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2019年09月12日(木)

日本型雇用が崩壊する中、受け皿となる新人財ビジネスモデル「日本型PEO」とは?~株式会社エヌエフエー大崎氏に聞く

経営ハッカー編集部
日本型雇用が崩壊する中、受け皿となる新人財ビジネスモデル「日本型PEO」とは?~株式会社エヌエフエー大崎氏に聞く

令和元年早々に、経団連中西会長が「経済界は終身雇用なんてもう守れないと思っている」と発言するなど、主要経済団体の代表が相次ぎ終身雇用の限界を訴えるコメントを出した。かつては日本型雇用システムの強みは、終身雇用、年功序列、企業別労働組合にあるという指摘もあった。しかし、今やそれも完全に過去のものだ。
 
企業経営者の立場からすれば、よくぞ言ってくれたと心ひそかに歓迎する向きがあるかもしれない。しかし、企業が終身雇用を守れないと明言する以上、別の受け皿を用意する責任がある。そこで、新しい時代に適した「日本型PEO(Professional Employer Organization=習熟人財雇用組織)」を提唱し、自ら実践するのが人材派遣会社の株式会社エヌエフエー代表の大崎玄長氏だ。
 
もともと米国発のPEOとは、顧客である企業と共同雇用主となる契約を締結し、顧客企業の人事関連業務を代行するサービスだ。これにより顧客企業側には、単独で雇用責任を負うことなく人財の活用ができるというメリットがある。しかし、法制度の違いから日本にそのまま適用することはできない。
 
日本では人材派遣会社が受け皿となり、自社で従業員の長期雇用を確保しつつ、スキルアップを行いながら必要に応じて人財を供給することで、企業が終身雇用を維持できなくても人の働く場を確保できるようにする方法がある。旧来の雇用システムが崩壊する中、この日本型PEOモデルこそが我が国に必要だと大崎氏は断言するが、そもそもこの日本型PEOとはどのようなものなのか?

コンサルティング会社勤務の経験から起業を決意、人材派遣事業に価値を見出す

―まず、どのような経緯で人材派遣会社を起業されたのかお聞かせください。

実は、私は最初から将来何になりたいと考えて職業を選択したわけではありません。ビジネスのキャリアをスタートすることになったコンサルティング会社は、たまたま会社説明会の内容が非常に面白く、そのことを面接で伝えると運よく採用されたといったものでした。
 
業務内容は生産性改善のコンサルティングがメインで、私は製造業などを担当するチームに配属されました。その会社は後に上場した企業でもあり、コンサルティングの手法はかなりの部分が標準化されていたので、若手でもクライアント企業の役員会に参加させていただけるという機会も数多くありました。このとき企業経営者と対話する中で、経営者という社会的に価値のある存在を初めて意識し、いつしか自分も経営者になりたいという気持ちが芽生えたのです。
 
経営コンサルティング会社で3年間仕事を経験させていただき、自分も起業したいと思ったときに最初に選んだのは勝手を知ったコンサルタントの仕事。2000年に大阪でコンサルティング事務所を開きました。最初は仕事も少なく苦労しましたが、少しずつクライアント企業も増えてきて、関わった企業も成長し、大阪から東京に進出されるなど、やりがいも感じはじめました。
 
その過程で、私自身の東京出張も増え、東京の顧客も増えていきましたが、独立のコンサルタントという自分の事業自体はなかなか大きくしづらいなと、通常事業との差を痛感しましたね。そこで、コンサルタントではなく、通常の事業を拡大したいという想いを新たにしたのです。

―本格的に事業を興すにあたり、人材派遣業にはどのように行き着いたのでしょうか?

会社が成長し、社会的な価値を生み出すにはどんな事業がいいのかを考えるにあたっては、コンサルタントをしていましたので「仕組み」で伸びるモデルであることが重要だと気づいていました。また、事業を選択する条件として、一回売って終わりではなく、継続性のある事業であること、それなりに単価が高いものを扱えること、初期投資がそれほど大きくないこと、そして何よりも世の中に必要とされている事業であり、自分自身もそれを必要としていることが大切だ、などとぼんやり考えていました。
 
飲食店、クリーニング屋さん、お米屋さん、不動産屋さん・・・いくつか考える中で最終的に人材派遣会社を選択したきっかけとなったのは、コンサルティング事務所を始めた当初の、仕事が安定していなかった頃の体験でした。実は、初期資金がどんどん減っていく状況の中で、仕事が欲しくてたまらず派遣の仕事に登録したことがありました。登録すると、すぐに仕事の紹介がきて、お給料をいただくことができました。このとき、派遣の仕事はありがたいな、世の中になくてはならない仕事だなと強く感じたことがあったのです。
 
改めて人材派遣業について深く研究してみると、結構仕組みでやっていて、基本は継続の仕事でまわっていること。また、派遣社員一人につき月30万円の売り上げなら、1年で360万円になり、取扱いサービスの単価も高いこと。そして初期投資がそれほど大きくないことなど、ビジネスモデルが自分で考えた基準に合っていることがわかりました。そこで、2006年に東京都大田区で今の人材派遣会社を興したのです。

-人材派遣業は順調に伸びましたか?

当時は、リーマンショック前の好景気という背景もあったと思いますが、滑り出しは順調でした。営業すれば顧客がほぼ開拓できる、営業しなくてもホームページから問い合わせが入る。呼ばれればどこでも出向き、関東一円を営業エリアとして徐々に拡大でき、立ち上がりとしては、なかなかいい感じだったかもしれません。
 
ところが、それも長くは続かず設立2年後の2008年にリーマンショックが訪れます。以降仕事は激減し、派遣社員に対しては、午前中千葉県の四街道の現場で仕事が終了すると次は埼玉県草加の職場に異動しましょうという案内をしては断られ、同日午後に神奈川県の藤沢の現場に行き、仕事が終了すると次は東京の四谷の職場に異動しましょうという案内をしては断られるというように、お仕事の終了と異動の案内ばかりしなくてはいけない事態に陥りました。でも異動といっても遠くの職場に異動するというのはなかなかきつい。派遣社員の多く異動に応じてもらえませんでした。でも、品川から五反田への2駅程度の異動というように、近隣なら職場異動にも応じてもらえやすい、という発見もありました。
 
もしも特定のエリア内でクライアント企業を多く確保できていれば、不況が来ても仕事はいくつか残り、派遣社員を次の職場にスライドさせることができます。ちょうどその頃、失業者の増加が多数報道されていましたが、不況になってもその地域の産業や企業が全滅するということはありません。当然、派遣会社は派遣社員を守らねばなりません。近場であれば派遣先の職場は変わっても派遣の仕事を継続しやすくなるのです。
 
企業の人財ニーズも満たすことができ、派遣社員の雇用も守れて、派遣会社の業績も維持できるようになります。そこで、特定の地域に絞って事業を行おう、本店が東京都大田区にあったので大田区を中心としたエリアに特化しようと方針転換することにしました。

地域密着から見えてきた「日本型PEO」というビジネスモデル

―地域に特化した人材派遣会社としてどのように運営されているのでしょうか?

実際には同じエリアに派遣先がたくさんあったとしても、1人の求人に5人の応募があったり、10人の募集のところには3人だったりと、マッチングは難しいのです。でも、派遣会社が地域に「請負場」を設ければ、「同じような仕事の募集が始まるまでは、ここで働いてみるのはいかがですか?」と当社で働いてもらうことができます。それが当社のBPO(Business Process Outsourcing)事業です。求人の応募が殺到して洩れてしまった人や仕事が期間満了で終了した人に、いったんBPOの業務に就業してもらう。これにより派遣社員の雇用を維持し、派遣会社としては人財を常に確保し、派遣先からオーダーが入ったら、すぐに配置できるという仕組みを作りました。
 
当社に登録いただいた人財は、スキルに応じていきなり派遣することもありますし、当初はBPOで仕事を覚えながら、スキルアップしていき、一定のレベルに達すれば期限なしの雇用契約に切り替え、クライアント企業に派遣していくといった形態もあります。
 
人を抱えるということは、さまざまな派遣元の会社の多様な要望に応えられるよう、人財教育が必要です。これがPEOとしての大きな役割ということになります。実は私自身も、PEOという言葉は最初から知らなかったのですが、当社の事業内容を知り合いに説明すると、「アメリカのPEOに近いよね」とヒントをもらいました。
 
アメリカでは、働く人のボリュームゾーンであるレギュラーワーカー(日本でいうところの正社員)は、時給制で1週間または2週間単位で給料をもらい、仕事がなくなったら即レイオフされ、職場を変えていきます。そういうレギュラーワーカーを束ねて雇用し、仕事がない期間は教育しているのがアメリカのPEOです。働く方々から見ると、職場が変わっても雇用主は変わらないという仕組みです。
 
それをさらに研究して生み出したのが、今の日本型PEOという当社のビジネスモデルです。当社が雇用主になり、派遣の仕事がない時は、訓練センターを備えた請負場に入ってもらいます。事務系の人はコールセンターの請負場でコールや事務アシスタントをしてもらう。製造系の人は物流倉庫の請負場に入ってもらう。派遣元から仕事が入ってきたら、すぐに人を派遣するという形です。

―日本のPEOは初めて聞きましたが、この仕組みを採用しているのは御社だけなのでしょうか?また、御社の特長は何なのでしょうか?

PEOを展開している会社は中部地方に1社あると聞いているくらいで、日本で実際に活動している例はあまり聞きませんね。また、当社の最大の特長は、先述の通りPEOでもさらに大田区に特化していることです。派遣先も、製造業や物流業を中心に集中立地していて、働く人も大田区エリアに住んでいるので、派遣先が変わっても無理なく働き続けられます。自転車通勤ができ、通勤時間が短いから可処分時間が長いのも喜ばれています。何より、職場が変わっても雇用している会社が変わらなければ、働き方が安定するのが最大のメリットです。
 
さらに、キャリアコンサルティング、キャリアサポートを行っていて、その一環でパソコンスクールや秘書検定・宅建など資格取得のためのスクールも実際に運営しています。働く人が給料を上げていくには、誰でもできるような仕事ではなかなかむずかしいです。経理の仕事を覚えよう、営業の仕事にチャレンジしてみよう、とひとりひとりの志向性に応じて、それに合ったスキルアップを支援しています。これからは教育メニューを増やし、より高いスキルを持つ人財を育成していこうと考えています。

まずは東京都大田区でモデルを完成

―今後の目標や事業展開をお聞かせください。

当面は、地域のシェアを確保することに注力しています。一般的に人口の1%が派遣社員と言われていますので、大田区の人口は70万人ですから、区内に少なくとも派遣社員7,000人の需要があるはず。現在スタッフは500名前後なので、今後大田区で10%、20%とシェアを増やしていきたいですね。当社はエリア戦略をとっているため、営業担当の人数が他社より少なくてもお客さんもスタッフもカバーでき、販売管理費の比率が他社より低いのが経営面で有利です。スタッフ数が1,500人になれば年商ベースで20~30億円になり、上場も視野に入ってきます。
 
また、近い将来隣接する区への進出も考えています。さらにその先は東京や関東にこだわらず、大田区と似たような産業構造のエリアで事業を展開することも考えています。
 
雇用の受け皿となるには、事業の拡大はもちろん、働く人が不安のない暮らしができるようサポート体制を固めることが当社の重要なミッションです。「残業がない仕事をしたい」「仕事はハードでもとにかく稼ぎたい」などそれぞれの働く人の希望を踏まえた仕事を紹介し、誰もが納得がいく生活を送ってもらえるよう、日本版PEOをさらに磨き上げていきます。

―日本版PEOの最終到達点はどこでしょうか?

「終身雇用はもう無理」と経済界のトップが言ってしまう世の中で、働く人はとても不安だと思います。実際に今後、会社が長期雇用することはますます難しくなってくることが予想されますが、職場は移り変わったとしても、雇用主が同じだったら、社会保険の切り替えはないし、雇用保険も継続できる。また、スキルアップ研修も受けられます。企業の終身雇用が限界に来ている中、当社が最終的な人財の受け皿になりたいと思っています。
 実際に、一般の派遣会社は、契約期間が終わればそれっきりの関係も多いのですが、当社の場合、また戻ってきてくれることも多いのです。これはPEOならではの強みと言えるでしょう。
 最終的には、日本型PEOをもっと普及させることで、失業なき成長社会を実現させることが私の最終目標です。雇用を守る決意を我々がすることにより、企業にとっても労使関係を悪化させることなく、終身雇用の呪縛から解き放たれ柔軟に事業を行うことができるようになります。
将来は、働く人は職場が変わりながらも派遣会社に終身雇用されるような時代になるかも知れませんね。

―よくわかりました。ありがとうございます。

<プロフィール>
大崎玄長(おおさき もとなが)

 
1973年2月5日生まれ。中央大学法学部卒業後、株式会社日本エル・シー・エー入社。経営開発部に所属し、経営コンサルタントとして社会人生活をスタート。中小企業診断士資格を取得し、2000年に独立経営コンサルタントとして活動を始める。2006年、人材派遣会社・株式会社エヌエフエーを設立、代表取締役に就任。現在、大田区ものづくり企業連合事務局株式会社ディープロジェクト代表取締役、ものづくり大田LLP(有限責任事業組合)理事も務める。著書に『やりたいことを仕事にするなら、派遣社員をやりなさい!』(総合法令出版)がある。
 
会社概要
社名  :株式会社エヌエフエー
所在地 :東京都大田区池上7-10-7 シールエンドビル
資本金 :3,000万円(資本準備金1,000万円含む)
事業概要:総合人財サービス(人材派遣、人財紹介、人財教育、委託、請負)
各種プロモーション、コストダウン代行事業
地域製造業と連携したファブレス工場事業
各種経営相談・経営支援サービス
人的資源管理、雇用問題/能力開発分野における研究

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