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2020年04月22日(水)

フィンテックはファン獲得の最強のツールだ!「貸付ファンド」で創るフィンコミュニティ~Funds藤田 雄一郎氏

経営ハッカー編集部
フィンテックはファン獲得の最強のツールだ!「貸付ファンド」で創るフィンコミュニティ~Funds藤田 雄一郎氏

フィンテックは単なる金融テックではなく、テクノロジーを媒介して、企業のBtoCマーケティングを革新する可能性を秘めている。金融×ファンコミュニティという概念でこれを実証しようとしているのがFunds株式会社(旧クラウドポート)代表の藤田雄一郎氏だ。これまで個人が資産運用を考えた時、ほとんど金利のつかない銀行預金か、ローリスクローリターンの債券投資か、ハイリスクハイリターンの株式投資かといった、リスクとリターンが程よく釣り合った投資家と企業を結ぶ金融商品が存在していなかった。こうした中、Fundsはミドルリスクミドルリターンの「貸付ファンド」を開発。投資家が平均3%前後の予定利回りのリターンが得られるこの商品を目玉に、上場企業はインターネットを介して社債のような仕組みで、投資家からスピーディーに資金を集めることができる。それだけではない。資金を調達する上場企業にとっては、新店舗の出店、新規事業の立ち上げなど、事業コンセプトに賛同する個人から資金を募り、事業立ち上げを応援してくれる顧客コミュニティ「フィンコミュニティ」が形成できる。このフィンテックの枠を超えて、マーケティングに踏み込むという斬新なファイナンスマッチングの手法を生み出したFundsの藤田代表に、企業と個人の新たな関係を生み出す「貸付ファンド」と「フィンコミュニティ」とは何か?今後の企業の資金調達の在り方を聞いた。

 

企業の新たな資金調達法「貸付ファンド」とは?

―はじめに事業概要をお聞かせください。

私たちは、資産形成をしたい個人投資家と、資金調達をしたい上場企業をインターネットを通じてマッチングする「貸付ファンド」のマーケットプレイス「Funds」を運営しています。会員登録者数は約2万1,000人、今、約20のプロジェクトが進行中です(2020年4月現在)。

―「貸付ファンド」とはどのようなものなのでしょうか?

「貸付ファンド」とは、個人投資家が上場企業に資金を間接的に貸し出す形で投資ができるもので(詳細は後述)、このスキームを私たちは「貸付投資」と呼んでいます。一般的なファンドと違い、社債や貸付けのように予め運用利回りと運用期間が決まっているのが特徴です。

上場企業にとっては、銀行や証券会社を介さず、インターネットを通じて、個人投資家から資金を調達できるクラウドファンディングのような仕組みだと考えればわかりやすいかもしれません。
 

ーどのような投資スキームなのでしょうか?

まず資金調達をしたい上場企業が投資家から資金を調達するための受け皿となるファンドを組成し、個人投資家から資金を集めます。次に、企業はファンドが集めた資金を元手にファンドから貸付を受け、返済金と金利をファンドに支払います。その結果、個人投資家はそのファンドに投資した運用益として、平均3%前後の分配金を利回りで得られるという仕組みです。

たとえば、東証一部上場企業のイートアンド株式会社の場合は、以下のようなスキームでファンドを組成し、資金調達をされました。

―オンラインマーケットプレイス「Funds」ではどのように上場企業と個人投資家をマッチングしているのでしょうか?

オンラインマーケットプレイス「Funds」はウェブサービスですので、当社の所定の審査を経て、「Funds」のウェブサイト上にファンドを公開することで上場企業は投資を募ることができます。

投資家はFundsのウェブサイトから口座開設後、投資したい企業のファンドを選択し、申し込み金額を入力して、取引書面などを確認して申し込みをするだけでファンドに投資をすることができます。投資したい企業、平均利回り、公開日などで絞り込みをすることもできます。

-個人投資家にはどのようなメリットがあるのでしょうか?

個人投資家のメリットは主に3点あります。

1点目は、年率3%前後の予定利回りで一定期間にわたって安定した資産運用ができる点です。投資対象先が上場企業限定で、ファンド組成をするためには事前に当社で厳密な審査を行っていますので、デフォルト(貸し倒れ)リスクが低く、また、株式投資のように直接相場に影響されず、しかも円建てですので為替リスクもありません。忙しいビジネスマンや主婦の方が片手間でも安心して運用ができます。

2点目は、手数料無料で1円から始められる手軽さです。とりあえず少額から始めたいという初心者の方でも手軽に応援したい企業のファンドに投資することができます。銀行に資金移動をする際の銀行振り込み手数料のみかかりますが、それ以外の手数料は一切かかりません。

3点目は、投資家優待などのお得なサービスもあります。たとえば、割引クーポン券の配布や、投資家限定の試食会などがあり、企業によって内容は異なりますが、それぞれ工夫を凝らした魅力的なファンドになっています。

-では、企業にとってのメリットはどのような点にあるのでしょうか?

企業にとっては、大きく分けると2つのメリットがあります。

1点目は、タイムリーな資金調達が可能になることです。

上場企業は、株式、社債、銀行融資が主な資金調達手段ですが、新興上場企業の場合、IPO直後は資金調達手段が限定的になることがあり、何らかの理由でタイムリーに資金調達ができないケースがあります。

たとえば上場直後に追加のエクイティファイナンスをしようとした場合、株式の希薄化の問題が生じますので株主の了解を得なければなりません。社債を発行する際も、手続きが煩雑でタイムリーに発行することが難しいのが現状です。また、銀行借り入れをする際には、時価総額がさほど大きくない段階では、思ったほど銀行の与信枠がとれない、あるいは資金使途が限定され、運転資金なら借りられるが成長資金としては調達できないといったケースがあります。そのような企業に、株式でもない、社債でもない、銀行融資でもない、新しい資金調達手段の1つとしてご利用いただいています。

2点目は、資金調達をしながら、マーケティング施策としても活用できるという点です。

最近、東証一部上場企業などが、新規出店や新規事業の立ち上げに際して、貸付ファンドを組成して資金調達をするケースが増えてきました。こうした企業は、財務体質も良く低金利での融資が受けられますので資金調達だけを考えるなら、あえて私たちのサービスを利用しなくてもよいのです。それでもご利用いただける理由は、資金調達コスト以上にマーケティング的なメリットが大きいという点です。

Fundsを利用して資金調達をすることによって、これまで接点がなかった見込顧客に直接アプローチすることができ、さらに投資家優待サービスなどを提供すれば、店舗に来店いただいたり、新たに商品を購入していただける。実に、このような将来の顧客を発掘するマーケティング活動がファイナンスを通じてできるのです。 

 

資金調達先を上場企業に絞り、ソーシャルレンディングの問題を解決

-このような革新的なスキームはどのような問題意識から生み出されたのでしょうか?

貸付ファンドというスキームを開発するまでは、個人投資家が購入できる金融商品は、主にローリスクローリターンの国債・社債か、ハイリスクハイリターンの株式投資・投資信託といった商品しか選択肢がなく、お金の行き場がありませんでした。

たしかにソーシャルレンディングのような、ミドルリスクミドルリターンの商品もありますが、投資対象企業が非上場の中堅・中小企業のため、デフォルト(貸し倒れ)リスクが高く、投資家は安心して投資ができないという難点があります。

前職で実際にソーシャルレンディングに携わっていた際に実施したお客様へのインタビューでも、金利はそこそこでいいので、とにかく元本割れリスクが低く、安定利回りが得られる金融商品なら欲しいという声が大半でした。そのため、Fundsでは日本人の国民性に合った、安心して投資ができ、安定利回りが確保できる上場企業を投資対象とした貸付投資スキームを検討しました。

一方で、企業の目線でみると、株式や社債を新規発行するには、手続きが煩雑でタイムリーな資金調達が難しく資本調達コストも高い。銀行借り入れをする際も資金使途が限定され、借入限度額が設定されているうえに、融資を受けたら早期償還ができずに金利を支払い続ける必要がありました。

こうした課題を解決するために、既存の資金調達手法に加えて、上場企業でも使い勝手の良いインターネットを活用したクラウドファンディング型の新たな資金調達方法を考え出したのです。

このような構想で、法的課題をクリアすべく金融庁とも協議を進めていく中、直近数年でスタートアップ企業がクラウドファンディングで本格的な資金調達に成功する事例が出始めました。マーケットの下地ができたところで、ようやく私たちは「貸付ファンドのオンラインマーケット」というプラットフォーム型のファンドスキームにチャレンジできる環境が整ったというわけです。

 

上場企業の資金調達だけでなく、BtoC企業のファンづくりに貢献

-Fundsを活用したマーケティングの事例にはどのようなものがあるのでしょうか?

まず、先述の大阪王将を展開されている東証一部上場のイートアンド株式会社の事例を詳しくご紹介します。抽選募集では2,500万円の募集枠に8.7倍にあたる約2億1,800万円の申し込みがあり、先着募集開始から35秒で満額分の投資申込がありました。Funds優待としては、一部の大阪王将店舗で期間中何度でもお会計が10%オフになる「投資家特別優待券」、大阪王将の新メニューを味わえる「先取り試食会」を提供され、Funds投資家との交流の機会を増やすためにご活用いただきました。出店費用の一部をFundsで調達することで、投資してくださった方の来店が期待できたり、優待券を発行して、オフ会を開催するなかで、個人投資家さんと相互理解を深めるといった、ファンづくりをすることができました。

次に、東証マザーズ上場の株式会社フィル・カンパニーは、まちづくりの新規事業立ち上げの一環としてFundsで投資の募集をかけて将来の顧客となるリードを獲得するといったマーケティング目的で利用いただきました。募集金額1億円、投資家利回り3.0%(年率、税引前)募集開始から 1分36秒で満額分の投資申込を受けられました。また、本格的なクラウドファンディングの取り組みとして、Fundsのシステムを活用し、独自サイト「フィルまちづくりファンディング」もローンチされました。

最近では、実験的な取り組みとして、京都の日本最古の劇場で開催された松竹株式会社とEXILEとのコラボレーション企画にFundsをご利用いただきました。EXILEが出演する演劇イベント「イマーシブシアター『サクラヒメ』~『桜姫東文章』より~」のチケットを、Fundsに口座をお持ちのお客様向けに無料プレゼント企画として実施したのですが、限定300枚のチケットに申し込みが殺到しました。普段演劇を見ない30~40代の感度の高い富裕層予備群のような方でも企画次第で反応してくださることがわかりました。今後もこのようなイベントやプロジェクト単位の取り組みを企画していきたいと考えています。

Fundsのマーケットプレイスで募集される案件は話題性のある取り組みも多く、メディアに取り上げていただく機会も増えてきましたので、企業さんにとっては資金調達ができるだけでなく様々なビジネスの可能性も広がっていくのです。

ーこれまでの金融商品や業界の常識では実現できなかったユニークなサービスですよね。

このようにして私たちは、ファイナンス×ファンコミュニティを組み合わせてマーケティングを展開する「フィンコミュニティ」という概念を新しく生み出しました。

株主が会社を所有する人、カスタマーが商品を購入する人とするならば、フィンコミュニティはお金を通じて応援する人と定義することで、これまで資金調達コストだったファイナンスが、マーケティングコストに転換できる。つまり、企業はフィンコミュニティを強化することで資金調達もでき、さらにお客さんを増やしたり、顧客満足度を高めるマーケティング効果も期待でき、非常に経済合理性が高い仕組みに変えて行けるのです。現在多くの企業様から色々なアイデアをいただき、フィンコミュニティの可能性はますます広がっているところです。

―最後に、今後の展開をお聞かせください。

金融事業は信用が全てです。そのため早期に上場を実現して、金融の力で企業と個人の共創する社会づくりに貢献したいと考えています。

私たちのミッションは、未来の不安に、まだない答えを提供することです。今後も貸付ファンドのような新たな商品開発を進め、個人投資家の方々の資産形成に役に立って行きたいと考えています。また、新しいテクノロジーと金融の仕組みを駆使して、こんな面白いことができるのか、という誰も思いつかない金融の新たな世界を生み出して、金融プラットフォーマーの一員として社会や経済の課題を解決していきたいと考えています。

―フィンテックとマーケティングの融合による「フィンコミュニティ」の新たな展開に期待しています。本日はありがとうございました。

 

 

<プロフィール>
藤田 雄一郎(ふじた・ゆういちろう)

早稲田大学商学部卒業後、株式会社サイバーエージェントに入社。2007年にマーケティング支援事業を行う企業を創業し、2012年上場企業に売却。2013年に大手ソーシャルレンディングサービスの立ち上げに経営メンバーとして参画。2016年11月に株式会社クラウドポート(現Funds株式会社)を創業。
 
Funds株式会社(旧社名 株式会社クラウドポート)
https://funds.jp/
設立:2016年11月1日
資本金:300,000千円(2020年4月10日時点)
所在地:〒106-0031 東京都港区西麻布3-2-1 北辰ビル7階
事業内容:金融商品取引業、インターネットによる情報サービス業
登録・加入協会:第二種金融商品取引業 関東財務局長(金商)第3103号
一般社団法人第二種金融商品取引業協会加入
出資企業:B DASH VENTURES株式会社、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社、グローバル・ブレイン株式会社、伊藤忠商事株式会社、SV-FINTECH Fund、みずほキャピタル株式会社、AG キャピタル株式会社、三菱UFJキャピタル株式会社、auカブコム証券株式会社

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