アイ・パートナーズ フィナンシャル田中譲治社長に聞く〜資産形成層の意識変化とIFAが求められる理由
人生100年時代の到来や終身雇用の制度疲労により、自助努力による資産形成の重要性が増している。一方で、2021年末に日本の個人金融資産は2,000兆円を突破(日銀資金循環統計速報値)したが、そのうち現預金は1,000兆円を超えている。日本は欧米と比べ、利回りが低い資産の保有率が高いままだ。政府としても、年金財政が益々苦しくなる中、国民の意識を高めつつ資産形成を呼びかけたいところ。そこで、売り手側ではなく顧客側に立って、個々のライフステージを通し、長期の資産形成アドバイスができる良質なアドバイザーが求められている。株式会社アイ・パートナーズ フィナンシャル(東証グロース 7345)代表取締役社長の田中譲治氏は「個人のCFOとしてのIFAの存在が日本のリテール金融の姿を大きく変えるだろう」という。200人以上のIFAが業務委託で所属し、国内最大クラスの規模となる同社では、IFAを介した預かり資産の拡大とともに、IFA向け業務支援プラットフォームを提供、日本におけるIFAの活動促進と認知度向上に取り組んできた。今回、IFAが求められる時代背景、会社としてのIPOの狙いや今後の展望について話を聞いた。
貯蓄から運用に向けて変わり始めた資産形成層の意識
-はじめにIFAの定義や御社の事業内容をお聞かせください。
IFAとは「Independent Financial Advisor」の略で、一般的には、証券会社や銀行など特定の金融機関と従属関係になく、独立した立場で顧客に対し金融商品・サービスの提案を行う金融アドバイザーを指します。
当社のIFAビジネスでは、金融商品仲介(株式、債券、投資信託等)を行う当社が、お客様に資産運用のアドバイスを行うIFAと業務委任契約を結ぶという形態をとります。IFAはノルマなどの売り手の都合に縛られることなく、自分とお客様のためだけに、自分の時間と能力のすべてを費やし、真のお客様重視を実現することができます。加えて、IFAの成長や成功を支援するビジネスプラットフォームを提供するIFAサポートサービスも行っています。
100%出資の連結子会社、株式会社AIPコンサルタンツでは、その他金融サービスとして、ライフサイクルへの総合コンサルティングとしての保険募集業務や、複数の専門家ハブ機能としてのマッチングサービスといった、お客様の幅広いニーズに対応するサービスを展開しています。
-IFAが活動するリテール金融の市場背景をどのように捉えていますか?
日本の家計の金融資産が2,000兆円を超える中で、現預金の比率が約50%となっており、株式と投資信託の運用商品は約15%程度です。米国では、丁度その逆で、現預金は15%未満、株式と投資信託は、50%を超えています。日本では、まだまだ現預金の占める比率は高いままですが、昨今は株式や投信の比率が伸びているのも事実です。これは欧米を中心に世界の株式市場が好調だったということもありますが、ライフイベントなどに備えて積み立てをしている20代〜30代、加えて一定程度の原資を老後資産に向けて運用したいと考える40代後半〜50代といった資産形成層が証券市場での資産形成に積極的になってきたことが大きな要因だと感じています。
これには、2019年に大いに話題となった金融庁の報告書 『高齢社会における資産形成・管理』も効いています。いわゆる老後2,000万円不足問題に端を発して、資産形成層の方々の意識が変わり、証券市場で資産形成をしようという動きが活発になってきたという背景があります。周知のように、銀行にお金を預けておいても極めて金利が低いため、証券市場で資産形成をするしかないのですね。
これまでの証券市場は、どちらかというと富裕層によるハイリスク・ハイリターンの運用が主でした。この富裕層の遊び金を「サテライト」の金融資産、減らしたくない現預金などを「コア」の金融資産と呼びますが、コアの金融資産で運用しようと思ったら、やはりハイリスク・ハイリターンでは運用ニーズに合いません。ミドルリスク・ミドルリターン、2~3%の利回りでもいいから、コアの金融資産を証券市場で運用する意識が高まってきたということなのです。
また、以前から政府は「貯蓄から投資へ」をスローガンに掲げてきましたが、これが資産形成に向かわず、増え続ける現預金に危機感を覚えた金融庁もいよいよ本気になってきました。年金財政がますます厳しくなっていく中で、国民の自助努力で老後の資産形成をしてもらわないといけない時代になってきた。そこで、金融機関に対しては一歩踏み込んで、国民の安定的な資産形成と顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)を求めるようになったわけです。
このような背景から、幅広い世代における金融リテラシーの向上が不可欠となっているなかで、顧客にとっての最善の利益を追求する立場で、マネープランの策定などを提供できる資産形成のアドバイザーが求められています。すでにアメリカでは独立系アドバイザーが一般的になっており、人数でも証券会社社員のアドバイザーと同等の規模になっています。この先、日本もアメリカのように、顧客本位の独立系アドバイザーがより強く求められるようになると考えています。
IFAは顧客からの信頼が経営基盤のすべて
-もともとは、どのような問題意識から事業を立ち上げられたのですか?
私は、2002年に、自らがIFAとして活動を始めました。それ以前は大手証券会社や外資系証券会社に在籍しており、長らくリテール金融に関わってきました。ところが、金融機関と雇用契約を結ぶ社員の立場であると、顧客のためというよりも会社の営業戦略に従わなければならない部分があり、純粋に顧客の立場に立ちきれないこともありました。そんなとき、日興コーディアル証券(現SMBC日興証券)がIFAの制度をスタートしたと聞き、応募することにしたのです。
個人でIFAの活動をしていく中で、金融機関の営業都合に縛られず、独立、中立の立場でお客様のことだけを考えたアドバイスを行える素晴らしさを実感しました。これは非常に良い制度だなとあらためて認識しました。その後も、しばらくは個人でIFAの活動をしていましたが、顧客本位の金融証券市場に変えていくためには、個人でやっているのではなく、組織的にIFAを増やすことが必要だと感じました。問題の大きさや市場の深さを鑑みると、自分で金融商品仲介業を立ち上げ、IFAの業務や成功をサポートするほうが、広がりがあるだろうと考え、2009年に当社を設立したという経緯です。
-IFAになる人はどういったバックグラウンドがあり、どのような資質が必要なのですか?
証券会社のキャリアを持つ人が多いですが、銀行や保険などの業界からIFAになる方もいます。いずれにせよ、しっかりした顧客基盤を持っていないと事業を継続することができません。IFAとして活動するためには、まずはベースとなる顧客との信頼関係を構築できていることが不可欠なのです。
IFAは、突き詰めるとお客様からの信頼が経営基盤のすべてです。どのビジネスにも共通することではありますが、基本的には顧客の満足度を高めることができ、信頼を獲得することができれば成功するんですよ。それに早く気がついたIFAは必ず成功します。
上場は、あくまでも通過点。第二の創業の決意
-IPOを意識したタイミングと、その狙いについてお聞かせください。
上場は起業したときから考えていました。理由としては、資金調達のしやすさなどもありますが、やはりIFAの認知度を高めるという狙いが大きいですね。マーケットの状況なども考えながら、実現可能なタイミングで上場準備に入りました。
-上場後に変化したことや良かったことは?
知名度や社会的信頼度の向上は間違いなくあります。ただ一方で、内部統制やコーポレートガバナンスの体制整備などが一区切りついたことにより、これからは本業の成長戦略に力を入れ、加速させなければいけないという思いが強いです。なので、上場してよかったというよりは、上場してさらに頑張らなければいけない。あらためてその決意が固まりました。
-上場はあくまでも一つの節目に過ぎないと。
そう、通過点ですよ。私は社内に向けて「上場は第2の創業だ」と言っています。ここからまた新たな事業構築をしていかなければいけない。だから私は、上場記念の打鐘をしていないんです(笑)。セレモニーでは、創業に関わった方々などスタッフに優先して鐘を鳴らしてもらいました。私は、当社がプライム市場に移行したときに、初めて鐘を打ちたいと思います。
行動規範であり、成功のバイブルとなった「IFAの誓い」
-ビジネスモデルとしては、所属するIFAが増えれば必然的に業績も伸びる構造ですね。
確かに設立から数年間は、IFAの数を増やすことに力を注ぎました。もちろん数も大切なのですが、加えて今は、IFAの質を高めることに主眼を置いています。独立、中立の立場で顧客の人生に伴走するアドバイザーとして、真の顧客重視を追求できるIFAであることを求めているのです。
-質を高めるというのはどういうことですか?
先に申しました通り、顧客からの信頼の獲得に尽きます。その信頼の証として、当社では重要な経営指標の一つに媒介する資産残高を上げています。単にIFAの数が増えるから媒介する資産残高も増えるということではなく、IFA一人当たりの媒介する資産残高を増やしていこうと考えているのです。そのため、当社では以下のような「IFAの誓い」を定めています。
1. 真の独立・中立の旗のもとアドバイスを行います。
2. 常にお客様の意向と実状の理解に努めます。
3. 不断の研鑽で能力向上に努め、環境変化に対応します。
4. 健全な倫理意識を保持し、お客様の信頼に応えます。
5. 公共心を持ち、法令はその背景の理解に努め遵守します。
6. 投資の価値を伝え、業務を通じて社会に貢献します。
7. お客様の成功を共に喜び、自身の豊かさを実現します。
これは設立当初、IFAの行動規範が必要だろうと考え定めたものですが、業績を上げるIFAはこの行動規範を徹底していることがわかりました。逆に言えば、これを徹底すれば業績が上がるわけです。そこで、現在はIFAとして成功するために実践すべきバイブルとしても活用しています。
IFAがお客様からの信頼を得られれば、その結果としてIFAの媒介する資産残高が増えます。媒介する資産残高が増えれば、そのIFAは経営基盤を広げることができ、成功につながる。さらに、そのIFAのお客様の満足度も上がり、新しい顧客の紹介につながります。結果的に、国が求める「貯蓄から資産形成へ」の実現にもつながっていきます。ですからIFAの質の向上は、社会的意義の大きい、いわば“三方良し”をもたらす目標でもあるのです。
-顧客の資産形成において、IFAは具体的にどういった役割を担っているのですか?
当社ではIFAを“顧客のCFO”と位置づけています。お客様の資産形成のゴールを意識した「ゴールベース」のアプローチで、生涯に亘って寄り添うアドバイスができることがアドバイザーの価値だと考えているからです。
IFAが扱う商品は基本的に変動商品です。期待リターンが2〜3%だったとしても、右肩上がりに直線的に増えるのではなく、上昇と下落を繰り返しながら増えていきます。ですからリスクコントロールだけでなく、例えば一時的に株価が大きく下落したとしても、お客様が不安にならないような精神的なサポートも重要なのです。あるいは、適宜ポートフォリオを組み替えるなど、着実にゴールを目指して伴走していくことがアドバイザーの価値なんですね。
さらに言うと、人生においてのお金の悩みは、資産運用だけではありません。家を購入する際に住宅ローンを組んだり、あるいは保険に加入したり、相続があったり。人生の伴走者という意味では、そういったさまざまなお金の悩みに対して、真っ先に相談を受け、お客様の立場に立ったアドバイスやソリューションを提供することも必要になります。
つまりIFAの役割とは、資産運用の目的を明確にし、目標を設定してリスクを低減し、定期的な見直しを行うとともに、お金にまつわることの最も信頼できる相談相手というわけですね。
人生の伴走者として活躍できるIFAを創出したい
-今後の展望をお聞かせください。
冒頭で申し上げたように、資産形成層の動きには確実に変化がみられ、証券市場で資産形成をしようという方が増えています。統計数字だけを見ると、あまり変わっていないように見えますが、昔はサテライトのお金で運用していた富裕層も相続のタイミングを迎え、資産形成層がそのお金を受け取って、さらに運用を考えているなど、中身の構造は着実に変わりつつあります。こうした動きは今後10年の間で、ますます加速していくでしょう。
以前は「日本においても欧米のようにIFAを増やさないと、日本の金融証券市場は変えられない」という思いが強かったのですが、今のステージはもう単にIFA数を追う段階ではありません。自助努力で老後の資産を形成することが求められる今後の日本において、アメリカのように独立系アドバイザーのニーズが高まり、顧客のライフステージに応じて的確なアドバイスのできるレベルの高いIFAが求められることは明らかです。
そうした状況を見据え、当社は今後もIFAビジネスプラットフォームの付加価値を高め、真にお客様に必要とされる金融サービスはIFAが担うとの信念のもと、人々の人生の伴走者として活躍できる質の高いIFAを着実に創出していきたいと考えています。
<プロフィール>
田中 譲治(たなか・じょうじ)
株式会社アイ・パートナーズ フィナンシャル代表取締役社長。1957年鹿児島市生まれ、1979年早稲田大学政経学部卒業。大和証券、モルガン・スタンレー証券、UBS証券、メリルリンチ日本証券にて、機関投資家向け株式営業、及び個人向け資産管理型営業に携った後、2002年に独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)として独立。2010年3月より現職。現在にいたる。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。
株式会社アイ・パートナーズ フィナンシャル
https://www.aipf.co.jp
本店所在地:〒220-0005 横浜市西区南幸2-20-5 東伸24ビル3階
設立:2006年2月8日
資本金:320,544,000円(2021年11月30日現在)
グループ会社:株式会社AIPコンサルタンツ