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デジタリフト百本正博代表、石塚久路執行役員に聞く〜デジタルマーケティングのあるべき姿とは?

経営ハッカー編集部
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インターネット広告業界の市場規模は、2019年度で約2兆1,048億円、2020年度で約2兆2,290億円(株式会社電通『2020年日本の広告費』)に膨らみ、2019年度はインターネット広告費がテレビメディア広告費を初めて上回った。テクノロジーが急速に進化し、日進月歩で新たなデジタル広告技術が続々と市場に投入される一方で、企業の内部人材だけでは適切な広告配信手法を判断することは困難だ。膨大な情報の中から「自分に最適な情報を素早く見つけたい」というエンドユーザーのニーズも拡大している。このギャップを埋める存在が「トレーディングデスク」だ。デジタルマーケティング黎明期の2012年に創業した株式会社デジタリフト(東証マザーズ:9244)は、急速な消費者の変化にも柔軟に対応するアジャイル型の広告運用や、広告運用を自動化する新たな手法などを開発。広告主とエンドユーザー双方に理想的な情報提供を実現し、デジタル広告業界が抱える課題を解決してきた。今回、2021年9月、マイルストーンとしての上場を果たした、同社代表の百本正博氏と、執行役員の石塚久路氏に、創業経緯や上場までの道のり、今後のデジタルマーケティングの理想形について聞いた。

 

目次

    あらゆるクライアントニーズに合わせたサービスを展開

    ―まず御社の事業内容と特徴についてお聞かせください。

    百本:当社は、「カスタマーの意思決定を円滑に」を経営理念に掲げ、広告配信設計から分析までを一貫して運用するトレーディングデスク事業を中核として、付帯領域である制作、アフィリエイト及びコンサルティングを提供しています。
    中核事業で提供するサービスは「アジャイル広告運用」「CdMO」「LIFT+」の3つです。「アジャイル型広告運用」は、日々変化する消費者の状況を捉え、運用計画を柔軟に変更する、変化対応型の広告運用サービスです。また、「CdMO」では大企業を中心とするクライアント様に対し、フルカスタマイズで包括的なマーケティング支援を行います。各サービス単独での提供のほかに「CdMO」と「アジャイル型広告運用」を有機的に組み合わせてご提供しています。

    これらのサービスのノウハウを活かした、シンプルで高品質な広告運用パッケージサービスが「LIFT+」です。AIの活用やシステム連携で広告運用業務を自動化することで、小規模事業者様やスタートアップ企業様など、広告予算が限定的なお客様に対しても最適なデジタル施策を低価格でご提供できます。

    各サービスの提供によって得られた豊富な知見を社内に蓄積し、他サービス間で共有することで、連鎖的にサービスのクオリティを高めています。これらのサービスを柔軟に組み合わせ、あらゆるクライアントニーズに合致した価値を提供できるのが当社の強みです。

     

    大切なのは、広告主とカスタマーの双方を深く理解すること

    -遡って、創業の背景を教えてください。

    百本:私は新卒で総合広告代理店に入社し、アカウントエグゼクティブとして自動車メーカー、メガバンクや通信会社といった企業のブランディングやマーケティングを10年間経験しました。退社後は別の事業と並行して、2005年頃からインターネット広告代理店で営業コンサルティングをしていたのですが、そこで感じたのは、総合広告代理店とインターネット広告代理店の営業手法や、クライアントから求められる領域の違いです。当時はまだ総合代理店とネット専業広告会社が扱う分野は完全に分かれており、期待される価値と提供価値、両者の間に垣根がありました。

    2010年頃になると、インターネットの技術革新が進み、DSP(Demand-Side Platform)のようなターゲティング性能に長けた広告配信手段が登場しました。それによって、総合広告代理店とインターネット広告代理店の間にあった垣根がなくなりつつあり、この動きはさらに加速するだろうと感じたのです。新しいインターネットの広告手段は、本当に社会に受け入れられていくのか懐疑的な意見も当時は多くありましたが、私としては非常にダイナミックに成長していく可能性があると判断しました。

    そこで中期的な未来を予測したときに、自分の経験やスキルを提供して社会に寄与できる新たな領域が生まれるはずだと考え、2012年11月の創業に至ったという流れです。

    ―現在、デジタル広告業界はどのような課題を抱えているのでしょうか。

    百本:インターネット広告市場は今後も拡大傾向が続く一方で、需要の急拡大に供給が追いついていないというのが現状です。インターネットの世界は、新たな技術が生まれては一般化し、またそれを凌駕する技術が登場する、というサイクルを繰り返してきました。以前当社が調べたところ、市場が2倍に膨らむと、新たなツールの数は3倍にも増えていました。プロダクト1つをとってみても革新を繰り返している。

    それに対して、高い精度で安定的な広告運用を行うためには、常に新しい知識をキャッチアップしていかなければなりません。最新技術を理解して価値判断の基準を持ち合わせていなければ、ツールの取捨選択や広告効果の精緻な把握ができず、運用精度を高めることはできないのです。

    ―そこで広告主とカスタマーの間に立つトレーディングデスクの役割が重要になるのですね。

    百本:そうです。正しくターゲットを定め、適切に広告を届けるためには、広告主とカスタマーの双方を深く理解して広告を運用できる存在が必要です。例えば、広告主から「こういうターゲットにこういうパフォーマンスで配信したい」というお話をいただいたときに、私たちがカスタマーの特性から判断した最適な広告表現や配信方法をご提案することもあります。

    私は現場でよく「ただの運用屋さんになってはいけない」といっています。広告運用で価値提供するのは当然のことですが、「広告主とカスタマーのお役に立つためには何をするのが最善なのか」という視点を持って考えなければ、単なる“作業パーソン”になってしまいますし、そうなりやすい業態でもあるからです。反対に、きちんと知識を蓄えて考えられるようになると、単なる作業パーソンから“相談できる人たち”に変わります。常に広告運用の精度を向上させ続け、堅実な運用をする。それにはいつも気をつけていますね。

    これからもデジタルテクノロジーの進化とともに可能になった技術をきちんと当社のドメインとして確立し、具体的なサービスとして定義しながら拡充を図っていきたい考えです。

     

    上場までの道のりと、その後の変化

    ―上場の背景をお聞かせください。

    百本:事業加速と企業の長期的な存続の2点です。市場が拡大しているなか、一定の売上に満足してそれをキープしようと思っても、できるわけはありません。経営的な安定性や持続性を実現しようと思うなら、市場成長と同じか、もしくはそれ以上の成長をしていかないと生き残れない。そう考えたときに、資金力の裏付けや会社の信用力を得ていくためには、やはりIPOが必要でした。

    また、主目的ではないものの、幹部社員をはじめ努力してきた社員にストックオプションを付与して、会社業績とキャッシュインが連動する仕組みも作れます。これらを総合的に勘案して、当社にとってはIPOの方向に進むのが適切だと判断したのです。2016年頃からIPOを意識して情報収集を始め、2017年頃からプロジェクト化しました。

    ―石塚さんはどういった経緯で参画されたのですか?

    石塚:私は2014年に株式会社フリークアウト・ホールディングスでIPOプロセスを経験しました。後で聞いたところによると、そのときの実務を百本が評価してくれていたそうです。2016年にフリークアウトが当社を子会社化する際は、最終的な契約などの業務に携わったことで、百本と直接やり取りをしました。点が線になるように、一緒に仕事をする機会が増えていき、その後、いよいよ百本がIPOの準備をすると聞き「僕で良ければぜひ」とお願いして2019年に参画しました。

    ―どのように準備を進めていったのですか?

    石塚:私が参画した時点ではすでにIPOプロジェクトが立ち上がっていて、諸規定の作成が先行して行われていました。なので、まずは諸規定全般を理解することから始め、管理部を作るためにどのような業務を進めるか、どういった機関設計をするべきかなどをコミュニケーションしながら進めました。

    また、管理が正しく機能しているという実績が重要になりますので、監査役の配置など法務・総務の周辺部分に着手しつつ、内部管理体制の整備など監査に耐えうる現場作りをさせていただきました。

    百本:昨今の労働問題を勘案した職務規定や就業規則など、諸規定の整備はすでに進めていました。石塚がジョインしてからは、諸規定に基づく実際の管理体制を構築すること、また、その構築された組織が正しく機能して経営管理できているかといった部分の実績作りを彼を中心に進めてもらったという感じですね。

    ―準備は順調に進んだのでしょうか。大変だったことはありますか?

    百本:スムーズにいかないこともありました。例えば、諸規定を作るにしても、汎用的な文言をそのまま用いると、実際の企業体にそぐわない規定ができてしまいます。特に職務規定などは、一度設計をしてオフィシャルにすると、改定が困難なケースも多いものです。あまり安易に決めると、後々経営の支障にならないとも限りません。ですので、諸規定すべてにおいて、基本形をどこに置くのかを慎重に検討して進めることが必要でした。結局、諸規定の整備だけで3カ月は費やしたでしょうか。工数としてはかなり多かった印象ですね。

    石塚:管理部はすぐに人が増やせず、どうしてもメンバーがマルチタスクを抱えてしまい、思うように実行力が発揮できないことがありました。また、諸規定の整備変更の際は、その都度現場に理解してもらわなければなりませんし、新しく人が入った際はアップデートしていかなければなりません。そうした作業の繰り返しは意識して行っていました。

    百本:子会社上場だったことも大変でしたね。上場企業の連結子会社の上場は審査が厳しい傾向にありますし、情報漏洩にも通常以上に気を遣います。社内に対して「上場を目指す」とは言えても、詳しい時期などは明かせませんでした。なかなか突っ込んだ話がしにくいなかで、諸規定が整って統制は強まっていく。それが悩みの1つではありました。

    ―審査上の論点としては、子会社上場のハードルをどう乗り越えられたのですか?

    百本:当然ながら、売上の依存度や事業の独立性については、裏付けをもとにしっかり説明しなければなりません。当社の場合、事業領域が重なっていないことは比較的早くご理解をいただけました。親会社やそのグループ会社への依存度に関しても問題なくクリア。また、指数化されていないものの、意思決定において親会社の介在や指示、統治がどの程度影響をおよぼしているかに関するヒアリングは繰り返し行われましたが、最終的にはそれもご理解をいただけました。

    ―コロナ禍でスケジュールに影響はありましたか?

    百本:実際に半年ほどスケジュールが伸びたので、コロナの影響がゼロだったかというとそうではありませんが、あくまで外部の影響であり社内的には問題ない範囲でした。それよりも、緊急事態宣言下の上場セレモニーで、社員の参加人数が5人までに制限されていたのが悔やまれますね。がんばった社員をねぎらう象徴的なイベントに、貢献している多くの社員を呼べない。一連のIPOプロジェクトのなかで、これはもっとも残念なことでした。

    ―上場して新たに見えてきたことはありますか?

    百本:上場後のこともきちんと設計して動いているので、何か特別に新しいものが見えてきたということはありません。ただ、もともと考えている上場後のストーリーにおいて、例えばチームビルディングやプロジェクトマネジメントなど、いつまでに何をするのかといった具体的なプランを進めるうえで、予定通り進んでいるところもあれば、急ピッチで進めなければいけないところもある。上場後の仕組み作りに臨機応変に取り組んでいるところです。

    ―上場してよかったことは?

    石塚:私としては、まだあまり実感できることはありません。今はやっと一連のプロセスが終わり、その過程で得た実績をこれから組織化するところなので、上場後の変化を実感できるのはその作業が終わってからになると思っています。いずれにせよ、上場後もキャッシュフローをきちんと確保しようというのは意識しています。数字をきちんと積み上げていくことに対しての評価をいただくのが、一番ありがたいですね。

    百本:問い合わせが増えるなど、営業面のプラスはあると感じています。当然、採用にもつなげていきたいですね。当社は採用において、事前に活躍可能性をスコア化して判定しており、精緻度は比較的高いと思っています。母集団の量と質が変われば、採用の数や質にもダイレクトにヒットしていく可能性が高いので、早めに優秀な人材確保を実現したいと考えています。

     

    無形の価値を創造し続け、利益成長に貢献したい

    ―今後の成長戦略をお聞かせください。

    百本:当社は、広告市場において軽視されがちな小規模事業者様をクライアントにした領域に着目しています。専門知識や利用経験は少ないが、インターネット広告を積極的に活用したいという小規模事業者様のニーズが拡大する一方で、比較的手数のかかる運用型広告を低予算で運用できる会社は少ない。また、この領域は代理店による支援が手薄になっているのも実情です。つまり明らかに需給ミスマッチが生じているのですね。

    私たちは運用を自動化したパッケージサービス「LIFT+」を用いることで、小規模クライアントに対しても個別ニーズに合わせた運用対応を可能にしています。低予算でも高品質なサービスを提案できるため、顧客の事業成長を効率的にサポートできるというわけです。事業成長に伴い、ご要望がよりハイレベルになってくると、今度は広告運用スペシャリストによる「アジャイル広告運用」「CdMO」といった有人サービスに切り替えることで、さらに事業の加速化を図れる。お客様の成長に伴走させていただきながら、ニーズに合わせて提供サービスを変え、適切なサポートをご提案することで当社も伸びていけるというわけです。ですから、まずは「LIFT+」で顧客基盤を広げることが非常に重要だと考えています。

    そのためには、自動システムを正確に設定して運用できるノウハウを持った人材や、有人サービスにおいてもお客様のご要望にお応えできるスキルを持った広告運用スペシャリストの育成・採用が欠かせません。あわせて、営業人員体制を強化すると同時に、DX導入コンサルティングなど付帯サービスを強化し、新たなサービスの開発にも力を入れていく考えです。

    ―トレーディングデスク事業を通じて、今後どのような世界を実現したいとお考えでしょうか。

    百本:当社の経営理念である「カスタマーの意思決定を円滑に」とは、クライアントとエンドユーザー双方の利益成長に貢献したいという意思を表したものです。広告の運用精度を高めていけば、カスタマーは欲しい情報を早く見られるようになり、見たくない情報にも触れずにすみます。つまり、カスタマーは無意識ではあるものの、スムーズに意思決定ができる環境が生まれるわけです。

    不要な情報を取り除き、一人ひとりの好みや生活環境を踏まえて、人々が本当に求めているサービスを広告表示回数まで勘案したうえで提供できると、インターネットはもっと心地よい空間になるはずです。もちろん、適切なタイミングでターゲットに広告を配信すれば、広告主の売上にも寄与することができます。

    私たちの技術やサービスは目に見えるものではありませんが、デジタル広告の“裏方”として着実に取り組みを続けながら、今後も「必要な人に、必要な情報を、適切なタイミングでお届けする」ために最善をつくしたいと考えています。

     

     

    <プロフィール>
    百本正博(ひゃくもと・まさひろ)

    株式会社デジタリフト代表取締役。日本大学商学部卒業後、総合広告代理店に入社。小売、通信、飲料、自動車、メガバンクなどの多様な業界において、ブランディング/VI開発、セールスプロモーションの企画実施、番組制作、メディアバイイング等に従事。インターネット広告の進化に着目し、2012年株式会社デジタリフト創業。

    石塚久路(いしづか・ひさみち)
    株式会社デジタリフト執行役員、管理Div統括。青山学院大学経営学部卒業。フリークアウト・ホールディングスでIPOプロセスを経験し、IRの実務に携わる。2019年より株式会社デジタリフトの管理部門に所属。2020年、管理Div統括に就任。

    株式会社 デジタリフト DIGITALIFT Inc.
    https://digitalift.co.jp
    事業内容:トレーディングデスク事業、DMP導入コンサルティング事業、SNS運用事業、システム企画・開発・コンサルティング事業
    資本金:1億3539万円
    本社所在地:〒106-0031 東京都港区西麻布4-12-24 興和西麻布ビル7階 
    設立:2012年11月

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