EventHub山本理恵代表に聞く~ウィズコロナのイベントマーケティングはオンラインとオフライン統合型に
日本のBtoBマーケティングが転機を迎えている。これまでBtoBと言えば、オフラインのイベントが中心だったわけだが、今回のコロナ禍でイベントも一気にオンライン化が加速。イベント運営の革新が求められる中で、米国発のデータドリブンなイベントマーケティングと、日本独特のきめ細かなサポートノウハウを融合したイベントマーケティングのプラットフォームを開発・運用するのが株式会社EventHubだ。イベントを通して「日本と世界の架け橋になりたい」と語るEventHub山本理恵代表に、ウィズコロナのオンラインとオフラインの融合による国境のない世界のイベントマーケティングの可能性について聞いた。
ウィズコロナに対応!オフラインとオンラインの融合イベントが開催できるEventHub
ーはじめに、事業内容をお聞かせください。
株式会社EventHubは、オンラインとオフラインの融合によりマーケティング効果を飛躍的に高めるイベントプラットフォーム「EventHub」を提供しています。
「EventHub」は、これまで数多くのオフラインイベントの、参加者、出展社、主催者間のコミュニケーションをオンラインで促進することで、マーケティングの効果を最大化する仕組みづくりをサポートしてきました。
もともとは、オフラインイベントの開催を前提としたツールだったのですが、今回のコロナ禍の影響で、オンラインイベントへの引き合いが殺到。オンラインをメインとしたカンファレンスやセミナー等の開催を実施、検討されている企業様向けに「EventHub」オンライン版をリリースしました。
ー「EventHub」オンライン版は、どのようなことができるツールなのでしょうか?
「EventHub」オンライン版は、企業セミナー・商談会・展示会などのイベントをオンライン開催する際に、出展社ごとのセッションやセミナーをオンライン動画で配信できるだけでなく、事前登録、チケット販売から、終了時のアンケートまで、顧客データを一元管理できるイベント開催のオールインワンパッケージです。
さらに、オフラインとオンラインでの同時開催時には、ブースにいながらにして来場できないお客様とのオンライン商談も可能です。一方、オンライン参加者は、自宅や会社にいながらイベントのセッションやセミナーに参加することができます。セミナーやセッションの動画を視聴しながら、チャットなどで講演者、出展者、他の参加者と交流したり、主催者に質問をすることもできます。
ー「EventHub」オンライン版の特長はどのような点にあるのでしょうか?
「EventHub」オンライン版は、主に5つの特長があります。
1点目は、事前に収録した動画の配信、ライブ配信が可能だという点です。イベントの開催方法や内容に応じて安定した動画配信ができるように、配信プラットフォームはYoutube、ZOOM、Vimeoなどの複数の選択肢があります。同時に複数のセミナーやライブイベントの配信も可能なマルチトラックにも対応しています。
2点目は、事前登録からイベント終了まで、顧客データを一元管理できることです。参加登録、動画視聴ログ、アンケート結果がすべて同じメールアドレスに紐づきますので、事後データの処理が必要ありません。リード管理や分析作業がスムーズにできます。
3点目は、6つの視点から多角的に参加者の行動、属性の詳細な分析ができる点です。主に、合計視聴分数、時間ごとの視聴ログ、メール開封、アンケート回答、交流履歴、ログイン履歴などです。イベント開催中も、開催後も参加者の関心事やエンゲージメントに応じたフォローがしやすくなります。
4点目は、ライブ配信中に質問投稿、投票、アンケートなどが随時実施できるためインタラクティブなセッションが実現できることです。参加者から登壇者にチャットで質問をしたり、ライブでの投票やアンケートを行うことで臨場感を持ったセミナー運営が可能になります。
5点目は、リード獲得やフォロワー獲得などを支援するコミュニケーションツールが多数搭載されていることです。資料ダウンロード、製品動画掲載、Web商談予約、個別のメッセージの送受信機能など、リード獲得からアポイント取得までの業務をスムーズに進めることができます。
このようにEventHubオンライン版には、見込み先発掘からフォローまでのイベントマーケティングに必要とされる機能がもれなく搭載されているのです。
ーオンラインイベント市場の成長見込みをお聞かせください
グローバル市場調査会社Grand View Research, Inc.の調査によると、世界的なオンラインイベント市場は年平均23%以上の伸びを見せています。2019年に8兆3,000億円だったグローバル市場が、2020年には10兆円規模に、その後、2027年には現在の4倍の40兆円規模にまで拡大すると予測されています。オンラインイベントには国境がなく、また、地球の裏からでも移動することなく参加いただけますので、このグローバルマーケットの潮流をしっかりと日本企業が取り込めるようにオンラインイベントのプラットフォームを構築してまいります。
ー他のマーケティングオートメーション(MA)や 営業支援システム(SFA)、名刺管理サービスとの連動もできるのでしょうか?
はい。EventHubはMA、名刺管理サービス、いずれとも連携が可能です。イベントを主催、もしくは出展する企業の方から、イベント開催前後の顧客との接点をシームレスに管理するためにこれらのマーケティングツールとの連携を希望されることが多くあります。法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」の個人向け名刺アプリ「Eight」や、Adobeの「Marketo」との連携を実装しています。
海外と日本のイベントマーケティングノウハウの相乗効果
ーなぜこのようなイベントマーケティングに特化したサービスを開発されたのでしょうか?創業の経緯をお聞かせいただけますか?
私は、イギリスで生まれ、米国ブラウン大学を卒業後、グローバルに活躍できるフィールドを求めて新卒で米国のマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社しました。
入社3年で一人前のコンサルタントとして独立することを目指していましたので、世界のグローバル化を牽引してきた米国で、地方企業を担当しながらグローバルに展開しようとする企業の事業展開や企業風土づくりをサポートしたいと考えていました。
しかし、米国の国内企業は、グローバル化と全く逆方向に向いていました。私が担当した米国南部の保守的な地域の企業では、ときに差別的な扱いを受けることもありました。米国はグローバルで多様性のある自由な文化を標榜しているにも関わらず、近年の保護主義の傾向でも明らかになったように、国内には、いまだ人種差別も根強く残っています。グローバル化を牽引するはずの米国人のマインドも、実は内向きな傾向も強く、越えがたい心の壁があるのです。よく日本はガラパゴス状態だと言われますが、私から見れば、これだけ社会がグローバル化する中で、米国こそが実はガラパゴス化しているのではないか。そう気づいてしまったんですね。
このような経験から、私は人種、国籍、国境を越えて、もっとボーダレスに思う存分自由に活躍できる世界を創りたいという想いが強くなり、自分の事業を起業を決意したのです。起業にあたっては、自分がグローバルに活動できる拠点はどこか、改めて世界を見渡した時、やはりアジアこそが自分の活動フィールドだと再発見できました。成長性だけ見れば中国、シンガポールなども起業候補地になると思いますが、もともと幼少期を過ごした日本を選び、国外とアジアのハブにもなれる日本に拠点を移すことにしました。
その後、日本のベンチャーの海外展開をサポートする仕事をするため、世界各国のイベントに参加する機会が増えていく中で、日本企業と海外の橋渡しをする仕組みを最適化する必要性を感じ、EventHubを立ち上げたのです。
ーなぜ、日本企業と海外の橋渡しの仕組みを最適化することが必要だと考えたのですか?
これまで日本企業の世界展開のサポートをするために、イベントの出展者として、あるいは来場者として世界中のイベントに数多く参加してきました。そんな中で、少なくとも当時の日本のイベントはテクノロジーの活用が遅れていることに気付きました。当時私が参加したとある採用フェアでは、主催者が新卒者にプロフィールをカーボンペーパーに手書きさせて提出を求めたり、といったことがありました。
一方で、米国、シンガポールなどのROI(投資効率)を重視したMAとイベントマーケティングが融合した仕組みは非常に合理的でマーケティングのロジックに一貫性があり、このオンラインとオフラインが融合した仕組みは日本でも有効だと感じていました。さらに、この仕組みに日本のきめ細やかなマッチングサポートの仕方を組み合わせれば、世界に通用する、オンとオフのマーケティングを融合させた仕組みが開発できるのではないかと構想したんですね。
マーケティングの共創力を生み出すオンラインとオフラインの融合
ー海外のイベントマーケティングはどのように進展してきているのでしょうか?
たとえば米国はMAやイベントマーケティングが世界に一歩先んじています。既にオンライン・オフラインともにROIを重視した、あらゆる指標のデータを取得してセールスプロセスを科学する、データドリブンなマーケティングが急速に普及しています。
海外の場合は、もともとはMA、つまりオンラインでROI重視のデジタルマーケティングが先行して普及しました。その過程で、必然的にMAとイベントマーケティングの融合が進み、オフラインのイベントも同様に、出展コストとリターンが見合ったマーケティングプランを重視するのが必然になってきたという流れがあります。
たとえばMAではわずか3秒のウェブサイト滞在時間のうちにリードをいかに獲得できるかという秒単位のせめぎあいをしています。この3秒のために、広告をどれだけ投入し、リードを獲得できるか。米国ではそのリードにナーチャリングして成果につなげるために、どのようにリアルとの連動を図るかが課題になってきていました。
ー米国ではMAでのデータドリブンなマーケティングがあって、オフラインとの融合が図られたのですね。では日本のイベントマーケティングはどのような点が課題だとお考えですか?
コロナ禍の発生前は、日本ではFace to Faceのオフラインイベントが重視されてきました。しかし、オフラインイベントは、来場者数をゴールにすることが多いのですが、来場者の平均滞在時間2~3時間の間に、セミナーだけ聞きに来て、どのブースにも立ち寄らずに帰ってしまったり、ただ全体を眺めて帰ってしまうような方も非常に多くいらっしゃいます。そうした方に、自社のリードとなるはずの方がいるかもしれないのに、何のアプローチもできず、機会ロスにつながっているケースが多々あります。仮にせっかくブースに立ち寄って下さって担当者が休憩に入っていて会えないとか。なぜか本当にそういうタイミングになることが多いのですね。これは非常に勿体ないことです。こういう機会ロスを最小化する仕組みをEventHubに搭載しています。
オンライン版でも同様の仕組みを採用しています。たとえば、何かのテーマに関心があって、イベントサイトにアクセスしてきた方がいらっしゃったとします。その方がウェブサイトにログインして情報を閲覧する際に事前登録していただくわけですが、日本では一般的に来場登録数をゴールにする傾向があります。しかし、私たちは事前登録はスタートで、事前登録時から既にイベントは始まっているという考え方をします。視点を変えることで、すべてのイベント関係者にとって次のアクションが明確になり、間を開けずにリードに繋がるような行動を起こすことができます。すぐに行動すれば、来場者も出展者も、あるいは出展社同士も、出会うべき人に出会える可能性が高まるのです。その結果、事前登録後に何らかのやりとりが発生した方とは、イベント前後のメール開封率も高まりますし、面談率も飛躍的に高まります。このような考え方で動線を設計することで、オンラインイベントでもROIを重視したデータドリブンのイベントマーケティングが可能になるのです。
国境のない世界へ、日本人のバリアーを解き放ち、日本と世界の架け橋に
ー今後の展開はどのように考えていますか?
今後は、私のミッションとして、日本人がもっと世界で活躍できる機会を増やすために、日本人の心のバリアーを解くようなオンラインとオフラインのマーケティングが融合する仕組みをつくりたいと考えています。
先般、アジア・アフリカ会議などの海外イベントのお手伝いをした際にも、「なぜ日本人はこれほどしゃべらないのか?」という意見を海外の出展者の方から伺いました。確かに、海外の方であれば、オンラインイベントツールでチャットを提供しただけで、すぐにコミュニケーションが始まります。一方で、日本人は、チャットツールがあっても、どのように話を繋げたらいいかわからないようで、なかなか「では後日お会いしましょう」ともう一歩踏み込んで言い出せない。シャイなんでしょうかね(笑)。このような国民性も踏まえ、オンラインであっても、もっと日本人が海外の方との間にある心のバリアーを解く仕組みを提供したい。
たとえば、今後、EventHubに、ビッグデータによるAI解析を搭載し、この人とこの人は出会うべき必然性が高いのにまだコミュニケーションしていないですよ!といった気づきや出会いをキュレーションできるような仕組みを構築していきます。そうすることで自ずとROIも高まります。オンラインであれオフラインであれ、より人と人が出会いやすいように、きめ細やかなサポートで日本人の心のバリアーを解き放ち、国境も心の壁もゆるやかな世界をつくることで、日本と世界の架け橋になりたいのです。
<プロフィール>
山本 理恵(やまもと・りえ)
1988年英国生まれ。ブラウン大学経済学部・国際関係学部卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニー サンフランシスコ支社入社。マッキンゼー在籍中に認定特定非営利活動法人Teach For Japanへ出向する。2016年に株式会社EventHubを設立し、イベント管理SaaS「EventHub」を提供。
株式会社EventHub(イベントハブ)
https://eventhub.jp/
本店所在地 東京都中央区東日本橋3-4-18 東日本橋EXビル7F
代表取締役 山本理恵
資本金 1億1,300万円
設立日 2016年2月24日