2021年03月30日(火)0ブックマーク

コロナ禍で再定義される、オフィスと組織づくりのニューノーマル

経営ハッカー編集部
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株式会社ヒトカラメディアCFO乙津康人さん

新型コロナウイルスの感染拡大により、先の見通しがつきにくい現在。政府によるリモートワークの推進も影響し、企業にとってのオフィスの価値観が大きく変わろうとしている。

オールリモート化を実現し大胆なオフィス縮小に踏み切る企業がある一方で、依然として社員に「出社」という働き方を求める企業も少なくない。不明瞭な未来を前に、すべての企業が明確な意志に基づいてオフィスの意義や従業員の働き方を定義できているわけではないだろう。

コロナ禍において、オフィスという“場”に対する価値観や組織づくりは、一体どのように定義されるべきなのか。オフィス移転支援を中心に「働く場」「働き方」に関するプロジェクト全般の企画・実現のサポートを行う株式会社ヒトカラメディアのCFOであり、バックオフィスの管轄も担う乙津康人氏に話を聞いた。
 

目次

    ヒトカラメディアがオフィス縮小に踏み切った理由

    ──御社は2020年7月に、中目黒の120坪のオフィスから下北沢の80坪のオフィスへ縮小移転をされましたね。どのような背景があったのでしょうか。

    乙津:当社が縮小移転を決めたのは2020年の1月なので、コロナ禍とは直接関係はなかったんです。もともと背景にあった課題は、スペースを持て余していたこと。弊社は、それこそオフィスの移転支援や内装プランニングを事業にしているのですが、社員の多くは顧客との打ち合わせで社外に出ることが多かったんです。

    そもそも当社は、コロナの影響を受ける前から、全社員がリモートワークをできる状態をつくってきました。というのも、我々のミッションは「『都市』と『地方』の『働く』と『暮らす』をもっとオモシロくする」であり、その可能性を自分たちが広げていかなければ、面白くないと思ったからです。

    オフィス移転を考える際によく聞くのが、オフィスが手狭になったから拡張を検討したいという声です。たしかに、単純に面積が広くなれば、働きやすいオフィスはつくれますよね。それならば、ヒトカラメディアは反対に、縮小しても自分たちらしく仕事ができるオフィスをつくってみようと考えたのが移転のきっかけでした。
     

    株式会社ヒトカラメディアCFO乙津康人さん

    ──通常のオフィス移転とは逆のアプローチですが、戦略的な縮小移転だったのですね。下北沢という場所については、どのように決めたのでしょうか。

    乙津:根底に、「オフィス移転を単なる引越しにはしたくない」という想いがありました。下北沢にはオフィスがほとんどなく、人が生活をする“街”といった印象が強い地域ですよね。そんな場所にヒトカラメディアがオフィスを構えることにより、下北沢の街そのものや、働く人たちの“何か”を変える手がかりになるのではないかと考えたんです。「働く」から「暮らす」へ、もっと踏み込んでみようという試みでした。
     

    オフィス移転などの支援をしている株式会社ヒトカラメディア。新型コロナウイルス感染拡大以前に縮小移転を計画していた。

    ──移転されて約半年が経過しましたが、社員の反応はいかがですか?

    乙津:社員がテレワークになじんでいたこともあって、今のところネガティブな意見は聞こえてきませんね。強いて懸念点を挙げるとすれば、面積が小さくなった分、オフィスの使い方が限定されるようになったことでしょうか。これまではリラックススペースや作業スペースを十分に確保できる広さがありましたが、現状ではどうしても制約が生じてしまう。

    ただ、全社員が出社のたびにリラックススペースを使うわけではありませんし、会議室でないとミーティングができないわけでもありません。クローズドな会議室は2つから1つに減りましたが、顧客との打ち合わせや機密性の高い話など、優先度の高い順に使用するよう、オペレーションで調整すれば済むことですから。
     

    オフィスについて考えることは、働き方について考えること

    ──御社が顧客にオフィス移転の提案をする際、特に重要視していることについてお聞かせください。

    乙津:お話しした通り、当社はただオフィスの引越しを提案するのではなく、移転後のオフィスがどう活用されるか、その未来図を重視しています。企業の事業内容・人数・人員構成・コーポレートブランディング……、そういったものが違えば、オフィスに求める要件も変わってくるはず。まずは顧客にとってのオフィスがどういう存在であるのか、改めて考えてもらい、課題の本質に辿り着く必要があります。

    オフィス移転は、往々にしてトップダウンで行われることが多いのが現状ですが、当然オフィスを使う社員の意見も欠かせません。我々としては、トップだけではなく社員を巻き込んだヒアリングやワークショップを行いながら要件を整理して、移転後のオフィスを有効化するご提案をしています。
     

    株式会社ヒトカラメディアCFO乙津康人さん

    ──トップと社員の間で、オフィスへの課題感に違いがあるケースは多いのですか?

    乙津:オフィスが手狭すぎるなど、わかりやすい課題に関してはそう違いはないですが、一方で「コミュニケーション不足」といった、明確に定義しにくい課題を内包している場合は、トップと社員の間に認識のズレが生まれるケースもありますね。

    ある顧客の例を挙げると、社長はオフィスでのコミュニケーションが十分に取れていないことを課題に挙げましたが、社員に聞いてみると「コミュニケーションは十分取れている」という答えが出てきました。

    さらに詳しくヒアリングしたところ、社長が求めていたのは、ランチや休憩スペースでの“偶発的な”コミュニケーション。社員が何を求めていたかというと、「チームをまたいだコラボレーションが生まれるような場をつくりたい」という、ワンランク上のコミュニケーションだったんです。

    ──トップとメンバーの間で課題が異なるのは興味深いですね。一方で、企業のフェーズによっても抱える課題感は違ってくるのではないでしょうか。特にコロナ禍でのオフィスの必要性に関しては、考え方に大きな差がでてきそうですが……。

    乙津:IPOを目指す企業に関しては、オフィスの在り方を検討し直すといった動きはあまり見られません。上場するにあたっては、コンプライアンスの遵守や情報漏洩の防止が徹底される体制を整える必要があるため、コロナ前と変わらないオフィスの形を保たざるを得ないのが実情です。上場企業も同様で、オフィスの在り方自体はあまり変わっていない。その分、運用で働き方をカバーしている印象ですね。

    一方、スタートアップやベンチャー企業においては、オフィスへの意識が大きく変化しています。これまでは「社員数を増やしてオフィスを拡張する」というのがベーシックな路線でしたが、コロナで一変しました。

    リモートワークが基本になり、何か特別な理由があるときだけ出社する。これまでとは逆になったんです。すると次第に「なぜオフィスに行くのか」を考えはじめ、「せっかくオフィスへ行くならこんなことがしたい」という発想から、オフィスの在り方を、さらには働き方を再定義するようになってきた、ということでしょう。
     

    バックオフィスのリモート化により生まれる懸念と可能性

    ──続いて、オフィスと切り離しにくい印象のあるバックオフィスについて伺います。御社では、オフィスを移転する前から全社員にリモートワークが認められていたそうですが、バックオフィスについてはどのタイミングでリモート化されたのでしょうか。

    乙津:リモート化にはクラウド化が不可欠ですので、私が入社した2020年6月にはすぐに着手しました。まずは、それまで手入力で行なっていた請求書を、会計ツールによってクラウド化。その後、人事労務などの周辺領域もクラウドに対応させ、着手から数カ月でオールクラウド化に至りましたね。

    ──バックオフィスのオールクラウド化=リモート化にあたっては、その障害についてどうしても懸念が生じます。評価や福利厚生など、制度が妨げになるケースもあるのでは?

    乙津:評価制度に関しては、バックオフィスはいわゆるクリエイティブな領域とは異なり、リモートワークの妨げになるものではないと思います。福利厚生に関しても、「リモートワーク手当」や「オンラインランチ手当」で代替するなど、いくらでも別の可能性を考ることができますから、懸念点とは言えません。

    ただ、私がどうしても避けて通れないと感じている障害が、「ハンコ文化」と郵便物です。それらの処理をどう乗り越えるかが、小さいようで大きな課題になっているんですね(苦笑)。私も基本的にテレワークですが、請求書に捺印をして、原本を送付するためだけに出社しています。この2つの課題が解決できない限り、バックオフィスにおけるフルリモートは難しいかもしれません。
     

    株式会社ヒトカラメディアCFO乙津康人さん

    ──たしかにそれらの文化は、フルリモートを考える上では大きな障害になってきますね。

    乙津:大前提として、クラウドとローカルは共存すべきだと考えています。クラウドの良い部分は使いつつ、事業にとって紙やハンコが大事だというのなら、無理にSaaSに組み替える必要はないし、フルリモートにこだわる必要もない。

    ヒトカラメディア自身、不動産業という非常にレガシーな領域でビジネスモデルを展開しています。賃貸契約書は紙でなければいけないですし、重要事項説明書も原本をお渡しするルールがあります。クラウドとローカル、どちらかに寄ってしまっては事業が成り立たないのが会社の状況でもあるので……。

    個人的には、APIで別のツールと自動連携ができたり、税務署に行かずにオンラインで確定申告が済ませられたりなど、クラウド化によって受ける恩恵は非常に大きいと感じています。
     

    これからの働き方とオフィスの新しい関係とは

    ──改めて伺います。オフィスの役割と仕事の生産性の関係について、乙津さんはどのように考えていますか。

    乙津:クリエイティビティが必要とされる業務や、チームでのブレストに関して言えば、やはりオフィスに集まって作業をしたほうが生産性はアップしますよね。オンラインツールでカバーできる側面もありますが、画面越しでのやりとりのしにくさが、生産性を下げる可能性も否めないと感じます。議論をするにしても、誰かが話し終わるのを待ってから発言しなくてはならない点で、オンラインでは合意形成を取りづらいというやりにくさもある。

    それから、喜怒哀楽に関わることに関しても、リアルな場は必要です。たとえば営業会議で、社員の業績を祝うようなシーン。「○○君、目標達成です! おめでとう!」と称え合う高揚感や盛り上がりは、やはりリアルな場でしか共有できないものでしょう。

    ──生産性だけではなく、社員の気持ちにもオフィスという場所が影響を与えている、と。

    乙津:はい。結局のところ、オンラインツールがどれほど進化しても、オフィスの必要性は変わらないと思います。これからのオフィスの在り方を考えるとき、私が理想的だと感じるのが、「ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)」というワークスタイルです。

    最近ようやく日本にも浸透しつつありますが、“業務内容に合わせて好きな場所で働ける”というスタイルで、集中したいときには周囲から邪魔されないスペースで一人で仕事をし、適度な雑談をしながら作業をしたいときには、同僚が集まる空間で仕事ができる。それこそ生産性に好影響を与えるワークスタイルであり、今後はこういった働き方がどんどん増えていくのではないかと考えています。

    どちらにしても、これから先のオフィスを考える際に「いる/いらない」の二元論になってはいけない。オンラインとオフラインのいい部分を共存させながら、より自分たちらしい働き方を追求したうえで、一体どんな“場”にしていくのか。それを再定義することこそが重要ではないでしょうか。
     

    (執筆:畑菜穂子 撮影:坂脇卓也 編集:波多野友子/ノオト)


    乙津康人
    株式会社ヒトカラメディア CFO コーポレート管掌

    2001年中小企業の経理からキャリアをスタートし、ベンチャー企業での新規事業開発や管理部門長を歴任。 2013年株式会社AppBroadCast取締役CFOに就任、2016年同社をKDDIグループへ売却。 その後はスタートアップ、ベンチャー企業の管理部長を歴任し、2019年株式会社ヒトカラメディアにジョインしCFOに就任。
     

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