経営ハッカー | 「経営 × テクノロジー」の最先端を切り拓くメディア
2019年04月08日(月)

企業が100年以上生き残るために必要なことは何か? 組織崩壊からの気づき~TOMAコンサルタンツグループ代表取締役会長 藤間秋男氏

経営ハッカー編集部
企業が100年以上生き残るために必要なことは何か? 組織崩壊からの気づき~TOMAコンサルタンツグループ代表取締役会長 藤間秋男氏

日本には、100年以上の長きにわたって先祖代々続いてきた老舗企業が約26,000社存在すると言われている。一方で、時代の変化についていけずに淘汰されていった企業も少なくない。この両者の違いはどこにあるのか。

この話を聞くのに最適な人がいる。税理士、会計士などの総合コンサルタントグループとして、「100年企業創り」というビジョンを掲げ、企業の持続的経営をサポートする、TOMAコンサルタンツグループ株式会社の代表取締役会長 藤間秋男さんだ。

明治時代から続く老舗士業の家系に生を受けながら、たった一人で創業したTOMAコンサルタンツグループは、今日では、税理士や公認会計士、弁護士、司法書士、行政書士、社会保険労務士などさまざまな分野の専門家が総勢200名を超える総合コンサルタントグループへと成長している。

この背景には何があったのか。企業の持続的経営に求められる秘訣を探る。

独裁者であった自分がもたらした組織崩壊からの気づき

-創業から事業承継まで、一番苦労したのはどういうことですか?

1982年にたった一人で事務所を開設し、しばらくは順調に事業拡大を続けていたんですが、40名程度の組織になってからは成長速度に陰りが見えるようになりました。それで忘れもしない2001年のこと、頼りにしていた幹部が4人一斉に辞めてしまったことがありました。

当時の私は気に入らないことがあったり、社員がミスをするとよく怒っていました。また、仕事を部下に任せることができず、自ら出ていくことも多かったのです。私の振る舞いに幹部たちは不満を募らせていたのでしょう。

それで新入社員は入ってくるのに、教育する幹部がいないという不味い状態になりました。そのときはなぜ人が離れていってしまうのか、経営者としての自分の至らなさを思い知り、煩悶しました。

―その危機をどうやって乗り越えたんですか?

最終的に「人」の在り方が重要なのだとその時に気がついたんです。私自身も明治時代から続く代書業(現在の司法書士)の倅として育ちましたから、自らのルーツを辿るというか、経営を安定化させるために社歴の長い長寿企業を調べようと、老舗企業の経営理念や家訓について調べ出したのです。やがて、ただ書物を読むだけではなく、実際に老舗企業の方にお会いして話を聞くようになり、理念や家の教えである家訓などを大切にする考え方に非常に感銘を受けたのです。理念の重要性は通り一遍には言われているけど、その真髄をわかっている人は少ないですよね。

かくいう私もそのときまで経営理念の重要性をそれほど理解できていなくて、よその会社の経営理念を参考にして「とりあえず作ってみた」という程度のものしか設けていなかったんです。でも社員が数十人を超えるようになると、何を大切にしてお客様と向き合うべきなのか、一人ひとりがきちんと深いところで理解してくれているのかあやしくなるものなのです。

そこへいくと老舗企業の方たちはみなさん理念を大切にしていました。みなさんの考え方や精神性に触れたことで私もいつしか感化されるようになったのです。それで組織を一つにまとめ上げるための理念の重要性を痛感して、当社でもきちんと考えて作ることにしました。

会社を永続させるためには組織として何をしなければならないのか。税理士など士業の役目は何なのか。お客様の100年企業創りに目覚めたのもこの頃です。この時以来、100年企業創りは私のライフワークに、そしてライクワークにもなりました。ライクワークすなわち、心から楽しめる好きな仕事ですね(笑)。

―それでどのような経営理念を作られたんですか?

「藤間秋男の個性は?特徴は?」と考えたときに浮かんだのが、「明るい」「元気」「前向き」という言葉でした。私は公認会計士の中では決して勉強のできるほうではないし、頭も良くないほうだと思うんですが、明るく・元気・前向き、の3つだったら誰にも負けない自信があったんです。

この性格で多くのお客様に当社を選んでいただくことにもつながりました。だからこの3つの言葉を一人ひとりの社員にも浸透できるよう経営理念のトップに掲げました。
「『明るく・楽しく・元気に・前向き』なTOMAコンサルタンツグループは本物の一流専門家集団として社員・家族とお客様と共に成長・発展し 共に幸せになり 共に地球に貢献します」が現在の経営理念です。明るくて、元気で前向きな職員たちがお客様と接する、接し方ですね。

また、ビジョンには「1000年残る」ということも明記し「日本一多くの100年企業を創り続け1000年続くコンサルティングファームになります」としました。TOMAグループが1000年残っていくために、2017年10月、私自ら理事長の職を部下に譲り、会長に就任しました。当社にとって、これが1000年企業への第1歩だと思っています。

―経営理念を作って、何か変化はありましたか?

社員も変わったし、何より私の意識が大きく変わりました。松下幸之助さんが「経営の成功要因は、経営理念の確立が5割、次の3割は従業員の個性を最大限に発揮できる環境」ということをおっしゃっていて、それに大きく賛同しました。それまでは社員の意見を聞かずに自分の言うことを無理やり聞かせようとしていたところがあったのですが、「(社員を)信じて任せる経営」にだんだんシフトしていきました。

そうすることで、業績は回復し、社員数も売上も右肩上がりに増えていったので、経営理念を作って本当によかったと思います。時代はどんどん変わっていきますが、経営理念は変えてはいけないと思います。経営理念で救われた老舗企業も結構あるんじゃないでしょうか。

―大分理解できました。ただ、理念を作る=100年続くとは到底言えませんよね? その他に重要なことは何になるのでしょうか。

理念で会社がまとまった先で最重要になってくるのが、今度は事業承継です。私も業績が順調に伸びていく一方で、自らの事業承継について考えるようになりました。何よりも、TOMAのビジネスの根幹がお客様の事業承継支援にあるのです。そのためには、自らの事業承継がお手本にならなければ話になりません。それで55歳の時に「65歳で理事長を退任して会長になる」と社内外に宣言しました。

その当時、具体的な後継者候補がいたわけではありません。しかし、「お客様の見本になる経営をする」ことを宣言している手前、将来を見据えた事業承継の準備を始めなければなりませんでした。手始めに、3年かけて、5年後・10年後の社長は誰がふさわしいと思うかについて、社員全員にアンケート調査を実施しました。結果は私しか見ません。その中で、現理事長の市原和洋が候補に挙がるようになりました。

このアンケートは面白くて、実施する度に票数を集める人が変わっていきました。最終的にはそのアンケート内容を基に私が決めましたが、市原を選んだ理由のひとつは、経営理念を深めて徹底してくれそうだと思ったことです。もうひとつは、彼の性格の良さです。

人の上に立つ者は、やはり能力より人柄を重視すべきです。実際、市原には『面倒見がいい』などポジティブな意見がたくさんありましたし、私も『市原の言うことなら聞ける』と思ったので、彼に決めました。

生き残っていくために、革新し続ける

―なるほど。そうすると100年続く企業とするためには、経営理念の確立と浸透、引退時期を宣言して早めに事業承継の準備をし、これだという後継者を育てる必要があると。そのうえで経営環境が目まぐるしく変わる現代社会において、企業が生き残っていく上で変えたほうがいいものはありますか?

私はお客様に「100年企業創り」を説明するとき、過去の社歴はカウントせず、「今日からの100年なのですよ」と口を酸っぱくして伝えます。100年という数字に意味があるのではなく、企業が持続的に繁栄してステークホルダーや社会に安定的に利益を還元していくことが重要なのですから。そのために商品や売り方など、経営理念や家訓以外のものはどんどん変えていくべきだと伝えています。これほど劇的に経営環境が変わっている時代です。革新をし続けないと各社生き残っていけないと思います。

そこでいくと面白いのは老舗企業には、「先祖代々続いてきた伝統を守らなければならない」から保守的な企業なのだろうというイメージが傍から見ているとあるかもしれません。そのためにファミリービジネス(同族経営企業)では、「後を継ぐなんてダサい」と親の後を継ぎたがらない後継者も実際には多くいます。

しかし、老舗企業であっても、いや老舗企業だからこそ「何があっても生き残るんだ」というベンチャー精神で必要に応じて革新し続けてきた歴史の積み重ねであるということが勉強するとわかります。食品業界の有名な老舗企業では、時間をかけて誰にも気づかれないように味を少しずつ変えているメーカーもあるそうですよ。

―つまり、変えるべきものと変えてはいけないものをきちんと見極めて、果敢に変革してくことが重要だと。ありがとうございました。

【プロフィール】

藤間 秋男(とうま あきお)

1952年生まれ、東京都目黒区出身。1890年から続く司法書士事務所を切り盛りする藤間松男・和子の長男として生まれる。慶應義塾大学3年生のときに公認会計士試験の勉強を始め、卒業の翌年に合格。大手監査法人を経て、1982年に藤間公認会計士税理士事務所を設立。2012年にはTOMAコンサルタンツグループ株式会社を設立し、理事長に就任。2017年10月、理事長職を辞して代表取締役会長に就任。以後、現職。

    関連する事例記事

    • 資本金・資本準備金・資本余剰金の違いとそれぞれの役割を徹底解説
      インタビュー・コラム2023年02月28日経営ハッカー編集部

      衆議院議員・小林史明氏×freee佐々木大輔CEO 企業のデジタル化実現のために国が描く未来とは?

    • 資本金・資本準備金・資本余剰金の違いとそれぞれの役割を徹底解説
      インタビュー・コラム2022年10月24日経営ハッカー編集部

      仕事が・ビジネスが、はかどる。最新鋭スキャナー「ScanSnap iX1600」の持てる強みとインパクト

    • 資本金・資本準備金・資本余剰金の違いとそれぞれの役割を徹底解説
      インタビュー・コラム2022年08月30日経営ハッカー編集部

      ギークス佐久間大輔取締役、佐々木一成SDGsアンバサダーに聞く~フリーランスと共に築くESG経営とは?

    • 資本金・資本準備金・資本余剰金の違いとそれぞれの役割を徹底解説
      インタビュー・コラム2022年08月28日経営ハッカー編集部

      サイバー・バズ髙村彰典社長に聞く~コミュニケーションが変える世界、SNSの可能性とは?

    • 資本金・資本準備金・資本余剰金の違いとそれぞれの役割を徹底解説
      インタビュー・コラム2022年08月05日経営ハッカー編集部

      バックオフィスをどう評価する? 経理をやる気にする「目標設定」と「評価基準」の作り方

    関連記事一覧