増税により、小規模事業者が消費税をプールできない時代がまもなく到来する
「消費税増税=軽減税率」が、改正の目玉であると大半の方が思っているのではないのでしょうか。消費者の消費行動に影響するからです。
事業者が軽減税率に目を奪われるのは仕方ありませんが、消費税増税によって平成33年度から取り入れられる「インボイス方式」のほうが事業者に直結します。そこで、どのように直結するのかを紹介します。
消費税増税に対応が求められる事業者
消費税増税にともない、軽減税率が適用されるのは周知のとおりです。税率は10%になるのに対して、酒以外のおもな飲食良品、新聞代は8%のまま据え置きになります。事業者なら消費者の消費行動が気になるところです。
まず、スーパーやコンビニエンスストアなどの小売店が軽減税率の対応が求められます。軽減税率の対象かどうかを消費者が気にしている以上、接客するアルバイト店員までどの種類の商品が8%なのかを答えられるように従業員の教育が必要です。たとえば、同じ調味料でも料理酒の消費税率は8%でも、みりんは10%と細かく定められています。
さらに、約3,000店舗ある大手外食チェーン店でも、軽減税率の対象になるテイクアウトの弁当が全店舗で提供できる体制になっています。
お客様相談室に確認取ったところ、「2015年8月までに準備が完了した」と回答が返ってきました。そして、今年の春ごろから、少しずつ店舗の入り口の前にテイクアウトメニューの看板と案内文のボードを使用してアピールを始めています。
このように消費者に直結する軽減税率は消費税増税の中でもインパクトの強い改正項目といえます。
「インボイス方式」とはいったいどのような制度なのか
ところが事業者にとって、消費税の改正は増税と軽減税率だけではありません。平成33年度に「インボイス方式」が導入されます。内容を説明する前に消費税の計算方法についておさらいしましょう。
事業者が納付する消費税は純粋に消費者から預かった分を税務署に納付しますが、その計算式は次のとおりになります。
純粋に預かった消費税 = 消費者から預かった消費税 - 支払った消費税
その支払った消費税を厳密に計算するのがインボイス方式の趣旨です。つまり、支払いに関係する請求書や領収書に記載されている消費税を控除できます。言い換えれば、免税事業者に支払った場合には控除ができなくなります。免税事業者とは年商1,000万円以下の事業者で、消費税の納税が免除される事業者です。
インボイス方式の具体的な内容は次のとおりです。
①免税事業者
平成33年度から免税事業者に支払った消費税は、従来のように
「取引金額×消費税率」
で計算した金額が控除できません。ただし、財務省主税局に問い合わせたところ、「6年間にわたって控除できる金額の割合が段階的に減られる仕組みである」とのことでした。
②簡易課税制度を適用している事業者
簡易課税制度とは支払った消費税を業種に応じて、
「売上高に対する消費税×みなし仕入率(業種によって異なります)」
で簡便的に計算します。この制度も平成33年度には廃止されます。 また、消費税の増税にともない、請求書と領収書の形式が変更になります。
①消費税増税からインボイス方式を適用する前まで
取引金額を10%分と8%分に区分して表示します。
②インボイス方式の適用後
取引金額と消費税を10%分と8%分に区分して表示して、さらに事業者番号を記載します。ただ、実務上ではコストの関係で、②インボイス方式の適用後の形式で事業者番号を空欄にするのが現実的です。
したがって、軽減税率の対象商品の有無に関係なく、小規模事業者にとって消費税改正は対岸の火事ではありません。
自発的に事業者が消費税を納税する仕組みがインボイス方式の本質
いままでは消費税改正の骨子は軽減税率とインボイス方式であるとお伝えしましたが、では具体的には事業者にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
まず、インボイス方式を適用されると支払った事業者にとって、控除できる消費税が記載されている請求書、領収書は金券と同じ役割を果たします。控除できる根拠となる唯一の資料だからです。
したがって、発注者が金券にするために免税事業者に課税事業者となるように要請することが考えられます。企業間取引では免税事業者のままでは取引で不利になる可能性が高いです。力関係が強い得意先の要請を断る勇気が持てるでしょうか。
一方、簡易課税制度が廃止される影響も見逃せません。支払った消費税の計算を売上高だけで簡便的な計算方式を選択することで、預かった消費税の一部がプールしてきたからです。
要するに、免税事業者も簡易課税制度を適用していた事業者も、預かった消費税をきちん納付せざるを得なくなります。
インボイス方式で割り当てられる「事業者番号」の制度が、自発的な納税を後押しする可能性が高いです。課税事業者しか取得できないので、事業者の信用度の判断材料になります。
発行する側の請求書や領収書に「事業者番号」が記載されていなければ、「免税事業者=年商1,000万円以下」かどうかが、瞬時に得意先は分かります。ということは、これからは免税事業者として消費税をプールすることが得するとは限りません。
小規模事業者は事前に納める消費税額のシミュレーションをすることが必須
今後は消費税改正の2本柱になる、軽減税率とインボイス方式に対する対応を事業者は求められます。
最初に、将来の資金繰り対策です。免税事業者と簡易課税制度を適用している事業者は預かった消費税をプールしていますが、インボイス方式では運転資金に流用できずに納付しなければなりません。
ということは、課税事業者を選択することで純粋に預かった消費税分が事業者の利益の圧縮を意味するのです。だから、どうしても資金繰りの圧迫は避けられません。したがって、いまから純粋に預かった消費税をシミュレーションして、納税額を予測することで、将来に備えることが大切になります。
まとめ
小規模な事業者にとって、預かった消費税をプールできないのは資金繰りに影響する死活問題です。だからこそ、免税事業者が自ら課税事業者を選択するケース、簡易課税制度の廃止は避けて通れません。結局、これから納付すべき消費税の金額を事前にシミュレーションすることに尽きるということです。