2020年09月25日(金)1ブックマーク

スタートアップ・エコシステム拠点都市に認定、高まる浜松市の魅力~浜松市産業振興課米村仁志氏に聞く

経営ハッカー編集部
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世界に伍するスタートアップ・エコシステム拠点都市を創る―。内閣府は「統合イノベーション戦略2020」で、米国シリコンバレーのようにスタートアップ企業が集積するグローバル拠点都市づくりを集中的に支援するベンチャー支援施策を打ち出した。2020年7月、公募に応募した都市への厳しい審査の結果、全国で4カ所がグローバル拠点の認定を受けた。その一翼を担うのが、ホンダ、スズキ、ヤマハなどの世界的企業の創業の地、浜松市だ。同市は、2016年より、「浜松バレー構想」を提唱し、独自のベンチャー支援施策を展開してきた実績があり、直近では、地方にベンチャーキャピタルからの投資を呼び込み、まとまった出資額と同額の交付金を提供するという画期的な「ファンドサポート事業」を創設するなど、ベンチャー支援拠点のトップランナーとして注目されている。スタートアップ・エコシステムのグローバル拠点都市として世界に挑む「浜松バレー構想」の全貌と目玉となる「ファンドサポート事業」とはいかなるものか。浜松市産業振興課ベンチャー支援グループ専門監 米村仁志氏に聞いた。(zoomによるオンライン取材、トップ写真は、浜松市のベンチャーコミュニティ「Hamamatsu Venture  tribe」)

 

目次

    日本を代表するグローバル企業群の創業の地「浜松」

    ―はじめに、浜松市の概要、地域の特徴について教えてください。

    浜松市は、静岡県西部(遠州)、浜名湖の東岸に位置する、人口79万8千人(全国12位)、総面積1,558㎢(全国2位)の政令指定都市です。ものづくり産業を中心に発展してきたため、労働力人口の1/3がものづくりに従事しています。全国平均が1/4ですので、かなり多くの市民がものづくりに関わっていると言えます。

    また、全国20の政令指定都市のうち、県庁所在地でもなく、大都市近郊でもない街は、北九州市と浜松市しかありません。北九州は八幡製鉄所があり、国策で人口を集積させてきた歴史がありますので、民間のものづくりの力で人口を集積して発展してきた街は、浜松だけではないか、とも言われます。

    現にホンダ、スズキ、ヤマハ、カワイなどの世界的企業が浜松で創業し、最近ではノーベル物理学賞の受賞をサポートしたスーパーカミオカンデといった素粒子観測機器などで、先端領域の科学者を支える浜松ホトニクスも世界的に知られるようになりました。ちなみにトヨタグループの創始者である豊田佐吉氏の生誕地は浜名湖を挟んでお隣の湖西市です。これほど多くの企業が、浜松エリアで創業し、グローバル企業へと成長しているのです。われわれは、何事にも恐れずに挑むチャレンジ精神を「やらまいか(やってみよう)精神」と呼んで地域の誇りとしています。

     

    なぜかくも多くのグローバル企業が浜松市で創業したのか?

    ―「やらまいか精神」とはどのようなものなのか、もう少し詳しく教えていただけますか?

    浜松では、遠州弁で、挑戦しよう、やってみようとする精神を「やらまいか精神」と呼んでいます。浜松は東海道沿いの街です。古くから日本の東西をつなぐ交通の要所として東海道の発展と共に栄えてきました。街道を通る見知らぬ方に対しても開放的な気質があり、よそものを受け入れることにあまり抵抗感がありません。新しい技術に対してもどんどん受け入れて、よりよいものにしていくという感覚を持っています。「やらまいか精神」は、温暖な気候を背景に、綿花や木材などの豊富な天然資源や、多様な能力を持った人材が集まる環境に恵まれていたことで、これらを活用して新しいことに挑戦してみようという気質が自然に醸成されてきたものではないかと言われています。

    ご存じのように山葉寅楠氏は、故障したアメリカ製オルガンを修理したことがきっかけで、日本最初のオルガンを製造し、日本楽器製造(現ヤマハ)を設立しました。その後、ホンダ、スズキなどのものづくり企業が浜松で創業したのも、「やらまいか精神」が根付いていたことの証左となるでしょう。

    ―浜松の地域資源が生み出したベンチャー気質の「やらまいか精神」は時代を超えて継承されているのですね。

    はい。浜松の学校の教科書では、山葉寅楠氏や本田宗一郎氏の創業エピソードを学びます。また、浜松工業高等学校(現静岡大学工学部)では、日本のテレビの父と呼ばれる高栁健次郎氏の門下生から、先ほどご紹介したような浜松ホトニクスさんなどの高度技術を有する企業が誕生するなど、浜松のものづくりには、そのようなベンチャー精神が受け継がれているのです。また、現在も静岡大学内には、先端的なレベルの高い研究をサポートできる環境が備えられています。

    新たな技術を生み出せる刺激的な環境があり、身近に成功者がいると自分もできるのではないか?と思えてきますよね。このように次から次へと成功者を創出していく仕組みを創ることが、やらまいか精神を継承していくことに繋がります。その仕組みが、「浜松バレー構想」とも言えます。

     

    「浜松バレー構想」と「スタートアップ・エコシステム拠点都市計画」とは?

    ―浜松バレー構想とは、どのような構想なのですか?

    浜松市は、世界的企業の発祥の地として知られていますが、実は、近年は、浜松市の開業率は、全国平均を下回っています。しかも、浜松の製造品出荷額の4割が輸送機器で、その主力の自動車産業も、GAFAやIT産業の躍進、AIや自動運転技術の発達など、時代のうねりに対応するために、技術革新はもとより、新たな価値の創造によるイノベーションが求められています。このまま何も手を打たなければ「やらまいか」が「やめまいか」になってしまうのではないか。そのような危機感から、2016年に鈴木市長が「浜松バレー構想」を提唱したのです。

    浜松バレー構想の目的は、①外部からのベンチャーの誘致、地域内ベンチャーの創出によって、浜松にベンチャー企業を集積させることで、②地域のものづくり産業とのオープンイノベーションを推進し、新たな製品・技術・産業を創出することです。さらに、③将来的には、輸送機器産業と並び立つような基幹産業となる産業を生み出していくことを目指しています。

    ―浜松バレー構想の推進を担っているのが、産業振興課ベンチャー支援グループになるわけですね。

    はい。浜松バレー構想の実現が、産業振興課ベンチャー支援グループの最大のミッションです。私は今から6年前の2014年に産業振興課に配属になり、市長が2016年に浜松バレー構想を提唱して以降、翌2017年のベンチャー支援グループの創設に伴い、グループ長を拝命して現在に至っています。

    ―内閣府「統合イノベーション戦略2020」では、世界に伍する「日本型スタートアップ・エコシステム拠点都市(グローバル拠点都市)の形成とスタートアップ支援策の一体的推進」が発表されました。浜松市がグローバル拠点都市として認定されたわけですが、浜松バレー構想と、政府のグローバル拠点都市は、どのような関係になるのでしょうか?

    正確には、「浜松市スタートアップ戦略推進協議会」と、愛知県と名古屋市の「Aichi-Nagoya Startup Ecosystem Consortium」の連携による、「Central Japan Startup Ecosystem Consortium」として内閣府の「スタートアップ・エコシステム拠点都市」のグローバル拠点(以下、拠点都市)に採択されました。

    拠点都市とは、内閣府が、我が国の強みである優れた人材、研究開発力、企業活動、資金等を生かした世界に伍する日本型のスタートアップ・エコシステム拠点の形成を目指し、地方自治体、大学、民間組織等が策定した拠点形成計画を認定し、政府や民間サポーターによる集中的な支援を行う事業です。スタートアップ支援は、今年度だけでも国全体で予算総額が1,200億円規模となるビッグプロジェクトになります。

    浜松市は、これまで「浜松バレー構想」として全国に先駆けて取り組んできた独自のベンチャー支援の実績があり、既にベンチャー企業のコミュニティがあること、独自のエコシステムも形成されつつある点が評価され、認定を受けることができました。米国のシリコンバレーや中国の深センなどの海外の事例を参考にしつつ、浜松市・愛知県・名古屋市が連携することで、日本独自のものづくり産業エコシステムの形成を目指しています。今回、グローバル拠点都市計画は、浜松市独自の取り組みである「浜松バレー構想」を、政府の強力なバックアップのもと、愛知県・名古屋市と連携しながら推進していくというものです。

     

    認定VC5,000万円の出資に対して、市から同額を交付するなど、本気のスタートアップ誘致策

    ―「浜松バレー構想」における独自のベンチャー支援事業とは、どのような内容なのでしょうか。その概要を教えてください。

    浜松市のベンチャー支援事業は、ヒト・技術、モノ、カネ、情報、総合という5つの分野で構成されています。ヒト・技術分野は、平成28年度から浜松ベンチャー連合というベンチャー企業のネットワークづくり、ベンチャー経営塾、ハッカソンなどの活動を行っています。モノの分野ではサテライトオフィス、コワーキングスペースなどの整備事業を進めています。カネの分野では、研究開発費の補助事業、オフィス開設の賃料補助などはもとより、昨年から民間のベンチャーキャピタルとの連携により、市内外のスタートアップの資金調達を支援する「ファンドサポート事業」を開始しました。おかげさまでマスコミにも取り上げていただき、多くのベンチャーキャピタルとも提携することができました。

    ―スタートアップの資金調達を支援する「ファンドサポート事業」とは、どのようなスキームなのでしょうか?

    市内に拠点を持つベンチャー企業にベンチャーキャピタルの投資を呼び込み、ベンチャー企業の資金調達手段のバリエーションを増やすための支援事業です。具体的には、新たに事業化や事業のスケールを目指すベンチャー企業および地域の中小企業に、ベンチャーキャピタルが投資する金額と(最大で)同額の市の交付金を提供するものです。

    交付金の上限は、健康・医療系の業種の場合は7,000万円、その他の業種の企業は5,000万円です。例えば、1億円の資金調達を希望するベンチャー企業があったとします。その企業に対して、認定ベンチャーキャピタルが製品・サービスやビジネスを評価し、5,000万円の投資を実行したら、市からも同額の5,000万円の交付金を提供するというものです。

    ―直近ではどのような企業が採択されているのでしょうか?差し支えない範囲で事例をお聞かせいただけますか?

    2019年度の採択企業は3社です。順不同ですが、リンクウィズ株式会社さんは、「溶接現場の省人化」に関するロボットのシステム開発をするベンチャー企業です。パイフォトニクス株式会社さんは「ホロライト」という光技術の特許があります。例えば、工事現場や工場の進入禁止エリアをライトで照らして示すといった技術をお持ちです。株式会社 Happy Qualityさんは「しおれ検知AI学習モデル」を実装した農業の潅水用のシステムを開発しています。そのシステムを利用して生産されたトマトの買取・販売までを手掛けています。

    ちなみにHappy Qualityさんは、本事業を機に、お隣の袋井市から浜松に移転してくださいました。2020年度は市外からの問い合わせが多く、嬉しい悲鳴といったところです。認定ベンチャーキャピタルは昨年は9社を認定したのですが、今年は14社を追加し、合計23社のベンチャーキャピタルさんが事業に参加してくれています。

    以前、新聞紙上で投資マネーが行き場を探しているというニュースをよく見かけましたが、浜松には投資マネーがまったく流れてきませんでした。首都圏と違い、地方ベンチャーの資金調達は銀行融資に頼らざるを得ません。それが「ファンドサポート事業」によって、地方でも投資による資金調達ができる、あるいはそれを目指すことができるようになったことで、地域企業の成長機会を増やすことができたのではないかと思います。

    ―このような画期的なスキームをどのように考案されたのですか?

    もともと市としてファンドを組成したいという考えがあり、日本総研の助けを借りて検討したところ、行政がファンドを組成するより企業にとってもっと使い勝手が良い仕組みがイスラエルにある、という情報を聞きつけたのです。これがファンドサポート事業の原型です。国内では、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)がその仕組みを採用していましたのでヒアリングに伺い、様々なヒントや、課題もお聞きすることができました。その課題を改良して浜松独自の制度として導入したわけです。主な改良点は、交付金の支払いのタイミングです。NEDOの仕組みは補助事業のため、事業実施後の後払いだったのです。そこで、浜松市は、ベンチャー企業にとってより使い勝手が良い仕組みするため、採択後すぐに資金を交付できるように先払いにしたのです。

    ―浜松は市外からのベンチャー企業誘致も積極的に取り組んでいると伺いましたが、ファンドサポート以外では具体的にどのような支援制度があるのでしょうか?

    ファンドサポート以外にも、浜松には様々なベンチャー企業誘致の支援制度があります。現在、浜松の魅力を伝える動画の作成を準備しています。そして、その動画を見て浜松にお試し進出する場合の経費支援も予定しています。その後、実際に、浜松に移転する場合には、オフィス賃料や地域のものづくり企業への発注費用の支援も用意しています。是非ご期待いただければと思います。

     

    ユニコーン企業や上場企業が続々と創出されるベンチャーのエコシステムを創る

    出典:内閣府資料

    ―「浜松バレー構想」および「グローバル拠点都市計画」の今後の展開についてお聞かせいただけますか?

    浜松バレー構想は、最終的に、数十年後には浜松発のベンチャー企業が何社も上場し、上場した企業の経営者がエンジェルやメンターとなって次のスタートアップ企業に経営資源を循環させていく仕組みづくりを目指しています。このサイクルができることで持続的に発展可能な都市にすることができると考えています。

    内閣府のグローバル拠点都市計画は、ユニコーン企業の創出などがKPIです。そこに至る市のKPIとしては、当初事業期間(5年間)で、ベンチャー企業の創業数を30社/年、ファンド調達額30億円/年、市外からの進出企業数を12社/年と、現在の約3倍増を目指しています。ここでいうベンチャー企業は、市としては、「革新的な技術やアイディアとチャレンジ精神をもってビジネスをする企業」と定義しています。いわゆるスモールビジネスではない、第二創業のような企業もしっかりフォローしていきたいと思います。

    ―最後に、浜松バレー構想に取り組んできた経験から、地方におけるベンチャー支援のエコシステム創出の成功のポイントはどのような点だとお考えですか?

    浜松もまだ現在進行形の取り組みですので申し上げるのも僭越ではありますが、これまで6年間、浜松バレー構想に取り組んできた経験から言えることとしては、第1のポイントは、コミュニティづくりだと思います。4年前に、市長の積極的な働きかけによって有識者やベンチャー経営者を集めたコミュニティ「浜松ベンチャー連合」をつくりました。その後、セミナーや交流会などの開催を通じて活発な情報交換ができる環境づくりをしてきました。付随して、IPOを目指すメンバーが切磋琢磨する「浜松ベンチャー・トライブ(Hamamatsu Venture  tribe)」といったコミュニティも形成されてきたことが活性化に繋がっています。

    第2のポイントとしては、ファンドなどの資金が集まる文化をつくることではないかと思います。これまで行政として小口資金のサポートは実施してきましたが、先述のように1社に5千万円、ベンチャーキャピタルの出資とあわせて億単位でファンドなどのエクイティによる直接資金が調達できるという環境を整えることで地域企業の意識も大きく変わってくるはずです。

    第3のポイントは、大企業がベンチャー企業とのオープンイノベーションに積極的に取り組むマインドを醸成することです。数年前までは、大企業は自前で技術開発をする方針だったため、趣旨に賛同いただくのが難しい面もありました。現在は、AIや自動運転などの技術革新のうねりも影響し、当たり前のようにベンチャーとのオープンイノベーションに取り組んでいただけるようになりました。今後は、企業と企業をマッチングする仕組みづくりがより重要となると考えています。

    最後に、第4のポイントは、これが地域のエコシステムを形成するための大きな成功の鍵だと思いますが、「市長の強力なリーダーシップ」です。浜松の鈴木市長は、大学卒業後、松下政経塾の1期生として、かの松下幸之助氏から直接学び、自らもコンサルタントとして起業した経験があります。このようなバックグラウンドがあり、これからはベンチャーの時代だといち早く提唱し、先頭に立って、浜松バレー構想の実現の陣頭指揮をとっていただいています。先進的な活動を着実に積み重ねてきたことが、グローバル拠点都市計画の採択にも繋がっているのだと思います。

    ―浜松の「やらまいか精神」は、ものづくり企業を輩出する独自の地域資源だと思います。また、ファンドサポート事業は、スタートアップ企業、ベンチャーキャピタル、行政にとって、「三方よし」の仕組みではないでしょうか。浜松から続々と上場企業が創出されることを期待しています。本日はお忙しい中ありがとうございました。

     

     

    <プロフィール>
    浜松市 産業振興課 ベンチャー支援グループ 専門監 米村 仁志(よねむら・ひとし)

     
    浜松市役所に入庁後、観光部門や人事部門などで務めた後、2015年に産業振興課に着任。6年にわたってベンチャー支援や成長産業創出関連業務に携わる。
    「はままつ産業イノベーション構想」
    https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/sangyoshinko/innovation/index.html

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