年末調整で苦労しないために、日ごろからできる節税のTIPS&ノウハウ
「年末調整」と聞くと、経理の方は「ああ忙しい季節になったな…」と感じ、従業員さんからすると「今年はどれだけ税金が戻るのかな?」とワクワクする季節かもしれません。
立場によって感じ方が違う「年末調整」ですが、今回は「年末調整のために、日ごろからできる節税のTIPSとノウハウ」についてご説明します。
その前に…
1)年末調整とは何?
「年末調整」とは、簡単に説明すると、サラリーマンのミニ確定申告のこと。
会社へ勤務している方が1年に1度、会社が毎月「源泉徴収税額表」という一覧表に沿って概算で徴収した源泉所得税の合計額を、年末時点の従業員さんの実情にあった正しい税金との差を調整し、会社が本来の税金よりも多く所得税を預かっていれば、会社が税務署に代わって従業員さんへ預りすぎた税金を返金、会社が本来の税金よりも少なく所得税を預かっていれば、不足分を税務署に代わって従業員から徴収する手続きです。
本来であれば、所得税は各々が納税額を計算して、確定申告をすればいいのかもしれないのですが、実際に会社へ勤務している方が全員確定申告をすると、税務署も処理しきれなかったりします。そこで、会社が窓口となって従業員の所得税を計算し、従業員の給与から毎月所得税を天引き、年の最後に年末調整で1年の所得税の清算をしてまとめて納税する仕組みになっているのです。
2)年末調整の方法
年末調整を行うためには、従業員の課税所得の計算が必要なのですが、この所得は次のように計算します。
【算式】 「給与の収入金額」-「給与所得控除」=「給与所得」 「給与所得」-「所得控除」=「課税所得」 「課税所得」×税率=所得税
ここでのポイントは1点のみです! 計算式を見ると、「所得控除」が増えると税率を掛ける「課税所得」が減りますので、いかに「所得控除」を増やすかです! 給与所得は、調整が難しいですが、「所得控除」は調整がききますよね。
また、「課税所得」に掛ける税率は課税所得に応じて変動します。「課税所得」が増加すれば、自然と課税所得に掛ける税率が上がっていきます。例えば、課税所得金額が195万円以下であれば、所得税率は5%(住民税の税率が10%ですので、所得税住民税を含めた税率は15%)ですが、課税所得金額が4,000万円超であれば、所得税率は45%(住民税の税率が10%ですので、所得税住民税を含めた税率は55%)になります。所得税は、超過累進課税といって、所得が上がれば上がるほど税率もアップする仕組みなのです。
(平成27年分以降)
所得税の速算表 | ||
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え4.000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
出典:国税庁ホームページ タックスアンサー No.2260 所得税の税率より
ですから、いかに「課税所得」を下げられるかが重要になってきます。
3)「所得控除」って何があるの?
大きく分けると2つに分類されます。個人事情を考慮した控除(人的控除)と社会政策上の事情に配慮した控除(物的控除)です。
Ⅰ.人的控除とは?
- 基礎控除(38万円)
- 配偶者控除(一般の控除対象配偶者「70歳未満」:38万円、老人控除対象配偶者「70歳以上」:48万円)
- 配偶者特別控除(0円~38万円)
- 扶養控除(一般扶養「16歳以上18歳以下、23歳以上69歳以下」:38万円、特定扶養「19歳以上22歳以下」:63万円、老人扶養親族「70歳以上同居」:58万円・「70歳以上同居以外」:48万円)
- 障害者控除(一般障害者:27万円、特別障害者:40万円、同居特別障害者:75万円)
- 寡婦控除(寡夫控除)(一般の寡婦控除・寡夫控除:27万円、扶養親族である子を有し、合計所得金額が500万円以下である寡婦:35万円)
- 勤労学生控除(27万円)
があります。
上記1.~7.のうち、対策としてとりやすい4.6.については重要ですので、もう少し詳しく見ていきます。
扶養控除とは、16歳以上の子供や親等のめんどうをみている(生計を一)場合で、扶養対象者の所得が38万円以下であれば受けられる控除です。この扶養対象者は、6親等内の血族と3親等内の姻族まで税法上は含みますので、けっこう範囲が広いのです。例えば、あなたの従兄弟の子供や、祖父母の兄弟までもが、扶養に入る可能性がでてきます。また、必ずしも同居は要件としていません。
【扶養の範囲】 親族の範囲 日本の民法は、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族を「親族」として定める (出典:ウィキペディア図解参照)
ちなみに、所得が38万円以下っていうのが少し分かりにくいですよね。具体的には、給与所得者の場合と年金所得者の場合をみていきましょう。
① 給与所得者の場合 給与所得者の場合は、103万円以下の年収の方であれば、年間所得が38万円以下になります。 給与所得者の場合は、給与所得控除といって、いわゆるサラリーマンのみなし経費として認められる金額が最低65万円皆さんあります。ですから、38万円(所得)+65万円(給与所得控除)=103万円 となりますので、103万円が扶養に入ることができる給与収入の上限となります。
② 年金所得者の場合 公的年金のみをもらっている方については、所得が38万円以下とは、いくらの年金であればよいかというと、65歳以上で158万円以下、65歳未満で108万円以下であれば、扶養に入れる可能性がでてきます。
公的年金控除といって年金所得者が使っても使わなくても認められるみなし経費が65歳以上は120万円、65歳未満で70万円あります。そのため、
65歳以上の方は、38万円(所得)+120万円(公的年金控除)=158万円 65歳未満の方は、38万円(所得)+70万円(公的年金控除)=108万円
が扶養に入れる公的年金収入の上限となります。
扶養に変更があった場合は、会社に対して扶養の増減を申請する必要があります。この書類は、「扶養控除等異動申告書」となりますので、年の途中で扶養が変わる都度、会社の総務さんへ書類を提出してくださいね。
【扶養を増やすためのテクニック】
① 年間所得が38万円以下の配偶者と離婚協議中の方 離婚協議中の方で、離婚協議中の所得38万円以下の配偶者を扶養に入れて年末調整をしたい場合は、離婚協議を少し頑張って年明けに正式に離婚しましょう。 ⇒年末時点で年間所得38万円以下の配偶者がおられる場合は、配偶者控除が38万円受けられます。所得税の税率が10%、住民税の税率が10%の方であれば、所得税・住民税で76,000円節税になります。
② 自立したい女性の方で、子供がおられる方 離婚協議中の女性で、子供がおられる、給与所得が500万円以下(給与収入のみの方は、給与収入の目安は6,888,889円以下)の方は、頑張って離婚協議を年内に確定しましょう。 ⇒寡婦控除が35万円 受けられます。所得税の税率が10%、住民税の税率が10%の方であれば、所得税・住民税で7万円節税になります。
③ 遺族年金をもらっておられる方 遺族年金をもらっている両親等を扶養に入れたい場合は、遺族年金は公的年金及び扶養判定の年間所得38万円の計算には含みません。たまに、誤って遺族年金の受取金額も公的年金に含めて扶養判定をされておられる方がいらっしゃいますので、扶養の判定には注意しましょう。ひょっとすると、両親を扶養に入れられるかもしれません。
④ 夫婦共働きの方で扶養がおられる方 夫婦共働きの方は、収入が多いほうで扶養控除を受けるようにしましょう。所得税は、超過累進課税となりますので、所得が多く、課税される税率が高い方から扶養控除を受けるほうが、世帯全体での所得税を少なくすることができます。
⑤ 6親等内の親族、3親等内の姻族へ生活の支援をしておられる方 同居は要件としていませんので、年間所得が38万円の親族の方がおられ生活支援をされていれば、もれなく扶養に入れましょう。所得税の税率が10%、住民税の税率が10%の方であれば、所得税・住民税で76,000円節税になります。
Ⅱ.物的控除
- 社会保険料控除
- 小規模企業共済等掛金控除
- 生命保険料控除
- 損害保険料控除
【物的控除を増やすテクニック】
- 6親等内の親族、3親等内の姻族(親族)へ生活の支援をしておられる方でその親族の方の社会保険料の支払いをされている方。漏れなく、支払われた親族分の社会保険料を社会保険料控除として申告しましょう。
- 過去支払を猶予されていた国民年金保険料がある方 余裕があれば、過去支払を猶予された国民年金保険料を追納して、社会保険料控除として申告しましょう。将来受取る年金も増加します。
- 資金的に余裕があり、将来の年金も増やしたい方 資金的に余裕のある方は、確定拠出年金(401K)の加入も検討しましょう。生命保険と違い、支払った金額全額が所得控除されます。 企業年金を持たないサラリーマン(厚生年金被保険者)については、個人型年金に加入して掛金の拠出を行うことができます。 掛金の上限は月額23,000円ですので、年間276,000円掛金の拠出及び社会保険料控除を受けることが可能です。 所得税の税率が10%、住民税の税率が10%の方であれば、1年間の節税額は、55,200円です。30年間勤務し、掛金を掛け続けた場合の、30年間での節税額は、1,656,000円になります。 また、通常の株式運用であれば、売却益等に対して20%程度の税金がかかりますが、401Kの運用益に対しては税金がかかりません。さらに、受取時には、年金払いでもらえば公的年金に準じた税制優遇(公的年金等控除)を受けることができ、一時金としてもらう場合でも退職一時金に準じた税制優遇(退職所得控除)を受けることもできます。
- 新制度にあった、保険の掛け替えを検討しましょう。 2012年1月1日以降の契約から生命保険料控除は新制度に変更(新生命保険料控除、介護医療保険料控除、新個人年金保険料控除の3パターン)になっており、旧制度(旧生命保険料控除、旧個人年金保険料控除の2パターン)での所得控除限度額は10万円でしたが、新制度になり所得控除限度額が12万円になっています。 可能であれば、新制度に対応した保険に掛け替えをしてみましょう。 所得控除額が最大2万円増加することもあります。
出典:国税庁ホームページ タックスアンサー No.1140 生命保険料控除より
3) 住宅借入金等特別控除
住宅借入金等特別控除とは、居住者が住宅ローン等を利用して、マイホームの新築、取得又は増改築等をし、平成31年6月30日までに自己の居住の用に供した場合で一定の要件を満たす場合において、その取得等に係る住宅ローン等の年末残高に一定の割合を掛けた金額を、居住の用に供した年分以後の各年分の所得税額から控除するものです。
住宅借入金等特別控除は、最初の年は所得税確定申告でしか適用を受けることができませんが、2年目以降からは会社の年末調整で受けることが可能です。年末の借入金残高が2,000万円の方は、2,000万円×1%=20万円の税額控除を最大受けることが可能です。(住宅借入金等特別控除前の年間所得税が20万円未満の方について、年間の所得税を限度とします)
そもそも住宅借入金等特別控除を1年目に受けておられない方がたまにいらっしゃいますので、失念しておられる方は、まずは所得税の確定申告を後日でもいいのでしておいてください。
また、給与所得が少ないため、住宅ローン控除を最大限受けきれない共働きの方もおられます。共働きの方については、住宅ローンを組む時に共有名義にしていれば、住宅借入金の持分に応じて、夫婦それぞれが住宅借入金等特別控除を受けることが可能となります。
夫婦一方の方のみでは、控除しきれない住宅借入金等特別控除が発生しそうな場合は、住宅の名義登録、借入金の持分を決める際に連帯債務等も検討するとよいかもしれません。共働きの夫婦それぞれが、住宅借入金等特別控除を受けることが可能となります。
まとめ
年末調整については、会社の総務経理の方は従業員の給料は当然把握できるのですが、従業員さんの家庭の個別事情・扶養状況は、従業員が会社へ自ら提出される「扶養控除等異動申告書」でしか現状を把握するのが困難なのです。そのため、従業員自身が少し知識を得て対策をすれば、年末調整で得をする可能性があるのです。