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2020年11月24日(火)

「CFO人材を100人送り出す」 ソフトバンク流、次世代の財務担当者の育て方

経営ハッカー編集部
「CFO人材を100人送り出す」 ソフトバンク流、次世代の財務担当者の育て方

「経理・財務分野の担当者こそ、まずはプロジェクトに巻き込むべき」と話すのは、ソフトバンク株式会社 経営企画本部 本部長の上村穣さん。次々と新規事業を立ち上げるソフトバンクでは、経営企画の社員のスキルとマインドを磨き、グループ会社の最高財務責任者へと送り出すプロジェクト「CFO100」に取り組んでいる。

CFO(最高財務責任者)には、会計知識はもちろん事業構造の理解やマネジメントスキルなど、幅広い知識と実行力が求められる。優秀な人材を外部から招くだけでなく、未来のCFOとなるような社員を自社で育てるには、どのような環境整備や社内風土が必要なのだろうか。「CFO100」を推し進める同社の取り組みと手応えについて上村さんに聞いた。

財務畑ではなくマーケ出身 多部署との共通言語を生かす

ソフトバンク株式会社で財務統括 経営企画本部長を務める上村穣氏のインタビュー写真。

──「CFO100」に取り組む上村さんご自身は、どのようなキャリアを歩まれてきましたか。

現在は、財務統括 経営企画本部を統括していますが、私は財務畑の出身ではありません。最初に通信キャリアに携わったのは、1987年のこと。職歴には記載しないような学生アルバイトでしたが、法人向けの回線を販売する飛び込み営業で通信事業自由化の黎明期を体感しました。

新卒で入社した広告代理店では、10年以上にわたって文化スポーツイベントや外資系IT企業などを担当し、マーケティングの知見を重ねています。インターネット黎明期にポータルサイトのバナー広告営業に転身し、画像変換サーバーのマーケティング・営業に従事。

3度目の転職で、日本テレコムのコンシューマ事業部に参画しました。すると、入社から半年後には同社がソフトバンクに買収され、経営企画部へ。一度は法人営業を担当し、2012年に財務畑に異動して現在に至ります。
 

──財務統括部署への異動は意外な出来事だったのでしょうか。

私を経営企画に推した上司は「財務畑で育った人材ばかりでは起爆力がない。劇薬だと思って営業から引っ張ってきた」と言います(笑)。

自分自身のキャリアを振り返ると、まさに「Connecting the Dots」。後から振り返ると、点と点がつながっている――スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式辞で紡いだ言葉の通りです。営業やマーケティングの現場で得たものが、現職で確実に生きていると思います。

ソフトバンクの財務統括陣は、多様性に富んだキャリアの持ち主ばかりなんですよ。私の上司であるCFOは、自動車メーカーでキャリアを積み、経営管理と英語力、米国公認会計士資格の資格を持ってソフトバンクに移ってきました。財務の他の本部長も技術者出身が2名、マーケティング出身者が私を含めて2名という顔ぶれです。
 

──多様なバックボーンの人材が集まることは、財務部門にどのような好影響をもたらしていますか。

当社の財務部門は財務・会計のプロフェッショナルとしてキャッシュを有効に使い、リスクマネジメントをするための複雑な財務スキームを駆使しています。経営企画本部に求められるのは、セールスやマーケティング、技術の担当と共通言語で話せること。事業部門側とコミュニケーションを取り、ビジネスの前線を支えるのがソフトバンクの財務です。幹部をはじめとするメンバーが多様性を持つことには大きな意味があります。

 

CFOを100名育成せよ! スキルマップを示して2つのOJTを繰り返す

上村穣氏が社内用の資料を元にプレゼン形式で取材に答えた。

──「CFO100」の成り立ちについて教えてください。

きっかけは、2017年にソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)が発足したことです。当時、フォートレスと合わせた運用規模は、合計17兆円以上。2016年度の日本のベンチャーキャピタル組成額の約50倍と、非常に大きなインパクトを持っていました。

当社でも提携新規事業プロジェクトが乱立の勢いで立ち上がりはじめました。それを目の当たりにした専務執行役員のエリック・ガンが発したのが「会社をどんどん作らなければいけない。CFOが100人要りますよ!」という言葉でした。これはトップが共通して持っていた危機感です。こうして、CFO100名の輩出を目指したプロジェクト「CFO100」がスタートしたのです。

新会社の設立でCFOが必要になれば、まず経営企画本部のメンバーからアサインされます。そこで、経営企画本部のメンバーにはスキルマップを整え、能力開発計画も整備。まずはプロジェクト単位での最高財務責任者を目指してほしい、と明確な方針を打ち出しました。
 

必要なスキルの全体像を示して能力開発

──具体的に、人材育成はどのような手順で進められましたか?

まずは、「CFOになるには何を身につけるべきか」を可視化する必要がありました。そこで能力開発の考え方「ロバート・カッツ・モデル」をベースにスキルマップを整備しました。
 

スキルセットおよびマインドセットの体系スキルセットおよびマインドセットの体系

スキルと言ってもテクニカル面だけではありません。いわゆる人間力とも言えるヒューマンスキル、複雑なことを分かりやすい抽象概念にするコンセプチュアルスキルといった3つのスキルがあります。これらは比重こそ変わるものの、中間管理職、経営層になっても同様に重要です。プロフェッショナルであり続け、生涯学び続けることも、またしかり。

スキルの全体像と項目(一例)スキルの全体像と項目(一例)

また、必要なスキルの全体像を3領域に分けて示しました。CFOには、P/Lの作成や読解、キャッシュフローの計算といった「財務会計・管理会計」の知識だけでなく、「マネジメント」と「事業理解」が必須になるでしょう。

例えば、会社のつくり方だけではなく、たたみ方も知っておくべきですし、分析結果を分かりやすく周囲に伝える能力や、海外展開を視野に入れた知識も身につけておかなければ。もちろん、自社の事業構造や商流の理解も重要です。
 

「投資意思決定」の能力定義と習得方法「投資意思決定」の能力定義と習得方法

各スキル項目には、それぞれ定義を設けます。例えば財務会計・管理会計分野の「投資意思決定」という項目なら、図のように必要な能力を3段階に定義したロードマップを示して、各段階でするべきことを明確にします。

これらのスキルマップを参照してOn-JTとOff-JTを繰り返し、スキルを自分のものにしてもらう。その上で自ら能力開発計画を建ててもらえれば、いずれはプロジェクトにアサインされる存在になる、という想定です。
 

マインドセットには現場の経営者感覚を体感させる

――スキル以外のマインドセットはどのように向上させるのでしょうか。

一社員の立場であっても経営者感覚を身につけること。それが経営企画本部のメンバーに求めるマインドセットです。そこで、トップマネジメントがどんな思考のもと、どんな会話を重ねて集団的意思決定に臨んでいるのかを体感させようと考えました。

具体的には、全社の経営会議の事務局メンバーに各本部長が推薦する社員をアサイン。経営会議のサマリーを担わせつつ、トップマネジメントの意思決定を目の当たりにしてもらう、というのが狙いです。

ソフトバンクの経営会議メンバーは、全体で約60名。会議の重要性に応じて参加者は異なりますが、経営会議事務局はすべての会議に立ち会います。リスクに対してどのように対応し、判断をしていくのか。緊迫した経営判断の場に立ち会うことで、有望な人材に経営者感覚を身につけてもらいます。

日本のレガシー企業には、かつて「社長の鞄持ち」をしながら業務を学ぶポジションがありましたが、それをより現代に即した形にしたものと言えるかもしれません。
 

情報収集への好奇心を養い、ボトムアップを活発に

ソフトバンク株式会社で財務統括 経営企画本部長を務める上村穣氏のインタビュー写真。

――CFO100を始動して3年。どのような成果につながっていますか?

2019年度から2020年度にかけて、経営企画本部からはCFOや管理部長に8名のメンバーを送り出しました。手を挙げて他部門から移ってきたメンバーもおり、人材育成・輩出のサイクル構築に一定の手応えを感じています。

ただ、ソフトバンクの経営規模もさらに広がり、加速を続けています。LINEとの経営統合が完了すると、グループは400社超に及びます。拡大ペースに合わせ、さらなる人材育成が急務であることに変わりはありません。

会社やプロジェクト単位での意思決定を支えるメンバーを目指し、経営企画本部に意欲的に加わってもらいたいと思います。こうした人材のボトムアップを活発にするのが、ソフトバンクのカルチャーです。
 

――企業風土として重視していることはありますか。

私たちが重んじるのは、貪欲に情報を収集していく好奇心です。経営企画本部には新規事業部や子会社などの事業計画が上がってきますが、整えられたきれいな情報だけ見ていては、現場の様子がわからないことも多々あるでしょう。

現場では何が起こっているのか? それを知るために、一次情報へのアクセスに徹底的にこだわり、積極的に取材するマインドを醸成しています。結果的に分析に使われないものが山ほどあっても、へこたれずに素材をつくる。その積み重ねが、人前に出せるアウトプットを生み出す「サマリー力」に帰結します。
 

――「サマリー力」向上のため、部下にどのような役割を担わせますか。

若手にはまず、議事録の作成をお願いしていますね。発言録を逐一まとめるのではなく、提案に対する合意の有無や結果に基づいて次にやるべきこと=ToDoを明らかにする。こうした日頃の実務の積み重ねによって複雑な物事をサマリーしていく能力が培われるでしょう。

また、部下からの企画提案時は上司や幹部が事前に綿密なレビューを行います。ソフトバンクには「手形法」を模した文化があるように感じています。年次や経験が浅い場合、企画提案がなかなか上層部にまで届きません。これは手形の信用度が低いために流通しない、ということ。

そこで、上司や幹部など信用度の高い上位層が「このポイントを修正したら応援できる」といったレビューをつけて、手形を裏書きします。あるいは、論理的かつ明解にリジェクトする。この姿勢がソフトバンクの管理職には求められるのです。ユニークなアイデアがボトムアップ的に創発され、さらに人材の育成にもつながっていく。これがソフトバンクの文化なのです。
 

――CFO人材の育成について、トップマネジメントからはどのような期待があるのでしょうか?

経営幹部から期待されるのは、集団的意思決定を促すためのファシリテーション力、助言力の養成です。経営判断に際して「これはどう思う?」と聞かれ、きちんと的確に答えを出せるか。これこそ、企業参謀役としてCFOに求められる役割にほかなりません。

外れた答えを出してしまうと、1ストライク。3回重なったら3ストライク、アウト――ポジションを外されることもあり得るでしょう。真剣勝負で打席に立つという気概はもちろん、事態をどのように認知し、判断し、行動したのかというプロセスが明示され、CFO人材のあり方がより明確になります。

この「3ストライク文化」は社内のさまざまなレイヤーにありますが、部署の中で許容されれば5ストライクまで認められることもあるし、ファウル――出し直しとしてノーカウントになることもある。若手を育て、志を認めていこうという風土が根づいています。

 

プロジェクト巻き込み型でCFO人材を育てていく

ソフトバンク株式会社で財務統括 経営企画本部長を務める上村穣氏のインタビュー写真。

――CFO100をスタートした今、改めてCFO人材の育成にはどんな施策が有効だと考えますか?

経理・財務人材を「プロジェクトに巻き込んでいく」試みが重要なプロセスなのだと考えます。これは企業規模を問いません。なぜなら、どの企業にも必ずプロジェクトはあるからです。

事業プロジェクトに限らず、社内の改善活動やQCサークル的な活動でもいいでしょう。そのプロジェクトの予算を管理するメンバーとして、将来の財務を支えるメンバーをアサインしていく。これこそ、意欲あるCFO候補者に予算管理やプロジェクトマネジメントを学んでもらう格好の機会です。

財務人材が傍観者にとどまらず、自分のスキルと情報を駆使して集団的な意思決定を支えていく。その一連のプロセスを繰り返していくことは、CFO育成に向けた最良のOn-JTになるでしょう。
 

――では、「CFO100」のさらなる進展に向け、今後のビジョンをお聞かせください。

CEOの宮内は「経営にとって最も重要なのは、構造改革と成長戦略である」と強調しています。平たく言えば、自らをいかにして効率化し、どんな新しい価値を生み出していくかということ。その過程にCFO人材の貢献ポイントがあります。経営の効率化が本当に進められているのか? 次の成長はどのように目論めるのか? これらを数値的に見える化し、フォーキャストしていくことが必須です。

構造改革と成長戦略を高いレベルで進め、日本の会社を元気にしていくためにも、財務面でリードしていく人材は欠かせません。志あるCFO人材を育成し、存分に活躍できるフィールドに送り出していきたいですね。

(執筆:佐々木正孝 撮影:栃久保誠 編集:森夏紀 / ノオト)


<プロフィール>
ソフトバンク株式会社 
経営企画本部 本部長 上村穣
大学卒業後の1988年にアイアンドエス(現アイアンドエス・ビービーディオー)に入社。1998年にライコスジャパン、2002年にピクチャーIQジャパンの入社を経て2003年に日本テレコム(現ソフトバンク)に入社。営業戦略統括部長、法人営業部長を経て2012年に財務に異動し、2018年から現職。SBプレイヤーズなどグループ会社の取締役も務め、ソフトバンク、グループ会社の経営企画・経営管理を統括する。
 

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