「一人で専門知識を網羅する必要はない」 freee CFOがチームづくりを重視する理由
経理や財務の担当者は、予実管理や経理実務など「ミスのない数字の管理」が重んじられてきた。いわゆる「スコアキーパー」としての役割である。
そんな担当者に、より高度なスキルや高い視座を獲得させるとどうなるだろうか。経営に参加する「ビジネスパートナー」として存在感を発揮できるようになれば、経営戦略や事業運営にインパクトを与えるCFO(最高財務責任者)として、企業価値の向上をもたらす存在にもなり得る。
しかし、中小・中堅企業はリソースが限られており、ビジネスパートナーとして立つCFOの育成は決して容易ではない。トップマネジメントの意思決定を支える次世代の財務担当者はいかにして育てていくべきだろうか。草創期からfreeeに参画し、財務経理を統括する東後澄人さんは、現在は取締役CFOとして財務経理を統括。経理チームが事業部と並走し、ビジネスパートナーとして前線に駆け上がれる環境を整えている。自身の成長プロセスやfreeeにおける後進育成・仕組みづくりを通し、「次世代財務担当者の育て方」を語ってもらった。
コンサルティングファーム、事業会社を経てfreee CFOへ
――工学部でロケットを研究されていたそうですが、現任に至るまで、どのようなキャリアを歩んできたのでしょうか?
大学を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに進みました。コンサルティングファームには理系出身者も多いので、それほど珍しい進路ではありません。学生時代は最先端の分野をひたすら掘り下げていくことがすごく面白かったんですが、一方で自分は世間知らずのような気もしていました。
もう少し世の中を知り、視野を広げなければ自分自身の可能性を最大化できないんじゃないか? そんな思いを抱いていたところ、コンサルティングファームでインターンシップをする機会を得ました。今までにない学びがあり、視野の広がりを体感したことから、後に縁あってマッキンゼーに進んだのです。
――その後はグーグルに転職され、2013年にfreeeに入社します。
グーグルに転職したのは、自身が主体となり、事業を進めていく経験を積みたいと考えたから。ここでスモールビジネスの支援に携わり、現場の課題感、問題意識に触れることができました。現在のfreeeの事業にダイレクトに生きている部分ですね。
ミッションドリブンな組織の強さを感じたのも、グーグルでの経験から。ワクワクするミッションを掲げ、メンバーはその意義を心から信じ、誇りにできる組織は強いんです。freeeもそのようにありたいと考え、進んできました。
――CFOに求められる経営判断や意思決定の知見は、どのように身に付けましたか。
マッキンゼーで最初に学んだのは、分析のスキルでした。業務では「クライアントにバリューを出せているのか?」を、徹底的に深堀りしていかなければなりません。新卒として経験もない中で、プロジェクトにバリューを出すためにたどりついたのが、分析的アプローチです。どんな環境であっても、自分自身が価値を出すことを意識していく。現場で得たこの学びは、現在の経営判断の礎になっています。
――現在はfreeeのCFOを務める東後さんですが、自身のキャリアを通してスモールビジネスのバックオフィスにはどのような課題感を持ってきましたか?
バックオフィスに回せるリソースや時間は有限です。これはビジネスの大小に関わらず立ちはだかる問題ですが、スモールビジネスは、より少人数で回さざるを得ません。いかにしてバックオフィスを効率化し、捻出した時間を創造的な作業に回せるかは、大企業よりも重要です。
スモールビジネスのバックオフィスは、これまでインターネット、ITの力が最もおよびにくかった領域のひとつです。大企業なら潤沢な資金力で積極的に先端サービスを導入できますが、スモールビジネスはリソース不足から、そのメリットを享受できないことが多い。たとえば、受発注の管理には今でもファクスが多く使われています。
freeeのミッション「スモールビジネスを、世界の主役に。」は、ITの力でスモールビジネスのバックオフィスをサポートし、生産性の向上に寄与したいという思いが原点にあります。
「CFOが専門知識を網羅する必要はない」メンバーが活躍できるフィールドづくり
――freee社内の体制についてお聞きします。東後さんは、COOを経てCFOに就任されましたが、これまでどのようにバックオフィスを統括してきたのでしょうか?
先ほどお話したキャリアから、私にはファイナンスのバックグラウンドがないことはおわかりいただけたと思います。経営判断を担う上で最低限の会計知識は身に付けましたが、個人として専門知識のすべてをカバーすることはできないしその必要もない、と私は考えていました。専門知識を持った優秀なメンバーを組織の中に迎え入れ、チームとして実現していくことを目指しました。
――CFOとして、メンバーに活躍してもらえる環境づくりに注力してきた、と。
そうですね。私の役割は、メンバーが高いパフォーマンスを発揮し、存分に活躍できるフィールドを整備していくこと。これはCOO時代もCFO時代も一貫して変わりません。意識しているのは権限の移譲です。自分より力を発揮してくれるであろうメンバーを採用し、育成し、活躍できる場にアサインする。メンバーに任せなければ、組織は成長していきませんからね。
組織の成長とともに必要な機能がどんどん増えていく中、新しいファンクションの開拓を行い、その後は育ってきたメンバーに任せる。そして自分はまた新たなところへ進む。その繰り返しです。ただ、権限移譲=任せっぱなしということではありません。情報共有は不可欠です。
とはいえ、すべてを共有する必要もありません。チームとして何を目標とするか、ゴールをしっかりと設定する。メンバーが成長機会を自らつかみ、自律自走していってくれるようになったら、CFOがやるべきことはほとんどない、と言ってもいいでしょう。
――freeeの経理チームはどのように増強され、現在に至るのでしょうか。
振り返ってみると、経理担当者は1人体制の時期が長かったですね。創業当初は社員数も少なかったので、バックオフィスとカスタマーサポートを兼務するスタッフが1人だけ。その後、労務、人事、採用、法務など、バックオフィスの業務が増えていくに従ってそれぞれ担当者を置いてきましたが、社員が100人を超える頃まで、経理は1人だったかな。
上場準備を視野に入れた段階から組織化を進め、現経理部長もそのタイミングでジョイン。経理は専任の社員3人とサポートメンバーでチームを組んでいます。同じくらいの規模の企業に比べたら、少人数の編成だと思います。
――小規模のチームで経理業務を担えるのはなぜですか。
経理の体制づくりは、自社のクラウド会計ソフト「会計freee」の導入が最大のキーポイントになっていると考えています。プロダクトを使いこなして業務を自動化することにより、経理チームも少人数で編成できているのです。今後も生産的で、より付加価値の高いバックオフィスを目指し続けます。
その意味でも、メンバーには好奇心を求めています。「問題なく回っているから、今までのやり方でいいじゃん」ではダメ。常に新しいやり方を模索し、トライし続けていくマインドが何よりも大事です。あとは経理という業務を理解し、愛情を持って臨むこと。これは事業に、そして「会計freee」というプロダクトの進化にも直結します。
――メンバーが高いパフォーマンスを発揮できる環境づくりにおいて、今後のCFOにはどのようなスキルが求められると考えますか。
CFO、つまりバックオフィスを統括するリーダーは、さまざまなツールやサービスについて知識を持ち、それらをうまく活用していける人材が、今後求められるでしょう。以前はテクノロジーに関して高度な知識を持っていなければ、導入や運用が難しかった時代もありましたが、現在は多くのサービス、プロダクトの汎用性が高まり、スモールビジネスでも、上手に活用できるようになっていると感じます。
バックオフィスの課題は各社それぞれですが、課題に対してどのようなサービスを組み合わせ、どのようなオペレーションに落としこめば、最も生産性が高くなるのか? ――そんな視点でバックオフィスを設計、デザインできる人材が求められます。
――冒頭で挙げられた「スモールビジネスならではのバックオフィスの課題」へのソリューションが各種テクノロジーということでしょうか。
そうですね。各種プロダクトの活用でリソース不足を解決し、バックオフィスの効率化を推進する。効率化によって手に入れた時間や意識の余裕は、事業の改善・成長につながる新たなビジネスインサイトを生み出すことに向けます。そうすることで、創出できる価値はさらに高まっていくはず。こうした観点からも、自社に最適なバックオフィスのデザインには気を抜かずに取り組むべきです。
経営的な視点を身につけ、次世代のCFOを目指していこう
――そもそも、これまでスモールビジネスでは、CFOがビジネスパートナーとして立つのは困難とも言われてきました。それはなぜでしょうか?
一つに、CFOに求められることの幅の広さが挙げられるでしょう。会社によってカバー領域が違うので、ひとくくりにするのは難しいですが、ファイナンスの知識と事業への深い理解、視座が求められます。
財務経理担当として知識を学び、知見を重ねている人材はスモールビジネスでも少なくありません。しかし、経営陣の一員として意思決定に関与していくため、つまりスコアキーパーを脱却するためには、その2つを両立しなければなりません。
――経営的な視点を醸成し、備えていくために必要なこととは?
財務や経理の担当者として数字を見るのも大事ですが、事業をどうやって成長させていけるか? 経営上の課題は何か? それらを自分自身の頭で考えられるようになれば、経営視点により近づくと言えます。
例えば、経営を任されたと想定し、実際に事業計画を立案してみてはどうでしょう。降りてきた数字だけで物事を考えるのではなく、次年度の目標値を作ってみる。いざプランニングしてみると、いろいろな仮説を立て、検証しなければならないことがわかります。
事業成長の核になっているのは何か? 仮説の変数になっているものは何か? 一つずつひもといていくことで、事業の主体となって考える意識、つまり経営的な視座の獲得につながります。
――最後に、スモールビジネスにおける有望なCFO像について期待をお聞かせください。
私たちは「会計freee」「人事労務freee」というプロダクトを通して、より生産的になったスモールビジネスが主役となる社会を目指しています。そこでは創造的かつ戦略的であるCFOも欠かせない存在になっているでしょう。バックオフィスの最適化に寄与し、デザインしていける人材の躍進を願っています。