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自然言語処理AIの実装はどこまで拡がるか? ~FRONTEO 山本麻理取締役に聞く

経営ハッカー編集部
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現代のAI技術は、大別すると言語系、画像系、音声系の3つに分かれる。AIをキーテクノロジーとする企業はこれらのいずれかに突出した強みを持っていることが多い。株式会社FRONTEO(東証マザーズ:2158)は、自然言語処理に特化したAI分野を深堀り、様々な領域でフロンティアを開拓していく企業だ。祖業のリーガルテック事業を元に、独自開発の自然言語処理AIエンジン「KIBIT」と「Concept Encoder」を擁し、ビジネスインテリジェンスやライフサイエンスへと事業領域を拡大してきた。特にライフサイエンス分野は、市場も大きく、創薬、医療、介護の現場などで、AIが求められる領域も広い。今回、ライフサイエンスAI事業を中心に、AIソリューション全般を管掌する山本麻理取締役に、FRONTEOの言語系AIテクノロジーがどのように実装されているのか、また今後の事業の成長可能性について聞いた。(2021年4月30日取材)

目次

    独自のAI言語処理技術に支えられたAIソリューション

    -まず、御社の事業の全体像について教えてください。

    FRONTEOは、AIによる自然言語処理を軸に、多様なソリューションを提供する企業です。自社開発のAIエンジン「KIBIT」と「Concept Encoder」を用いて膨大な量のテキストデータの中から意味のある重要な情報を抽出し、「記録に埋もれたリスクとチャンスを見逃さないための最適なソリューションを提供することにより、法律、医療、金融、知財、教育、人事等の分野において、必要かつ適切な情報に出会えるfairな世界の実現」を目指して活動しています。

    事業領域は、創業当初より手掛けているリーガルテックAI事業とAIソリューション事業の二本柱です。「リーガルテックAI事業」は人工知能を活用したeディスカバリ(電子証拠開示)とフォレンジック(不正調査)を中心に展開しています。一方、AIソリューションの領域は、さらに「ビジネスインテリジェンス」と「ライフサイエンスAI」に分かれます。ビジネスインテリジェンス分野では最近、金融系の大型案件も増えています。ライフサイエンスAIでは、AIを活用した医療機器開発にも踏み込んでおり、今後の伸びが期待できる領域となっています。

    -事業の核となる独自開発人工知能エンジン「KIBIT」と「Concept Encoder」とは?

    まず、AIによる自然言語処理がビジネス上の要請に耐えうるためには、人々の日常的なコミュニケーションの中から、微妙なニュアンスが汲み取れる必要があります。

     

    今までは、AIがこれを見極めるためには膨大な教師データが必要でした。

    それに対して、「KIBIT」は、人間の“機微”を学習し、少ない教師データで必要な情報を発見することができる人工知能です。テキストから文章の意味を読み取り、人の暗黙知や感覚を学ぶことで、人に代わって判断や情報の選び方を再現することができます。

     

    国際訴訟における情報開示においては、限られた時間内で膨大なテキストデータの中から証拠となるデータを見つけなければなりません。同様に、不正調査においても、調査対象者のPCから収集した膨大なデータの中から、不正につながる証拠を見つける必要があります。FRONTEOのAI「KIBIT」は、これらの証拠抽出作業の効率化と高度化を図るべく開発を重ねる中で磨かれてきたものです。キーワード検索では抜け漏れや、必要以上に文字を拾ってしまうということが起こりがちですが、KIBITであれば、解析前に学習させた教師データ(専門家が選んだ「見つけたい文章」と「見つけなくてよい文章」を学ばせる)を元に文脈全体を捉えて専門家の暗黙知を再現することで、証拠として使えそうな文書を効率的に抽出できるなど、自然言語処理技術が高く評価されています。

    このようにKIBITは元々、訴訟支援と不正調査を目的として開発されたAIですが、今では人間の判断を汎用的にサポートすべく、多方面に応用範囲を拡大しています。

    もう一つのAI「Concept Encoder」は、ヘルスケア領域の自然文をベクトル化して解析するAIです。単語や文書をベクトル化することで、文章を読む際に、当該単語の持つ単独の意味だけではなく、周りに出てくる単語の意味や位置関係も一緒に処理し、把握するため、形態素(文書内の文章の言語で意味を持つ最小の単位)の構成全体をまとめて解析することができます。遺伝子情報などの数値データとの共解析も可能で、医療ビッグデータの活用に大きく期待されています。

     

    Concept Encoder は文書内の単語の共起(ある単語が出たとき、その文章中に別の単語が頻繁に出現すること)を学習して、ベクトル化を行うのですが、通常のベクトル解析では、単語と文章を別々に求めたうえで、関連性を導き出すという手法が取られることがあります。この点、Concept Encoder では、単語の共起構成と、文書内の文章の形態素の構成をまとめて解析できるという特長があります。この時に、見つけたい文書にタグ付けして、重要であることを学習させれば、その文書に高いスコアがついて、上位に表示できるといった最適化もできるようになっています。

     

    日本企業を守るべく、アジア初の訴訟業務支援企業として創業、汎用AI事業に行きつく道程

     

    -創業の経緯について教えてください。

    創業者の守本は、とてもユニークな経歴の持ち主です。防衛大を卒業後、海上自衛隊に入隊したのち、退官して民間企業に転身します。大学で半導体の研究をしていたため、その知見を活かしてアプライド・マテリアルズジャパン株式会社に入社しました。その後、2000年代初頭にITバブル崩壊が起こり、業界全体に不透明感が漂い始めたのを契機に、「自分のやるべきこと、やりたいことをやろう」と退職することにしました。

    自分の進むべき道を模索する中、大学のOB会での雑談から、米国の民事訴訟にはディスカバリ(証拠開示手続き。証拠抽出・解析作業の支援を行う専門業者もある)という制度があることを知ります。ディスカバリを行うには、調査対象者が使用しているパソコンなどのデータを収集・保全し、その中から証拠につながる情報を特定する「デジタルフォレンジック」などの技術が必要です。しかし、日本を始めとする多くのアジア企業は、ディスカバリという制度の仕組みと、訴訟事案での戦い方を知らないがために苦戦を強いられていました。なぜなら当時、アジアには訴訟を支援できる企業が全く存在していなかったからです。そこで「日本をはじめとするアジア企業を守りたい」という強い使命感にかられた守本が立ち上げたのが、UBIC(現在のFRONTEO)です。

    最初は米国製フォレンジックツールの販売からスタートしましたが、アジア言語に対応していなかったため、世界に先駆けてアジア言語解析技術を自社開発し、苦労の末にeディスカバリ支援ツールの日本語対応版の発売に漕ぎつけました。

    -山本取締役ご自身は、どのような経緯でFRONTEOに参画されたのでしょうか。

    17年ほど在籍した前職のリスクマネジメント会社では役員を務め、新規に立ち上げたメンタルヘルス事業を成長軌道に乗せました。優秀な社員がある日突然、鬱で出社しなくなれば、会社へのダメージは大きい。そうならないために社員のメンタル面のサポートは不可欠です。今ではメンタルヘルスは企業に義務付けられるほど普及していますが、当時は全く意識されていませんでした。そこで、普及啓発活動からはじめたところ、徐々に世の中の理解が追い付いていきました。その後同社は、一部上場も果たし、一つの節目を迎えたことから、次のステップに進みたいという気持ちが膨らんできました。

    ちょうどその頃出会ったのが守本です。私の周りには全くいないタイプでした。「AIによる言語解析でグローバルNo.1になりたい」という守本の熱意、そして社会的使命があって、非常に重要な事業内容に惹かれ、入社を決めました。私はホワイトスペースを見つけ、事業をスタートするのが好きなので、FRONTEOの仕事はとても自分に合っており、充実した毎日を送っています。

    -山本取締役が担当しているライフサイエンスAI事業について伺います。現在の医療分野でAIが求められる背景を教えてください。

    高齢化が進展し、医療知識は高度化、技術は複雑化する中、現在の医療現場では、医師不足や医療費の高騰など、さまざまな課題を抱えています。たとえば同じ病気でも、受診した診療科や医師の専門領域によって、診断や対応が異なってしまう場合があります。人口の少ない地域では近くに専門医がいないがために、病変の見逃しや確定診断が遅れてしまうこともあります。それに加えコロナ禍も起こり、ちょっとした病状では病院に足を運びにくい、医療現場の逼迫で診察がままならないなど、全ての人が平等に治療を受けられる環境ではありません。

    しかし医療には「フェアネス」が重要です。そこで、AIを活用することで、誰でも確かな医療にアスセスできる社会を実現していく必要があるのです。

    -ライフサイエンスAIの事業戦略について教えてください。

    当社のライフサイエンスAI事業では先述のConcept Encoderを活用し、ライフサイエンスにおける新たな領域に挑戦しています。事業内容は、Medical Intelligence領域とMedical Device領域の二つに大別され、Medical Intelligence領域では創薬支援を、Medical Device領域では国内初のAI医療機器の承認・実用化を目指しています。

    まず創薬支援では、「創薬支援AIシステム」により、創薬研究において候補化合物発見のスピードアップを支援しています。短期間で精度の高い解析を実現し、医薬品開発にかかる時間とコストを大幅にカットします。

    創薬においても、新型コロナウィルス感染症対策は喫緊の課題です。そこで、創薬支援AIシステムを活用した既存薬の活用の研究を昨年4~5月に行いました。その際に当社のAIがリストアップした候補薬のうち、現在までに、複数の薬が臨床試験に入っており、その内2つは薬事承認されています。外国ですでに使用されているものもあります。

    次にMedical Device領域ですが、AIを活用したデジタル医療機器は、総務省が推進している「パーソナルヘルスレコード」や、厚生労働省が導入を検討している遠隔診療・医療ビッグデータの活用など、さまざまな分野での応用が期待されています。地域医療や高齢者対策にも非常に有用です。

    すでに販売中の入院患者各自の転倒転落予測システム「Coroban」に加え、骨折予防を目的とした「骨折スクリーニングAIプログラム」の開発もスタートしました。

     

    また、今、臨床試験中の医療機器、「会話型 認知症診断支援AIプログラム」では、2021年4月末に被験者と医師との会話データの解析を開始しました。診断の迅速化はもちろん、早期発見や重症化抑制などの認知症対策として、一日も早い臨床現場での活用を願っています。このプログラムを用いれば、専門医以外の医師でも認知症の診断を行うことができるので、患者さんが診断を受ける機会が増え、地域間の医療格差の縮小も期待できます。

    また、確定診断が困難で時間が掛かり、投薬の仕方なども非常に難しいとされている精神疾患分野において、AIは特に強みを発揮すると考えています。病変が目に見えて医師が確定診断を出しやすい疾患とは異なり、問診で判断するしかないからです。お子さんが発達障害ではないかと悩みながらも、どの病院に行けばいいのか、問診でどのように説明すればよいのかなどが分からず行動に踏み切れない親御さんたちの支援など、用途は無限に広がっています。

    -医師を支援する、MRなどの業務にも活用されているのでしょうか?

    たとえば、ある大手製薬会社様の場合は、MRの営業日報をモニタリングする際にKIBITを活用されており、「今までは大量過ぎて不可能だった全国のMR日報の解析が、週わずか1時間で終わり、現場が本当に欲しかった医師の個別ニーズを拾えるようになりました。」、「データ解析専門外のスタッフによる新規テーマの解析も可能になりました。」などの喜びのお声を頂いています。

     

    AIが汎用化していく先にあるもの

     

    -収益構造や、事業展開は将来に向かって変わって行きますか?

    現時点での収益基盤はリーガルテックAI事業です。しかし今期(2021年3月期)の売り上げに占める割合が約24%程度であるAIソリューション事業が、数年以内には50%まで伸びると予測され、近い将来に当社事業の中心になると思われます。

    別の分野のAIに強みを持つ他社とのアライアンスにも取り組んでいます。当社の強みと他社の強みを融合することで、社会により大きな還元ができると考え、現在も数社と協業しています。

    今後は参入企業が増え、テクノロジーが著しく発達すると思います。いずれAIは言語、画像と組み合わせて声や動きなど、あらゆる情報を統合し、人間が何かを判断する際と同じようなレベルに到達するでしょう。そうなると、より整合性の高いアウトプットが期待できるようになります。

    当社はAIをビジネスの現場に実装してきたフロントランナーとして、自然言語解析AI分野で先頭を走っていると自負しています。さらに、エリア展開については、米国のほか、韓国と台湾にも子会社を持っており、現在、売り上げの約半分が日本、残りの半分が米国を中心とする海外という比率になってきました。次に目指すのは、自然言語AIでのグローバルNo.1。それも全ての事業領域でのNo.1が目標です。

    -ライフサイエンスAI分野はどのように発展するでしょうか?

    FRONTEOは、最近、「個別化医療」のカギを握るとされる、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム「AIホスピタル」に参画しました。今後、患者さんのゲノム情報やバイタルサインなどのタイプに合わせて最適な治療法を選択する個別化医療が進むことは必至です。当社としても、この半年くらいで、電子カルテ解析の依頼が増加しています。また、病院に行く前にAIが症状を分析して適した診療科をアドバイスするといった技術開発にも着手しています。複雑で膨大な情報の中から特徴を見つけ出すAIの強みを生かすことが、総合診療の糸口になるのではないでしょうか。

     

    さらに新薬開発のスピード感の高まり、既存薬の新たな利用法の発見など、AIによって医療は目覚ましく進歩するでしょう。バリューチェーンもB to BからB to Cへと患者さん向けのソリューションが広がり、変化すると見ています。

     

    FRONTEOが担うミッションも拡大

    -世界を見据えた展開となりますと、日本企業としての社会的使命も高まりますね。

    「日本企業を守り、成長させる」という使命感でスタートしたFRONTEOですが、次の領域として国家の経済安全保障分野に乗り出しています。日本の情報管理の甘さは米国や欧州各国から指摘されているところでもあります。日本には素晴らしい技術を有した製薬メーカーが多数ありますし、相当数の治験も行っています。また、日本企業が取得している特許の数も、世界上位にランクしています。しかし、それだけ素晴らしい技術を有し、基礎研究、最先端技術の研究開発にも力を注いでいる日本ですが、その技術自体が世界から狙われているということに無頓着だったことも事実です。経済が安全保障に直結する時代となった今、日本企業も、自社の機微情報の取り扱いに注意する必要があることに気づき始めました。また、近年紙面を賑わわせている供給網についても、その安全性評価について、当社が貢献できることは少なくありません。

     

    FRONTEOは独自のAI技術を活用し、OSINT研究などを通して日本企業と日本政府を守っていきたいと考えています。当社が手掛けるAIは、膨大で複雑なサプライチェーンの可視化や事実上の株主支配のネットワークの分析を得意としており、国策として取り入れて頂くべく、勉強会を開くなどの取り組みを行っています。創業時から変わらぬフィロソフィーのもと、自然言語処理AI技術を極め、成長していきたいと思います。

    -本日はありがとうございました。

     

     

    <プロフィール>

    山本 麻理(やまもと・まり)
    株式会社FRONTEO取締役。広告代理店に入社後、リスクマネジメント会社に在籍。メンタルヘルス事業を立ち上げ、業界トップシェアへと導く。2014年に同社取締役に就任し、2017年に東証一部上場を実現した後、2018年12月よりFRONTEOに参画。2019年6月より執行役員として社長室およびライフサイエンスAI事業をけん引。2020年6月に取締役に就任し、AIソリューション事業全般を管掌・指揮している。

     

    株式会社FRONTEO

    https://www.fronteo.com
    本社所在地:東京都港区港南2-12-23明産高浜ビル(受付8階)
    設立:2003年8月
    設立代表取締役:守本正宏
    資本金:29億7,397万5千円(2021年3月)
    従業員:315名
    上場:2007年6月
    上場市場:東京証券取引所マザーズ市場(証券コード 2158)
    事業内容:AI製品の開発・販売、AIを活用した業務支援~リーガルテックAI事業、ビジネスインテリジェンス事業、ライフサイエンスAI事業

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