資金繰りの課題を抱えるスモールビジネスのソリューションへ 経営者の悩みと不安を解消する「資金調達freee」がもたらす世界観
コロナ禍であらゆる業種、業界の経営環境が厳しさを増す中、企業は存続のために運転資金・手元資金の確保に力を入れている。freeeが2020年6月に行った調査でも、今後1年間に「資金調達が必要」と答えた事業者は42.1%。しかし、そのうち「資金調達の目途が立っていない」との回答した事業者は59.1%にのぼった。
freeeは「会計freee」を通して、スモールビジネスにおける会計業務の自動化や効率化、経営データの可視化を進めてきた。そこで獲得した知見、ナレッジを生かし、金融事業部が開発したのが「資金調達freee」。利用可能性の高い資金調達手段を、一気通貫で検索・比較し、さらに申し込みまでワンストップでできるオンライン資金調達プラットフォームである。
資金まわりの課題がどのようにスモールビジネスの成長を阻害するのか、そして適正な資金調達を経た企業経営はどのような姿で進んでいけるのか? freee finance lab株式会社に出向して本サービスの開発、運用に携わる土井啓夢さんに聞いた。
経営環境が厳しさを増す中、資金繰りの重要性は高まり続ける
――コロナ禍で中小企業の経営が悪化し、まずは「売り上げを立てるべし」と奔走している経営者も少なくありません。
「売り上げを立てるべし」という姿勢は間違ってはいないと思います。同時に、資金調達が重要なのは言うまでもありません。ただ、私たちは「まず資金繰りを考えるべし」と強調しています。
資金繰りとは、会社のお金の「入り」と「出」を管理すること。「入り」は、売り上げなどで会社に入ってくるお金で、資金調達も該当します。「出」はコスト。在庫が必要な商売だったら仕入れが発生しますし、社員がいれば人件費がかかります。
ざっくり言えばですが、この「入り」と「出」のバランスが整っていれば、会社は経営できます。逆に、「入り」と「出」が整わなくなったら、破綻してしまう。家計簿のように、「入り」と「出」をやりくりするのが資金繰りです。
「売り上げを立てる」とは「入り」を上げていくこと。ただ、売り上げを上げると、それに伴って必要以上のコストがかかってしまうこともあります。いくら売り上げたら経営が安全なのかを把握しないままがんばっていては、苦しい状態からいつまで経っても抜け出せないこともあるでしょう。そして「売り上げを上げたら何とかなるはず」という発想には落とし穴もあります。それが黒字倒産です。
――経営破綻と聞くと、赤字でにっちもさっちもいかず……とイメージしてしまいますが、決してそうではない、と。
商品やサービスを販売して、1000万円の売り上げが立ったとしましょう。しかし、その売り上げが実際に入金されるまで5カ月かかり、その間に仕入れ代金や人件費などのコストが900万円かかり、手元に300万円しか無ければ帳簿上は黒字でも手元の資金がショートして倒産してしまいます。
帳簿上では売り上げが立って黒字でも、現金として手元にない期間が存在します。人員や機材を動かしたり、部材を確保したりといった先出しのコストがかかる建設業がわかりやすいですが、どの業界でも黒字倒産は珍しくありません。倒産した企業の約半数が黒字倒産というデータもあります。
私たちfreee finance labは、この黒字倒産がスモールビジネスにとって大きな課題のひとつだと捉えました。この事態がなぜ起こるのかをひもといていくと、資金繰りに行き着きます。
もちろん、経営者の皆さんも、売り上げを上げていてもコストがかさめば破綻してしまうことは理解しているでしょう。しかし、今後6カ月間の「入り」がいくらなのか? それまでにこれだけの「出」があるから、どれだけ手元に資金がないといけない、あるいは資金を調達しなければいけないのか――。特にスモールビジネスの経営者は多忙なこともあり、こうした「資金繰り」を考えるのが難しい、という現実もあるのです。
スモールビジネスの資金調達で、不安とコストを解消するために
――あらゆる経営者が資金繰りを課題としていることがわかりました。「中小企業ならではの資金繰り」には、どのような傾向があるでしょうか。
日本の全企業数のうち、99.7%が中小企業です。創業期の約6割の中小企業が資金繰りに課題を感じていますが、私たちがフォーカスしたのは「大企業と中小企業のファイナンス格差」です。
大企業は信用があるためにお金が借りやすい、つまり資金調達が中小企業に比べて容易です。しかし、中小企業は大企業に比べて信用がないためお金が借りにくい、つまり資金調達が困難です。この格差はスモールビジネスの成長を阻害しかねません。
先に説明した通り、私たちが解決すべき課題として掲げたのが「黒字倒産」。スモールビジネスが黒字倒産で挫折することなく、安定して会社を運営していくためには、血液となる手元資金が必須です。資金調達は、会社が生き残り、健康な状態で経営を進めていくための輸血だと言えるでしょう。
――資金調達にあたって、経営者はどのような課題を抱えていますか?
資金調達を経験していない経営者は多く、情報も不足しがち。つまり、ほとんどの人は「どうやったらいいのかわからない」状況にあると思います。資金調達に際しては融資の申込書類の収集や金融機関への訪問など、さまざまなコストがかかります。また、会社の生き死にを左右する融資でも審査に通るかどうかはブラックボックスで、心理的な負担がふくらむのも避けられません。
その結果、資金調達を前にしたスモールビジネスの経営者は不安にとらわれ、自信を持って意思決定、選択できない苦境に陥りがちなのです。
――それらの課題を「資金調達freee」は、どのように解決していくのでしょうか。
資金調達freeeは、利用できる可能性が高い資金調達手段を検索・比較し、そこからスムーズな申し込みができるオンライン資金調達プラットフォームです。開発に際し、私たちは仮説を立てた上でスモールビジネスの経営者たちにヒアリングを重ね、このプロダクトが提供する価値のひとつを「自社にとって最適な選択をしたと自信を持てる」「かかる手間を最小限に抑えたかたちで資金調達ができる」というポイントに設定しました。
「資金を調達するためには、どんな選択肢があるのか」「それらはどのような諸条件なのか」といった情報を一覧して提供。これにより、各調達手段への利用ハードルを下げることを狙いました。
資金調達手段の紹介では「審査通過可能性」の項目があります。これは会社の情報を入力すると通過の可能性が示されるというもの。入力したデータ量にそって、通過可能性の精度が上がります。
前述の「審査が通るかどうか」という不安要素を可視化し、情報として提供しようとする試みです。これらの仕様により、「自社にとって最適な選択をしたと自信を持てる」ようになってもらえればと考えています。
必要書類や、申し込みの手続きがウェブで完結するのも重要なポイントです。審査書類作成の手間を省略し、審査もよりスピーディーに行うことができます。これが「かかる手間を最小限に抑えたかたちで資金調達ができる」に訴求する点です。
さらに、商品同士を横に並べて比較できる「かんたん比較機能」も使えるようにしました。おそらく融資商品を見慣れていない方は違いがわかりにくいと思います。この機能は、任意の商品を横に並べて同じ項目の違いを比較できることで、自社に合った商品を選ぶことができるようになっています。
2020年1月現在、資金調達freeeでは、全国各地の30以上の金融機関を掲載。金融機関ごとに複数の商品を選択できるようになっています。事業用の融資では、これだけの金融機関数、商品数を備えたプラットフォームは他にありません。
各資金調達手段のメリット・デメリット
――資金調達freeeでは銀行融資、ビジネスローン、ファクタリングなどの調達手段が比較検討できますが、それぞれの調達手段について解説いただけますか。
資金調達の主な種類としては、日本政策金融公庫などの公的機関から事業資金を借りる「公的融資」、民間からは「銀行融資」、ノンバンクが展開する「ビジネスローン」、企業が保有している売掛債権を買い取る仕組みの「ファクタリング」があります。
それぞれメリット・デメリットを簡単にまとめてみたので、資金調達を考える上で、参考にしてみてください。
●公的融資
メリット:日本政策金融公庫が創業融資で用意している「新事業融資制度」は、限度額が3000万円。無担保無保証で借りられるため、スモールビジネスの経営者には有力な選択肢に。金利も1~2%台と安く、返済期間も10年など長期に設定できる。また、新規開業時でも比較的借りやすい
デメリット:あえて挙げるなら、リードタイムと書類手続きの手間。書類が多く、入金まで1カ月程度を要することもある
●銀行融資
メリット:金利がビジネスローンやファクタリングと比較すると低い。信用があれば、大きな金額を貸してくれる。また、リレーションを持っておけば、会社が困ったときに助けてもらいやすくなる
デメリット:書類手続きの手間が大きく、審査は厳しい。銀行融資にはプロパー融資、保証協会経由の融資という2種類があり、後者の場合は保証協会の手数料を乗せた結果、金利が高くなる。中小企業の融資は保証協会を通すことが多い
●ビジネスローン
メリット:審査の難易度は銀行融資などに比べると低く、銀行が融資してくれない場合でも貸してくれることがある。事業性など定性的な要素で評価してくれる場合も。
また審査期間が短いため、素早く借りることができる
デメリット:金融機関がリスクを負う分、金利はと高め。銀行に比べると借入の限度額も低い
●ファクタリング
メリット:入金までのリードタイムは最短で即日とはやい。売掛債権を元に借りるため返済の不安は少なく、自社の信用が無くても取引先の信用で借入ができる。審査期間も短く早く借りられる
デメリット:金利は銀行融資などに比べると10%程度と高め。返済期間も短め
資金調達freeeでは比較範囲に含まれていませんが、資金調達といえば、上記の手段のほかにこのようなものも挙げられます。
●エクイティファイナンス
メリット:足元の業績や財務状態に左右されず、返済義務のない資金を調達することができる
デメリット:調達難易度が高く、上場やM&AなどでのEXITが求められる。また、株主構成が変わるため、経営の自主性が失われる可能性もある
●クラウドファンディング
メリット:返済義務が無く、誰でもプラットフォームを通じて発信ができるため調達がしやすい。また、テストマーケティング的な利用もできるため資金調達以外のメリットも大きい
デメリット:金額が大きくなりづらく、調達できるまでに一定の時間を要する
誠実なスモールビジネスが誠実に評価される世界を目指して
――資金調達のハードルを下げる「資金調達freee」ですが、間口を広く取って誰でも使えるハードルの低さも特徴。freeeならではのフットワーク軽いサービス提供、スピード感のある実装が視野に入っています。
事業を営む人であれば誰でも、会計freeeのアカウントがなくても利用できます。ユーザーは初期費用、サービス利用料を負担することなく利用いただける仕組みです。
今後は返済を支援する仕組みづくりも整備し、調達・返済を含めた資金繰り全体をスムーズにするプラットフォームを目指していければと考えています。
私たちは「会計freee」の実装やAPI連携を通し、金融機関と強固な提携関係を築いてきました。ありがたいことに、この「資金調達freee」でも「ぜひ一緒にやりましょう」と手を挙げてくれる金融機関が多数います。freeeが手がける以上、ユーザーとサプライヤー、プラットフォーマーの「三方良し」は必ず実現したいと考えています。
――目指すべきビジョンを含め、今後のアクションをお聞かせください。
スモールビジネスの経営者は「資金繰り、資金調達に関する知識がない」という悩みも抱えています。その悩みへのソリューションとして、エンタメ要素を盛り込んだ動画やセミナーなど、さまざまなコンテンツを提供していこうと考えています。
YouTubeでは、歴史上の偉人がもし資金調達をしたら? というテーマで制作した動画「その時お金が動いた」を公開しました。今後も楽しんで学んでいただけるコンテンツを継続的に発信していきたいですね。
「歴史の偉人は銀行借入できるのか!? 明智光秀編」
「資金調達freee」が目指すのは、スモールビジネスの経営者が、まずは自社の資金状況を正しく把握し、必要なタイミングで必要な資金調達を実施する判断ができるようになること。資金繰りに必要な知識を仕入れることで、自社にとって必要な資金調達手段を選択できますし、資金繰りを行う上で必要なこと、資金提供先を把握して、正しくコミュニケーションをとれるようにもなるでしょう。
その先には、サービスの中でストックしたデータ、ナレッジを活用して、誠実な取引をする企業が正当な評価を受けて資金繰りを行えるビジネス環境を目指していければ。freeeは「スモールビジネスを、世界の主役に。」というミッションを掲げていますが、「資金調達freee」が目指す世界は、そのミッションに通底するものです。
誠実に経営をしているスモールビジネスが誠実に評価され、しっかり資金が調達できる。私たちは「資金調達freee」により、そんな世界の実現を目指しています。
(取材・文:佐々木正孝 編集:杉山大祐 / ノオト)