インフォネット 岸本誠氏に聞く~CMSからWEBインテグレーションへと描く成長戦略
CMS(コンテンツマネジメントシステム)と言えば、数の面ではオープンソースが主流だが、セキュリティ面の脆弱性もしばしば指摘される。そこで、エンタープライズや自治体向けには高度なセキュリティ対策を施したクローズドソースが求められている。このクローズドソース型CMS(SaaS型)でトップシェアを誇るのが株式会社インフォネット(東証マザーズ4444)だ。CMSだけでみるとそれほど市場は大きくないが、CMSをベースにWEBマーケティング・インテグレーション市場全体に広げていくと、大きな伸びしろがある。AI事業の強化やコロナ禍で疲弊する企業を支援するオンライン面談マッチングサービスをはじめ、B to Bビジネスを支援する自社開発のサービスを続々と投入するインフォネット。今回、同社代表岸本誠氏にCMSから始まった事業はどこまで広がるのか、インフォネットの成長戦略を聞いた。
福井県発祥のCMS企業との出会い
―まず、岸本社長が当社に参画された経緯を教えてください
当社は、WEBサイト制作会社「インフォ福井ドットコム」として、2000年に福井県で生まれました。行政のIT企業への支援体制が早くから整っていたこともあり、もともと福井県出身の創業者が、個人事業主として立ち上げた会社なのです。2002年にインフォネットとして法人化し、2004年に株式会社となりました。
私が当社に参加したのは、創業者が東京でしっかりとした収益基盤を築きたいと考えていた時期でした。最初はそのために新設される営業部隊の一員として入社しました。
―それまではどのようなキャリアを積まれ、創業者の方とはどのような出会いがあったのでしょうか?
当社入社前は広告や保険などの無形商材の営業職を勤め、全4社でトップセールスマンとなり、営業力には大変自信を持つようになりました。自分は提案や営業といったものに関わる仕事に一生携わるのだろうと漠然と考えていました。
創業者とは、前職の外資系保険会社時代にお客様からの紹介で知り合ったのが最初です。そこで創業者の事業や、人柄に触れ非常に共感を持つにいたりました。その後、転職を考えている時に、たまたま当社がハローワークで求人広告を出していることに気付き、応募することにしました。これが2度目の出会いです。
創業者には最初から好印象を持っていたのですが、お話しすればするほど、その熱意や人柄に惚れこんでしまって。ところが、当時の私はITの知識は全くありませんでした。一方、商品が何であろうが販売力には揺るぎない自信があり、東京で頑張って会社を大きくし、一旗揚げたいという創業者のビジョンに共感して入社を決めたという経緯です。
入社後すぐ、東京ビックサイトで開催される日本最大級のITソリューションの展示会に参加する機会がありました。NECや日立など日本を代表する企業のIT担当者が当社のブースに足を運んでくださり、「infoCMS」のデモンストレーションに驚いてくれました。それは自分にとっても衝撃でした。福井からぱっと出の自分が販売する地元開発の製品に、そうそうたるメンバーが「砂利の中からダイヤモンドを見つけた」かのように目を輝かせてくれたのです。ここで素晴らしいものを販売している会社なのだと自信がつきました。これが最先端の情報発信事業のインフラ整備に対しての問題意識を持つきっかけとなり、日本一のCMSとして情報のインフラを支えていきたいという強い使命感を持つに至ったのです。
CMS事業のリーディングカンパニーとしての飛躍
―御社事業の全体像を教えてください。
CMS事業を中核として、WEBマーケティングシステムのインテグレートにまつわるデザインやシステム開発といったあらゆるソリューションをワンストップで提供しています。念のため、CMSとは、プログラミングの知識のない人でも簡単にWEBサイトを更新できる仕組みのことです。当社では自社開発のCMS、「infoCMS」をクラウドサービスで提供することで、専門性がないためにホームページ制作に苦労する企業の負荷を軽減すると同時に、オウンドメディアの価値を向上をさせ、さらにその上に効果的なWEBマーケティングをサポートできる機能を次々に付加していっています。
当社のCMSの特長としては、多く出回っているオープンソースをベースとしたCMSとは異なりクローズドソースなのでセキュリティが高く、安心して利用することができます。さらにプランニング、すなわち企画から情報設計、サイトデザイン、運用サポートまでワンストップで提供できるのが、創業当初からのこだわりであり、他社にはない大きな強みとなっています。
その圧倒的な操作性と高可用性、デザイン性といった品質の高さから、SaaS型CMSの国内シェアにおいて、ITR「ITR Market View」で5年連続ナンバーワン※に選ばれているのです 。
※出典:ITR「ITR Market View」:ECサイト構築/CMS/SMS送信サービス/電子契約サービス市場2020」SaaS型CMS市場:ベンダー別売上金額推移およびシェア(2015~2019年度予測)
―ユーザーはどのような企業が多いのでしょうか。
民間企業と公共公益機関の公式サイトで、450件以上導入されています。割合としては6:4で数としては民間企業の方が若干上回っていますが、公共公益機関では、ほぼ当社の独占状態で導入していただいているのではないでしょうか。
プロダクトはデザインの制約がなく、オールインワンパッケージで使いやすいため、多部門や大人数で運用する公式サイトの運用・更新に適しています。企業ではメーカーが多いですね。商品管理データベースが組み込まれているので、エンドユーザーも一目で欲しい商品があるかどうかが検索でき、企業側も管理コストを低く抑えつつも商品を効果的にアピールし、売り上げを伸ばすことができるのです。
AIに注力~これからはVUI(ボイス・ユーザー・インターフェース)の時代
―「infoCMS」以外にも数々のサービスを展開されていますね。まず「infoCRM」について教えてください。
「infoCRM」はカスタマイズ可能なセミオーダータイプの顧客管理システムです。あらゆるWEB事業の支援・サポートを行える統合型CRMツールで、企業の事業業態ごとに最適なカスタマイズをすることで、業務の最適化と顧客満足度の向上が図れます。まさにマーケティングオートメーションツールの基礎になるツールで、「infoCMS」と組み合わせて利用することで、劇的に効果が上がります。
―AI事業にも注力されていますね。
現在、AI事業の核となっているのが、「Q&Ai.」です。AIを利用した文章解析とディープラーニングを活用した「進化するAIチャットボット(自動会話プログラム)アプリケーション」として、WEBサイト訪問者が求める情報を的確かつ柔軟に提供し、サイト訪問者の満足度の向上を図ります。サイト訪問者ごとにログ管理ができるので、お客様一人一人に最適な回答を導き出すことができます。正答率95%、かつ人間のような愛(i)のある表現で、WEBマーケティングを強力にサポートします。
そして将来的に大きな伸びを期待しているのが、音声入力AIレポーティングシステムの「Repotti」です。今は、画面上に画像やアイコンを多用し、操作をマウスなどのポインティング・デバイスで行う「GUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)」の終焉期であると考えています。そして次に来るのが、音声や会話によって機器やアプリケーションを操作する「VUI(ボイス・ユーザー・インターフェース)」の時代です。そこで、当社では、VUIをAI開発のベースとして捉え、音声認識に特化することで世の中の役に立とうと考えてきました。
「Repotti」は、ユーザーが音声や文章で入力したデータをAIが解析し、「分類・変換・登録」を行うプロセスオートメーションツールです。外出先などからスマートフォンに気軽に語り掛けるだけで、適切な形で報告書を作成するなど、時間や業務のムダを大幅に削減します。
事例としては医療現場や地域の動物の救急治療センターなどへのテスト導入も進んでいます。従来は報告書作成のために所見をその場でメモする人材の配備や、診療後のPC入力などの必要がありました。しかし「Repotti」を使えば、処置をしながら所見を喋るだけで報告書に残すことができるので業務が大幅に省力・効率化され、医療サービスの充実が図られます。
このように「Repotti」は保育系・医療系・介護系・営業システムなどさまざまなシステムに組み合わせ可能なプラットフォームです。働き方改革に大きく寄与し、サイボウズ社の「kintone」やChatwork社の「Chatwork」など、システム連携が続々と進んでいます。
―これらのサービスを組み合わせることでさらなる効果が生まれるのですね。
当社では、WEBマーケティングに対するあらゆる課題に対応できるソリューション拡大を目指し、「infoCMS」を核に「infoCRM」や「Q&Ai」、「Repotti」のほか、大容量ファイル送信システムや成果報酬型SEOなど、周辺サービスを着々と拡充させています。
CMSと地続きのWEBインテグレーション市場は数千億規模
―現在の収益構造について教えてください。
当社の売り上げは、初期構築や追加構築時に発生する受託構築料が6割、サブスクリプション(月額利用料金・定額課金)が4割で成り立っています。つまりフロー6割、ストック4割という構成で、今年度、フロー部分では若干、コロナ禍の影響で新規受託のスピードが落ちているものの、ストック部分は全く影響を受けていません。
―CMSの市場規模は毎年、拡大を続けていますが、ポテンシャル的には限りがあると思います。もう少し先々のスコープで見るとどのような成長戦略になりますでしょうか?
ご指摘のように、CMS市場は概ね2018年度には84億2,000万円で前年度比12.6%増の成長率を示してきましたが、2019年度も前年度比6.9%増の伸びを予測しています。特に当社の属するSaaS型CMS市場については、同18.3%と高い伸びが予想されています。※
※出典:ITR「ITR Market View:ECサイト構築/CMS/SMS送信サービス/電子契約サービス市場2020」
しかしながら、そこに拘っているわけではなく「WEBインテグレーション」という、もっと大きなマーケットに目を向けています。CMS市場は、その一部という位置づけです。今後インターネットやスマートデバイスの進化や普及に伴い、企業が持ち合わせるオウンドメディアの数と質は増加し、あわせて管理負荷もまた増加の一途をたどっています。
一方、CMSの外延領域であるWEBインテグレーション市場は約2,000億円規模と桁違いです。当社はCMS市場のリーディングカンパニーとして市場をけん引するのはもちろんですが、その外に企業が抱えるWEB・IT関連の課題をテクノロジーで総合的に解決するのが使命であると思っています。
社会に役立つ会社として成長し続ける
―入社後、社長になり、上場されるまでさまざまなご苦労があったと思います。
入社して1年半経ったころに創業者が上場したいと言い出し、2012年から上場準備を始め、会社の雰囲気も盛り上がっていきました。しかし業績の良さに反して管理体制の強化がなかなか思うように進まず、やがては社員の士気も下がって行きました。そしてついには上場を言いだした創業者の心が折れて、とうとうリタイアされてしまったのです。
そこで、それまで取締役として創業者と社員を繋ぐ役目を果たしていた私が社長代行を務めることになり、その状況を把握していた筆頭株主のフォーカス社から正式に社長に任命されました。
創業者は口下手だったためにメッセージがうまく伝わらない面もありましたが、心から敬愛していた彼の夢を背負い、日々、経営者として自問自答を繰り返しながら、上場に向かってがむしゃらに突き進みました。仕切り直しで管理体制を整えるべくルールを定めると、それに伴う業務が増えるわけですから、社員のモチベーションをコントロールするのが大変でしたね。紆余曲折を経てようやく悲願が叶ったのは2019年6月のことです。
―上場後、どのような変化がありましたか。
客層がワンランクアップしました。私自身は、こちらが一方的にお名前を知っているような方々との交友関係が一気に広がるという大きな財産を得ました。また上場の準備期間を含め、驚くくらい社員が成長しました。意外に上場に浮かれることなく、使命感が強まり、より厳しさが増した感じです。IPOのメリット・デメリットとよく言われますが、私からすればメリットばかりです。
―コロナ禍を経て、社会と御社ビジネスはどのように変わっていくのでしょうか。
元々、働き方改革によってリモートワークが推進される予定でしたが、コロナ禍によって前倒しになりました。少子高齢化や労働人口減少など、遅かれ早かれ対策を講じなくてはならない問題点に対し、背中を押された感じで、「コロナ前に戻さない」選択がなされるでしょう。国策として「ソサエティ5.0(超スマート社会)」の実現を目指していることもあり、当社もIoT分野で積極的に事業を拡大していくつもりです。
このコロナ禍により、多くの企業がビジネスチャンスを失っています。そこで当社では、直接対面に留まらない商談機会を創出することが急務であり、WEBを活用したインサイドセールス構築が今後必要不可欠であると考え、2020年7月末にB to B向けオンラインビジネスミーティングの マッチングサイト「ビズトーク・マッチ」のサービスを開始しました。掲載企業は商談相手との接点を得るだけでなく、自社サイトや商品紹介サイトへの誘因といった自社のWEBマーケティングとの連動が可能になります。今後はデジタルカタログや商品・サービス紹介の作成支援サービス拡充を目指しています。
このように当社では「ビズトーク・マッチ」をはじめ、コロナ禍で悲鳴を上げる企業を支援すべく、さまざまなプロダクト投入を積極的に進めていきます。
常に前を向き、家族に誇れる会社でありたい
―今後IPOをめざす企業の参考のためにお聞きします。経営者に必要な資質は何だと思われますか。
自分のキャラ設定がすごく重要だと思っています。歴史上の偉人に学ぶべきですね。一国のトップとして命を賭したやりとりをしながらも難しい判断を下して人心を掌握し、上を目指して戦いを挑んでいく……私は織田信長や三国志の曹操をイメージしています(笑)。
また私は「自由と自己責任」という言葉を座右の銘としています。会社のヒーローは常に現場で汗を流す最前線の人間です。社長の役目は社員を一番下で支えて労り、称賛し、ここぞという時には一番前に出ることではないでしょうか。自分に足りないスキルや経験を学習して埋め、自分にしかできない仕事を集中してこなす。そして自分一人では何もできないことを自覚し、チームメイトと助け合いながら業務に取り組む。そうやってミッション(責任)を達成することで、自由が得られるのだと思っています。いずれは高層ビルのハイフロアにオフィスを移転し、従業員の皆と夜景を見下ろしながら自由を噛みしめる日が来ることを夢見ています(笑)。
―今後の成長に向けての課題感を教えてください。
成長角度が高いので人材の確保が喫緊の課題です。今年度から新卒採用をスタートし、5年以内に社員の30%以上を新卒にする予定です。創造力があり、童心を忘れない人材が欲しいですね。学部は関係ありません。今は変化が求められている時代です。色んな角度からアイデアを出して欲しいのです。ずっと業界にいたら思いもよらないような斬新な発想を期待しています。
―今後、インフォネットはどのような会社に育っていくでしょうか。
いずれはグループ全体で社員5,000体制となることを目指しています。武道館で社員総会などを開くのが夢ですね(笑)。社員にはこの会社で社会貢献をしているという誇りを持って働いてほしいです。家族のためにも頑張れるフィールドにしたいと考えており、会議室には社員のお子さんが描いた絵を額縁に入れて飾ったりしているんですよ。そしてインフォネットを辞めたとしても、ここで得た経験やスキルがさまざまなシーンで活用できるものであってほしいと願っています。
IPOをひとつの契機として、今後ますます変容する社会の中で社会貢献カンパニーとして育てていきたいと考えています。
―福井発の個人企業が成長し、IPOしさらに成長していくというストーリーは地域企業にも夢を与えますね。どうもありがとうございました。
<プロフィール>
岸本 誠(きしもと まこと)
株式会社インフォネット代表取締役社長。1981年福井県鯖江市生まれ。立命館大学経営学部卒業。株式会社インテリジェントオフィス、株式会社スタッフサービス、有限会社キャストコミュニケーションズ、プルデンシャル生命保険株式会社を経て、2011年6月に当社入社。2013年10月に営業部長、2014年3月に取締役、2017年6月に代表取締役に就任。
株式会社インフォネット(旧:福井インフォドットコム)
https://www.e-infonet.jp
本社所在地:東京都千代田区大手町1-5-1大手町ファーストスクエア ウエストタワー2F
2002年10月15日設立、資本金:2億5862万円、従業員:77名(2020年2月現在)、上場:2019年6月、上場市場:東京証券取引所マザーズ市場(証券コード 4444)、事業内容:、WEBサイト構築 CMSサイト構築、システム開発 クラウドサービス ASPサービス、広告デザイン・印刷 映像制作
役員構成:代表取締役社長:岸本誠、取締役:日下部拓也、南嶋将人、取締役(非常勤):江村真人、社外取締役(非常勤)小尾一介