「スポットコンサル」で世界中の知見と、挑戦をつなぐ〜ビザスク端羽英子代表&宮城勝秀氏
企業が新規事業の検討・創出や、業務課題の解決を考えた時、あるいは投資や融資を検討する時、事前にその分野に関する知識や経験をもつ人材に話を聞いてみたいというニーズが必ず発生する。そこで、1時間単位でピンポイントな知見を得られる「スポットコンサル」というビジネス領域を開発したのが株式会社ビザスク(東証マザーズ4490)だ。同社では、あらゆる人のビジネス知見をデータベース化しており、ビジネスに関する知識や意見を求める法人と知見者の個人とをマッチングする「知見のプラットフォーム」を提供。スタートアップから大企業まで、多種多様な情報収集ニーズを満たすサービスとして期待が高まっている。今回、同社代表 端羽英子氏と、IPOを推進した資本政策室長 宮城勝秀氏に、上場までの道のりや今後実現したいビジョンについて聞いた。
起業相談でのダメ出しが着想のヒントに。実体験から生まれた「スポットコンサル」
―はじめに、御社の事業概要についてお聞かせください。
端羽:当社は「知見と、挑戦をつなぐ」をミッションに掲げ「組織、世代、地域を超えて、知見を集めつなぐことで、世界のイノベーションに貢献する」ことを目指し、ナレッジのプラットフォーム(知見プラットフォーム)事業を展開しています。ビジネスにおける専門的なアドバイスや調査を必要とする依頼者と、豊富なビジネス経験や知見を持つアドバイザーとをマッチング。1時間単位から対面や電話で相談できる“スポットコンサル”を設定するサービスです。
「ビザスクinterview」は、当社の専任プロジェクトマネージャーが、ビザスクにご登録いただいているアドバイザーはもちろん、時には外部のネットワークからも適したアドバイザーをリサーチ。顧客の要望にマッチする知見をもっているか否かをアドバイザーに直接確認した上で、顧客にアドバイザーをご提案し、インタビュー実施のアレンジまでを全面的に支援するフルサポート形式のサービスです。
(ビザスクinterviewのビジネスモデル)
フルサポート形式のサービスは他にも、オンライン・アンケート形式で多数のアドバイザーの知見を一度に収集できる「ビザスクexpert survey」や、1時間単位に限らず継続的なメンタリングや勉強会の講師なども含めアドバイザーをマッチングする「ビザスクproject」などがあります。
こうしたフルサポート形式のサービス以外にも、当社のWebプラットフォーム上で依頼者が自らアドバイザー検索や依頼などを行い、アドバイザーと直接やり取りしてスポットコンサルを実施するセルフマッチング形式の「ビザスクlite」を提供しています。
2020年10月現在の登録者数は、国内10万人超、海外登録者数を含めると12万人超となっており、約500業界の多様な業務を網羅しています。アドバイザーの増加とともに、マッチング時に収集される情報を蓄積することでデータベースの利便性は日々向上し、「求める知見が迅速かつピンポイントに見つかるプラットフォーム」として利用価値を高めています。
―なぜ知見のプラットフォームをつくろうと思い立ったのですか?
端羽:もともと「新しいものを生み出せる人には価値がある」と思っていたので、サラリーマン時代からいずれは起業したいという気持ちがありました。もし、仮にうまくいかなかったとしても、起業することでたくさんのことを学べ、チャレンジした事自体が自分の人材価値を上げると考えていたのです。ただし、やるならちゃんとやらなければいけません。そこで自分が一番やりたいことは何か、興味を持っていることや得意分野を活かせるサービスはどういうものか、と考え続けていました。
様々なことを調べているうちに2010年に出版された『SHARE』という本に出会い、デジタルテクノロジーがもたらすシェアリングエコノミーによって、個人が信用を蓄積して売り手にもなれることに面白さを感じました。私は社会人1年目で子どもができ、新しい働き方について常に思案していたということもあり、「これからの時代は働き方が大きく変わるぞ」と思ったのです。そこで私自身が売り手になれるサービスを作ろうと考え、数々のアイデアを練る中でキュレーション系のECサイトの設立を思いつきました。ところが、周囲に起業経験のある方が少なく、起業の相談をしたくてもなかなか機会がありませんでした。
そんなあるとき、知人の紹介でECサイトを立ち上げ、大きく伸ばされた経験のある経営者の方に相談するチャンスをいただきました。結果的には、こちらの意気込みとは裏腹に、完膚なきまでにダメ出しをされてしまいまいた。一方、ダメ出しいただいたことが、とても勉強になりました。経験に裏打ちされたアドバイスはどれも的確で、私が欲していた知見ばかり。「この方にもっと早く出会いたかった!」と思ったのです。
このとき、個人の経験や知見と、それを求める人をつなぐサービスをつくれば良いのではないか、起業の小さなアイデア段階でも必要な情報やアドバイス得られたり、調査ができたりするサービスは大きな需要があるだろうと考えたのです。私は前職で投資銀行にいたので、この業界では市場調査や業界調査にニーズがあることを知っており、マーケットが存在することへの確信もありました。そこで、2012年3月に会社設立に至ったわけです。
―最初はどんな立ち上がり方だったのでしょうか?
端羽:もちろん、最初からうまくいくはずはありません。私は当時にはないマーケットをつくり出そうとしていましたし、そこに面白さを感じる反面、新たに市場を開拓して事業を軌道に乗せるまでには困難も多いことはわかっていました。
何よりもまず知見を出してくださる方がいないと始まらないので、最初は売上よりもアドバイザーとなる登録者をひたすら増やすことに注力し、登録方法や登録画面のUIなどを改良しながら、少しずつアドバイザーを増やしていきました。
―スポットコンサルではどのような案件が多いのですか?
端羽:新規事業参入のための市場調査の前工程や組織や業務課題の解決、投資先のデューデリジェンスなど多岐にわたります。最近では、新規事業のアイデアの検証に利用されるケースも増えていますね。また新しい、プロダクト提案時にも利用いただいています。例えば、IoTを活用した新しいデバイスを工場に導入してもらおうとする際、自分たちの仮説で本当にニーズがあるのか、どういったところが競合になり得るのかなどですね。また、新規のソリューションを開発したときにどの業界に反響があるのか、様々な業界の導入の意思決定者となり得る方にインタビューをするといった事例もあります。
さらに、コンサルティング会社のマーケティングリサーチではもちろん活用されますし、独立コンサルタントの方にもご利用いただいています。例えば、税理士・会計士の方が、自身の専門領域外のクライアントの課題解決に資する業界調査などでご利用いただくなどです。中小企業白書を見ると、中小企業におけるビジネスの相談先は、銀行や税理士、顧問弁護士が多いというデータがあります。とは言え、いくら特定分野のプロフェッショナルでも、企業からいきなり新規事業の相談を受けたときには必ずしも全ての質問に答えられないケースもあるかもしれません。そういったときにも、ビザスクを活用していただけたらと思います。
積極的な効率化とコミュニケーションの円滑化で、少人数チームでIPOを達成
―次に、上場までの道のりを伺います。上場を意識したタイミングはいつ頃で、何がきっかけだったのですか?
端羽:上場を意識したのは2017年の春頃です。新しいマーケットを開拓している手ごたえを感じる反面、認知度や信用度などの点において大企業の中には契約に対してハードルが高いところもありました。
兼業禁止規定に触れないか、守秘義務に反することを取引していないかなど、私たちはプラットフォーマーとして自主的に厳格なルールを設けています。しかし、それを第三者の視点できちんと判断してもらうことが必要だと感じました。幹事会社や監査法人、取引所の方に当社のデータをしっかり見ていただいて、「上場して社会の公器になってもいいよ」と言ってもらえることは、新しいマーケットプレイスを運営している私達にとっては非常に意味があることだと考えたのです。
―宮城さんは、上場準備に関わったそうですが、ビザスクにどのようなタイミング、どのような経緯で参画されたのかを教えてください。
宮城:私がビザスクに入社したのは2017年8月。それまでは監査法人で会計士として仕事をしていました。自身のキャリアアップのため転職を考えていた際、当時の上司を通じて、たまたま端羽と知り合う機会がありました。知見のプラットフォームや暗黙知を共有していくというビザスクのコンセプトを聞いているうちに「とても面白いビジネスだ」と惹き込まれていきました。これまで会計士として業界を見てきた経験からも、こういったサービスがあれば世の中がすごく良くなるだろうと感じたのです。さらに、私心がなく、アグレッシブでエネルギッシュな端羽のパーソナリティに魅力を感じたことも大きかったですね。この会社の成長をこの目で見てみたい、そう思って上場準備に関わることに決めました。
―上場準備において、どんなことが大変でしたか?
宮城:やはり上場準備と通常の経理業務を同時進行するのは大変でしたね。上場前も新しいサービスがローンチされるなど事業が伸びているタイミングだったため、事業部とコーポレート部門が一緒になって解決しなければならないディスカッションポイントもたくさんありました。日常の業務と上場準備は全く異なるものなので、それらを並行してこなすのは非常にハードでした。上場するまでの間は基本的に3人体制で回していましたし。
―3人というのは、上場準備チームとしてはとても少ないように思えますが…。
宮城:上場準備に入ると当然業務量は増えますが、人数を増やして解消しようとしても効率は上がりません。むしろ人数的な余力のないほうが、人は工夫をするようになるので(笑)。それに会社のカルチャーとしても、事業規模が拡大したときに効率化できるコーポレートチームでありたいという考えもありました。事業部のことを深く理解した少数精鋭メンバーであることに加えて、便利なツールや仕組みを積極的に導入し、コーポレート部門の効率化を実現したい。そのため、各部署とのコミュニケーションはより積極的に行うように心がけました。
―予実管理で苦労したことはありましたか?
宮城:それはありませんでしたね。メンバー全員がビジネスを数字で管理していますし、重要なKPIを深く理解しているため、必要なデータはすぐに取れるようになっています。各部長やメンバーがすでに整ったデータを持っているので、集計に集中できました。
端羽:当社では、「KPIで物事を説明する」ことを徹底しています。コーポレートはデータを極力早く集計するように努めますが、それを各事業部が日々意識しながら行動しているので、データ出しに時間がかからずいつでも瞬時に取れるようになっています。KPIで社内のいろいろなことが見えるため、私としても「社内で何が起きているかわからない」ということがなく、情報伝達に対する欲求不満はありません。メンバーも私への情報共有に時間を使うことはないのではないでしょうか。
宮城:そうですね。誰かに共有しようとアクションを起こすのではなく、そもそも情報は共有されているという感じですね。
端羽:当社はいわゆる「報・連・相(ほうれんそう)」の報がなく、いわば報を“見える化”しているイメージです。全ての数字が見えるだけでなく、メンバーの会話などもチャットツールなどで可視化されていますから。とはいえ、複数あるプロダクトラインを決まったタイミングで早く集計することが、上場準備の最初からできていたわけではありません。
宮城:一言で「数字を集計する」と言うのは簡単ですが、様々なサービスがあると出てくるデータや事業部の部署もそれぞれですし、担当者も異なります。正しいデータを素早く集計してチェックをかけ、役員に報告できるようにしたり、監査法人に提出できるように形式を整えたりする、という一連の動きは、会社としてもとから根付いていたわけではありませんでした。同じ数字を見るにしても、私と現場では若干目線が違うこともあります。
しかしそれらの課題も、異常な増減があればきちんと事業部のメンバーに確認するなど、頻繁に意思疎通を図ることで解決できました。集計やチェックのあり方、コミュニケーションの取り方など、個人的には上場準備を通じて非常に学ぶことが大きかったですね。事業部のメンバーにとっても「自分たちの数字はこう見られているのか」という気づきがあったのではないかと思います。
端羽:私は米国公認会計士の資格を持っていることもあり、もともと数字の見える化や集計にアレルギーはなく、自分で作成したスプレッドシートで各部署と直接コミュニケーションを取っていました。その間に宮城が入ったことで、メンバーは宮城にわかりやすいように説明をしなければいけません。そして今度は宮城が、当社のビジネスを知らない第三者に向けて説明をしなければならない。同じことをたくさんの人に説明していくのが上場プロセスだと思うのですが、こうしたプロセスが当社の事業の客観性を上げたのは、とても意味があったことだと思います。
上場プロセスを経て、初めて「会社」をつくれた気がした
―上場されてどのような変化がありましたか?
端羽:やはり、当社に対する信頼度の向上にはつながったと思います。よく「情報管理はどうなっていますか?」といった質問をいただくのですが、これまでは説明に時間がかかることがありました。今は上場できた事実が、事業をする上で必要なルールをきちんと整備している証となり、説明がしやすくなりました。上場プロセスを通じて、メンバーの回答スキルも上がったと思います。また、我々のビジネスが企業体として持続可能な事業だと認知されたことで、大手企業の利用が促進されたことはもちろん、新卒や若手、エンジニアの採用がしやすくなったのも大きな変化です。社内的には、様々な規程を定めるのは大変でしたが、接待交際費や経費精算などの規程を見直せたことで、かえって業務の自由度が上がり効率化できました。
―上場によって見えてきたことはありますか?
端羽:これまでは「事業」をつくってきた感覚でしたが、上場プロセスを経て初めて「会社」をつくれた気がします。複数の事業の統合体としての「企業」ができたと言ってもいいかもしれません。だから私にとって、上場は非常に意義のあることでした。
もちろん、企業は必ずしも上場を目指さなければいけないわけではなく、もし上場してみて、違うなと思ったら非公開化する会社があってもいいと思います。しかし、上場することにすごく意味があるビジネスモデルなのに、「いろいろ面倒だから」と上場プロセスを一度も経験しないのは、非常にもったいないことだと思いますね。
知見と挑戦、互いに可能性を広げあうアクティブなプラットフォームへ
―御社がこれから目指す姿はどういったものでしょうか?
宮城:どのサービスもしっかりと成長させながら、既存のビジネスをこれまで以上に伸ばしていきたいというのは前提としてありますね。その上で、国内では引き続き、営業活動やアドバイザー登録数の増大に注力して認知度を上げながら、海外では2020年1月に開設し4月に子会社化したシンガポール拠点を皮切りに、さらにグローバル事業を成長させていきたいと思っています。
―スポットコンサルというビジネスは、海外にもあるのですか?
端羽:欧米には、一部の専門家が大企業のヒヤリングに答える「エキスパートネットワークサービス」という業界があり、大手と言えるところは6社くらいあります。ビザスクを立ち上げる際は、もちろん日本だけでなく海外の状況も詳しく調べましたが、そのビジネスモデルをそのまま持ってきても上手くいきません。日本を始めとするアジア各国のカルチャーにフィットさせる必要があります。そこで、「スポットコンサル」という呼称からはじめて、日本にマッチするようにモデルを作りました。
既に120ヵ国、約2万人の海外アドバイザーにご登録いただき、海外とのマッチング実績もありますが、今後さらに世界に向けて発展を加速させていきたい、という気持ちは強くあります。当社が国内で培ったオペレーションやシステムなどのノウハウを活かしながら、各地域の文化や法規制などを踏まえてサービスをカスタマイズし、事業の拡大を図っていく考えです。
―スタートアップは海外にあるビジネスモデルを意識することも大切なのですね。
端羽:スタートアップに限らず海外進出のときだけでなく、国内向けの新事業の立ち上げや既存事業の磨き込みであっても、やはり海外の状況はよく調べておくべきだと思いますね。なぜ海外で伸びているサービスが日本では育たないのか、海外で成功しているサービスが日本に来たら自分の業界はどうなるのか、そのときに自分たちはどういう戦略を取るべきかなど、当たり前のように海外の状況から学んでいる人はたくさんいます。しかし、それにはコストや語学などがハードルになることも。まさにこういったときにビザスクは役に立ちます。私たちのサービスをグローバルに広げていきたいのは、まさにそうした情報格差を埋めたいという考えがあるからなのです。
―今後50万人、100万人とユーザーが増えていったときに、どのような世界が見えてくると思いますか?
端羽:100万人という数字を達成すること自体が目標ではありませんが、いずれは働いている人みんなが登録して、誰もが必要な人とつながり、知見にアクセスできる世界を目指しています。もちろん10万人と100万人では求められるサービスが違いますので、そのときは1時間のインタビューだけではなく、エキスパートリサーチという形でより顧客アンケートに近い形態のアンケートサービスが増えるなど、多種多様なサービスを提供していると思います。マーケットリサーチやコンサルティング、企業研修など、関連性の高い業界と事業の垣根を越えて連携しながら、個人の知見を活かすことでどこまで市場が拡大できるのか、これからも私たちは挑戦を続けます。
いずれにせよ、私達が大切にしているのは「知見と、挑戦をつなぐ」というミッションです。知見がつながり掘り起こされて、暗黙知がきちんと言語化できるようになってきたら、その知見自体のポテンシャルも広がり、新たな挑戦がサポートされます。挑戦が大きくなっていけば、またその挑戦をサポートする知見にも可能性が増す。ユーザーがビザスク上で新しい挑戦に出会い、挑戦が新しい知見に出会う、そういったアクティブな循環を生み出すプラットフォームをしっかりと醸成していきたいですね。
―知見のプラットフォームが世界中で多くのイノベーションの創出に貢献することを期待しています。ありがとうございました。
<プロフィール>
端羽 英子(はしば・えいこ)
株式会社ビザスク 代表取締役CEO
東京大学経済学部卒業後、ゴールドマン・サックスにて投資銀行業務、日本ロレアルにて予算立案・管理を経験し、MIT(マサチューセッツ工科大学)にてMBAを取得。投資ファンドのユニゾン・キャピタルにてPE投資に5年間携わった後、株式会社ビザスクを設立、代表取締役CEOに就任。
宮城 勝秀(みやぎ・かつひで)
株式会社ビザスク コーポレートグループ 資本政策室長
有限責任監査法人トーマツにて会計監査、IPO支援業務に取り組む。2017年8月に株式会社ビザスクへ転職し、2020年3月のIPOまで一貫して上場準備とコーポレート業務を担う。
株式会社ビザスク(英文社名 : VisasQ Inc.)
https://visasq.co.jp/
設立:2012年3月
所在地:〒153-0042 東京都目黒区青葉台4-7-7 住友不動産青葉台ヒルズ9F・10F
役職員数:120人(2020年5月時点)
事業内容:1時間からのスポットコンサルをマッチングする『ビザスクinterview』 『ビザスクlite』の運営を始め、日本最大級(※)のナレッジプラットフォームを活用した各種サービスを提供
※アドバイザー数において(12万人超 2020年10月時点)