相続税と贈与税、どちらを選べば得なのか?
平成27年1月から相続税法が改正されたこともあり、最近、「相続税と贈与税、どちらの方が得なのでしょうか?」といった類の質問をよくお受けします。
その際、私は「どちらが得かは一概には言えません。財産を託される方の財産状況や相続関係、ご家庭の事情等によっても答えは異なりますので、まずは状況を詳しくお聞かせいただけますか」とお答えしています。
今回はその理由を、相続税と贈与税を比較衡量する際のポイントを織り交ぜて解説します。
贈与税 = 相続税を補完するための税金
「相続税」は人の死亡によって遺された財産を亡くなった人(被相続人)の遺族等(相続人等)が相続した場合に課される税金です。一方、「贈与税」はある人(贈与者)が生存中に他の人(受贈者)に財産を贈与した場合に課される税金です。
財産を取得する人(相続人等又は受贈者)からすれば、ある人の財産を死亡に起因してもらうのか、それとも生前にもらうのかだけの違いであって、他人からもらった財産に対して課税されるという意味では両者の間に何ら違いはありません。では、何故そもそも二つの税金が別々に存在しているのでしょうか?
もし、他人からもらった財産に対して相続税しか課税されなければ、それを回避するため生前のうちに遺族等に財産を全て贈与してしまうことが考えられ、そうなると相続税自体が事実上意味のないものになってしまいます。
そこで、そのような悪意の課税逃れを抑制するために、生前の贈与に対しても贈与税という名目で課税することにしたわけです。つまり、贈与税は元来相続税を補完するための税金であって、これは我が国に“贈与税法”という法律はなく、相続税法の中に贈与税に関する規定が設けられていることからも明らかです。
そのような趣旨から、取得する財産の価額が同じであれば、当然贈与税の方が相続税よりも税負担が重くなるよう税率が設定されています。
そのため、通常は生前に贈与するよりも相続によった方が財産を取得する人の税負担は軽くなります。
選択肢が拡がった贈与税の非課税制度
しかし、財産を取得する人にも様々な事情があり、将来いつ生じるか分からない相続よりも、生活上まとまった資金が必要になるタイミングで財産を贈与してもらった方が有難いのが実情でしょう。
また、国としても現在、高齢者に偏っている個人金融資産(約1,700兆円のうち約6割を60歳以上が保有)を現役世代に移転させ、消費してもらうことで日本経済を活性化させたいとの考えから、事後的な相続ではなく、生前の贈与を促進するための制度をここ数年立て続けに新設・拡充しています。
- 贈与税率に「直系尊属から20歳以上の者への贈与」を新設し税率を軽減
- 住宅取得等資金の非課税制度 ・・・ 受贈者一人当たり最大1,200万円(平成28年)
- 教育資金一括贈与の非課税制度 ・・・ 受贈者一人当たり最大1,500万円
- 結婚・子育て資金一括贈与の非課税制度 ・・・ 受贈者一人当たり最大1,000万円
- 未成年者少額投資非課税制度(ジュニアNISA) ・・・ 受贈者一人当たり年間最大80万円×5年間
中でも2.~4.は、所定の要件をすべて満たせば一定金額まではまとめて贈与しても贈与税が一切かからないという制度です。受贈者のライフサイクルと各種制度がマッチするようであれば、まず優先的に利用することを考えた方が得策でしょう。
相続税にも相続人・相続財産によって優遇措置
一方、相続は予期せず生じるものであり、被相続人が亡くなられた後の遺族等の生活を最低限保証する必要があることから、相続税にも各種の優遇措置が設けられています。
昨年から引き下げられた「基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)」もその一つですが、その他にも代表的なものとして「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」等があります。これらの優遇措置を上手く適用できれば、被相続人が仮に相応の財産を遺されていたとしても相続税をかなり少ない金額まで抑えることが可能です。
先の贈与税の各種非課税制度や相続税の各種優遇措置を適用しても、なお且つ一定の相続税額が生じるという場合に、初めてどちらの税負担が軽いのかを比較検討する必要があります。 具体的には、一定の財産を生前贈与することで新たに生じる贈与税額と、それによって軽減される相続税額を比較することになりますが、前者はともかく、後者は被相続人の財産状況や相続関係によって税額が変わってきますので、詳しく試算してみなければ正確には分かりません。
まとめ
以上の理由で、「相続税と贈与税のどちらが得か」は一概には答えることができないのです。
あえて言うならば「相続税と贈与税のどちらを選択するか(二者択一)」ではなく、相続税と贈与税は表裏一体のものですから、「生前贈与と相続のトータルで税負担を軽減するご自身に最善の選択が何か」を考えることが重要です。 その際は、安易にご自身だけで判断されるのではなく、税理士に相談されることをお勧めします。