リニューアブル・ジャパン眞邉勝仁社長に聞く~地域×技術×金融の一気通貫の強みで脱炭素を加速
東日本大震災をきっかけに、再生可能エネルギーと金融の架け橋を目指す
-はじめに、再生可能エネルギー分野に着目した理由と創業の背景をお聞かせください。
リーマン・ブラザーズ証券やバークレイズ証券で、日本にはなかった先進的な金融スキームによる事業に関わってきました。不動産証券化業務なども経験した後、米運用会社ザイス・ジャパン代表取締役として、インドなどの海外メガソーラー案件にも携わりました。
転機となったのは、2011年の東日本大震災。当時のビジネスパートナーから、「太陽光で稼働する浄水設備を寄贈したい」と申し出があったのです。複数の自治体にお声がけする中で、大船渡市と女川町が受け入れてくれることになり、浄水設備を届けるために現地を訪れました。
大船渡市から女川町に移動する、海岸沿い約150kmの道のりで目の当たりにしたのは、言葉にできないほどの悲惨な光景でした。私はとんでもなく大変な状況になっていることを痛感し、車に揺られながら「自分に何ができるか」と自問自答しました。
その頃は、すでに福島第一原発のメルトダウンも大きな世間の関心事となっており、再生可能エネルギー事業の機運も高まっていました。そこで「自分でも復興のお手伝いがしたい」という思いから、日本で再生可能エネルギーのビジネスを広げていくことを決意し、2012年に当社を立ち上げました。
長年、金融業界にいて培ったノウハウや、海外メガソーラーを手掛けた経験が、きっと復興に役立てられるはずだと思ったのです。そうした経緯から、当社は「再生可能エネルギーと金融の架け橋になる」というコンセプトが根底にあるのです。
-リニューアブル・ジャパンの事業内容について教えてください。
当社グループは再生可能エネルギー専門事業者として、再生可能エネルギー発電所の開発、EPC(設計/調達/建設)、資金調達、アセットマネジメント(AM)、オペレーション&メンテナンス(O&M)、発電までの再生可能エネルギーに関する事業全般を一気通貫で手掛けています。
当社は、発電所の開発報酬、EPC報酬、発電所売却収入のフロー型収益と、売電収入、AM報酬、O&M報酬というストック型収入の2つの収益構造を実現しています。つまり、収益性と安定性の両立を可能にしたビジネスモデルになっているのです。
さらに、私たちの強みは、規模の拡大に弾みをつけるファイナンスとダイレクトにつながっていることです。きちんとした技術で発電所を開発するのは当然ですが、一つ一つの事業に対してプロジェクトファイナンスが組めなければ、短期間のうちに事業が広がっていきません。
ですから私たちは、ゼロからの開発に始まって、プロジェクトファイナンスなど金融商品の出口まで持っていき、その後の管理も行う。この一連の流れがすべてつながっているわけです。
このモデルには、先述のように投資銀行や運用会社でファイナンスやプロジェクトの証券化を手掛けた経験が生かされています。不動産証券化のノウハウは、発電所開発にも通じるものがあり、実は、海外ではそうした金融スキームが一般化されています。そこで、海外で成功しているデベロッパーのモデルを日本向けに最適化したというわけです。このようなファイナンスを含めた一気通貫のグローバルモデルは、まだ日本にほとんどありません。
「地域」「技術」「金融」の強みを生かした加速可能な事業のインパクト
-一気通貫のモデルはどのような強みを持つのか、具体的に教えてください。
強みは大きく分けて「地域」、「技術」、「金融」の3つです。まず「地域」では、全国各地に28箇所の拠点を構えており、開発とO&Mに活用しています。基本的に、当社の再生可能エネルギー発電所やO&Mを請け負った再生可能エネルギー発電所がある地域に拠点を設置しており、社員が常駐することで地域に根差した事業を行っています。
「技術」では、当社はゼネコンと同等の免許である特定建設業の許可を取得しており、自社で施工部隊を抱えてEPC事業を行っています。これにより、メーカーと直接交渉してコストダウンが図れ、外注時にもEPC業者をコントロールできるなど多くのメリットが生まれています。O&Mの際も自社修繕できることで、低コスト、かつ高いクオリティのO&M事業を展開でき、さまざまなニーズにワンストップで対応可能です。
そして「金融」。これまで11件のプロジェクトボンド※を発行し、プロジェクトボンド市場全体発行額の34%を占める902億円の実績があります(2022年3月現在)。これは累計発行金額シェアでダントツの実績となっています。
※プロジェクトに必要な事業費のうち、負債部分を金融機関からの借り入れでなく、債券化して投資家から調達する金融手法。
こうした強みを生かすことで、当社は開発案件の発掘から発電・運営まで、再生可能エネルギー事業のどのプロセスからでも案件化が可能です。創業以来、一気通貫で再生可能エネルギー事業を行ってきたノウハウや実績が当社グループの強みであり、今後迎えるNon-FIT時代においても再生可能エネルギーの普及と拡大が実現できると考えています。
-開発と金融が合体した事業モデルが御社の強みであることがよく分かりました。
プロジェクトファイナンスや証券化は、資金調達の仕組みの中で最も難しい部類に入りますが、私たちは新しい金融スキームの先駆者として、さまざまなイノベーションを起こしながら成長してきました。金融的に言うとエクイティプレイヤーなのですが、日本に馴染んでいるデットにも精通したノウハウを持っています。当社の強みである高レベルかつ最先端の金融技術を駆使して、新しい金融スキームのフロントランナーとしての役割をも担っていきたいと考えています。
そして、金融界におけるブランドを確立したい。これは不動産に例えると分かりやすく、三井不動産のような大手デベロッパーと、名前を聞いたことのないようなデベロッパーが同じ案件を開発したとしても、値段がまったく異なりますよね。そこにはブランドの価値が内包されているわけです。発電所にしても、当社が開発からAM、O&Mまで一貫して行うことで、安心して投資していただける。なので、こうしたブランド化も事業拡大の重要な要素となっているのです。
急拡大する再生可能エネルギー市場は、6兆円のポテンシャル
-第6次エネルギー基本計画が策定されたことで、市場規模の変化をどのように見込んでいますか?
第6次エネルギー基本計画では、発電量に占める再生可能エネルギーの比率が約1.5倍に増加しており、その電源構成の中でも特に太陽光と風力が伸長しています。
2030年度の太陽光発電導入目標は117.6ギガワットであり、2019年度太陽光発電導入量の55.8ギガワットと比べると約2倍。原子力発電所約62基分の電力生産に相当する61.8ギガワットの成長余地があります。これは野心的水準で実現は容易ではありませんが、1メガワットを約1億円と仮定すれば、約6兆円の市場ポテンシャルがある計算です。
さらに、国交省の空港の再エネ拠点化、経産省などの新築住宅への施策、環境省や農水省の農地・公共施設の活用、自家消費促進など、各省庁が再生可能エネルギー推進をサポートしており、今後も多くの事業機会を見込んでいます。
業界を取り巻く環境は、国や政治がリーダーシップをとり、大きく変わりつつあります。最近は、流れに乗って大手ユーティリティ企業などの参入が活発化していますが、当社は前述の通り、再生可能エネルギー専門事業者として開発から運営まで一気通貫で手掛けてきた実績があり、これまで累計約13ギガワットの案件をプライシングしてきました。このノウハウは他社と比較しても非常に強い部分となっています。
上場への軌跡と上場後の変化
-上場を目指そうと思ったタイミングはいつですか?
実は、創業の段階では、上場しないと決めていました。純粋に復興のお手伝いをしたいという気持ちからスタートしていますので、マネーゲームには参加しないでおこうと思っていたのです。
一方、社内では合計約40メガワット分の開発候補案件リストが積みあがってきていて、そのすべてを進めるには資金調達の算段が必要でした。資本を調達するからには、当然その出口も考えなければなりません。投資家にとってメリットを生み出し、社会にインパクトをもたらす事業規模にするには、やはり上場は否定できないと思い、上場を視野に入れた体制構築に動き始めました。これが、2015年頃です。
-そこから上場に向けて動き出されたのですね。上場の狙いと、ハードルをいかに克服したか教えてください。
狙いはやはり、脱炭素化を加速するために、資金調達の手段を広げること。また、信用力や知名度の向上により、営業や採用への好影響も見込んでいました。
ハードルとしては、予実管理やガバナンス体制の構築はもちろん大変でしたが、再生可能エネルギー分野でさまざまな事業を行っている上に、金融を活用した複雑なスキームもあるため、東証審査の際に理解してもらうのに苦労しましたね。
ただ、なぜこのスキームでなければいけないのかという丁寧な説明は、開発における住民説明会でも普段から行っています。その経験を活かして、根気よくわかりやすく説明したことで、上場を達成させていただけたと思っています。上場セレモニーで鐘を鳴らしたときは、うれしいというより、ひとまずほっとした気持ちの方が強かったですね。
-上場してどのような変化がありましたか?
想定通り、当社に興味を持っていただける機関投資家やメディアの方々が増えました。採用面でいうと、今年から新卒採用を本格化しました。一昔前と違い、今は再生可能エネルギー分野の企業に絞って就職活動をされている方も多く、上場によって注目されやすくなったことは大変ありがたいと感じています。
ゆくゆく新卒社員が会社の中心に座って組織に貢献する状況になると、その組織自体も強くなります。当社にはイノベーションを積極的に受け入れるカルチャーがあります。上場して知名度が高まったことで、新しいビジネスやマーケットに対し、どんどんアイデアを出してチャレンジする会社であることをもっと訴求していきたいと思います。
上場後のビジネス展開、今後の成長戦略と地方創生
-今後の成長戦略について教えてください。
今後は、開発した発電所を売却するフロー型ビジネスから、発電所の自社保有を拡大し、継続的な売電収入を得るストック型ビジネスへの転換を進めます。また、中期目標としてO&M事業の外部受託強化にも取り組み、4年以内に2ギガワット達成を目指しています。これについては、前倒しで達成できるようチャレンジしているところです。
あわせて、FITに頼らない自立した発電所の組成を進め、太陽光だけでなく、水力や風力など電源の多様化を図り、電力の安定供給を実現していく考えです。
長期目標では、10年以内に目指す自社保有の設備容量として、国内太陽光1ギガワット+α、国内風力1ギガワット、海外1ギガワットを掲げています。国内シェアを拡大するとともに、国内事業で培った知見や強みを生かしてグローバル進出を加速します。すでにスペインに現地法人を設立しており、地元拠点を軸に、地域密着型の電源開発を進める方針です。
-アジアを目指す再生エネルギー事業者が多い中で、スペインを皮切りにグローバル進出しようと思われたのはなぜでしょうか。
スペインをはじめとする欧米をメインターゲットにした理由は、端的に言えば、当社の強みを生かせるのはアジアではなく欧米だからです。欧米はアジアに比べてファイナンスに関する法制度が整っており、ファイナンスに強い当社としては、進出しやすいマーケットだと判断しました。私たちは今後も国内のみならず、グローバルな再生可能エネルギー市場のリーディングプレーヤーを目指し、継続的な成長を続けていきたいと考えています。
-地域拠点を増やすにあたっての人材育成も重要となりますね。
その通りで、社内に「RJアカデミー」という社内教育制度を構築し、新卒社員の技術者育成と、現状の技術陣の技能向上を目的とした研修を実施しています。資格取得をサポートするだけでなく、発電所の管理に関するさまざまな知識、技術を体系的に教育しています。
この先、発電所を管理する電気主任技術者の減少が課題の一つであると言われています。若い世代の方々を育てることで、国が抱える再生可能エネルギー普及・拡大の問題点を民間である私たちが解決していくというユニークな取り組みとなっています。
また、新卒採用の技術者は、地域拠点エリアの高等専門学校生を採用する方針です。再生可能エネルギーを普及・拡大させることは、電源の安定供給だけでなく、地域の雇用創出に直結するため震災からの復興や地方創生にも大きく貢献できると考えています。
<プロフィール>
眞邉 勝仁(まなべ・かつひと)
1991年1月 リーマン・ブラザーズ証券株式会社 入社
2005年3月 バークレイズ・キャピタル証券株式会 社(現
バークレイズ証券株式会社)入社
2008年8月 ザイス・ジャパン株式会社代表取締役
2012年1月 当社設立 代表取締役社長就任 (現任)
2019年12月 一般社団法人再生可能エネルギー長期
安定電源推進協会 代表理事就任
2022年6月 一般社団法人再生可能エネルギー長期
安定電源推進協会 理事 副会長(現任)
リニューアブル・ジャパン株式会社(Renewable Japan
Co.,Ltd.)
https://www.rn-j.com
本社所在地:〒105-0001 東京都港区虎ノ門1-2-8 虎ノ門琴平タワー9階
設立日:2012年1月25日
代表者:代表取締役社長 眞邉 勝仁
事業内容:再生可能エネルギー発電所の開発・発電・運営管理
資本金:連結46億1,742万円(2022年3月末現在)
従業員数:連結263名(2022年3月末現在)
グループ会社:アールジェイ・インベストメント株式会社