ブランディングテクノロジー黒澤友貴氏に聞く~企業価値を高める攻めのIRはマーケティングの視点で
マザーズ上場企業にとって、IPO後のIR活動が大きな課題の一つになっている。しかし、そもそもIRの定義は様々だ。一般社団法人日本IR協議会では「企業が株主や投資家に対し、投資判断に必要な企業情報を、適時、公平、継続して提供する活動」という。一方、米国IR協会では、「企業の証券が公正な価値評価を受けるために、様々なステークホルダーとの間で最も効果的な対話を実現するため、財務、広報、マーケティング、コンプライアンス活動を統合した戦略的な経営責務である」と説明している。そのような中、中小企業のブランディングやデジタルマーケティングを支援するブランディングテクノロジー株式会社(東証マザーズ7067)執行役員 経営戦略室 室長 黒澤友貴氏は「IRには攻めのIRと守りのIRがある。成長が使命のグロース市場では、マーケティングの視点を持ち込んだ攻めのIRが重要だ」と指摘する。そこで今回は、マーケティングとIRの双方を兼務される同氏に、事業内容とマザーズ上場後のIRの在り方を聞いた。
全国の中小企業にこそブランディングを!自社の「らしさ」を経営の起点に
ーはじめに事業概要をお聞かせください。
当社は日本企業の99%以上を占める中小企業様に、ブランディング、およびデジタルマーケティングの2つの視点でサービスを提供し、事業成長を支援する会社です。主な事業はブランド事業と、デジタルマーケティング事業、オフショア事業の3本柱です。ブランド事業は特に地域の中小企業や小規模事業者向けに、業種(例えば、不動産、建築、医院など)特化型ノウハウをもとにしたサービスを提供しています。主に、月2万円程度の経営サポート会員制度で中小企業のブランディングのサポートやオウンドメディアの制作を行っています。デジタルマーケティング事業は、Google、Yahoo!などのリスティング広告を中心に、中小企業のデジタルシフトを推進するお手伝いをしています。また、これらの制作や運用を効率化するために、オフショア関連事業があります。この様に私たちは、ブランドを軸とした全国の中小企業様のデジタルシフトのサポートを行っているのです。
―なぜブランドを事業コンセプトにされたのですか?また、ブランドという言葉は定義が様々ありますが、御社におけるブランドとはどのようなことを意味するのでしょうか?
ブランドを起点に事業を展開するきっかけとなったのは、次のような経緯です。実は、当社は過去に経営的に厳しい曲面があり、その苦難を乗り切り、経営を立て直し、そこから復活してIPOすることができた。その経営の拠り所になったのがブランドだったのです。私たちが定義するブランドとは、一言でいうと、その会社の「らしさ」です。
詳細は、当社代表木村の著書「ブランドファースト」に掲載していますのでそちらに譲りますが、かいつまんで経緯をお話しますと、ちょうどリーマンショックがあった2008年頃から当社は厳しい状況が続きました。外部から顧問を招へいし、新規事業を立ち上げるなど、様々な施策を投入して再起を図りました。しかし、思うように事業を軌道に乗せることができない中で、もう一度、自分たちのあるべき姿はどこにあるのか?自分たち「らしさ」って何なんだろう?というところに立ち戻り、自分たちのブランド、アイデンティティを起点に会社をゼロから再構築することにしたのです。経営戦略、営業企画、人材育成、新卒採用などなど、すべての面においてブランドを起点に戦略と施策を組み立てることで、困難と思えるような経営課題でも解決できるような意思決定の拠り所ができたのです。
特に当社のお客様には、地方で家族経営をされ、事業を承継されていく中小企業様が多いのですが、事業承継後は、後継者が自分の言葉で、自社のあるべき姿を作り直して、それを組織に浸透させていく必要があります。そのような中で、会社のブランドこそが拠り所になるのです。ブランドには、社会性と経済性の両面があり、持続的に成長していくには、このどちらが欠けても実現できないことを当社の実体験から学んできました。
このような背景から、ブランディングを日本の中小企業様の経営にお役立ていただけるようなサービスに組み込むことで全国の中小企業の皆様にお伝えすることを事業とすることにしたのです。
地域金融機関とのアライアンスで地方企業のブランディングを推進
-なるほど。自社の実体験から生み出されたものなのですね。では、黒澤さんが当社に入社した経緯をお聞かせいただけますか?また現在の業務領域を教えてください。
私は社会起業家になりたいと考えていましたので、学生時代はNPOなどでインターンをしました。実際に運営に携わってみて実感したことは、NPOのような非営利組織だからこそ、活動を継続するには、経営の知識やノウハウが不可欠であるということです。特に経営戦略、マーケティング、資金調達、これらが揃わないと生き残ることができません。そこで私は経営を学ぶため、経営コンサルティング、デジタルマーケティング、スモールビジネスの持続可能性をテーマに就職活動をすることにしました。
就職活動を進めていく中で、当社の事業に興味を持ち、面接を受けました。面接で私はいずれ社会起業家になるために必要な経験を積みたいということを率直に伝えました。すると、「まさに、そのような成長意欲の高い人材を求めている」、というお話をいただきましたので、私としても20代で様々な経験を積むことができ、成長できる環境があることが決め手となり、当社に入社させていただくことになりました。
新卒で入社後はデジタルマーケティングの部門で3年ほど、大阪で事業・組織の立ち上げを3年、そして東京に戻り経営戦略室を立ち上げて現在に至るという経緯です。現在は、経営戦略室の室長として、ブランド推進(広報・IR、社内向けのインナーブランディング)、マーケティング推進(リード獲得)、業務提携の3分野を所管しています。
ーIPOを目指した背景は?また、どのようなハードルがありましたか?それをどのように解決されたのでしょうか?
当社は2008年頃にIPOを目指し準備をしていたのですが、リーマンショックを機に一度断念した経緯があります。その後、前述のようにブランドを経営の軸に据えて経営を再建しました。その経験と、デジタルマーケテイングの価値を全国の中小企業様に、よりしっかりと伝えていくためにも、やはり自らがIPOすることで信用力を高める必要があると考えて、2016年頃に、もう一度、IPOを目指すことに決め、新たな事業計画を策定し、管理体制を一層強化することにしました。私は2017年にIPOプロジェクトに参画し、CFOとして2019年6月に東証マザーズに上場した、という経緯です。
IPOにあたってのハードルは3点ありまして、予実、労務、取締役会の牽制機能です。まずは予実をしっかりと合わせることに苦労しましたので、営業組織のマネジメント強化が必要となりました。2点目は、労務面の課題です。当時、大手広告代理店の件がマスコミでも報道されていた時期でもあり、審査の論点として浮上してきたのです。さらに、取締役会の牽制機能の強化が求められました。最終的には改善効果の実証を行う必要があったことから上場時期を1年延期とすることになりましたが、いずれも事前に対策を進めていた指摘事項でしたので、比較的スムーズにハードルをクリアすることができたという印象です。
攻めのIRと守りのIR~ステークホルダーに自社のストーリーをわかりやすく伝える
ー御社はIPO後のIRはどのような視点で展開されているのでしょうか?
当社の株主は現状、個人投資家の方々が中心ですので、個人投資家に対して認知度を高め、ファンになっていただくことを重視してIR活動を展開してきました。具体的には、IRイベントも有効活用し、証券会社の展示会には機会があれば参加してきました。また、「営業戦略上、全国の地方銀行との提携を進め、地方の中小企業のブランディング強化を推進している」というわかりやすい地方銀行との提携戦略のストーリーを個人投資家に認知いただけるようなIRを実施してきました。私はもともとマーケティング畑でしたので実務に慣れる必要はありましたが、その根幹にあるコーポレートストーリー、ブランドをどう創るかというところにフォーカスして取り組んできました。やってみると、本質的にはそれほど大きな違いがないことがわかりました。
-マーケティングに明るい黒澤さんがIRを担当されてみてマザーズIPO企業のIRの進め方についてお気づきの点がありますか?
IRには、攻めのIRと、守りIRがあります。成長戦略を重視するIPO企業の多くは、攻めのIRを展開されています。特に海外投資家を意識したIRを展開している企業であれば、誰にどのような価値を届けるのか?というアプローチが問われてきますので、攻めのIRを重視するCFOが多いように思います。一方で、経理畑出身のCFOの方は、開示を中心とした守りのIRを軸に活動されることが多いのではないでしょうか。企業によりますが、流動性を高めるためには、マザーズ企業は必然的に攻めのIRが求められると思います。成長機会をどこだと見極めているのか、そこに対してコーポレートストーリーをしっかり創り、株主・投資家にいかに分かりやすく、自分たち独自のものとして伝えていくのか、ということが鍵になってくると思います。私は、グロース市場では、IRを担う人間がそこをしっかり伝えるべきだと考えています。当社の場合は、私自身がマーケティング出身ですし、主な対象が個人投資家ということもあり、工数配分も考えて、プレスリリースにフォーカスして攻めのIRを重視しています。例えば、地方銀行との提携のプレスリリースを重視して取り組んでいるのも、私たちのブランドがどこに向かっているのか?ということをわかりやすく伝える大事な手段だと考えているからなのです。
―今後、コーポレートガバナンスコードでも、より一層企業の長期的な価値を高めるESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みが求められてくることになると思います。本件について御社ではどのような方針で対応される予定ですか?
現在では、それほどESGの視点は投資家から求められているわけではありませんが、今後、次のステージを見据えて準備をしておきたいと思います。企業のブランディングにおいては、自社がどのような社会的背景から生まれ、どのように対応してきたのか、というコーポレートストーリーの中で、企業の社会性については語られるものです。非常に重要な視点ですが、とりたてて奇をてらった対策をとるというものではないと考えています。次のステージでは、コロナ禍を経て、今後、機関投資家(特に海外の機関投資家)とのコミュニケーションの中では必ず求められてくる視点だと思います。
グロース企業の「攻めのIR」はマーケティングの視点で!
ー最後に、これからIPOを目指す方にアドバイスがあればお聞かせください。
IRは、マーケティングミックスのフレームワークで整理すると、やるべきことが明確になります。
基本的な考え方は、R-STP-MM-I-Cと言われている流れで考えるとわかりやすいです。
戦略、戦術を考える基本であるSTPと4Pの視点であれば、STPは、Segmentation(セグメンテーション:機関投資家、個人投資家等)、Targeting(ターゲティング:IR対象となる個別の投資家等)、Positioning(ポジショニング:どのような立ち位置を確保するためにどのように訴求をしていくか等)。4Pは、Product(プロダクト:企業経営)、Price(プライス:株価)、Place(プレイス:株主様との接点)、Promotion(プロモーション:情報開示)といった視点で整理できます。
STPと4Pで描くイメージは、下記の通りとなります。この全体像を描けていると、IR戦略の土台は築けている状態になるのではないでしょうか。
ステークホルダーに価値を正しく伝え、ファンを増やすことがマーケティングの役割だと考えており、その意味ではIRとマーケティングも思考の根底は同様だと考えています。
ーブランディングを軸に理念体系を整え戦略的なIRを展開される取り組みがよくわかりました。本日はお忙しい中ありがとうございました。
<プロフィール>
ブランディングテクノロジー株式会社
執行役員 経営戦略室 室長 黒澤友貴(くろさわ・ともき)
1988年生まれ。新卒でブランディングテクノロジー株式会社に入社。中小・中堅企業向けにデジタルマーケティング領域のコンサルティングを6年間行う。現在は自社の経営戦略策定、ノウハウ開発、人材育成などの役割を担う。「日本全体のマーケティングリテラシーを底上げする」をミッションに7,000人近くのマーケターが集まる学習コミュニティ(マーケティングトレース)を運営。2020年2月に書籍「マーケティング思考力トレーニング」を出版
<企業概要>
ブランディングテクノロジー株式会社 (英語社名:Branding Technology Inc.)
https://www.branding-t.co.jp/
所在地
東京本社〒150-0036 東京都渋谷区南平台町15-13帝都渋谷ビル4F・5F
大阪営業所〒532-0011 大阪府大阪市淀川区西中島3-3-9グランプリ第11ビル8F
名古屋営業所〒450-0002 愛知県名古屋市中村区名駅3-17-34ナカモビル7F
広島営業所〒730-0016 広島県広島市中区幟町14-14広島教販ビル8F
福岡営業所〒812-0013 福岡県福岡市博多区博多駅東3-10-15博多駅東アトルビル4F
グループ会社 株式会社アザナ VIETRY CO., LTD.
設立 2001年8月
資本金 157百万円
決算期 3月
役員構成 代表取締役社長 木村 裕紀
常務取締役 野口 章
取締役 小川 悟
社外取締役 進 護
監査役 野村 武史
非常勤監査役 中澤 隆
非常勤監査役 山嵜 一夫
スタッフ数 252名
※グループ全体/平成31年3月31日時点
事業内容
ブランド事業
デジタルマーケティング事業
オフショア関連事業
主要取引銀行
三井住友銀行
みずほ銀行
三菱UFJ銀行
りそな銀行
証券代行
三菱UFJ信託銀行
顧問税理士 税理士法人 虎ノ門共同会計事務所
顧問弁護士
ブレークモア法律事務所
所属団体
日本臨床歯科学会 賛助会員
資格 電気通信事業 届出番号 A-14-5572
取引先企業様
株式会社アプラス
株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ
株式会社エントラスト
株式会社エボラブルアジア
株式会社オークファン
株式会社オリエントコーポレーション
京セラコミュニケーションシステム株式会社
株式会社クレディセゾン
株式会社セディナ
ソネット・メディア・ネットワークス株式会社
ソフトバンクモバイル株式会社
株式会社ベクトル
株式会社ローカルフォリオ
株式会社パソナ
株式会社ビジョン
ヤフー株式会社
Facebook,Inc.
GMOインターネット株式会社
GMOクラウド株式会社
Google Inc.
KDDI株式会社
Twitter,Inc.