個人事業主が消費税について絶対に知っておくべき6つのこと
国内で事業を行っている個人事業主は、毎年決算期に消費税の申告をして、適正な消費税を国に納めることになります。
しかし、一定の条件の下で、消費税の申告義務が免除される場合があります。特に、スタートしたばかりの個人事業者は、多くの場合、最初の2年間は免税になりますが、2年目からは免税事業者になれない場合もありますし、あえて課税事業者になる選択をした方が得な場合もあります。
今回は、どのような場合に免税事業者となるのかについて、注意事項などを含め金崎 定男 公認会計士に解説していただきました。
1)消費税が課税される取引と非課税の取引
そもそもすべての取引が消費税の課税対象となるわけではありません。そこでまずは消費税の課税対象となる取引とならない取引の要件を確認しておきましょう。
消費税の課税対象となる取引の要件
- 個人事業主が事業として行う取引
- 商品の販売やサービスの提供、資産の貸付を行う取引
- 日本国内において行われる取引
上記3つの条件を満たす取引は、一般的に消費税の課税対象となります。上記要件を確認していただければ分かりますが、個人事業主が国内で行うほぼすべての取引は消費税の課税対象です。ただし、日本国内からの輸出に関しては輸出免除という形で消費税が免除されています。
消費税が非課税となる取引
- 居住用住宅の賃貸料
- 国外取引
- 商品券やプリペイドカードの売買 など
主な消費税の非課税取引はこちらの国税庁のページにまとまっていますので、併せてご確認下さい。
2)初年度は免税事業者となり、消費税の申告は不要
個人事業者の事業年度は、毎年1月1日から12月31日までの1年間となります。年の途中から、例えば、7月から事業をスタートした場合には、初年度は7月から12月までの6カ月が最初の事業年度になります。
新規創業者は、初年度は、原則として免税事業者になり、消費税の申告も納税も不要となります。4)で詳しく説明しますが第2年度も、多くの場合、免税事業者となります。
3)免税事業者は、お客様に消費税を請求できない?
結論から言いますと、お客様に消費税を請求していただいて大丈夫です。
「えっ?申告しないのに請求してもいいの?消費税分まる儲けになるの?」と思われたかもしれません。しかし実際には、例えば商品販売業であれば、商品の仕入代として、仕入先に消費税を支払うことになります。また、仕入代金以外にも、事務用品の購入、交通費の支払いなど、多くの経費の支払い時に消費税を支払うことになります。
消費税を申告する場合には、お客様から預かった消費税と仕入れ先などに支払った消費税の差額を納税することになるのですが、免税事業者は、この差額の納税部分が免除されるわけです。
4)消費税還付になることが確実な場合には届出を忘れずに
例えば、輸出業務を行う場合には、お客様(海外の会社など)には、消費税を請求することができません。商品の仕入には、国内調達であろうが海外からの輸入であろうが、消費税を支払うことになるためこのようなケースでは、「消費税の課税事業者選択届出書」を税務署に提出し、課税事業者になっておく必要があります。
そうすることにより、消費税の還付申告をして、国から消費税分を戻してもらうことができます。課税事業者選択届出書の提出期限は、初年度の場合には12月末日まで。2年目以降に適用したい場合には、適用しようとする年度が始まるまでに事前提出する必要があります。
この届けを出し忘れた場合には、自動的に免税事業者となり、消費税の還付請求ができないことになり、大きな損失をこうむりますので注意が必要です。初年度に、大きな設備投資をするような場合にも、課税事業者になった方が得なケースがあります。
なお、「消費税の課税事業者選択届出書」を提出した場合には、2年間は変更できません。つまり、免税事業者の要件を満たしていても2年間は免税事業者に戻ることはできなくなりますので、注意が必要です。
<参考> 税理士が教える消費税の還付申告で必ず確認すべき6つのこと
5)いつから課税事業者となり、申告が必要になるか
消費税の申告義務が発生するかどうかの判断基準は、原則として、2年前の課税売上高が1000万円以下になっているかどうかで判断します。
- 2年前の売上高が、1000万円以下→免税事業者
- 2年前の売上高が、1000万円を超えている→課税事業者
個人事業を始めたばかりの方は、当然、2年前の売上はゼロですから、初年度、及び2年目は、原則として免税事業者となります。
そして、1年目の売上高が1000万円を超えている場合には、3年目から課税事業者になります。ただし、1年目の1月から6月までの半年間で1000万円を超える売上がある場合には、2年目から消費税の課税事業者になる場合がありますので注意してください。
6)原則課税と簡易課税
2年前の売上高が1000万円を超えて課税事業者となった場合、消費税の計算には「原則課税(一般課税)」と「簡易課税」という2種類の方法から選択することができます。ここでは両者の特徴を簡単に解説しますが、より詳しい原則課税と簡易課税の計算方法はこちらを参照してください。
1. 原則課税(一般課税)
原則課税による消費税の計算式は以下の通りです。
納付する消費税額 = 課税売上に係る消費税額 ー 課税仕入に係る消費税額
原則課税の場合は、商品やサービスを提供する際にかかった消費税から仕入れや経費などにかかった消費税を引いた金額が、納めるべき消費税額になります。ただし、原則課税は計算に手間がかかるため、この手間を省いてもう少し消費税の計算を簡単にしたものが次に紹介する簡易課税です。
2. 簡易課税
簡易課税を選択した場合の消費税計算方法は以下の通りです。
納付する消費税額 = 課税売上に係る消費税額 ー 課税売上に係る消費税額 × みなし仕入れ率
ー(マイナス)の後が原則課税の場合と異なり「課税売上に係る消費税額」となっている点に注意して下さい。簡易課税の場合は、仕入れや経費にかかった消費税を合計する必要はなく、売上から「業種ごとに大体売上にかかる消費税のうち、これぐらいの割合が仕入れにかかる消費税になるよね」という値(課税売上にかかる消費税額×みなし仕入れ率)を引くことで大まかに納めるべき消費税額を計算しています。
つまり「課税仕入に係る消費税額」を計算する必要がない分、消費税の計算が楽になるというわけです。ただし簡易課税に関しては以下の2点を満たす必要があるため注意してください。
- 前々年度(課税期間の基準期間)における課税売上高が5000万円以下であること
- 「消費税簡易課税制度選択届出書」を事前に所轄税務署長に提出すること
7)まとめ
消費税率が現在8%、平成29年4月からは10%に上がることが予定されています。消費税の納税は、事業の資金繰りにも大きく影響を与えますので、しっかりした資金繰り計画を立てるためにも、免税事業者になるのか、課税事業者になるのかをきちんと把握しておく必要があります。
この記事を参考に、課税事業者になる、もしくは、課税事業者を選択する見込みがあれば、消費税の納税額(又は還付額)を資金繰り計画に織り込み、余裕を持った経営をめざしましょう。