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2022年08月01日(月)

グラントマト 南條浩社長に聞く~農業生産者、消費者、協力企業間のアグリビジネス循環型モデルとは?

経営ハッカー編集部
グラントマト 南條浩社長に聞く~農業生産者、消費者、協力企業間のアグリビジネス循環型モデルとは?

グラントマト株式会社は、福島県で、農家への肥料販売や農作物の集荷を営んでいた南條商店が源流となっている。1949年に先々代が始めたこの事業を、南條浩氏が受け継いだのは1994年のこと。その後、会社は高成長を遂げ、今では、祖業の農業資材の販売に加えて、買い付けた農産物を消費者に直接届ける業務スーパーや、ネット販売も手掛けている。グラントマトが目指すのは、「アグリ市場における好循環スパイラルによって、農業生産者や消費者、各企業の皆様をつなぐサービスを創出し提供する」という経営方針の実現だ。福島県、茨城県、栃木県、山形県を中心に事業を展開し、2022年2月25日にはTOKYO PRO Marketに上場を果たした。今回、同社の南條浩代表取締役に、上場までの道のりや、今後の事業展開について話を聞いた。

農業生産者を軸に4つの事業を展開

-どのような業態、事業構造なのでしょうか?

祖業は現在、『農産流通部門』と位置づけ「アグリサポート事業」と呼んでいます。従来通り、農家を訪問し、農業資材の販売・農産物の購入や、農業経営の相談を行っています。農業資材とは肥料・ビニールハウス・農業機械といったものです。また収穫時期には農家から農産物の購入をしています。先述の話は、まず、このアグリサポート事業の商圏を広げたということになります。

次に第2の事業として、1995年、農家の方に買いに来ていただく、店舗型の「グラントマト事業」を始めました。なぜかというと、訪問による農業資材の販売は、盆暮れ勘定といわれていて、回収に時間がかかるのと、農産物が不作の場合は支払いを待ったりしていたので、キャッシュフローが常に厳しい状況にありました。そこで、現金払いを取り入れたということです。つまり「グラントマト」は売掛金が発生せず、ホームセンターのようなキャッシュアンドキャリー方式の業態なのです。また、資材を買いに来たついでに日用品や食品を買っていただくことにもつながっています。

さらに、第3の事業として、自社で買い付けた農産物を消費者に販売する「フードマート事業」をはじめました。小型店舗は「FOODMARTグラントマト」として、農産物・食品・酒・日用品を販売しています。大型店の「業務スーパー」では、2008年の白河店を皮切りに、須賀川、二本松、友部、矢吹、下妻に出店しています。業務スーパーはFC加盟店として展開していますが、これに当社独自の商品を加えて販売しているのです。

われわれは第2、第3の事業を合わせて『ストア販売部門』と呼んでいますが、これらは消費地のマーケットの特性に合わせて出店エリアを拡大しています。小売り業態の開発には、消費者との接点を拡げ、農産物販売のチャネルを増やしたいという狙いがあります。

第4の事業として、小売店舗と並行し、ネットでもチャネルを広げるために始めたのが農作物や農業資材のEC販売です(『FDC・インターネット販売部門』と呼んでいます)。「会津 CROPS」では、会津産コシヒカリ等、米のインターネット店舗として、商品を日本全国に販売しています。さらに、「グラントマト」で扱っている農業生産資材などもECに加え、消費者、生産者それぞれが便利に利用していただけるよう事業展開しています。

このような、業態開発を行っている理由として、日ごろから農産物の流通への問題意識を感じていることがあります。店舗では中国の商材も扱っているので、仕入れに行ってみて気づいたのは、単に経済合理性だけで、コンテナで運べるような安いものを仕入れて売っていると、やがて日本市場がそういったものに置き換わっていくのではないかという兆候です。

そうならないためには、日本で内需を強化し、日本で物づくりし、消費しないといけない。日本で産み出したものを、日本で価値を加え、日本で消費する、これを、消費者を含めて上手く循環させることができるかどうかが重要な鍵になります。

循環のためには、少子高齢化で市場自体が縮小していく日本ならではのやり方を考える必要があります。そこで、農業生産者や協力企業など、それぞれの持っている様々な価値やノウハウを有機的に連結させ、より新しい価値やマーケットを作りあげること、そして、その価値を関係企業や生産者、消費者へと還元していく取り組みが求められているのです。われわれはこれを「好循環スパイラル」と呼んでいます。

-「好循環スパイラル」ですか?

はい、われわれは農業生産者を軸に事業を展開していますので、生産者を起点とした「好循環スパイラル」と言っています。

通常、流通業は生産者から物を仕入れて販売する一方通行です。当社のモデルでは、双方向で、それぞれの生み出した価値を、それぞれ必要される関係者同士でやり取りする共創関係を築いています。

農業生産者と消費者の関係では、当社が農作物を販売できる店舗やネット販売のチャネルを拡大し、新鮮な農作物が販売しやすくするとともに、消費者も、より生産者に近いところで良い物を安く手に入れられます。

例えば、米は年間6,000トンを農家から購入していますが、このうち6から8割は消費者に直接販売ができています。これによって、米農家はディスカウントされずに米の生産がかない、消費者は産地から直接買えるのです。

次に、農業生産者とメーカーの関係で言えば、例えば、農業資材メーカーは、農家の繁忙期に合わせて商品を製造しますが、閑散期には機械が遊んでいる事態が発生します。そこで、当社がまとめて買い取ることを前提に、閑散期に生産をしてもらい、その分安く仕入れることが可能となる。そうすれば、農家は安く資材を買うことができ、メーカーは工場の稼働率を上げることができる。

さらに、メーカーと消費者の関係で言えば、当社が店舗やネット販売網をもっていることによって、協力メーカーは消費者向けの商材も製造し、販売する機会が生まれる。そして消費者は手ごろな価格で、購入することができる。といったことが挙げられます。

-「好循環スパイラル」を支えるにはITシステムや物流の仕組み作りが肝になりそうです。

その通りで、これができるのがPOSシステムや物流センター拠点を運用しているからです。POSシステムは2002年の頃、5、6店舗のときから導入していて、当時は分不相応だと言われていました。

レジで入力した購買データを、瞬時にサーバーで一元管理していくこの仕組みがあったからこそ、現在の複雑なモデルの運用ができているのだと思います。ただ、最初からシステムの知見があったわけではなく、POSを入れたものの宝の持ち腐れ状態でした。四苦八苦しながら、上手く回すのに6、7年はかかりましたね。そして、10年くらいたって、やっと分析したデータを自在に経営に活用できるレベルになりました。

また、物流センターの運用も、POSと同じころに着手しており、こちらも過剰投資だと言われました。これが当時、仕入れ量もそれほど多くなかったことから、原価割れから脱却できない状態が続きました。

こういった投資はようやく2014年ころから実を結ぶようになり、物流センターによって、商品調達力と物流機能が大幅に改善しました。これにより商品配送を当社で一手に扱い、仕入れ先の物流のコストを下げることで、仕入れ価格の引き下げの提案をすることもできるようになったわけです。

物流センター

このとき起点となる POS レジのデータが一番重要で、そのデータは見込み発注など物流センターの商品管理システムに直結しています。日々の改善によって、精度とスピードが向上し、今では相当の多店舗でも対応が可能となっています。
 
これに、インターネットからのデータを加えることで、情報資産がさらに強化され情報と物流の相乗効果が高まってきています。まさに農家、メーカー、消費者がつながる、「好循環スパイラル」が実現できつつあります。

-この間、東日本大震災が起こりましたが、どのように乗り越えられたのでしょうか?

2011年3月に東日本大震災が起こったとき、特に福島県は風評被害が大きく、農家はかつて誰も経験したことがない苦境に陥りました。そこでわれわれは農家の方々を助けるべく、もっと事業に本腰を入れようと決意しました。農家の方から「作付けしてよいものか?」と聞かれたとき「ぜひ作ってください。作らないとはじまらないですから。」と返しました。このとき当社ですべて買い取る決意をしていたのです。

実際に、4月、5月、6月と時間がたつにつれ、農産物自体への汚染も問題ないことがはっきりとしてきました。われわれとしては、放射線検査を最初からしっかりやっていたので、ある程度予測できていたことではありましたが。

他の企業が米の買い付けを行わない中、当社は例年どおり買い付けを行いました。9月、10月にいたっては他者の買わない分も全部買い付けしていきました。

この震災が契機となって、東北の復興のためにもますます本気で取り組まないといけないとなったとき、さらに資金と信用が必要となります。そこで将来の上場を真剣に検討し始めたのです。

 

TOKYO PRO Marketへ上場

-TOKYO PRO Marketはどのようにお知りになったのですか?

2016年頃、地方銀行の方が東証の上場担当の方と当社を訪問してくれ、その場でTOKYO PRO Market(以下TPM)の話を聞いたことがきっかけです。

それによると、東証では2020年頃に市場再編を考えていて、東証2部とジャスダックはスタンダード市場に再編され、今後基準が厳しくなるだろうと。よって、数年後のスタンダード上場は至難の業になる。最短距離を進むには、上場予備軍という位置づけのTPMを経由するのがよいとのことでした。

実際に、2022年4月に再編されたスタンダードの基準は厳しく、流通時価総額10億円以上が必要で、それを割らないようにしなければならない。このためには常に業績を上げ続けることができる確固たる経営基盤がないと難しい。

とは言え、初めてTPMの聞いたの時点からすると、だんだんと基準が厳しくなってきています。当社が審査を受ける時には、審査基準は昔のジャスダック並みと言われていました。

-上場準備にあたって何がハードルだったのでしょうか?

何が大変だったかというと、実態としては中小企業だったのでガバナンスという概念が弱かった。現場の従業員に浸透させるのに相当苦労しましたね。当社の場合、卸、ネット販売、物流センター、そして一部PB商品も作っているので、メーカーとしての位置づけもあります。

今までは、現場の裁量で臨機応変に回してきたものを、業務記述書を書き、それに合わせて行動を統率し、結果を各部でまとめて、どう決算書に反映させるか。そして、ルール通りにいかにやり続けるか。業務記述書の内容を整理するだけでも相当な時間を要しましたね。

ようやく2020年になってから、ここからいよいよ行けるとなって、2年かかって、2022年の2月に上場したということです。

-上場して良かったことは?

じわじわと信用度が上がっていると感じます。やはり、監査法人の監査証明がついている決算書を開示する凄さですね。金融機関の対応もガラリと変わり、追加融資の提案をいただけるようになって、資金繰りもかなり好転しました。

今までは、自分たちで頑張っているつもりでも管理が甘く、予実管理もあってないようなものでした。これが上場すると、必ず予算は達成させる必要があります。達成のためには、今まで以上に、本気になって商品の品質や、サービスのレベルを上げなければならないといった意識になり好循環が生まれています。

また、消費者の方に対しても、上場のおかげで信用度があがり、ネット販売の売り上げが増えています。上場企業なので安心して買えるといった点は大きいです。

そして、従業員が、店頭でお客様から「上場したのですね」と言われることがあり、内部の意識向上の面でも良い効果が表れています。

 

「好循環スパイラル」の発展

-今後の展望について教えてください。

足元の野菜販売は順調に伸びていて、産地からの鮮度の高い野菜は大好評です。小売り業態を展開してわかることは、新鮮な農産物に対する需要は底堅いということですね。

ただライバルとなる日本の食品スーパーは非常に優秀なので、鮮度維持が重要なポイントになります。食品スーパーに勝つためには、収穫当日、遅くとも収穫した翌日に店頭に並べなければなりません。したがって、物流の距離の影響を受け、地域によって品揃えは違います。ようやく、トマトが一日何十キロ売れる事例などが作れるようになってきました。

当社としては、自前の販売チャネルを背景に、地元の農家の方からできるだけ良い条件で農産物を買わせていただく、そして、資材をできるだけ安く提供させていただく、これにより農家のコスト競争力を高め、物流を絡めて販売エリアを拡大していこうと考えています。

現在、福島県以外には、茨城、栃木、青森、山形、愛媛といった農家の方々から買い付けていて、現状15万軒の農業生産者と取引がありますが、これをさらに増やしていきます。

そしてゆくゆくは日本の最大消費地である首都圏での店舗展開ができるようにしたいと考えています。

-最後に、「好循環スパイラル」の背景となっている経営哲学や信念を教えてください。

一言でいうと、「自利利他」になります。農家が儲かりませんと当社も儲かりませんし、従業員の生活も良くなりません。小さい頃から、父の背中をみて育ってきたことで、自然とそういった考え方が身についてきました。

ステークホルダーとの間で、共存共栄のサステナブルな関係を築いていくことは、今ではあたりまえではありますが、総論はそうであっても、現場では様々な相克があるのが取引関係です。

一方を立てれば、一方が立たず、簡単ではありませんが、農業生産者と協力メーカーと消費者の間で、最適な状態が実現できるようにすることを意識しつつ、当事者間で、誠意をもって努力していくことが重要です。逆に、自利利他のハードルが高いからこそ、乗り越えたところに従業員の成長があるのだと思います。

最後に、農家の皆様と関わっている立場として、言わせていただきたいのは、日本の農家の価値を知ってほしいということです。今までは、日本の農家は生産性が低いと、一刀両断されることが多かったのですが、海外と比べて、鮮度の高い日本の農産物の良さを実感していただきたい。

世界ではウクライナ危機等でサプライチェーンの分断が起こっていますが、地産地消は食糧の安全保障にもなりますし、今までと違った価値観で農業生産者を見ていく必要があります。

最近の若い人達からすれば、ESGやSDGsに対応した農業という見方も増えてきました。農業への次世代の意識が変わってくることは、非常に好ましいことです。今後は上場企業として、「好循環スパイラル」の関与者を増やしつつ、日本を良くしていく循環型経済の普及に役立ちたいと考えています。

 

 

 

<プロフィール>
南條浩(なんじょう・ひろし)

1987 年4月 南條商店 入社
1994 年8月 有限会社ナンジョウアグリサービス
(現 グラントマト株式会社) 設立 取締役
1999 年5月 株式会社ナンジョウアグリサービス 代表取締役社長
2005 年9月 グラントマト株式会社(社名変更)
代表取締役社長(現任)

グラントマト株式会社
https://www.grantomato.jp/

本社:福島県須賀川市狸森字下竹ノ内9-5

創業:1949年1月
設立:1994年8月
資本金:3,000万円
従業員数:400名
事業内容:生活消費材・農業生産資材の店舗販売及び訪問販売・EC販売

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