実現したのです。

    また、100Vの家庭用電源があれば稼働でき、ソーラー、風力などの自然エネルギー発電でも稼働しますので、災害時、遠隔地、途上国などの電源インフラが未整備のエリアでも水道水レベルのクリーンな水を供給し続けることが可能です。

    しかも、価格が一般的な海水淡水化装置の1/2~1/3ほどの価格で提供できるため、いつでもどこでも誰でも使える分散型の超小型の水供給インフラ、つまり水のマイクロインフラとも言える画期的な装置なのです。

    ー汚染水や泥水でも飲めるようになるとは驚きですが、超小型淡水化装置は、現在、どのような場所で利用されているのでしょうか?

    建設業では、スーパーゼネコンや大手マリコンさんなどの工事現場でご利用いただいています。従来、土木工事用水は、工事現場から離れた場所で水を調達して運搬しないといけないケースもあるため、運搬コストや水運搬車両の事故発生リスク等の課題がありました。そこでMYZシリーズを工事現場単位で導入いただいたところ、近隣の海や河川から容易に工事用水を取水することができるようになり、その課題の多くが解決されたそうです。このような事例が評価され、国土交通省のNETIS(新技術情報提供システム)にも認定されましたので、今後、多くの工事現場で使用されることになると思います。

    他には、船舶では、沖縄含めて全国数十隻の船舶に導入いただいており、小型船舶製造販売大手のヤンマーさんとの提携やカタログへの採用も実現しました。

    海外では、10ヶ国以上出荷実績がありますが、なかでもパプアニューギニアでは、風力・ソーラーなどの自然エネルギーを動力源として海水淡水化装置を利用してくださっています。国連専門機関 国際連合工業開発機関(UNIDO) のウェブサイトでも当社の海水淡水化装置の紹介ビデオも公開していただいており、徐々に海外でもご利用いただけるようになってきました。

     

    世界中の水資源のモニタリングデータが地球規模の課題を解決する ~水のマイクロプラットフォーム構想

    ー今後の展開はどのように考えていますか?

    今後は、まず、超小型淡水化装置を他社が追随できないレベルまで小型化軽量化していきます。そして、小型海水淡水化装置をマイクロインフラとするべくIoT化し、機器自身の状況のみならず世界中の水質をピンポイントでモニタリングしたデータを収集、ビッグデータ解析し、業界別のソリューションとして提供するプラットフォーム事業を展開していく予定です。

    ーどのような業界別のソリューションを想定されているのでしょうか?

    たとえば、漁業では、昔の漁師さんは海水で歯磨きをする際に、塩分濃度などを舌で判断して漁場の状況を推測していた方もいらっしゃったそうです。現代であれば、私たちのデバイスで水質を計測して、洋上に点在する多数の漁船で収集した水質データと比較分析した結果、燃料代を考慮して導き出した最適な最寄りの漁場をナビゲートするようなサービスが可能となるでしょう。

    農業・畜産業では、酪農家さんからお聞きした話では、牛はおいしい水を大量に飲むと胃が大きくなり食欲が増進するため肉質が良くなるそうですし、トマト農家さんからは散水する水に亜鉛や銅やマンガンなどが多く含まれると収穫量が半減してしまいうといった課題をお聞きしています。つまり、水質のモニタリングが様々な産業の生産性をコントロールするために重要なファクターになり得るのです。即ち、超小型淡水化装置のIoTデバイスで取得した水質のデータと生産量などの相関分析をして水質に応じた対策を講じて最適化を図れば、より安定した食品の生産が可能となりフードサステナビリティにも繋がる貢献ができるのではないかと思うのです。

    さらには、建設業や製造業においては、先ほどの建設業の事例のような事業用水の取水の確保に伴う生産性向上のみならず、排水処理後の水質のクリーンさを証明する環境配慮のエビデンスも提供できるようになります。

    家庭用水も同様で、取水源でヒ素などの有毒物質が検出されれば途上国などの健康・保健衛生問題の解決にもつながります。日本でも災害時に利用いただければ、ここから何キロ先にはどれだけの水供給能力がある、さらに他のエリアではどれだけ水が不足しているのか、といったグリッドウォーター的な情報提供もできるようになります。

    私たちはこのような水にまつわるミクロスケールのデータを地球規模でモニタリングできる事業に取り組んでいきたいと考えており、既に業界ごとに水質センサーを変えながらIoTデバイスの実証実験を開始しようとしているところです。

    ーでは、最後に、今後の海外展開の予定をお聞かせください。

    私たちはまず日本のマーケットをしっかりおさえた上で、その実績をもって海外に展開していきたいと考えています。日本の漁船だけでも1万隻。年間約2万件もの公共工事、さらには農業用地、防災面での活用も想定すれば、全国のマンションや公共施設なども対象になります。日本だけでもまだこのように手つかずのニッチマーケットがあるのです。 

    そして、その先の海外には、まず近隣のアジア諸国に数十万隻の船舶があります。さらには、船舶以外にも、全世界には離島や遠隔地で淡水資源が枯渇している地域が無数に存在します。これだけでも超小型淡水化装置のポテンシャルが非常に大きいことがご理解いただけると思います。

    世界中に水のマイクロインフラが普及すれば、地球上の水資源が今どのような状態にあるかリアルタイムで把握できるようになります。このようなビッグデータは未だかつてグローバル企業も保有しておらず、地球の水資源のマネジメントをする上で、非常に貴重な情報源になるはずです。私たちはこのデータの出所を押さえることができる水にまつわるマイクロ・プラットフォーマーとしてのポジションを確立したいと考えています。

    近い将来、地球規模の人口爆発や気候変動による深刻な水不足、食糧危機の深刻化が懸念されています。水を制する者は世界を制すという言葉がありますが、世界中に張り巡らされる水のマイクロインフラのネットワークを通じて、全世界の水のビッグデータを集積し、解析結果を社会に還元することで、フードサステナビリティや、様々な産業分野でのイノベーションにも寄与していきたいのです。

    今、私は今人生で最も多忙を極めていますが、毎日ワクワクして楽しくて仕方がありません。水ビジネスは様々なバイアスがかかり批判的・懐疑的な見方をされる場合もありますが、逆にそれをチャンスとして捉えています。私自身、いずれはシリアルアントレプレナーとなり、水をキーワードに様々な業界でイノベーションを起こしていきたい。地球規模の社会問題の解決に資する社会にインパクトを与え続けられるような存在になりたいと願っています。

    ー日本発の超小型淡水化装置による地球規模の課題解決、サステナブル社会の実現に期待しています。本日はありがとうございました。

     

     

    <プロフィール>

    柳瀬善史(やなせ・よしふみ)
    同志社大法学部卒。1996年伊藤忠商事に入社しブランドビジネスやM&A事業に従事。アクセンチュア、セシールを経て2012年ワイズグローバルビジョンを設立し社長。47歳。京都府出身。 International University of MonacoにてMBA取得 。

    ワイズグローバルビジョン株式会社
    http://ysgv.jp/
    設立:2012年9月20日
    資本金:2億7,080万円
    役員:代表取締役 社長 柳瀬善史、取締役会長兼CTO 大嶺光雄、取締役 木本恭次
    事業内容:水のマイクロ・プラットフォーマー事業、小型海水淡水化装置や浄水器の製造販売
    【沖縄本社】沖縄県うるま市勝連南風原5192-47
    【東京本社】東京都港区浜松町1-28-13 浜松町フォーラムビル5F

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