ロジザード金澤茂則代表に聞く~クラウドによる物流改革! 「届ける物流」から「受け取る物流」へ
コロナ禍で小売業のECシフトが加速している。これまでBtoB中心だった倉庫・3PL企業はBtoC物流の受託を強化。多様化する消費者のニーズにあわせ、顧客にシームレスな購入体験を提供するオムニチャネルも浸透してきた。一方、物流現場での人手不足は深刻だ。2030年には644万人の労働人口不足になるといわれ、物流業界における自動化や省力化が急がれている。この課題を物流業界のIT化で解決しようと、「物流・在庫」にフォーカスしたクラウドサービスを展開するのがロジザード株式会社(東証マザーズ:4391)だ。インターネット黎明期から倉庫管理システムのクラウド化に取り組み、物流のIT化を牽引してきた同社代表の金澤茂則氏に、現在の物流を取り巻く動向、創業や上場に至る経緯、今後の事業展望を聞いた。
拡大するEC需要をクラウドサービスで支援
-はじめに、事業内容をお聞かせください。
当社は「創造と革新の物流ITサービス」を経営理念に掲げ、倉庫や配送センターで商品の保管・入出荷業務を支援する在庫管理機能や、倉庫から出荷された店舗商品の在庫管理機能をクラウドサービスで提供しています。また、ハンディターミナルというデータ収集端末装置や、バーコード関連機器のレンタル及び販売も行っています。
クラウドサービスでは主に、「倉庫在庫管理システム」「店舗在庫管理システム」「O2O支援システム」の3つを提供しています。
現在販売中の倉庫在庫管理システム「ロジザードZERO」は、「賞味期限管理」「ロット管理」「シリアル(製品、商材等の番号)管理」などの機能を追加し、多言語にも対応。業種・業態に捉われず、あらゆる在庫の管理が可能です。さらに3PL企業様に向け、複数の企業、複数の拠点を同一システムで管理するための機能も実装しています。
「ロジザードZERO-STORE」は、複数の店舗に点在する在庫や売上データを本部にて一元管理することができる店舗在庫管理システムです。従来のPOSシステムでは導入に高額な初期費用が必要でしたが、「ロジザードZERO-STORE」はスマートフォンやタブレットといったモバイル端末などを活用することで機器導入コストを低減。商品の入出荷時や顧客の購入時など、リアルタイムで処理された正確な情報を提供し、店舗の販売戦略立案にも貢献します。
「ロジザードZERO」と「ロジザードZERO-STORE」を連携し、「O2O(Online to Offline)」を支援する在庫マッチングエンジンが「ロジザードOCE」です。一元化された在庫情報を活用して、在庫がある場所の特定や在庫の確保、出荷指示情報を提供。購入者の望む受取方法に対して、最適な解を導き出せます。他社が展開する倉庫在庫管理システムやPOSシステムとの接続も可能で、もちろん「ロジザードOCE」単体でも機能を活用できます。
創業時の苦労を乗り越えEC急伸で事業拡大。BtoBニーズにも対応
-創業の背景をお聞かせください。
当社の創業は2001年。共同創業者が作ったソフトをクラウド化して展開するプロジェクトに、私がジョインする形で立ち上げました。まだクラウドという言葉はなく、「ASP(Application Service Provider)」と呼ばれていた時代です。
それまで、私はアパレル企業のアウトレット事業で在庫消化の業務にたずさわり、キャッシュフローの重要性を実感していました。
自社の在庫を現金化してキャッシュフローを回し、事業を効率化させるためには、何よりもまず在庫情報を正確に把握することが必須でした。そこで脱サラし、在庫管理システムの普及を進めていたところ共同創業者と出会い、「これからはインターネット経由でソフトウェア環境が提供される時代だ」と意気投合。倉庫管理システムのASP事業へジョインしました。
-印象的な社名ですが、由来は何ですか?
社名は、共同創業者が当社創業以前から取り組んでいた物流ソフトのパッケージ名称をそのまま引き継いでいます。「Logistics + Wizard」を組み合わせた造語で、アプリケーションソフトの面倒な設定を簡単にできるウィザード機能のように、「これを選んで次へ、これを選んで次へ」と進めるだけで、誰でもロジスティクスが実現できる。そんな想いを込めています。ウィザードには「魔法使い」という意味もあり、魔法のようにロジスティクスがIT化されることを願う気持ちも込められています。
-起業されたのは、確信があったからでしょうか。
莫大なコストをかけて構築するオンプレ型のソフトウェアは、多くの中小企業にとって、導入のハードルが高いものです。クラウドは真逆。標準化したソフトウェアをインターネット上でたくさんの人に使ってもらう方法であれば、当然コストは下がり、保守の必要もありません。始めたいときに始めて、止めたいときに止められる。従前のソフトウェアと比べて、非常に合理的です。一定のスケール感になれば、確実に成功するモデルだと感じました。
-御社は創業時から倉庫管理システムのクラウド化に取り組まれていますが、当時すでにクラウド化が業界の流れだったのですか?
Windows 95の登場により、1995年は実質的なインターネット元年となりました。そのころは先述のようにクラウドとは呼ばずにASPといっていましたが、ほとんどのIT(システム開発)企業がASPに取り組み、今でいうサブスクリプションモデルを模索してはいたのです。しかし、うまくいかなかった。オンプレシステムを納入して開発工数でいくら儲かる、というレガシーなフロー型ビジネスからストック型転換するには、収益を同等にするまでにはあまりにも時間がかかり、そこに至るために継続的な先行投資も必要です。それに耐えきれない企業が多かったのです。
そうした流れの中でも、私たちは従来のビジネスをほとんど捨てて取り組んでいたのでクラウド事業をやめるわけにはいかず、なんとか会社を存続させようとした結果が今につながっているのだと思います。
-インターネット黎明期の営業活動は苦労も多かったと思います。
2004年頃までインターネットは盤石なインフラではなく、スピードも遅く回線品質もよくありませんでした。回線が切れたら使えないようなアプリケーションでは業務になりませんし、当時はネガティブな側面がたくさんありました。
お客様とメールでやり取りしようにも、そもそもメールアドレスをお持ちでない会社が大半の時代。システムの納品に伺ったら、まだインターネットが開通していなかった、なんていうお客様もいらっしゃいました。渋谷区や中央区など都心にインフラを敷いている最中で、江東区はまだインターネットが使えないなど、そんな状況でしたから。最初の1年間は全く売れずに「これは大失敗したかな」と思いましたね。それに比べれば、今は夢のような環境です。
また、クラウドに自社の基幹データを預けることになりますから、スタートアップで社会的に十分な信用を得られていない企業であることが、とてもネガティブに働くのです。こんな小さな会社に任せて大丈夫か、ロジザードが無くなれば自社も倒産してしまうじゃないかというイメージ。これが一番厳しかったですね。
-潮目が変わったのはいつ頃ですか?
ターニングポイントとなったのは2006年。ECモールの成長にともない、ECを専業とする小売業者の売上が急伸した時期です。あまりに成長が早いので、あっという間に物流作業が行き詰まり、出荷が追いつかなくなってしまう企業が続出しました。
その頃、私たちはまだ一般の小売業や卸売業の方々に向けて事業を行っていたのですが、あるとき、オンラインショップを運営する企業様にコンタクトをいただきました。「倉庫管理システムを構築したいが、どこに問い合わせても納品は1年以上で、費用も莫大で困っている」というのです。どれくらいの期間でシステムを構築できるかと聞かれ、ECの実績はないが約4カ月あれば可能だと答えたところ、「今からやってくれ」と(笑)。
その最初の1件の成功で、クラウド型の合理性が証明され、その後ECモール出店企業の間で口コミによって広がりました。「ロジザードはすぐに対応してくれて、誤出荷やクレームもなくなるぞ」ということで、次々にお仕事をいただけるようになったのです。現在もEC市場は急激な成長を続けています。その流れが、当社事業の安定的な拡大の背景にあるといっても過言ではありません。
-現在のECは小売業者によるBtoCが大半だと思いますが、この先どういったニーズの変化が見込まれますか?
今後はBtoB通販やメーカー同士のオンライン取引などのニーズが増えると思っています。これまでのBtoBの倉庫管理は、ケース単位で出荷して中の商品数が多少違っても許されるなど、アバウトな部分がありました。しかし、オンライン取引ではBtoC同様に細かい作業が求められかつミスが許されないため、在庫管理上の悩みをお持ちになる企業は増えてくるのではないでしょうか。
-御社のユーザーはEC企業だけでなく、3PL企業も増えていると聞きます。
これも物流の歴史に沿ったストーリーがあります。2006年頃までの物流業界は、細かい荷物を敬遠する風潮がありました。どこの倉庫会社さんも「こんな細かい仕事はやってられない」と。ところが、ECがあまりにも伸びてくるので、チャンスと捉えた宅配便業者さんなどの物流業界の方々が、新規事業でEC物流を次々と立ち上げました。発展するEC物流業務を受託するためには、結果的に倉庫管理システムが必須になってきたというわけです。
現在は、3PL企業様をさらに厚く支援するための施策を社の方針として強く打ち出しています。EC通販企業や3PL企業に共通した物流ITニーズを捉え、質の高いサービスで貢献していく。こうした価値観を持っているのが、当社の強みだと考えています。
上場で得た社会的信用。「出荷絶対」が至上命題
-上場を目指した主な狙いは何ですか?
昨年度実績として、当社全体のサービスを通じて約8,400万件のオーダーが処理されました。国土交通省が公表した2019年度宅配便取扱個数は約43億個なので、2%弱程度は当社のサービスを経由して物が出ていることになります。つまり、当社はすでに重要なインフラの一部になっているのです。もし仮に、経営者の独断専行が起こり、サービスが止まるようなことがあれば、業界に混乱を招き、倒産する企業が出てくるかもしれません。
つまり、ガバナンスの問題がクリアされ、私がいなくなってもきちんと継続できる会社であることが必要なのです。企業の重要な情報をお預かりする立場として、経営体制が合理化されていれば、皆が安心して当社のサービスを活用し成長に結び付けられるでしょう。ですから、早い時期から上場を目指し、2004年にはVCを入れていつでも上場できるようにタイミングを計ってきました。
-他にも上場に期待したことはありますか?
やはり採用です。人材を求める理由は次の3つ。物流は倉庫管理だけではなく、サプライチェーンもあります。物ができてから消費者に届くまでの流れを一貫して管理するとなると、どうしても海外で活躍できる人材が必要です。
また、物流は「貯蔵」と「輸配送」で成り立ち、最終的には消費者が受け取って消費します。物流インフラを目指すのであれば、「輸配送」の領域にも影響を与えられる人材が必要。
さらに、物流は単純にシステムを入れて「AからBのボタンを押したらうまくいきます」というものではなく、実際には業界ごとの商習慣や、物品による取り扱い単位、手順などシステム外の考慮も必要で複雑化します。
そのためコンサルティング面も欠かせず、既存の仕組みを拡大するにも人材が必要になります。
設備投資なども大切ですが、我々はそれより何より、まず人材とその人材が獲得した経験値を重視しています。優秀かつ長期的な視点を持った人材採用のためには、社内制度も含めて整えていかなければなりません。そのためにも、上場はとても大きな意味を持っているのです。
-金澤代表の言葉からは、物流を止めてはいけないという責任感がよく伝わってきます。
私たちはアプリケーション業ではなく、まさにサービス業です。お客様が1,000個出荷するといって作業が滞っていたら、最後は私たちが駆けつけてでも出荷が完了する手助けをする。そうしないと、一番不利益を被るのは商品を購入した人たちです。そしてその商品に携わった関係者は誰もハッピーにならないですよね。
よって当社の社訓には、「出荷絶対」という項目があります。人力だろうがITだろうが、とにかく出荷が完了するのが大原則。なぜそこまでこだわるかというと、荷物が届かなかったり間違った品物が入っていたというだけで、消費者の人生が分岐してしまう場合すらあるからなのです。私は実際、誤出荷や配送の遅延によって取り返しのつかない事象が起きたケースをいくつも目の当たりにしてきました。
それを防ぐためにも、間違いのない商品を確実に出荷したことがシステムの履歴に残ると安心なのです。消費者が困らないだけでなく、「配送漏れはないか」「誤出荷していないか」という物流業者の不安も解消される。正しく出荷できていれば、消費者・倉庫業者・配送業者・当社の“四方良し”になるという信念なのです。
-上場してどのようなことを感じましたか?
私個人としては、トライしてみたからこそ、ステージが上がると思っています。これまで、いわゆる中小企業基準でやってきたことを見直して、管理体制の密度が上がり、より高い精度に耐えうる点では、いい会社になってきていると感じています。当然、株主からの要求も高まりますので、プレッシャーも倍増しますけどね(笑)。これからも前向きに、よりよい会社を目指して取り組みを続けていきたいと考えています。
時代が求めるのは「届ける物流」ではなく「受け取る物流」
-オムニチャネルが浸透しつつある今、物流には何が求められていますか?
2020年以降、ECと実店舗の融合が進みました。ECだけをしたいのではなく、「オンラインもオフラインも上手に使ってビジネスをしたい」という小売業者の販売機会拡大ニーズが顕在化しています。一方では消費者の側にも、欲しい商品を好きなチャネルで選び、都合の良いタイミングや場所で受け取りたいなど、さまざまなニーズが生まれています。
そこで求められるのは、消費者が求める商品がどこにあり、その情報を元にどう手渡すかを管理する体制です。倉庫だけでなく、店舗やサプライチェーンの在庫まで一元的に管理して、消費者がリクエストするオーダーに最適な商品をお届けすることが望まれてきます。
こうしたトレンドは「OtoO(Online to Offline)」と呼ばれ、今後もますます進化していくでしょう。それに対応するためには、物を実物として動かしてきた当社のノウハウが活きてくるのです。OtoOで最も大きなニーズは、ECで買って店舗で受取るという“店舗のプル”です。単純に店舗に在庫があれば良いのですが、なければ倉庫やサプライチェーンから店舗に出すなど、物流はより複雑になっていく。いわば“壮大なお取り置きシステム”ですね。こうしたことは、ITでなければもう処理できない段階に来ています。
- OtoOにより消費者の利便性も増しますね。
物流というのは必ず実物をハンドリングしなければならず、物の移動にはコストが発生します。長崎の人が買った物を東京から発送するか、九州から発送するかでは、コストが全然違う。現在は全国どこに宛てても東京から発送するのが主流になっていますが、在庫のマッチングが最適に行われれば、消費者の利便性はさらに高まるでしょう。要は「長崎の人が買ったら博多のショップから送りましょうよ」ということです。
その実現は、やはり物流業のプロでなければ難しいのです。私たちは、OtoO向けの在庫確保・出荷実行支援サービスの提供により、街の小さな商店でも気軽にOtoOに対応できるような環境を整えていきたいと考えています。
-物流のロボット化もさらに進めていくのですか?
そうですね。労働人口減少による人手不足の解消を考えれば、物流における省力化と自動化は避けて通れない課題です。当社ではこれまでも、物流ロボットやEC事業者向け製品を提供する事業者との製品連携を進め、お客様の省力化・自働化ニーズに応えてきました。引き続き取り組みを強化し、物流ロボットや情報の一括読取が可能なRFIDを活用した認識技術など、今後物流現場に導入が見込まれる技術への対応を進めます。
ただ、中小企業は自動化コストの課題をクリアするのが難しいのも実情です。そこで、私たちが先回りしてシステムを標準化し、コストをかけずとも導入できる仕組みを構築しているところです。自社出荷では採算が合わないといった場合でも、3PL企業様に向けた自動化倉庫の対応で解決し、生産性を向上させる。そういったシナリオを描いています。
-今後どのようなことを実現させたいとお考えですか?
EC物流は、最終的に商品が手渡されるときに売り手と買い手がマッチングし、リレーションが成り立ちます。今はまだサプライサイドの物流のため、再配達による余計なコストや労働が生まれ、環境への負担になっていることも問題視されています。宅配ロッカーの整備なども進んでいますが、「届ける物流」をしている限り、根本的な解決にはならないと思っています。私たちが将来的に目指すのは、「届ける物流」から「受け取る物流」への転換です。
「この人はいつ、どこで、どんな方法で受け取りたいのか」という情報にあわせて、「店舗で商品を受け渡したほうがニーズに合致しているだろう」「近くの店舗に在庫があるけど、受け取れないなら倉庫から発送しよう」など、物流は組み替えられていくべきです。このように「受け取る物流」を作ってしまえば、誰も悩まなくて済むのではないかと。
私たちの強みは「どこに何が何個あるか」が把握できていることです。この強みを活かした物流構造の転換が、これからの世の中で最も必要とされることだと思っています。
-消費者起点の物流革命ということですね。
小売業が進化するから物流が進化し、また、製造業が進化するから物流業も進化します。その本質は、単なるコストダウンではなく、顧客満足度の向上です。そのために、当社は今後も質の高いサービスの提供を続け、クラウドサービスの継続的な拡大を通じて企業価値を向上させたいと考えています。
<プロフィール>
金澤 茂則(かなざわ・しげのり)
1967年生まれ。1990年にアパレル企業へ入社し、倉庫在庫の管理やアウトレット事業などを経験。2001年7月、有限会社ロジザード(現ロジザード株式会社)を設立、同社代表取締役社長就任(現任)。「外部リソースを活用した企業物流」を構築し、企業の売り上げ増大に結びつく物流改革を実現、数多くの実績を有す当該分野のエキスパートとして業界から高い評価を得る。
ロジザード株式会社
https://www.logizard.co.jp
設立:2001年7月16日
本社所在地:東京都中央区日本橋人形町三丁目3番6号
代表取締役社長:金澤茂則
資本金:299,444,800円(※2020年6月30日時点)
事業内容:SaaS(クラウドサービス)事業/情報システムの開発及び販売/物流業務・小売業務コンサルティング