2021年12月21日(火)0ブックマーク

不動産経験を活かした保育事業で地域社会のハブに〜さくらさくプラス西尾義隆社長&中山隆志副社長

経営ハッカー編集部
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国策としての保育の受け皿整備が進んでいる。令和3年7月の東京都福祉保健局の発表によると、東京都の保育所の利用児童数も、利用率も、過去5年を遡り最多と報告されている。ただ、保育施設種別に見ると、認証保育所等の施設の利用児童数は減少している。一方、認可保育所は例年と変わらず利用児童数の増加が見られ、当年の認可保育所の新規開設は依然100施設を超えている。このようなニーズに対し、都内認可保育所の運営を軸に不動産も絡めた事業展開で“地域社会のハブ”を目指すのが株式会社さくらさくプラス(東証マザーズ7097)だ。
今回、同社代表の西尾義隆氏と取締役副社長の中山隆志氏に、保育事業の現状や課題感、創業の経緯と上場の狙い、今後の事業展望を聞いた。

目次

    保育需要が集中する東京23区。新たなESG投資先としての人気も

    -はじめに、事業内容をお聞かせください。

    西尾:当社グループは、「安全と安心を提供し、自然で和やかな笑いに満ちたあたたかい子育て環境をつくり出す」ことを経営理念に掲げ、保育所の運営や保育所への利活用を想定した不動産の仲介、管理等、IT技術を活用した保育所のICT化及びサービス、進学塾の運営中心に、子ども・子育て支援事業を行っています。

    さくらさくプラスグループは、「さくらさくみらい」という名称で、東京都23区を中心に認可保育所、小規模認可保育所、東京都認証保育所を直営で運営。子どもたちが心身ともに「強く、優しく、美しく、そして健やかに」なれるように保育し、そして保護者をサポートすることを保育理念として事業を展開しています。あわせて、職員の資質向上のため教育研修にも力を入れています。

    また、当社グループでは、保育事業において保育所建設に最適な土地や建物を賃借するために、幅広く不動産物件の情報を収集しています。蓄積された保育ノウハウを活かした保育所開発を進めるとともに、付随業務として、物件情報を利活用した不動産仲介や管理業務を行っています。

    -御社は、東京都での認可保育所の比率が業界大手の中では1位だとうかがいました。「東京都・認可保育所」に特化する理由はなぜですか?

    西尾: 2021年12月現在、当社で運営する75施設のうち68施設が東京都の認可保育所です。その理由は、やはり保育需要が集中しているからです。少子社会といわれる状況でも、東京はこの10年で子どもの人口が増えており、核家族化が進んでいることで待機児童数も圧倒的に多い。女性の就業者数も依然増加傾向にあり、需要が拡大しているのです。

    また、東京都は他地域と比べて補助金が充実しています。認可保育所は、施設の要件や職員配置などの基準が高く、認可保育所に支払われる補助金額も他タイプの保育所と比べて高く設定されています。保育環境が充実しているため、入所希望者が多いことも理由の一つですね。

    内閣府は2024年度末までに14.1万人分の保育の受け皿が必要と推計しており、10万人を超える保育の受け皿を整備する「新子育て安心プラン」を打ち出しました。それに合わせて、当社でも保育所の開設を続けていきたい考えです。

    -不動産事業では保育施設特化型のファンドも展開されていますね。

    西尾: 2020年5月、50億円規模で保育園特化型の「保育園みらいファンド」の運用を開始しました。2021年3月には100億円規模の2号ファンドがスタート、現在すでに3号ファンドの組成に向けて準備を進めています。

    社会課題の解決に対する貢献といったESGの観点からも、保育所は新たな投資先として注目を集めており、ご賛同いただける方が増えています。また、コロナ禍において飲食店舗やオフィス物件などは不安定な状況にありますが、保育所は長期契約を結ぶ安定した不動産なので、投資ニーズは高まっている状況です。

    東京だけでもこの5年間、約1,000件程度の保育所が新設され、そうした既存物件のオーナーチェンジも増えていくと予想されます。保育所の新規開発だけでなく、流動化する不動産のニーズも組み込みながら、ファンド事業を伸ばしていきたいと思っています。

    「保育所が足りず復職できない」同僚の声に創業を決意

    -創業に至る経緯をお聞かせください。

    西尾:私も中山も、前職は株式会社アイディーユー(現・日本アセットマーケティング株式会社)で不動産業務に携わっていました。転機となったのはリーマンショックです。会社の業績が急降下して、事業規模が縮小していく中で、大きな成長は見込めない状況でした。転職するなら不動産業界に、という考え方もありましたが、業界全体が下火になっていたこともあり、目線を変えなければいけないと感じていました。

    中山:私は2006年ごろには退職し、違う会社に移っていました。リーマンショックが起きた2008年、ある案件で久しぶりに西尾と一緒に仕事を進めることになったときに、「お互い不動産業界はなかなか厳しいな」という話をしたのを覚えています。それから、一緒にできることを模索しようと。

    西尾:そのような中、同僚が「保育所が足りなくて子どもが預けられず、復職できない」と困っていることを耳にして、背景となっている社会課題などを調べ始めました。女性の活躍の機会が増えている今、優秀な女性が復職できないのは、会社にとっても社会にとっても、非常に大きな損失です。保育所が足りないなら、作ればいい。そこで、私たちの不動産の経験が、きっと保育所の整備に役立つだろうと考えたのです。

    また、「人に喜んでもらって利益がでることが一番の幸せだ」という考え方の私にとって、保育事業は社会への貢献をダイレクトに肌で感じられ、派手ではなくともコツコツと積み上げていける事業でもあると感じました。そこで思い切って設立に踏み切ったという経緯です。

    -創業当初から上場は念頭にあったのですか?

    西尾:上場だけを答えにはしていませんでしたが、一つの選択肢としては考えていました。前職の影響が強いのかもしれません。2004年に従業員としてIPOを経験し、会社が成長したり社会に認知されたりということを見てきたので。やはり上場は、起業する者としては憧れですし、大きな目標です。ただ、まずは生活できるかどうかという状況でしたので、具体的な目標に据えるというところまでは至っていませんでした。

    中山:前職の社長がアントレプレナーで、新しい事業や価値を創造するのが得意な方でした。そういう社長の姿を見ながら二人とも育ってきたので、大きく刺激を受けたのだと思います。

    -上場が見えてきたのはいつごろですか?

    西尾:上場に向けて大きく舵を切ったのは、2016年です。事業が軌道に乗り、可能性があるのではないかと感じ出しました。そのタイミングで監査法人や他の上場会社の方からお話を聞くなど情報収集をして、上場準備をスタートさせたのです。

    -準備は順調に進んだのでしょうか。

    西尾:いいえ、ハードルだらけで何度も挫折を味わったというか…(苦笑)。結果的に、予定時期から約一年半も遅れての上場となりました。その理由としてまず、私たちは従業員が非常に多いため、労務管理が非常に大きな課題だったことが挙げられます。

    中山:当時、約800名の保育士を含めた全従業員に、仕事を持ち帰っていないかなどの調査を行いました。そのころのタイムカードは、就業後15分は切り捨てて計算しており、それらすべてを拾い上げて調査・精算する作業は特に時間がかかりましたね。ほかにも、労務系のシステムを変えたり、西尾からメッセージを出したり、職員の労働に対する意識を変えるため、さまざまな取り組みを行いました。

    また、稟議の承認などワークフローをはじめ、内部統制も含めた管理体制も見直しました。中小企業にありがちな、慣習で物事を進めてしまう部分をあらため、決定プロセスや承認プロセスを仕組み化。それに従業員が慣れることにも、ある程度の時間は必要でしたね。

    西尾:事業計画自体は予定通りに推移し、順調でしたが、やはり労務の解決に時間がかかった印象ですね。といっても、準備段階でしっかり取り組んでいたため、労務が論点になってIPOが進まなかったということはありませんでした。

    コロナ禍で一時は上場申請取り下げも。上場後に感じた大きな変化

    -新型コロナウイルスの影響も大きかったのでは?

    西尾:非常に大きかったですね。2020年3月に上場承認を得て、4月24日が上場予定日でしたが、緊急事態宣言を受けて断念せざるを得ず、申請の取り下げを行ったのです。そのときは「このまま永遠に上場できないのではないか」という考えも脳裏をよぎり、とても落ち込みました。

    中山:業績自体は伸びていますし、着地もクリアしている。しかし市場全体が大幅な株安になっていたタイミングも重なり、投資家の皆さんはもう検討もできる状況じゃないと。自分たちの努力ではどうにもならない歯がゆさを感じ、とても辛かったですね。

    -潮目が変わったのはいつごろですか?

    中山:8月になるころには、マザーズで新規上場が出始め、初値が急騰する案件が続きました。私たちより前に上場を取り下げた企業が、再申請で戻ってくるタイミングでもあり、もう一度チャレンジしようという機運が高まったのです。

    西尾:常に3カ月タームで次のチャレンジのタイミングを探っていました。上場できるのであればすぐにとも考えましたが、さまざまな株式や投資家の動向を見ながら、市場が安定して投資意欲が戻ってきたころに再挑戦しようと。私たちはコロナ禍でも業績が低迷せず、安定して成長できたことも幸いでした。

    -上場の前後で大きく変わったことはありますか?

    西尾:やはり、金融機関からの評価や信用は大きく変わったと感じています。2022年度新卒採用に関しても、昨年の12月から栄養士の採用をスタートさせたところ、エントリー数が倍以上に増えました。また、国内のみならず海外の投資家の方々から引き合いも増えています。上場によって当社が社会に認知され、保育を応援してくれる環境作りが進めやすくなったのではないでしょうか。

    -マザーズ上場企業の中でも、海外投資家の引き合いが多いのはめずらしいことだと感じます。

    西尾:アメリカには認可保育所という考え方がなく、とても目新しいビジネスに映るようです。海外投資家のみなさまには、日本の少子化という社会背景や、女性就業率の向上を目指す企業のポジションからご説明をさせていただいています。

    中山:既存のプレゼンテーション資料を英字に直して使うなど、海外には無い仕組みに対して理解を深めていただけるように努めています。今後は英字開示にも取り組む予定です。

    西尾:国内、海外にこだわらず、私たちは今後も投資家のみなさまへのコンタクトを続けていく考えです。保育事業はどうしても社会福祉のイメージが強く、ひと昔前までは「お金儲けが悪」のような見られ方も残っていました。しかし、投資を呼び込むことは、未来の子どもの成長につながります。保育のインフラ整備を進めるためには、さまざまな方々からのご支援や投資が必要不可欠だと考えています。

    当然、投資をしていただくには、きちんとリターンを返す必要があり、会社のバリューを高めていくことが重要です。それらがうまく循環できるよう、投資家の方々には、今もこれからも積極的に働きかけていくつもりです。

    社会全体で子育てを支え、多くの人が保育に参加できる世界を実現したい

    -あらためて、御社の教育に対する考え方をお聞かせください。

    西尾:乳幼児期には、子どもが「何かをやりたい」と思ったときに、それに向かって傾注できる能力を育てていくことが大切です。「英語じゃなくて中国語がやりたいんだ」という子もいるかもしれません。みんなと違うことをやりたいと思ったときには、その気持を尊重して、本人がやりたいことに対して本気で向かい合える。自分が決めたことに対して、本当に頑張れる能力をつけていこうというのが基本的な考え方です。

    他にもいろいろな教育プログラムを取り入れて、子どもたちが遊びの中で楽しみながら“本気になれること”のきっかけを見つけ、一生懸命に打ち込めるように、日々取り組んでいます。

    中山:押し付けられてイヤイヤやったり、親が喜ぶからやったりするのは、やはり子どもの本当の姿ではないと思うので。自分からやりたいことを学べる環境がいくつもあり、自分で選択して、自分の気持ちをちゃんと伝えられる環境を整えています。こうしたことは、当社の保育の想いをまとめたインナーブックを活用するなどして、職員の意識の統一を図っています。

    -保育業界は今、どのような課題を抱えていますか?

    中山:有効求人倍率が東京では5~6倍という状況で、業界全体として良質な職員の確保が大きな課題となっています。現在、当社グループに所属する保育現場の職員は1,500名ほど。子どもの人数に応じた保育士の配置基準などが定められているため、今後も多くの保育士が必要です。

    -その中で、どういった採用戦略をお考えですか?

    西尾:当社グループは「保育のホワイト企業」を目指しています。これまでの保育業界には、仕事を家に持ち帰ったり、遅くまで作り物をしたり、「子どものために」という魔法の言葉のもとで、見えない仕事がたくさんあったのも事実です。

    この点、私たちは必要な業務とそうでない業務をはっきりと分けて仕組み化することで、働きやすい環境作りを進めています。あわせて、ブランディングも含め、保育士の方々に魅力を感じていただける保育環境の提供を実際に行い、共感する先生方を集めていきたい考えです。

    中山:私たちは職員の教育研修にもかなり力を入れています。当社の研修センターは年間約130日稼働しており、常に各施設から数名が研修プログラムに参加しています。研修では、ビジネスマナーから保育の専門的な知識まで幅広いテーマを扱い、経験年数や能力に応じた多様な研修を実行しています。

    -続いて、成長戦略についてうかがいます。今後、ドミナント展開が飽和することも予想されますが、どのような成長の姿を描いていますか?

    西尾:保育所新設のペースとしては、2024年度までは国の施策に沿ってニーズを埋めるべく開設を続ける予定です。その後、保育所の整備が進むにつれて、中長期的にはペースが鈍化していくと思われますので、6月にM&Aにより進学塾をグループに迎え入れたことをはじめ、今後もM&A戦略を進めながら新たな子育て関連ビジネスなどの事業を創出していく考えです。

    保育のICT化においても、私たちのデータやノウハウによって貢献できる部分は大きいので、デジタル化に向けたサービスの提供も促進したいと考えています。新規事業も含め、あらゆる場面に子ども・子育て支援事業を拡充していく計画で、既に準備も進めています。

    -保育所の中だけでなく、外での子育て支援メニューも増やしていくということですね。国内だけでなく、海外展開についてはいかがでしょう?

    西尾:ベトナムは経済成長が著しく、子どもの数が増えている状況です。日本式の保育を取り入れていることで親日性もあり、ニーズが高まっています。ベトナムをはじめ、東南アジア諸国に向けた日本式保育の展開はできるのではないかと考えています。

    もちろん、国内においても保育所市場は3兆円を超えており、建物の老朽化などを背景に、行政が抱えている公立保育所の民営化が進んでいます。そういった領域にも事業を拡大していきたいですね。

    -最終的にどのような世界を実現したいとお考えですか?

    西尾:この20年で社会は大きく変化し、子育ては女性だけが苦労することではなく、社会全体で支えるべき時代になっています。安心して出産・子育てができる世の中の実現に向けて、保育所の提供や保護者向けの支援サービスを展開しながら、子育てしやすい環境作りに貢献していきたいと思っています。「子どもは宝だ」ということを社会全体が認知できるような世界になってほしいですね。

    中山:保育観は人によって違います。ミルクの作り方がちょっと違うだけで違和感を感じる人も。何が正解ということはないのですが、「私たちはこうする」という保育の指針をきちんと示すことで同じ価値観を共有し、職員が安心して働ける職場作りも大切にしていきたいです。

    西尾:昔だったら“近所のおっちゃん”が親の帰りの遅い子どもにご飯を食べさせるなど、地域社会での保育の姿がありました。時代の変化とともに子育てのスタイルも変わり、今ではそういうことはなくなりましたが、それは子育てがしにくくなったということではなく、“近所のおっちゃん”の支援が、不動産や投資信託といった「投資」に形を変えて子育てをサポートするという価値観に転換したのだと考えています。

    多くの方に保育に関心を持っていただき、さまざまな形で保育に参画していただく。そのために私たちは地域のハブとしての役割を担い、これからも子育てのインフラ整備を確実に進めていきたいと思っています。

     

    <プロフィール>

    西尾 義隆(にしお・よしたか)
    2000年3月 (株)アイディーユー(現 日本アセットマーケティング(株))入社
    2009年8月 (株)ブロッサム(現 (株)さくらさくみらい)設立代表取締役社長就任(現任)
    2017年8月 当社設立代表取締役社長就任(現任)
    2018年5月 (株)さくらさくパワーズ代表取締役社長就任
    2021年9月 (株)みんなのみらい代表取締役社長就任(現任)

    中山 隆志(なかやま・たかし)
    2000年2月 (株)アイディーユー(現 日本アセットマーケティング(株))入社
    2006年11月 (株)Gate Keeper corporation入社
    2009年8月 (株)ブロッサム(現 (株)さくらさくみらい)設立取締役副社長就任(現任)
    2017年8月 当社設立取締役副社長就任(現任)
    2018年5月 (株)さくらさくパワーズ取締役副社長就任(現任)
    2019年3月 (株)あかるいみらいアセット取締役就任(現任)

    株式会社さくらさくプラス

    https://www.sakurasakuplus.jp
    本社:〒100-0006 東京都千代田区有楽町1丁目2番2号 東宝日比谷ビル
    代表取締役社長 西尾義隆
    設立:2017年8月
    資本金:548,775,930円(※2021年7月末時点)
    事業内容:保育所・学習塾の運営及び保育所等の利活用を想定した不動産の仲介
    子ども・子育て支援に関するシステムの開発及び運用

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