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2021年08月13日(金)

アジャイルメディア・ネットワーク上田怜史代表に聞く~成果が持続するアンバサダーマーケティングとは?

経営ハッカー編集部
アジャイルメディア・ネットワーク上田怜史代表に聞く~成果が持続するアンバサダーマーケティングとは?

メディアとは何かについて人に問うと、多様な答えが返ってくるだろう。このとらえどころのないものを世界で最初に定義したのが、マーシャル・マクルーハンである。彼は、「メディアは、メッセージである。」と言った。もともと、メッセージの流れは、特権的な一部の発信者から大多数の受信者に向かっていたが、インターネットがその歴史を変えたことに異論はないだろう。ブログが、多数のメッセージの受け手を発信者に変え、さらにSNSによって、個人のメッセージが集合することで、世界を動かしてしまうほどの力を持つに至った。必然的に、企業のマーケティング活動もそれに合わせて変貌していく。この、インターネット時代のメディアの変遷と軌を一にして成長してきたのが、アジャイルメディア・ネットワーク株式会社(マザーズ6573)だ。同社は個人の影響力が増してきているSNSの持続的活用にいち早く目をつけ、インフルエンサーに頼らず、ファンがファンを呼ぶ「アンバサダーマーケティング」という手法を生み出した。今回、上田怜史代表に、サステナブルなマーケティング活動を可能にする、アンバサダーマーケティングが誕生するまでの経緯と、目まぐるしく変わるインターネットビジネス環境下で、今後どのように事業を発展させていくのかについて伺った。

 

SNSの躍動期に遭遇

―アジャイルメディア・ネットワーク誕生と上田代表ご参画の経緯を教えてください。

当社が設立されたのは、2007年です。私はまだ参画していませんでしたが、創業当時は、丁度、ブログが出始めの時代でした。ブログの登場以来、個人が簡単に、そしてスピーディーに情報発信をすることができるようになっていきました。情報発信の主体というと、大手企業の運営するマスメディアが主だった時代からすると画期的な出来事でした。個人が俊敏に発信していくことができるようになった情報の価値を、より一層高めていきたいというところからアジャイルメディア・ネットワークという社名を付けたと、創業当初のメンバーから聞いています。私が加わったのは、ネットメディアが次のステージに移行し、SNSというプラットフォームが勃興するタイミングでした。今まさに、SNSがネットメディアの中心となり、ますます企業にとって個人の情報発信の価値が高まってきていることを実感しています。

それまでは、企業がインターネット等を介して広告を打ちたいと思っても、エンドユーザーと直接接点を持つことができませんでした。しかし、SNSによって、エンドユーザーと直接コミュニケーションを取ることができようになったのです。そこで、私たちはいかに正しく、上手にSNSを活用したコミュニケーションを取ることができるのか?に対して知見を蓄え、そこに特化した会社としてポジショニングを確立してきました。

―どういった経緯で御社にご参画されたのでしょうか。

たまたま、CNET Japan(現朝日インタラクティブ株式会社)に勤めていた頃の上司が、当社の初期の役員になっていまして、半ば強引に誘っていただいたことが入社のきっかけとなりました。その当時私は、DeNAに在籍していたのですが、モバゲーによる広告業務を行っていましたので、「アジャイルメディア」の発想である、個人がスピーディーに情報発信できるようになり、それを支援し、価値をより一層高めていきたいという趣旨に共感したということも大きかったです。背景としては、担当していたモバゲーを通じて、個人の持つ情報発信の価値を目の当たりにしていたからこそ、実感値を持ちやすかったのだと思います。

―具体的に、SNSのインパクトを感じられたのは何がきっかけなのでしょうか?

例えば、人材系の会社が、取引先企業の採用候補者をどう集めるかという課題に対してモバゲーを通じた企画を運営していました。人材会社として、モバゲーに集まっている人に対して、働くということをどう意識させながら就職活動に対してポジティブにアクションをしてもらうのかを考えたとき、モバゲーにはアバターがあった。そこで、採用企業とタイアップし、それらの企業に紐づいたアバターの着せ替えを用意してみたのです。全く見向きもされないか、面白がって飛びついてくれるかもわかりませんでしたが、この企画に少なからずの企業が興味をもってくださり、実際に企画を走らせてみると、ものすごい広がりをみせました。

アバターの増え方を確認するために、管理画面を見てみると、リロードするたびに万の単位でアバター利用者が増えていくという具合でした。アバターを見た人が、これはどこで貰えるの?という口コミでどんどん広がっていったのです。結果としては10万ダウンロードとなりました。

他には、大手スポーツウェアブランド会社との企画で、サッカーボールを蹴る動画を投稿すると、その中から抽選し、当選者がロナウジーニョとスペインで練習ができる、というもの。最終的には100万単位の応募が集まりました。SNSコミュニティのパワーは凄いなということを学んだ企画でした。コミュニティの持つポテンシャルは、その他のSNSプラットフォームにおいても同様に存在しているということを確信しました。

アンバサダーマーケティングの誕生

―メディアの中心がSNSへと移行する中、どのような施策を打たれたのでしょうか?

SNSを活用してビジネスをスケールアップさせていきたいという企業様からのご要望にお応えしていくために、初めは、販促キャンペーンを中心に企画していました。ところが、新しいSNSのプラットフォームが、毎年毎年出てくる時代でしたので、キャンペーンを実行し、成果を上げようとなると、いつの間にか、エンドユーザーではなくて、影響力のあるインフルエンサーの確保という指標を追いかけていくような形になってしまいました。インフルエンサーを使えば、販促成果の瞬発力は出ますが、このままではビジネスとして安定しない。どうしたらよいか?と考えたときに、「アンバサダー」に行きついたわけです。

―アンバサダーとインフルエンサーの違いはどこにあるのでしょうか。

「アンバサダー」とは、「リピート購入するだけでなく、周囲に推奨し、他のユーザーへのサポートやブランドの擁護まで自発的に行うファン」であると定義づけています。したがって、「アンバサダー」は、純粋な口コミ手法であり、お金を払って不特定多数へ広告するインフルエンサーという概念とは根本的に異なります。

短期的な成果だけを見ると、インフルエンサーの指標を追いかけてしまいがちです。しかし、我々が支援している企業の方々にとっては、インフルエンサーよりも、企業のファンとの関係をいかに構築できるのか、より良いものにできるのか、が大事という本質に立ち返った結果、「アンバサダー」という概念が生まれたのです。「アンバサダー」は今後も当社が展開し続けられるように、商標登録もしています。はじめは、あまり理解していただけず苦労しましたが、最終的にはインターネットの検索結果においても、アンバサダーを支援してくださる声が上位に上がり、その価値が広く周知されるようになってきました。

―アンバサダーマーケティング事業の展開について教えてください。

支援させていただく企業の方々には、「中長期的な目線で、エンドユーザーとのコミュニケーションを図っていきましょう」ということをお伝えしていました。そこで、今でいうCRMツールを開発し、複数のSNSにまたがる顧客を管理し、ユーザーとのやり取りを円滑にする環境を整備しました。特定個人に対していろいろなSNSを紐づける仕組みを導入した結果、一人一人の発言を収集分析できるようになっていきました。つまり、これが当社でいうアンバサダープラットフォームです。

それ以前の企業は、ファンは大切だと言いつつも、ファンとはどこにいて、何をしていてどんな発言をしているのかということが分からなかったのです。それに対して、私たちは、一人一人のファンが、あるブランドに対してどんな発言をしていて、それを受けてどのくらいの人が共感をしているのかということを把握できるようになった。一人一人のファンの影響力は大きくなくとも、無償で常に応援をしてくださるファンの存在を見つけられて、それに対して企業のマーケティング活動の評価ができるようになったというのが大きな変化でした。

これを受けて、企業のマーケティング担当の方々は、インフルエンサーとしての芸能人だけではなく、一人一人のファンの皆様に、(今まで行き当たり的に行っていた)サンプル提供やイベント招待をしたいという声や、その方々に優先的に商品をプレゼントしていくという方向へと変化していきました。

―分析ツールと、各種SNSとのAPI接続はかなり大変ではないでしょうか。

Facebookや、Twitterなど多様なSNSの仕様変更を常に追い続けながら、分析ツールの仕様を変更していくこととなるので、このツールを開発維持するとなると、我々のように本業として取り組む企業はさておき、それ以外の企業の方々にとってはかなり面倒な作業になるかと思います。そういった作業を私たちが代わりに対応し、下支えしています。また、APIを接続するとなると、SNSプラットフォーマーの審査が必要になってまいりますので、そこに関してのノウハウも私共が提供できるといったような無形資産の蓄積となってきています。

―同様の分析ツールは、日本にはないのでしょうか。

過去のデータを集めて分析するツール自体はあります。ある意味、スナップショット的に、このキーワードがこのくらい呟かれていた、とか、ポジティブな反応がこれくらい出ていたというようなツールです。しかし、当社のように、Aさんという人の発言を軸に、ずっと継続して追いかけていくことができる、人を軸に分析していくツールはありません。

人を軸に分析し、各個人の発言を追いかけていくということは、その個人の方々からの地道な信頼獲得とそのためのコミュニケーションをセットにしていかないと意味がなく、当社はそこに価値を置いているからこそ唯一無二のポジションを維持できているのだと考えています。

したがって、デジタルのみならずリアルなイベントも年間100回くらい開催してきました。コロナの影響を受けている現在においても、オンラインでイベントを行っております。また、実際に一人一人と対話をする機会も非常に大切です。特に企業のサポートとしてそこまで細かいサポートするものは多くないので、結果として弊社のサービスをご利用いただくことが増えていきました。

―東証マザーズへ上場された狙いはどのあたりにあったのでしょうか。

アンバサダーという概念を認知拡大していく中で、社会的にステルスマーケティングが問題視されるネガティブインパクトもあり、正しく私たちの活動を理解していただけないことが少なからずありました。つまり、上場の狙いは、パブリックカンパニーとしての信頼性を獲得し、より一層多くの方へ賛同をいただく契機となればということが最も大きいです。

初めは私自身も、あまり上場しているという実感がなかったのですが、その後着実に、採用や、事業連携という側面で選択肢が増え、上場前とは大きく異なる出会いが生まれていきました。上場したとは言え、小さい会社だからこそ、私たちだけではできないことを様々なステイクホルダーの皆様にご協力頂きながら成し遂げていこうということを、改めて誓いました。

デジタルとリアルの融合による更なる価値創造へ

―アンバサダープラットフォームに付加して行われている、御社の事業戦略についてもう少し詳しく教えてください。

アンバサダー事業によって提供しているソリューションを拡大していくことに加え、そのソリューションをより強固にしていくために付帯事業を運営しています。

まず、PRISM動画事業という「データ×動画」で実現するDXソリューションです。こちらでは、特許を取得したテクノロジーを活用し、データを基に、一人一人に最適化した動画を合成・生成・配信・分析することができます。10万人のお客様がいたら、10万通りのおすすめ動画をカスタマイズし、提供しながらその結果をレポーティングします。

例えば、健保組合の健康診断においてこのテクノロジーが活用されています。これまでは、健康診断の結果が紙で送られてきて、その内容を簡単に理解することが難しい状況でした。結果として再検査に行かないというような事態も多く見受けられます。そこで、診断結果を数分の動画にまとめ、個人ごとに結果の見方や、次のアクションについて簡単に理解することができるコンテンツを提供しています。これまで10万人以上に動画を提供し、その後の閲覧状況まで分析サポートしています。

また、デジタルパンダというInstagramの管理を自動化するサービスをM&Aで取得し、現在、私たちが持つノウハウを独自サービスとして実証している段階です。その他にも、美容業界のDX化にも取り組んでいて、美容師の技術ノウハウを動画化し、月額課金制、コンテンツ見放題での提供もはじめました。

さらに、リテールマーケティング事業という、店舗やeコマースの分析、販促ソリューションを行い、リアル/デジタルの垣根を越えて小売店舗の分析、業務効率化、買い物体験の向上を支援しています。

このように、アンバサダープラットフォームを中心に、DXを活用し、企業と個人のエンゲージメントをより効率化、高度化して行っています。

―今後の事業展開の方向性について教えてください。

これまでは、大手企業に向けたソリューションの提供を多く行ってまいりました。しかし、アンバサダーのコンセプト自体には、中小企業や小規模事業者の皆さんにも共感をいただくことがほとんどです。特に、地域におけるビジネスでは、商圏がかなり限定的であり、地域外に広げていく需要はかなり大きいと思います。とはいえ、現在私共が提供しているのはエンタープライズモデルであり、年間でも大きな予算が必要となってきてしまいます。通常ベンチャー企業は大手企業と取引をするケースが多いため、そういった成長プロセスになっていますが、今後はより多種多様な企業ニーズに応えていきたい。そのような想いから、現在新しいプランを構築し、モデル検証を始めている最中です。

世界中の”好き”を加速し、”小さな経済”を成長させ続ける

―アンバサダーマーケティングを通じて、今後どのような世界を実現していきたいとお考えでしょうか。

私たちは、“Ignite Passion all over the world”「世界中の”好き”を加速する」をビジョンとして掲げ、「個の力を最大化し、”小さな経済”を成長させる」というミッションを成し遂げるべく活動しております。テクノロジーの発展によって、現代では、すごく大きな資産を持っていなかったとしても商品を作り、販売することができるようになった。まさに個人が活躍できる世界だと思いますし、その価値を応援、後押しするような世界でもあると思っています。たとえ、大きな企業からすると小さく見える個人のインパクトであっても、積み重なると大きなインパクトになる。”小さな経済”というのはある意味、大きな経済へのアンチテーゼの様な側面も持っています。

そして、その結果として「世界中の”好き”を加速する。」ということ。SNSの日常浸透も進んで、気分や好意を伝えあうこと自体は、いま世界中で自然に起こっている現象です。今までは、あえて口に出してまで好きなことを表に出さなかった、ある商品の一(いち)ファンの方が、それを表に出していくことの楽しさや、価値を感じられるという体験も生まれてきています。ただし、これまでそういったファンの方たちは、好きなことの良さを豊かに表現してこなかったので、かっこいいとか、おいしいなどという抽象的な表現しかできないのがもったいないです。しかし、今後、表現する知識が身についていくと、~~~だからおいしい、~~~だから履き心地がいい、などと言いたくなってくる。それを加速させ、当たり前にしていくことが私たちの役割であり目指すべき世界だと考えています。

―最後に、ビジョン達成に向けた上田代表の経営方針を教えてください。

組織の持つ資源は限られています。さらに、当社はまだ小さな会社です。したがって、ユニークなポジションをいかに獲得するかに集中する必要があると考えています。そのためには私自身、経営者として必要なのは、マネジメントも重要ですが、これだけ変化が速い世の中においては、自分がプレイング社長であることが必須だと思います。新しい流れやテクノロジーに関する詳しい話を聞きつけ、社内外に対して翻訳し、既存のリソースと組み合わせるとこういう価値が生み出せるのではないかということを考案、伝達していくことが大切です。現場から上がってきたものを待ってジャッジするのではなく、社長自ら常に最新の情報を取得し、事業戦略を練っていく必要があると考えています。

現状維持は衰退の元、という危機意識をもって日々奮闘しております。社内のみならず、社外のステイクホルダーの皆様とも連携しながら、更なる価値創造に向けてこれからも地道な努力を積み重ねていきます。

 

 

<プロフィール>

上田 怜史(うえだ・さとし)
    
平成12年4月    株式会社エー・ビー・シー商会入社
平成17年3月    シーネットネットワークスジャパン株式会社
(現朝日インタラクティブ株式会社)入社
平成18年10月 株式会社ディー・エヌ・エー入社
平成19年10月 当社入社
平成21年3月     当社取締役
平成26年3月     当社代表取締役社長(現任)


アジャイルメディア・ネットワーク株式会社(Agile Media Network Inc.)
略称    AMN
https://agilemedia.jp/

所在地    〒105-0001 東京都港区虎ノ門3-8-21 虎ノ門33森ビル4F
代表取締役社長 CEO 上田 怜史
設立    2007年2月13日
事業内容
1.インターネットを利用した広告配信代理業
2.インターネットを利用した情報提供サービス業
3.インターネット関連のシステム開発
4.インターネット関連のセミナーおよびイベント事業
5.出版業
6.上記に附帯関連する一切の事業

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