コラボス茂木貴雄代表に聞く〜コールセンターのクラウド化とプロフィットセンターへの革新
コールセンターシステム市場にもクラウド転換の波が押し寄せている。巣ごもり需要の高まりでECが伸びる一方、オンプレミス型を導入するには高額な投資が必要だし、チャットやSNSなど、コンタクトチャネルの多様化に即座に対応できないという課題がある。こうしたニーズに柔軟に対応できるクラウド型は、多くの企業にとってコスパの高いサービスというわけだ。2001年から業界に先駆けてクラウド型コールセンター・ソリューションを提供してきた株式会社コラボス(東証マザーズ 3908)代表の茂木貴雄氏は「AI技術の進化により、コールセンターは今以上に、マーケティングと直結しプロフィットセンター化が加速する」という。同社サービスはコールセンターシステム市場に何をもたらすのか。創業から上場に至るまでの経緯、市場動向や成長戦略などもあわせて伺った。
電話システムとCRMのワンストップ提供が強み
-はじめに、事業内容をお聞かせください。
当社は、お客様相談室や製品お問い合わせセンターといったコールセンターを構築したい会社様に向けて、コールセンターに必要な電話交換機システムや顧客情報管理システムを月額料金制のクラウドサービスとして提供しています。主軸のサービスは4つです。
1つ目は「@nyplace(エニプレイス)」。IP電話交換機製品において国内外に多くの実績がある「AVAYA Inc.」のIP電話交換機システムを提供するサービスです。クラウドとの接続により場所を選ばずスピーディーかつリーズナブルなシステム導入ができ、オプションの通話録音システムもご利用いただけます。
2つ目の「COLLABOS PHONE」は、小規模コールセンター向けに自社開発したソフトフォンをクラウド型で提供するサービスです。ソフトフォンとは、電話機などの専用機器を使わず、PCにインストールしたアプリケーションソフトによってインターネット経由で電話機能を実現するものです。「@nyplace」に比べて短納期、低価格での導入が可能です。
3つ目の「COLLABOS CRM」は、コールセンターでの利用に特化した顧客情報管理システムをクラウドで提供するインバウンド(着信)向けCRMサービスです。電話対応やEメール対応、Web問い合わせ履歴の一括管理ができ、IP電話機と連動したエンドユーザー情報のポップアップなど、業務補助の機能も充実しています。「COLLABOS CRM」を導入いただいているクライアント様の約半数が「@nyplace」、「COLLABOS PHONE」とあわせてご利用いただいています。
4つ目は、アウトバウンド(発信)業務の生産性を上げる「COLLABOS CRM Outbound Edition」です。発信先リストの作成や結果レポートをはじめ、アウトバウンド業務に特化した機能を持つ顧客情報管理システムをクラウドで提供しています。「@nyplace」や「COLLABOS PHONE」と併用することで、PC画面上からのクリック架電や自動架電を行うことができ、業務効率化を図ることができます。
これらに加え、業務サポートや効率化のための5つのITソリューションを組み合わせることで、あらゆる顧客ニーズに対応したサービスが提供できるようになっています。
電話交換機システムと顧客情報管理システムをワンストップで提供している企業は、業界を見渡してもあまり例がなく、これが当社の強みになっています。今後も顧客企業に密着したサービス提供を行い、生産性向上や業務効率改善に貢献したいと考えています。
-コールセンターシステム市場はクラウド型が主流になっているのですか?
近年はクラウド型のメリットが認知され、オンプレミス型がダウントレンドなのに対し、クラウド型はアップトレンドになっています。ある機関の調査では、約7,000億円規模のコールセンターシステム市場において、2022年度はクラウド型のシェアがオンプレミス型のシェアを上回ることが想定されています。今後もクラウド型への転換が加速すると思われます。
クラウド型導入のメリットとして、オンプレミス型よりも圧倒的に初期費用が安く短納期であることや、毎月の席数増減にもフレキシブルに対応でき、保守の必要がないことなどが挙げられます。また先進技術の導入が早く、常に最新のサービスが利用可能で、使いたい目的にあわせて、容易にカスタマイズできることも利点ですね。
IP電話技術を活かしコールセンターのクラウド化ニーズを先読み
-創業の経緯を伺います。茂木社長は日商岩井株式会社(現・双日株式会社)ご出身です。なぜ商社に興味を持たれたのですか?
学生時代は、体育会のサッカーと、日本ロシア学生会議という国際学生交流団体の2つに力を入れていました。実際にロシアを訪れた経験もあり、その際にお世話になったのが日商岩井でした。何か大きな仕事をしたかったこともありますが、これからの世の中は資源が大事になってくるだろうと思っていました。ロシアは資源が豊富ですし、日商岩井はロシア方面でのビジネスも強かった。それで興味を持ったのです。
1995年に新卒で入社した当初、約1年半は財務を担当していました。商社は、やはり営業が花形の職種。私も営業に移りたくて、折を見ては、知り合いだった営業部の先輩に自ら売り込みをかけていました。すると、あるときロシアの通信会社を管轄する情報産業本部だったら人が空いているんじゃないかと紹介されて。その後もさらに売り込みを続け、情報産業本部へ異動が叶ったのです。財務の上長には「ちゃんと異動させてやるから余計な動きをするな」と釘を差されましたけどね(笑)。
2000年には、IT事業の創出を目的に、情報産業本部はアイ・ティー・エックス株式会社として日商岩井から分離独立。約300人規模の情報産業本部が、ほぼ丸ごと移りました。そこで立ち上げられた新規事業のひとつが、日本初のIP電話会社となるフュージョン・コミュニケーションズ株式会社(現・楽天コミュニケーションズ株式会社)です。もともとはその中でコールセンターの機能をもたせる予定でしたが、コールセンターはとても複雑で特殊な機能を必要とする業務なので、専門に扱う会社を立ち上げようと設立したのがコラボスです。
-コールセンターシステム市場にさらなる商機を見出したということですね。
コールセンターのマーケットだけを見ていたというよりも、IT化によって実現できる様々な事業に関心があったのです。その中でも、比較的マーケットが大きくて将来的にも安定需要が見込めるものがコールセンターシステムのクラウドサービスでした。当時も今とほぼ変わらず、コールセンターシステム市場は7,000億〜8,000億円規模でしたから。
-当時、クラウドはまだ一般的に広く認知されていなかったと思います。先読みできた理由は?
コールセンターを自前で導入する際は、非常に高額な初期投資が必要です。それがフュージョン・コミュニケーションズでコールセンターの立ち上げに関わってみて、初めてわかりました。なにせ、100席程度で約1億円という世界です。これでは、一部の大手テレマーケティング会社などでしかシステムを使うことができません。使いたい人はたくさんいるのに、それができていない。インターネットを介して月額制で気軽に使えるようになれば、コールセンターを身近な存在にすることができます。そこにきっとチャンスが広がっているのではないかと思ったのです。
なおかつ、ネットワークがIPになればさまざまなサービスを付加できます。そのうえ、クラウド化によりあらゆるITサービスが実現されていく世の中でも、複雑で特殊な機能が必要なコールセンターシステムは、コモディティ化しづらいとも思いました。これをクラウドサービスで提供できれば、長期間に渡ってシェアを拡大できるはずです。最初から成功を確信していたわけではありませんが、「やってみなければわからない、とにかくやらせてくれ」と手を挙げ、稟議書を書いて通しました。
上場して見えた景色。企業文化の醸成にもつながる
-上場を決意したのはいつ頃ですか?
コラボスを立ち上げる際の稟議に「上場」と書きましたので、最初からマイルストーンとして上場を目指していました。2011年には、株式公開に向けての体制を整えるためMBOを実施。ファンドのイグジットも考慮すると、第一選択肢はやはり上場しかありません。それからファンドと二人三脚で上場を実現していったという流れです。
-先行者メリットを得て、早期に上場できる可能性もあったと思います。時間がかかったのはなぜですか?
やはり一般的なインフラとしてインターネットが普及し、ネットワークの利用料金が下がらなくては、このビジネスは拡大できません。当時はまだ、そのような状況ではなかった。インターネット料金が劇的に低下するまで、思いのほか時間がかかったということが、1つの要因です。さらに、コールセンター業界はどうしても実績などのトラックレコードを重視する風潮があり、信頼を構築するまで時間がかかったというのもありますね。といっても、MBO以降はシナリオ通り順調に進みました。
-上場されていかがでしたか?
社会的に信用力が増して営業がしやすくなったなど、上場してよかったことはたくさんあります。中でも採用に関しては大きく変わりました。営業やエンジニアはもちろん、新卒の採用もやりやすくなりました。当社はもともと新卒採用に積極的ですが、設立から20年が経ち、やっとオリジナルな“コラボス文化”が形成され始めていると感じています。
こうした文化は、既存のビジネスのベースになるだけでなく、小さくても新しいことにチャレンジする姿勢にもつながります。当社は『熱心な素人は玄人に勝る -新しい事を自分で創めよう-』という企業理念を掲げており、誰もやっていないことをやるというチャレンジ精神を大切にしているのです。こうした企業文化の形成はまだ始まったばかりですが、これからも挑戦を続けながら醸成していきたいですね。
コラボスが掲げる3つの成長戦略とコールセンターの未来像
-拡大するクラウドサービス市場において、どのような成長戦略を描いていますか?
当社は、2021年3月期から2023年3月期までの3カ年を対象とした中期経営計画において、3つの成長戦略を掲げています。
「戦略①」は、現有サービスへの新ITソリューション追加開発。消費者と企業のコミュニケーションチャネルの変化により、多様なチャネルからの問い合わせが増えています。これにあわせ、SMS・チャット・チャットボット・FAQの4つのソリューションを開発し、現有サービスラインナップを充実させます。これは2020年10月29日に「COLLABOS PHONE」にSMS送信機能を追加し、新たなサービスとして「Challbo(チャルボ)」,「CollasQ(コラスク)」をリリースしています。
「戦略②」は、AI技術を活用した新コールセンターソリューションのリリースです。コールセンターの場合、特に日本のマーケットは他業種と同様、人材不足が課題です。それにともない、AIを活用したいというニーズが年々増加しているのです。当社は、長年蓄積した音声でのコールセンター業務のノウハウにおいて、一日の長があります。これを活かし、「COLLABOS PHONE」に音声認識技術や音声ボット技術を組み込むなど全面リニューアルを進めています。
「戦略③」は、コールセンターに集まるデータを活用したマーケティング事業領域への参入です。売上を伸ばしたいという企業のニーズに合わせて、当然ながらコールセンターに対する要求も高まっています。コールセンターはこれまで、企業によってはコストセンターと捉えられていたケースも多かったのですが、問い合わせ対応による解約防止やリピート率向上など、直接売上に貢献するプロフィットセンターを志向する動きが出てきました。現在、そのためのツールとして新サービス「GROWCE(グロウス)」の開発を進めています。
-AIによる音声技術とは、個別かつ複雑な問い合わせに対して回答できるものですか?
それがすぐに実現できればベストなのですが、今のところは、スマホに話しかけて検索をかけてくれる技術と基本的には同じレベルです。しかしコールセンター業務には、音声認識技術だけでなく、最適な回答をピンポイントで出す高度な技術も求められます。そうしたサービスを、場合によってはサードパーティと協力しながら開発する考えです。実現しているのは、口頭での予約受付や再配達依頼などですね。最終的には、AIが自動で判断したうえで要望したものを返してくれる技術に近づける必要はありますが、可能な部分から着実に実現していきます。まずは人の代替になるサービスを提供していくのが、ビジネスとしては現実的ですね。
現在、特に力を入れているのは、自動学習でFAQ情報を蓄積するボットの開発です。問い合わせの会話の内容をAとQに分け、それをコンテンツとして学ばせて、似ているものはブラッシュアップしたり、新たなものを追加したり。検索サイトのデータベースに近い考え方ですが、そうしたコールセンター向けのデータベース開発までたどり着きたいと考えています。
人にせよAIにせよ、結局はお客様が欲していることにプラスアフファして返すことが重要で、それには情報を極力スピーディーに表示し、活かすことが必要となります。コールセンターもすでに、そうした情報処理のプロセスに組み込まれているのだと思います。
-これからのデジタルマーケティングにおいて、コールセンターはどのような役割を担うとお考えでしょうか。
旧来のコールセンターは、基本的にインターネットにつながっていないオフラインの業務でした。しかし今後は、コールセンターで受注につながった会話を分析し、顧客の反応がいいキーワードを使ってリアルタイムにリスティング広告を出すなど、オフラインとオンラインを統合した運用の仕方が求められます。顧客データやコミュニケーションデータなど、コールセンターに集まる質の高いデータを統合し、一人ひとりに最適なアプローチを行うことで、顧客満足度の向上を図ることが可能になります。
-コールセンターとマーケティングの垣根を取り除こうというわけですね。さらに将来、コールセンターはどう変わっていくと思われますか?
50年後には、コールセンターそのものが無くなっているかもしれませんね。というのも、検索技術がますます発展して全てAIが答えることができれば、それはもはやコールセンターとは呼べませんから。しかし、そこまで到達するには、多大な時間を要します。
その過程で段階を踏みながら、コールセンターを利用されるお客様をはじめ、当社のサービスを利用されているオペレーターや会社様のニーズに応えられるサービス提供を地道に続けていくしかないのだろうと思っています。一方では、欧米を中心に、個人から収集したデータの活用に逆風が吹いています。まさに想定外ですが、デジタルではなく、人と人の対話によるコールセンター需要が増す可能性もあるでしょう。
いずれにせよ、常に新しいマーケットを開拓してお客様のニーズにあった新しいサービスを提供し、コラボスの事業価値や存在価値を向上させていきたい考えです。商社は伝統的に“三方良し”を大切にします。私もその考え方に基づき、商社出身のビジネスマンとして新たなビジネスの創出に邁進していきたいですね。
<プロフィール>
茂木貴雄(もてぎ・たかお)
1972年生まれ。1995年4月、日商岩井株式会社(現双日株式会社)に入社。その後、アイ・ティー・エックス株式会社を経て、2001年10月に株式会社コラボスへ入社(出向)。同年、営業開発部長就任。2003年6月、株式会社コラボス 取締役就任。2004年4月、株式会社コラボス 代表取締役社長就任(現任)。2005年4月、アイ・ティー・エックス株式会社を退社。
株式会社コラボス
https://www.collabos.com
本社:東京都墨田区押上一丁目1番2号 東京スカイツリーイーストタワー17F
設立:2001年10月26日
資本金:324,854千円(2021年3月31日現在)
事業内容:コールセンター向けクラウドサービスの提供、通信事業(A-13-5032)