ジィ・シィ企画矢ヶ部啓一社長、坂井正人取締役に聞く~キャッシュレス決済事業の成長力と新規事業展開
株式会社ジィ・シィ企画は、15年前からキャッシュレス決済の可能性に着目し、大手ベンダーが対応できない比較的小規模な顧客層に対して、ASPによる決済サービスを展開してきた。大きな転換点となったのは、2019年、経済産業省の「キャッシュレス・消費者還元事業」だ。消費税増税による消費落ち込み対策やインバウンド政策として約2,700億円が投下された。当時普及率20%だったキャッシュレス決済を2025年までに倍増するのが当面の政策目標だ。この間、モバイルペイメントへの新規参入も相次ぎ、国民のキャッシュレスへの意識も急速に高まってきた。潮目の変化をとらえ、矢ヶ部啓一、坂井正人両氏は、念願の上場準備に入り、2021年9月に東証マザーズ(現東証グロース)上場(4073)を果たす。今回、上場までの道のりと将来の展望について話を伺った。
今後6年間で1.5倍成長し、120兆円。国内キャッシュレス市場におけるジィ・シィ企画のポジショニング
-まず、御社の事業内容について教えてください。
矢ヶ部:当社は、「社会に貢献する企業として、高品質の商品とサービスの提供により、顧客満足度を高め、社員一人一人が高いモラルを維持し、社会にとってなくてはならない会社となる。」を経営理念として掲げ、「キャッシュレス決済サービス事業」を中心に事業展開しております。
電子マネーの急速な普及に伴い多様化するカード取引に対応するためのシステムを開発し、カード会社加盟店や企業への導入およびクラウドによる決済ASPサービスを提供してまいりました。事業展開の基盤となっているのが、自社開発のキャッシュレス決済パッケージソフト「CARD CREW PLUS」です。
導入後も、保守・運用に関するサポートサービスは自社でヘルプデスクを備え、24時間体制でタイムリーに対応できるよう整備しております。
事業内容を一言でいえば、当社は消費者の方がお店でお買い物をする際に、キャッシュレスで支払うためのシステムを提供している会社です。今でこそ、皆さんが当たり前につかっている、クレジットカードやQRコードを読み取る決済端末をはじめ、その裏側に存在するクレジットカード会社などの決済事業者に対してデータを交換するためのシステムなどを開発、提供しています。
-御社のサービスのターゲットや、強みについて教えてください。
当社は大手ベンダーと違い、国内外の多種多様な決済端末やPOSシステムとの接続実績を生かした、システムのカスタマイズ性に強みを持っています。この強みを生かし、多様なサービスを求める大規模店・中規模店の流通小売事業者をメインターゲットとして、クレジットカード、デビットカード、電子マネー、QRコード等と進化する決済手段に対応したキャッシュレス決済システムやASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー)決済サービスを展開しています。
-市場規模と、業界構造、御社の事業のポジションについて教えてください。
矢ヶ部:国内キャッシュレス決済市場は、2020年時点で約80兆円であり、2025年には約120兆円まで拡大していくと予測されています。(参照元:一般社団法人キャッシュレス推進協議会「キャッシュレス・ロードマップ2020」)ここ数年、ますますキャッシュレス化のニーズと受け入れ体制が整ってきているわけですが、当然その市場を開拓するプレイヤーは多数存在します。
プレイヤーを分析していくと、主に2つの軸で分類が可能です。1つ目の軸は、強みの持ち方、2つ目はターゲットユーザーのシステム規模です。当社のポジションは図の右上になり、システム規模の比較的小さいユーザーに対して、自社開発システムによる高い技術力で対応しています。
他には、当社と同じくシステム規模の小さいユーザーに向けて、独自決済システムを持たず販売力で勝負をしているA群、比較的システムの規模の大きいユーザー(金融機関等)に向けて営業をかけている大手システムインテグレーターであるB群や、同じく大規模システムを持つカード会社に向けたシステム開発会社C群などが挙げられます。これらと差別化を図っています。
当社では、決済に必要なすべての機能を自社で賄うことで、導入から運用までワンストップサービスをお客様に提供しつつ、POSベンダーやシステムインテグレーター、決済事業者、カード会社等の決済を支える主要な事業者との営業的なアライアンスを組むことで、幅広いエンドユーザーへのサービス提供を行っているのです。
創業の経緯とキャッシュレス決済事業領域における問題認識
-事業アイデアはどのように生まれたのでしょうか。また、キャッシュレス決済が増えると早くから予見できたのはなぜでしょうか。
矢ヶ部:事業アイデアが生まれたきっかけは、創業者、金子(現会長)が関わった前職時代のプロジェクトでした。金子は、セイコーシステム株式会社(現セイコーソリューションズ株式会社)で、1989年より7年間システムエンジニアとして勤めておりまして、キャッシュレスに触れるきっかけになったのは、とある店舗のPOSを受託開発した時でした。
その延長線上で、金子はクレジットカード決済システムなどの研究開発を行うことになりました。そして、大型汎用機が必要とされた決済システムのダウンサイジングを図り、小型化、低コスト化を実現していきました。開発を通して、金子はこれからの世の中では、キャッシュレス決済システムによって収集されたデータを活用し、ビジネスを最適化していくニーズが高まっていくことを予感していたのでした。
起業家精神が旺盛だった金子は、1995年9月に独立し、有限会社ジィ・シィ企画を立ち上げます。この会社で、カード会社加盟店とPOSシステムとが連動可能なカード決済パッケージシステムを開発し販売していこうと考え、来るキャッシュレスブームを信じ、長い旅路への一歩を踏み出したのです。
-矢ヶ部社長の事業参画の経緯について教えてください。
矢ヶ部:私は、前職のセイコーシステム株式会社時代に金子と出会いました。当時から独立心が強かった金子とは馬が合い、この先どのような時代が到来するのか、どんなサービスが伸びていくのかをよく議論する仲でした。金子からは、数年先には会社を興そうと考えているということ、是非そこに参画してほしいと誘われていました。
その後、金子は本当に会社を設立したわけですが、当時は金子社長と奥様の2名体制でした。いざ参画するとなると、既に私も結婚し、子供もいましたので、いきなり本格的に会社に入っていくのはいささか不安でした。そこで、はじめのころは、土日だけ仕事を手伝うところからスタートしました。
当時はまさにITバブル真っ盛りのタイミングであり、最初はシステムの受託案件に携わっていきました。そうして金子と一緒に仕事をしていく中で、彼の頼りになるリーダーシップや知見の深さを改めて実感。最終的には、彼と仕事をすれば、きっと何とかなるだろうと思い、会社設立1年半後、正式に参画しました。ちなみに、当時は、金子が社員番号1番、奥様が2番、そして私が3番。そして、今、隣に座っている坂井が5番という感じでした。
-社員番号5番の坂井取締役は、いかがだったのでしょうか?
坂井:私の場合、もともとセイコーシステム株式会社のクライアント先の不動産会社に勤めておりまして、その会社の経理を担当していました。セイコーシステム社からは経理システムを提供して頂いていたのですが、なかなかうまく動かず、試算表を出すのにもかなり時間がかかっていました。ところが、当時課長職だった金子が当社の担当についてから、ものの数週間くらいで劇的な改善をしてくれたのです。今でも当時の感動は忘れられません。それが、金子と私との出会いでした。
その後、セイコーシステムのSEに誘われて、金子の背中を追う形で同社に出向することになります。経理畑で育った私はシステム開発をしたことなどなかったのですが、当時は少し勉強すれば、SE業務で他者と差別化を図れる時代だったので、同社で経理の会計システムを担当することになりました。
かれこれ2年程が経過し、矢ヶ部の後に、私も金子から誘われ当社に参画しました。あれから、23年経ちますが、まさに運命の出会いだったなと思います。
代表とCFOの二人三脚で実現した上場への軌跡
-上場を目指された理由について教えてください。
矢ヶ部:実は、創業して間もないころは、本当に資金繰りが大変で銀行もお金を貸してくれませんでした。当時たまたま、国策としてIT人材を育てましょうという流れがあり、3店舗のパソコン教室も運営していました。世情柄、需要も高く、多い時で生徒は約100名程度いました。なんと金子は、その生徒に対して株主にならないかと熱弁をふるい、80名近くの出資者を得たのです。
もともと、会社を作ったからには上場しなければいけないと考えていた金子でしたが、こうして初期に投資していただいた株主に対する責任を果たして行きたいという想いが、上場への覚悟をさらに強めました。それが、会社として上場を目指したきっかけになります。
そうはいっても創業後からIPOに至るまでの過程で、当社は紆余曲折を繰り返してきており、実際に一番ひどいときは債務超過にもなりかけました。そのような状況下では、上場という大きな目標を掲げても、実感がわかない社員も少なからずおり、かえってビッグピクチャーを持っていることが、社員にとってのモチベーションの低下につながる局面もありました。それに加え、いざ上場していくとなったときに、当時社長であった金子も、若くはなかったため、先々の経営体制をどうしていくのかという点も幹部や、社員にとっては、気になるポイントでした。
ずるずるとこんな状況が続いていくようでは、上場してもしなくても会社の発展はないと考えました。金子と話し合う中で、経営体制への懸念があるのであれば、自分が社長として上場を目指し、リーダーシップを取っていこうと覚悟を決め、金子から社長を引き継ぐこととなりました。
-そこから実質的に上場に向けて動き出されたわけですね。上場出来た成功要因は何だったのでしょうか?
その頃からキャッシュレス決済という言葉が世の中に浸透し、業績も徐々に安定化していき、目に見える結果が出始めると、社員の士気も上がっていきました。いろんな変数の好転が重なり、組織が前進していったということなのですが、その背景には、紆余曲折を繰り返してきた長い旅路をここまで一緒に乗り越えてきてくれたメンバーの努力や、その背後で支えてきてくださった株主の皆様の存在があります。
しいて言うならば、変革を恐れず、共に立ち向かっていくということが上場に向けた様々な課題を乗り越えることができたエンジンとなったのだと思います。
-上場にあたり、ボトルネックになったことと、それをどのように克服したかについて教えてください。
坂井:上場前までは、いわば一般的な中小企業でしたので、いろいろ整備しなければならないことが多く、その中でも特に労務が大変でした。社内の規定や法令、会計処理方法の一貫性について、監査法人や証券会社から指摘を受けるような局面も多々ありまして、それらを改善していくのも簡単ではありませんでした。
というのも、改善をできている状態というのは、仕組を設計することのみにとどまらず、その仕組みを浸透し実際に運用できていることを示す必要があったためです。
特に労務に関するテーマは、社員と綿密に対話をしなければいけないセンシティブな事案の一つです。到底ワンマンプレイで実行できるわけもなく、管理設計面は主に矢ヶ部が担い、会計面の調整は私が中心となり、二人でタッグを組みながら一緒になって社員とのコミュニケーションとオペレーションを行っていきました。
-上場して良かったことについて教えてください。
矢ヶ部:上場できたことによって、やはり、社内の士気が上がりましたし、対外的な信用度が格段に高まり、インバウンドの問い合わせが増加しました。未上場の時からの取引先は、担当者の職位が変わり、事業提携をしないかという話も増えていきました。冒頭で申し上げた通り、当社は決済を支える主要な事業者群との営業的なアライアンスを組むことによって販路拡大を図っていくというポジショニングの取り方をしております。したがって、上場による信頼の向上、事業連携先の拡充チャンスの増加という側面は、今後の更なる業績向上に向けた起爆剤となります。業態特性を鑑みた際にも上場するという選択肢は間違っていなかったと思います。
上場後のビジネス展開、今後の成長戦略
-上場後の成長戦略について教えてください。
矢ヶ部:既存領域の拡大、ストック売上の拡充を行っていくことはもちろんのことですが、さらなる成長戦略として「国際ブランド決済ネットワーク接続サービス」に取り組んでいきます。現在、当社のASPサービスにはたくさんの加盟店がつながっていますが、クレジットカードで加盟店からカード会社の信用照会を行う際に、当社のASPとカード会社の間のネットワークが国内専用のネットワークになっております。例えば、「CAFIS」や「CARDNET」などです。
これを、国際ブランドのVISAやMastercardが運営する「VisaNet」や「BANKNET」に切り替えていきます。日本のクレジット決済網は、世界に先駆け独特の進化を遂げてきた部分があり、グローバルでみるとコスト高になっていました。国際ブランドの決済サービスをカード会社が利用することで、カード会社の利用コストが削減され、それを基に、カード会社の加盟店に対しては、手数料の削減要求などをかなえることができます。
結果として、当サービスの利用加盟店数が増大し、かつ、カード会社からもシステム利用料をいただくことによって、当社の収益拡大へとつなげていくことができます。いわゆる「三方良し」のビジネスモデルとなるのです。
-これらの国際ブランド決済ネットワークサービスはいつ頃リリースされるのでしょうか。
「VisaNet」は2022年4月頃のリリースに向けて準備をすすめており、「BANKNET」は来期のリリースを予定しております。目下、複数のカード会社とプロジェクトを進めており、具体的なユーザーの紹介も始まり、着実に営業アライアンス先の拡充も進んでおります。
-今後の成長のために特に力を入れて行かれることについて教えてください。
これまでは、地道にキャッシュレスサービスをやってきましたが、ここにとどまっていたいわけではありません。したがって、もう一つの成長戦略としてCSV(クリエイティング・シェアード・バリュー)への取り組みを推し進めていくため、事業戦略企画室を発足しました。
キャッシュレスサービスは、ここにきて業績が安定した事業となってきていますが、そこに甘んじず、さらに新規事業にとり組む環境を整備していこうと考えております。例えば、キャッシュレスの仕組みの中に、地域通貨をつなげ、ポイント化もしていくことができます。
これにより社員の健康を促進していくことも可能となります。自動車通勤を、自転車通勤に変えるなど、健康によい取り組みを行なえば、ポイントがたまるようにする。そのポイントは、地域通貨やキャッシュに自在に変換可能です。これが地続きにできるのが我々のシステム資産の強みということになるわけですね。
そしてさらに、それらの世界観がメタバース空間上に形成されていくことでより有機的かつ流動的にネットワークが繋がり、拡大していくといった世の中を思い描いています。
そのような構想を実現していくための先駆けとして、2021年12月23日に、健康経営アプリ「NUCADOCO」をリリースしました。常に先を見据え、時代を切り開く若手社員のポテンシャルも生かしつつ、共に価値を創り続ける組織でありたいと考えております。
<プロフィール>
矢ヶ部 啓一(やかべ・けいいち)
代表取締役社長
1985年4月 (株)糧友福岡(現:リョーユーパン)入社
1991年8月 セイコーシステム(株)セイコーソリューションズ(株)入社
1997年12月 当社入社 システム部長
1998年9月 当社取締役システム部長
2000年9月 当社取締役営業部長
2012年7月 当社取締役システム開発部長
2013年7月 当社取締役品証工程管理部長
2014年1月 当社取締役総合情報管理室長
2016年4月 当社代表取締役社長(現任)
坂井 正人(さかい・まさと)
取締役経営管理本部長
1985年4月 公認会計士・税理士望月登事務所入所
1989年10月 アイ・ビー・エイ(株)入社
1993年7月 (有)ライズシステム設立 取締役就任
1995年9月 (株)ハルシステム設計入社
1999年5月 当社入社 経理部長
2000年9月 当社取締役経理部長
2002年9月 当社取締役総務部長
2005年9月 当社取締役管理部長
2006年9月 当社取締役経理部長
2014年1月 当社取締役経理財務部長
2017年1月 当社取締役経営管理部長
2019年7月 当社取締役経営管理本部長兼経理財務部長(現任)
株式会社ジィ・シィ企画 (Global Communication Planning Co., Ltd.)
https://www.gck.co.jp/
本社所在地:千葉県佐倉市王子台一丁目28番8号
東京事務所:東京都千代田区神田神保町2-17神田神保町ビル8F
上場市場:東京証券取引所グロース市場 (証券コード:4073)
設立:1995年9月13日
資本金:4億2,468万円(2021年12月末現在)
従業員数:114名(2021年12月末現在)