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2020年08月07日(金)

カオナビ CFO橋本公隆氏に聞く~マザーズ上場企業が機関投資家から信頼を得る5つのポイント!

経営ハッカー編集部
カオナビ CFO橋本公隆氏に聞く~マザーズ上場企業が機関投資家から信頼を得る5つのポイント!

個人株主が相対的に多いマザーズ上場企業にとって、安定株主化を図るための機関投資家向けのIR戦略が重要となっている。特に「ロングオンリー」と言われる中長期保有目的の機関投資家の開拓が大きな課題だ。(上場を目指す企業も、上場前からこの点を意識しておく必要がある。)そんなマザーズ上場企業の中にあって、クラウド人材マネジメントシステム「カオナビ」を提供する株式会社カオナビは、機関投資家を強く意識してIR活動を展開。2019年3月上場後、海外を含む機関投資家比率を着実に向上させている。上場して間もない新興企業株は機関投資家の目に触れにくいとされる中、如何にして機関投資家との関係を築いたのか。同社取締役CFO橋本公隆氏に、上場前から意識しておくべき課題や機関投資家から信頼されるIRのポイントを聞いた。

 

東証マザーズ「カオナビ」のオンスケ上場準備、オーバーハング解消の取り組み

―まず、はじめに、カオナビへの入社の経緯や現在の所管されている分野について簡単にお聞かせいただけますか?

私は学生時代から財務のプロフェッショナルになりたいと考えていました。通常、新卒採用では所属部署を選べませんが、三洋電機は財務部門での採用をコミットしていただいたので入社しました。ところが、入社のタイミングが、折しも、2004年の新潟中越地震で半導体工場が被災した直後。急速に業績が悪化する中、入社早々、様々な金融機関とのハードな折衝シーンに立ち会うことになりました。しかし、当時、新人だった私は全く無力で、面談のメモをとるだけでも精一杯の状況。一方で、対峙する金融機関の方々は、若手でも皆さん非常にしっかりとされていました。この時、「自分も早く彼らの様にならなければダメだ」と、危機感を抱いたのです。そこで、自らをプロフェッショナルとしての環境に身を置く必要があると思い、証券会社へ転職しました。その後、主に資金調達やM&Aなどの投資銀行業務で経験を積んできましたが、30代の後半になってきたことで、改めて事業会社で挑戦したいと考えるようになりました。そのような時に、ヘッドハンターからの紹介で当社に出会ったのです。創業者の柳橋から「カオナビ」というプロダクトへの想い、ビジョン、事業戦略などを聞き、共同創業者の佐藤とも議論を重ね非常に多くの面で共感できましたので、IPO準備室長として上場プロセスを円滑に進めるべく当社の経営に参画することになりました。その後、2019年3月に東証マザーズに上場し、現在は、CFOとしてコーポレート(管理)部門全体を所管しています。私自身は、主に資本・財務戦略、IRを中心に活動しています。

―入社後のIPOまでの道程についてお話を伺いたいのですが。御社の上場準備のポイントと、上場に向けた課題をどのように解決してきたのか、教えてください。

私がIPO準備室長として入社したのは、証券審査に入った直後の2018年8月です。主幹事の大和証券のアドバイスのもと、IPOプロジェクトのメンバーを中心に粛々と審査対応を進めていくフェーズでした。主幹事証券からの指摘事項にはコーポレート部門がしっかり対応してくれ、その後の東証審査も特段の問題もなく、驚くほどスムーズにオンスケジュールで2019年3月にマザーズ上場を実現することができました。

このように順調に上場できた最大のポイントは、主幹事証券との信頼関係に尽きます。大和証券からは当社のことを真剣に考えてアドバイスをしていただいていたので、証券会社のアドバイスに全力で取り組むことができました。また、早め早めに対処できたことで、オンスケジュールでの上場が実現できましたし、それだけコーポレート部門のスタッフが優秀だったと思います。指摘事項に対しても、しっかりと打ち返すことができましたので。

一方で、ベンチャーキャピタル(VC)のオーバーハングの解消という課題がありました。上場後の適正な株価形成には、株式の流動性を確保することが必要で、オファリングサイズを拡大するためにもVCが保有する株式を上場時に売出してほしい。ところが、証券会社が提示したバリュエーションがVCの目線に合わず交渉が難航。その後、何度も協議を重ね、なんとか保有株式の一部の売出にご協力いただけることになりました。VCの利益を考えれば上場後に売却する方が合理的なのですが、当社の上場後の企業価値向上を考えて売出に協力してくれたことには感謝しています。これからIPOする企業は皆さん同様の課題に直面されると思いますが、上場直前に交渉するだけでなく、前もって投資家の方々と協議を進めていくことが望ましいと思います。

 

IR戦略はロングオンリーで~機関投資家にIRで伝えるべきこと

―IPO準備室長として、上場に向けたエクイティストーリー(投資家に向けて会社の魅力をわかりやすく伝える資料)はどのような考え方で作成されたのですか?

エクイティストーリーは、一般的には、バラ色の成長可能性を描くことのように思われがちです。しかし、私は、あくまでも投資家目線で想定される懸案事項・リスクに対して、ひとつひとつしっかりと応えていくような内容で構成するものだと考えています。まず、ターゲットとする投資家からの想定質問を網羅的に洗い出し、優先順位付けをして対策を検討し、その内容を主幹事証券と揉んでブラッシュアップしていく。エクイティストーリーを作成する時点から、長期保有の機関投資家を意識して内容を考え、いかに地に足がついた説明ができるかがポイントでした。

―なるほど。エクイティストーリーを作成する時点から、機関投資家比率を高めるシナリオを描いていたのですね。ちなみに、御社がIR戦略で意識しているのは、どのような機関投資家層なのでしょうか?

当社のIR上の戦略は、機関投資家、中でも「ロングオンリー(買いポジションのみでポートフォリオを構成する手法。保有期間も中長期にわたる場合が多い)」と言われる投資家層を増やすことです。その理由は、カオナビのビジネスモデルと成長戦略にあります。「カオナビ」はSaaSと呼ばれるサブスクリプションモデルです。当面は積極的に先行投資をして、トップラインの成長を目指す戦略ですので、現状のPLは赤字です。そのため、こうした足元の利益ではなく中長期的な視点から当社を投資対象としてご検討いただける機関投資家に対して、事業の可能性とリスクを正しく評価いただけるようにIR活動を展開してきました。その結果、上場後、約1年で機関投資家比率を32.3%(前年比14.9pt増)にまで向上させることができました(2020年3月時点)。

 

機関投資家から信頼を得るための5つのポイント

―では、機関投資家へのアプローチを強化したり「対話」をする際には、どのような点に留意すればよいのでしょうか?

当社の場合を例にすれば、ポイントは5点あると考えています。

1点目は、まず、当初のIRのターゲットは機関投資家に絞る、と決めることです。上場直後の企業はリソースがありませんので、個人投資家などへの個別の対応は難しいのが実情です。そのため、まずは、特定の領域を決めて、活動をフォーカスする必要があります。当社の場合、先述のように中長期的な時間軸で共に歩んでいただける機関投資家向けに注力してIRを展開することにしました。

2点目としては、特にIPO直後の企業は、IRの機会を増やすことが重要だと思います。例えば、個別のIR面談数を増やすこと。それから、証券会社が開催するカンファレンスには積極的に参加したほうがよいと思います。上場して最も避けたいのは、株価が下がることではなく、投資家から見向きもされないことなのではないでしょうか。日本だけで上場企業は4,000社近くありますが、機関投資家は基本的にピックアップされた銘柄しか投資対象にしません。そのため、せめて投資対象企業リストにエントリーされるように一定の存在感を示すことが重要です。特に時価総額が大きくない企業は投資家のレーダーにかからず、また証券会社のアナリストレポートも作成していただけません。そこで私たちは独自に「スポンサードリサーチレポート」を発行しました。中立的な立場からアナリストに当社の事業を評価いただき、英文でも情報を発信するようにしています。その結果、海外の機関投資家の目に触れる機会も増え、国内外の機関投資家との接点ができました。上場直後の企業は、こうした地道なアプローチから始めていくことが重要だと思います。

3点目は、中長期的な視点から語ることだと思います。投資家が足元の業績をチェックするのは当然ですが、むしろ企業側が語るべきは中長期的にどのように事業を成長させていくのか、その戦略に沿ったKPIを示せているのかということです。この点を投資家としっかりとディスカッションをすることが重要だと思います。投資家の方々は経営方針や事業戦略に共感して投資してくださるわけですし、対話することで様々なヒントが得られます。もちろん足元の数字への興味が強いという方もいらっしゃいますし、逆に、数字を一切聞いてこない方もおられます。投資家やアナリストのスタンスにもよるところもありますが、IR面談は企業側から積極的に中長期の戦略を訴求していくことが重要だと思いますね。

4点目は、社長が自ら戦略を語ることです。特にマザーズ上場企業の多くは創業社長ですので、投資家は、創業者がなぜこの会社を創ったのか、どのようにこのプロダクトを開発したのか、どんなビジョンと戦略を持っているのか、を直接聞きたい。逆に言えば、社長以上に説得力をもってこれらを語れる人間はいないわけですから。投資家も社長に会うなら必然的に短期的な数字より中長期的な戦略の話題が中心になります。

上場後は資金調達も必要ないし、社長は事業に集中すべきという考え方も一理ありますが、投資家との話の中で気付きもあるはず。また、短期的な資金ニーズがなくても、IR面談を通じて社長が描く戦略に理解や共感が得られていれば、いざという時に資金調達がやりやすくなりますし、会社のビジョンを実現する近道になったりするかもしれません。当社も投資家と社長の直接対話の機会を積極的に作るようにしています。

5点目は、ネガティブな話ほど、正直に、正確に伝えることです。たとえネガティブな話であったとしても現状を正しく伝えることで、中長期的には、「あいつが言ったことは正しかった」と、後々、投資家の方から信頼されるのではないでしょうか。私の場合は、ネガティブなことほどきちんと伝える、と決めています。一時的に株価が下がっても、中長期的に企業価値が高まればいいわけですから。もちろん投資家もネガティブ要因をしっかり伝えてくれるほうが嬉しいわけですし。

―お互いに中長期的な視点でリスクを見据えて対話をしたほうが腰も据わりますしね。

その通りですね。前職の経験からも投資にリスクがないなんてあり得ません。リスクをテイクするのが投資です。企業はリスクを語って、投資家はリスクの許容度を判断して投資を実行する。それを語らないのは投資をしてくださる方に対して失礼ではないかと思います。

―これから上場を目指す方にアドバイスをお願いします。

未上場企業でも、証券会社が開催するセカンダリー投資家(上場株を専門に扱う機関投資家)向けのカンファレンスに積極的に参加してみてはいかがでしょうか。なぜかというと、セカンダリー投資家と直接対話することで、上場前に、「機関投資家はこういう懸念を持つのか」「このアプローチは意外と受けないな」「ここはもっと上手く説明できるようにしないと」という非常に有効な気づきが得られ、改善ポイントが明確になるのです。この経験は上場時のロードショーや上場後のIRに必ず役に立ちますし、投資家の理解を促し、訴求力が高い内容にブラッシュアップすることができます。ロードショーは本番です。失敗ができませんので、入念に準備して臨まなければなりません。ぶっつけ本番で臨むか、このような準備をして臨むかでは結果も変わってきます。上場準備で大変な時期かもしれませんが、このようなところにこそ、リソースと時間を配分するのも良いと思います。

―最後に、2022年の東証再編に向けて、今後のIRはどのように展開される予定ですか?

当社は上場して間もなく、成長ステージにありますので、当面は、引き続き機関投資家を中心にIRを実施していく方針です。今後、将来的に事業のステージが変わり、プライム市場※への指定替えを検討するタイミングでは、個人投資家を拡大したり、年金基金などの超長期で運用する機関投資家向けのアプローチが必要となります。これまで以上にコーポレートガバナンスコードに基づき、SDGsやESGなどのより具体的な取り組みを行ってきたいと考えています。

※2022年の東証の市場再編により、現在の東証一部、二部、マザーズ、JASDAQの4市場が、プライム市場、スタンダード市場、グロース市場に再編される予定

―なるほど。御社の成長戦略に応じたIR戦略を着実に実行されているのですね。

当社は本当に基本的なことを実践しているだけであり、何か特別なことをしているわけではありません。私の経験から言えることは、こうした地道な活動の積み重ねが重要で、投資家からの信頼を得るうえで大切だと思います。

―御社の機関投資家向けのIR戦略は、これから上場を検討する企業にとって多くの学びの視点があるのではないかと思います。本日はありがとうございました。

 

<追記>
新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言発令後、CFO橋本氏は、株主総会当日、リハーサル、および本件取材の3回の出社しかしていないそうです。カオナビ社では、ほぼ完全なリモート化を実現されているとのこと。また、今回のような急速な環境変化、テレワークへの移行に伴い人材マネジメントの重要性が高まることに加えて、従業員が、今、どんな心の状態にあるのか、コンディションや組織の状態変化を従業員アンケートで把握できる「パルスサーベイ」という機能もあるそうです。急速な変化で不安になる従業員の心の状態を把握して、離職予兆の察知や組織課題の発見にも役立っているとのこと。これからの時代の変化にも対応した経営の効率化やエンゲージメントの向上にも貢献するプロダクトだとも言えそうです。

 

<プロフィール>

株式会社カオナビ 取締役CFO 橋本公隆(はしもと・きみたか)

名古屋大学卒業後、三洋電機株式会社の本社財務部門で資金調達や金融機関との渉外業務を担当。その後、三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社にて、主にテクノロジー領域の顧客を対象にM&Aアドバイザリーや資金調達等の投資銀行業務に従事。2018年8月に株式会社カオナビへ執行役員IPO準備室長として入社し、2019年3月の東証マザーズへの上場を牽引。2019年6月に取締役CFOに就任。現在に至る。
 
株式会社カオナビ
kaonavi, inc.
URL:https://www.kaonavi.jp/ 
所在地
本社 〒107-0051 東京都港区元赤坂1丁目2番7号 AKASAKA K-TOWER 5階
大阪オフィス 〒530-0017 大阪府大阪市北区角田町1番12号 阪急ファイブアネックス11F GVH#5 1102号室
名古屋オフィス 〒450-6321 愛知県名古屋市中村区名駅1丁目1番1号 JPタワー名古屋 21階
 会社設立日 2008年5月27日
事業開始日 2012年4月16日
資本金 10億1,827万円 ※2020年3月末時点
役員
代表取締役社長 CEO        柳橋 仁機
取締役副社長 COO           佐藤 寛之
取締役 CFO        橋本 公隆
社外取締役          小林 傑
社外監査役(常勤)          伊藤 二郎
社外監査役          山田 啓之
社外監査役          足立 政治
社外監査役          樋口 明巳
執行役員              石井 望
執行役員              平松 達矢
 
主要株主
役員
株式会社リクルートホールディングス
 
事業内容
クラウド人材管理ツール『カオナビ』の製造・販売・サポート
 
証券コード 4435 (東京証券取引所マザーズ)
 
取得認証
Pマーク(JIS Q 15001)
ISMS(ISO/IEC 27001:2013)
 
受賞歴
2016年度 グッドデザイン賞
2017年度 第2回 HRテクノロジー大賞 統合マネジメントサービス部門優秀賞
2018年度 第12回 ASPIC IoT・AI・クラウドアワード2018 ASP・SaaS部門基幹業務系分野『ベストイノベーション賞』

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