2019年05月13日(月)3ブックマーク

4億円を溶かし、社員がどんどん辞めて悟った。危機を乗り越え筋肉質な組織を再編するまでの経緯

経営ハッカー編集部
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八面六臂株式会社
代表取締役 松田雅也
大学法学部卒業後、銀行に就職。独立系VCへ転職した後、2007年5月、エナジーエージェント株式会社(現 八面六臂株式会社)を設立、代表取締役に就任。 2009年6月第2種通信事業(MVNO)を行うG-モバイル株式会社の取締役に就任し事業拡大に貢献。2010年9月同社取締役を辞任し、2011年4月より、料理人向けEC事業「八面六臂」サービスを開始。八面六臂株式会社 代表取締役 松田雅也 大学法学部卒業後、銀行に就職。 独立系VCへ転職した後、2007年5月、エナジーエージェント株式会社(現 八面六臂株式会社)を設立、代表取締役に就任。 2009年6月第2種通信事業(MVNO)を行うG-モバイル株式会社の取締役に就任し事業拡大に貢献。 2010年9月同社取締役を辞任し、2011年4月より、料理人向けEC事業「八面六臂」サービスを開始。

経営者にとって、人材マネジメントは一番気がかり。労務に関する問題が最も苦労している、という経営者も多いのではないでしょうか。人は甘やかし過ぎても、厳しく当たり過ぎても辞めてしまうもの。スキルとやる気を見込んで採用したはずの人材が、能力を発揮できなかったり不正を行ったり、改善の抵抗勢力になったりすることさえある。多くの経営者が口にする現実です。

「どうやって人を育てるべきか」

社員のマネジメントに関する悩みを、尊敬する経営者の先輩に打ち明けると、みなさん口を揃えて「自分にも似たような経験があった。いまも苦労している」と、話してくださることは少なくありません。

私が八面六臂を創業してからさまざまな困難がありましたが、今回は食品流通業などの経営における人の活かし方、マネジメントの要諦を学ぶきっかけとなった、とある失敗の話をします。過去の苦い経験を語るのは少々気が引けるのですが、最後まで読んでもらえたら幸いです。

目次

    すべてはVCから調達した4億円がきっかけだった

    MVNO事業を手掛けるG-モバイル株式会社の取締役を退き、休眠させていた自分の会社に戻ったのは2010年のこと。

    私は、休眠前に取り組んでいた電力仲介事業から食品卸売業者向けのASP事業に、事業転換することに決めました。未経験の食品ECに参入したのは、前職時代の経験に遡ります。築地市場をはじめとする、食品流通業界はIT化が立ち遅れており、成長の伸びしろが大きいと踏んだからです。

    東日本大震災の影響で事業をピボット

    当時、日本にiPhoneやiPadが普及しはじめた時代。FAXでやり取りをする文化を打破できると考えたのです。

    しかし事業開始直後、東日本大震災が発生。顧客候補だった方々のシステム投資への意欲が完全に冷え込んでしまう不測の事態に見舞われたため、

     自分たちでつくったシステムを売る事業

    ではなく、

     自分たちでつくったシステムを使って食材を買い付け、飲食店に販売する事業

    へとピボット。事業の巻き直しを図りました。

    Caption: 現在のECサイト。設立当初から扱う鮮魚のほか、野菜や果実など、飲食業に必要なものが1つから発注できる。その独自の配送システムがキモになっているCaption: 現在のECサイト。設立当初から扱う鮮魚のほか、野菜や果実など、飲食業に必要なものが1つから発注できる。その独自の配送システムがキモになっている

    5億円の調達から狂いはじめた歯車

    これ以降、飲食店に専用アプリをインストールしたiPadの無償貸与や複数の調達ルートを開拓するなど、事業基盤の整備に努め、2014年ごろには1,000店舗ものお客様が登録して利用していただけるまでに成長させることができました。ベンチャーキャピタルからも高く評価していただき、複数段階にわたって、総額5億円近くの資金調達を成功させたのもこの時期のことです。

    私自身、これまでの経験で事業への手応えを十分に感じていましたから、調達した資金の大半は、躊躇なくハイスペック人材の採用やシステム開発費、本社オフィスの拡充費用などに充てました。優秀な人材を集め、開発力と営業力を強化すれば、さらなる成長が可能だと単純に信じていたからです。新宿エリアで次々に大きなオフィスを借り、またメディアなどにもよく取り上げられていたので、周囲からは順風満帆に見えていたと思います。

    しかし、ここから徐々に歯車が狂いはじめます。

    社員も増え、お客様の数も売上も伸びてはいたものの、投資金額に見合うスピードで事業が立ち上がっていかなかったのです。

    こうした状況を招いた要因を数えればキリがありません。しかし究極の原因は私自身の至らなさにあったのは確かです。

    優秀な幹部社員クラスの人材を採用して単純に任せるだけでは、何も変えられないことをわかっていませんでした。

    4億円を溶かして悟った経営者としての未熟さ

    世の中には優秀な人材を大量に採用し急激に事業を拡大できる業界、業態もあるかもしれませんが、私たちが耕している「畑」はそうした事業とは異なります。

    食品流通業は、いい商品を安く仕入れ、お客様がそれを喜んで買ってくださるという好循環を磨いていくことでしか事業を成長させることができません。

    八面六臂はITを積極的に使い、食品流通業界に残る古いプロセスや無駄をなくし、いい食材をより安くお客様に提供するために立ち上げましたが、この仕事を続けるなかで気づいのは、ITがもたらす利便性だけを声高に叫ぶだけでは、業界を変えられるほど甘くはないということでした。

    資金を費やし採用したハイスペック人材はお客さまの前、現場に立たなかった

    たとえば、こうした泥臭い取り組みなくしては、この商売は成り立ちません。

    • 飲食店の裏口に回って頭を下げお客様の声を聞かせてもらう
    • 卸や生産者を口説いて新たな仕入れルートを開拓する
    • 深夜に出勤し午前2時まで飲食店からの発注に対応する
    • バイヤーは市場の開場と同時に商材を買い付けに走る ……etc.

    しかし三顧の礼で迎えた大企業出身の「経験豊富な」幹部社員たちは、こうした現実を知ってか知らずか、デスクの前でふんぞり返っているか、会議室で机上の空論を振りかざしているばかり。自らお客様の前や現場に立とうとはしませんでした。

    このような当事者意識を欠いた振る舞いが、古くからの社員との間に溝を作り、実績と給料のバランスがおかしいのではないかという不満の火種を生み出すことになってしまったのです。これがまともな人事評価制度を作らず、採用を最優先した結果でした。

    4億円溶かし、倒産間近で自ら会社を立て直す覚悟を固めた

    さらに、仲間を引き連れ競合企業に転職する者や、属人業務を盾に非常識な給料アップを要求する者、ECサイトの注文締切時間をわずか数秒過ぎただけで、創業以来お世話になっている大得意先からの注文をあっさり断ってしまう者などが現れる始末で、社内のモラルは地に落ちたも同然でした。

    「このままお客様の信頼まで失ったら会社は立ち直れない」

    心の底から危機感を覚えた私は、お客様も業界の事情も知ろうとしない幹部社員に大事な仕事を丸投げしていた自分の愚かさを認め、自らの手で会社を立て直す覚悟を固めました。

    それは投資を受けてから約半年、4億円もの資金を溶かしてしまった後のことでした。

    Caption: 当時はスーツばかり着ていたものの、今はいつもジャンパーで会社の先頭に立つCaption: 当時はスーツばかり着ていたものの、今はいつもジャンパーで会社の先頭に立つ

    危機を乗り越え筋肉質な組織に

    会社を成長軌道に戻すには、自らに課せられた職責を社員に理解させ、業務プロセスを刷新することが必要だと判断した私は、次の4つの取り組みを断行しました。

    ①役職に関わらず、お客様や取引先と直接関わる業務を経験させる。
    ②家賃や福利厚生費など、商売に直接関わらないコストを徹底的に削減する。
    ③業務プロセスを見直し、業務のシステム化と平準化を図る。
    公正明大な人事評価制度を確立する。

    この4つです。

    新宿オフィスを解体。配送センターの空き部屋から再スタート

    まず、お客様に対する理解を深めさせるため、社員全員に食材の買い付けやパッキング、配送の現場を経験させると宣言したところ、その直後から、八面六臂にきらびやかなベンチャーらしさを期待して入ってきた社員たちの多くが辞めていきました

    本社も新宿の新しく機能的なオフィスビルから、勝どきの配送センターの空き部屋だった2階に移し、過度な福利厚生など商売に直接影響がないコストは徹底して削減したのです。

    Caption: 現在の八面六臂は勝どきにオフィスを構える。もともと倉庫の事務所として使われていた場所というだけあって、あまりエクイティファイナンスをやっているベンチャーらしくない雰囲気Caption: 現在の八面六臂は勝どきにオフィスを構える。もともと倉庫の事務所として使われていた場所というだけあって、あまりエクイティファイナンスをやっているベンチャーらしくない雰囲気

    属人化してしまい、ブラックボックスのようになっていた業務プロセスにもメスを入れました。無駄な業務を省くのはもちろん、必要なプロセスについても極力モジュール化し、誰でも遂行できる作業レベルにまで分解しました。人手が不要と判断した業務プロセスは、システムに置き換え合理化を図ったのはいうまでもありません。

    人事評価制度を整え、社員が35人辞めた困難を乗り越えた

    そもそもないも同然だった人事・評価制度を整えたのもこの時です。主眼に置いたのは、社員に対し職責と給与の関係を明らかにし、与えられた職務に納得感を持って取り組んでもらえる素地を整えることでした。

    また、いままでは一部の幹部社員しか知らなかった業績数字も全社員にリアルタイムで開示することによって、経営陣と社員の間にあった情報格差をなくし、事業への意識を高められるような取り組みもこのタイミングで行っています。

    こうした地道な努力を3年ほど続けたでしょうか。4億円を投資したころに入った社員はほぼ全員辞めつつ、新たに採用した社員がどんどん業務を担ってくれることで、最盛期の50名から15名へと減ってしまいましたが、業務効率が格段に上がったので、少人数でもオペーレーションを円滑に回せる体制を整えることができたのです。

    この間、何度も苦しい思いをしましたが、諦めることなく一心不乱に改善に取り組んでいると、それを見た人たちから、新たに「出資したい」「取引したい」「働かせてほしい」という人が現れるものです。

    実際、八面六臂はこうした人々に支えられ、再びIPOを目指せる段階にまで這い上がってくることができました。

    Caption: 会議室には当時を支えてくれた方々からの至言が並ぶCaption: 会議室には当時を支えてくれた方々からの至言が並ぶ

    失敗を経て体得した健全経営の手法

    私はどうしても会社を潰したくありませんでした。

    もし会社を倒産させたとしてもまたやり直せばいいという人がいます。でも倒産させてしまったら、それまでの苦労も喜びも「なかった」ことになってしまいます。あまりにも空しすぎます。それだけは何としても避けたかった。

    また、八面六臂を信頼して取引してくださっているお客様、私を信じてついてきてくれた社員そしてその家族を捨て去ることになります。さらに自分たちを信じて資金を投資していただいた投資家の方の期待と信頼も裏切ることになります。これほど無責任なことはありませんから、私は文字通り、自分の命に代えてでも会社を守りたかった。その覚悟があったから失敗にめげることなく先に進む覚悟を決められたんだと思います。

    もし、これまでの経験を踏まえて、私より年若い経営者にアドバイスできることがあるとしたら「資金や人、資源を集め、必要な分野に投資をし、儲けを生み、そして貸主や社員、社会に資金を返す」という、社長の役目をしっかり自覚して、徹底すべきと伝えたいと思います。

    投資先は人であったり、インフラだったり、事業であったり。企業の成長フェーズによって、さまざまです。しかし、創業のタイミングで事業理念と人事評価制度をしっかり固めておかないと、経験上、あまりいい結果を生まないのは確かです。つまるところマネジメントとは、誰にどこまで仕事をやらせて、求める結果をまとめあげられるか、ということなのです。もう少し具体的にいうと、社員の能力を公平かつ客観的に評価し、できない社員には無理な仕事をやらせない。その社員ができる範囲まで待遇や責任を減らしてあげ、逆にできる社員にはしっかりとした待遇、さらなる責任を担ってもらう。

    現在、当社の組織を担ってもらっている社員の方たちは、ひとりひとりがプロフェッショナルとして業務を管掌し、とても高いパフォーマンスを出してもらっています。ありがたいことです。

    「スタートアップは事業理念や人事評価制度などに時間をかけるより売上を立てることに集中しろ」という経営者もいるでしょうが、私は違うと思います。

    事業理念がないところに雇うべき人はもちろん、出資しようという人も集まりませんし、人事評価制度がない会社は、自分たちの商売にフィットしない社員を抱え込んだり、優秀な社員を他社に奪われたりするリスクから逃れられないからです。

    Caption: 会議室に掲げられた「Metallica - Damage, Inc」この歌詞にはつらい時期を支えられたCaption: 会議室に掲げられた「Metallica - Damage, Inc」この歌詞にはつらい時期を支えられた

    もう1つテクニカルな面からアドバイスすると、スタートアップが外部から投資を受ける際に交わす投資契約書の内容をしっかり精査することも重要なポイントになります。株式に関する取り決めは一度契約書を交わしてしまえば後戻りできません

    たとえば優先株を発行するメリットばかりを誰かに吹き込まれ、さまざまな手法で株式を乱発したあげく後で泣きを見ている経営者が実は大勢いる事実を知っている人はそう多くありません。もし株主施策に対する知見が乏しいなら、必ず信頼できる有識者の知恵を借りるべきです。

    しかしそうはいっても、企業経営にはリスクがつきもの。どんなに万全な体制を整えても避けがたい失敗があるのも確かでしょう。ですから失敗を避けることばかりに意識を向けて萎縮するより、どんなひどいことが起こっても、致命傷にならないような身のかわし方や受け身の取り方を身につけることが大事になってきます。

    そうした経験を学ぶのは経験者からが一番です。私自身にも数人、そういう方がいるのですが、もし経営者として身を立てたいと思われるなら、尊敬できる先輩経営者に頼んでメンター役を引き受けてもらうことを強くお勧めしたいですね。

    編集・撮影 株式会社ZINE

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