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2022年07月12日(火)

フォトシンス河瀬航大社長、髙橋謙輔取締役に聞く~クラウド型スマートロックでキーレス社会を実現

経営ハッカー編集部
フォトシンス河瀬航大社長、髙橋謙輔取締役に聞く~クラウド型スマートロックでキーレス社会を実現
株式会社Photosynth(フォトシンス)が提供するのはスマートロックを活用したクラウド型「Akerun(あけるん)入退室管理システム」。「クラウド型入退室管理システムの導入社数/シェア」、「スマートロックの利用者数/シェア」、「法人向けスマートロックの導入社数/シェア」でそれぞれ国内No.1*を獲得するなど、クラウド型入退室管理システム及びスマートロック市場で快走している。2014年からこの事業を行っている同社は、後付け型のスマートロックとしては世界初だという。2021年11月に東証マザーズ(現:グロース)市場に上場(証券コード:4379)、その後も高成長基調を維持している。上場を節目に、さらなる成長を目指す、河瀬航大社長、髙橋謙輔取締役の両氏に、事業内容、上場までの道のりと今後の展開を聞いた。 * 日本マーケティングリサーチ機構調べ(2021年6-7月期_指定領域・日本国内における検証調査)

ハードとソフトが一体となったHESaaS (Hardware Enabled Software as a Service)「Akerun入退室管理システム」事業の概要

-はじめに、事業構想の背景と事業概要を教えてください。

河瀬:財の所有の象徴とも言える、扉と鍵ですが、人の生活や行動パターンが多様化し、あるいはシェアリングエコノミーが発達するにつれて、物理的な鍵やカードがどんどん増えています。われわれは通過する扉やゲートの数だけ、物理的な鍵や解錠ツールを持ち歩く必要があり、扉の数と鍵の数がN:Nの関係となっています。鍵が増加こそすれ、減りはしない状況が非常に煩わしくなってきました。

とはいえ、それぞれの鍵が果たす役割はセキュリティや本人認証などきわめて重要であるため、鍵の管理に要する心理的・物理的な負荷は非常に大きいのです。そこで、フォトシンスでは増え続ける鍵の数を1つに集約し、物理空間のシングルサインオンを実現すべく、事業展開を行っています。

われわれはこのような世界をキーレス社会と呼んでいますが、このキーレス社会は現金におけるキャッシュレスと同じ進化の道を辿ると予測しています。キャッシュレス市場では、直接お金を持ち歩く時代から、キャッシュレスに移行するにつれ、ハードとしての電子デバイスや、インフラ端末、そして決済を可能とするクラウドシステムが登場してきました。この間、決済システム、決済手数料、POSシステム、端末関連の様々な市場が生れてきました。そして、決済に付随するビッグデータ解析や、認証サービスも現れました。

同様に、キーレス社会では、錠前と鍵の本数が増えたとしても、われわれの「Akerun ID」ですべての扉を開けることができるようになると、IDを特定するための様々な認証システムや、セキュリティ、労務システム、スマートロック機器、そしてサービスの時間課金手数料といった、様々な市場が立ち上がってくると予想しています。この、アクセス認証基盤を「Akerun Access Intelligence」と呼んでいますが、「Akerun ID」数が増え、データが蓄積されればされるほど、ビッグデータ活用による様々な新規事業がその先に展望できるようになります。

このように、われわれはスマートロックのハードウェアとクラウドのソフトウェアが一体となった、HESaaS (Hardware Enabled Software as a Service)として事業を展開しています。

(アクセス認証基盤「Akerun Access Intelligence」)

実際に、中小企業であっても10名以上のオフィスになると、物理的鍵による管理は難しくなります。現在、この規模の事業所は190万弱あると観ており、市場は4,100億円の規模があります。さらに家庭向けを加えると7,600憶円となり、小売り飲食を除く10名以下の企業を加えると1.2兆円の市場が広がっています。われわれが狙っている市場規模は大きいのです。

 

飲み屋での会話から出たアイデアを現実のプロダクトに

-河瀬社長はスタートアップスタジオを事業としているガイアックスのご出身ですが、遡って事業アイデアはどのようにして生まれてきたのでしょうか?

河瀬:学生時代は、筑波大学で放射線の研究をしていました。もともと自然環境問題に興味をもち、将来は研究者になり、技術を使って社会に貢献したかったのです。同時に、技術を使った貢献のあり方としてのビジネス手法にも関心があったので、自然環境問題をビジネスで解決するビジネスコンテストを主催する学生団体に入り、そのうち代表を務めるに至りました。

ところが、それをきっかけに産業界との接点も増え、研究よりビジネスに興味を持つようになった。事業をつくることは、私にとって生物が子孫を残していく生理現象のようなものだと気づいたのです。自分が死んでも会社という形で遺伝子が残り、社会貢献し続けることで、インパクトを世に残すことができるのではないかと。

そこで就職では、自分たちが考えた事業企画をビジネスとして次々にリリースしている面白い会社、ガイアックスを選んだわけなのです。皆、自主的に新規事業をつくっていましたし、当時はその中から上場企業も何社か出始めていたという環境にも惹かれました。ガイアックスでは、SNSの事業にかかわりながら、土日の空き時間にも何かをしたいと思い始め、仲間と一緒に様々なプロジェクトを立ち上げたりしていました。

そんな日々を送っていたある日、渋谷で仲のいい4人と飲んでいた時に、「鍵を無くして困った」という他愛のない話から、次第に「鍵を持ち歩くのは面倒」、「スマホが鍵になればスマートだよね」といったような事業の話題になっていきました。

ちょうど、メンバーの中には、電機メーカー勤務のハードウェアの専門家、キャリアで働いていた通信の専門家。そして、アプリが作れる仲間もいた。われわれが協力し合えば、世の中の皆が便利になる、鍵のない新しい世界が作れるかもしれないという流れになり、話はとんとんと進んで、プロトタイプを作ってみようとなった。そして、テストユーザーに使っていただきながら、改良を続け、ついにそれをプロダクトとして実現したということです。

-プロダクトの特長を教えてください。

河瀬:クラウド型入退室管理システムを中核とするAkerun事業は、後付け可能なスマートロックのエッジ端末と、それによる個人認証及びセキュリティを軸として法人向け、住宅向けに展開しています。

事業の特徴は3つあります。その1つ目が、先述のように、サブスクリプションモデルによるHESaaS としてサービスを提供している点です。各サービスは、ハードウェアとソフトウェアを組み合わせ、年単位などで課金されるようになっています。

ただ、事業を始めた2014年当時は、スマートロックという概念もなく、同業の企業も日本にはありませんでした。シリコンバレーでもようやく、同様の製品が出始めたころです。後付け型のスマートロックで言えば当社が世界初になります。

2つ目が、堅牢なアクセス認証基盤及びクラウドセキュリティシステムであることです。クラウド上に構築するアクセス認証基盤「Akerun Access Intelligence」によって高度な技術性を担保しています。この認証基盤を介したID認証では、特許を取得している独自の通信方式やSSL、AES256などのセキュアな通信技術でセッションごとに暗号化することで高度なセキュリティを実現しています。

これによって、ユーザーは基本情報(氏名や所属など)、デジタルID情報(電話番号や電子メールなど)、物理ID情報(所有するICカードや生体認証情報など)、認証権限情報(アクセスが許可されている扉、有効期間、曜日、時間帯などを記録)を安心して預けていただくことができるのです。

3つ目が、アクセス認証基盤が広範なユーザー基盤に裏付けられた認証プラットフォームとなり、社会インフラとして形成される価値です。これまでのサービス展開を通じて、2022年3月時点で現契約社数は4,569社を擁しておりプラットフォームとしての礎が出来つつあります。独自の顧客開拓はもちろんのこと、APIの連携先を増やすことによって今後さらなる拡張を見込んでいます。

-現在の市場環境においては、どのようなプロダクトが競合となり、どのような差別化ポイントがあるのでしょうか?

河瀬:競合プロダクトは、警備会社等が提供する旧来型の入退室管理システムになります。これらは、オンプレミス環境で稼働しており、サーバーなど複数のハードウェア機器の購入・設定に加え、システムの設定やネットワーク工事のためのSIerや電気工事業者の人手が必須です。

さらに、導入後も改修や保守費用などがかかり、さらにはIT技術に習熟した担当者でなければ取得データの利活用が難しいなど、費用面及び工数面での負荷やデータ活用の困難さがあります。

「Akerun入退室管理システム」では、このような導入時の障壁を低減し、より少ない負担で入退室管理システムを導入・活用することができます。特別な工事やシステム構築が不要、かつ後付けで手軽に導入でき、クラウド型システムによる専用IT機器の排除とデータ利活用の支援、サブスクリプションモデルによる保守・運用に要する費用負担の軽減などにより、導入障壁の低減と継続運用が容易になっています。

最近の導入ケースでは、宮崎県立看護大学様の例があります。同大学では、もともと校舎や学内施設でオンプレミス型の電気錠を使用されていました。このため、特定の管理用PCでしか管理できず、学生のカード紛失などのトラブルが発生するたびに管理用PCのある場所まで行かなくてはならないなどの課題感をお持ちでした。
 
そこで、学生証、教職員証、図書館カード、コピー用カードなどに加え、教室などの入退室カードも集約したICカードの活用といった利便性の向上を求められていたのです。今回、「Akerun入退室管理システム」の導入によって特定の管理用PCに依存しない、クラウドを通した大幅な管理性の向上ができました。また、エリアごとに鍵権限などを自在に設定され、ご活用いただいております。

 

「Akerun入退室管理システム」ハードとソフトの特長

-スマートロックとしてのハードウェアの部分にはどのような特徴がありますか?

河瀬:「Akerun入退室管理システム」で提供されるスマートロックのハードウェアには、2種類あります。

「Akerun Pro」は、工事なしで既存の扉に後付け可能なスマートロックです。扉の既存のサムターン錠(ツマミ式の金具で開閉を行う錠前)に取り付け可能なので、工事不要、初期費用0円で導入できるようになっています。これにより従来の入退室管理システムと比較して導入にかかる工数や費用を大きく低減しています。

「Akerunコントローラー」は、既存の自動ドアや電磁錠などの電気錠に後付けで導入でき、簡単な工事のみで導入することができます。電気制御で鍵の開閉を行う電気錠に対応することで、大型のオフィスや施設でも利用することが可能となっております。

また、それぞれにICカードリーダーも付帯しています。ICカードリーダーを活用することで、ユーザーが日常的に使用している交通系ICカードや社員証、ビル入館カードなどFeliCaやMifareの各規格に対応するICカード認証を通じた施錠・解錠ができるようになっています。

-次に、差別化の源泉となるクラウドベースのソフトウェアについて教えてください。

河瀬:クラウドならではの特長を活かし、Web管理ツールによる権限の柔軟な設定が可能です。ユーザーが入退室できる日時などを入力するだけで、ユーザーごとの要件に応じた入退室権限など、ニーズに合わせた柔軟な鍵権限の運用ができます。また、Web管理ツールでは、労務関連の法制度の改正やオフィスに求められる要件の変化など、社会状況の変化や市場トレンドに合わせて継続的にアップデートすることが可能です。

また、IoTを活用したクラウド型入退室管理システムの特徴を生かし、ユーザーの利用履歴を蓄積し、Web管理ツールなどでいつでも確認できる機能を備えています。さらに、この履歴をビッグデータとして活用することにより、セキュリティの機能だけでなく、ユーザーの動静を把握するための空間管理やサービス利用のエビデンスとしての活用など、多方面に用途が広がっていきます。

-具体的にどのようなシーンでの活用が可能なのでしょうか。

河瀬:三井デザインテック様では、Akerunの導入により、柔軟な鍵の権限設定によるセキュリティ強化に加え、遠隔解錠による受付業務の大幅な効率化、そしてウェルビーイングやABW(Activity Based Working)などの先進的な働き方を促進する心地よいオフィス空間を実現されています。

Akerunの導入によって、同社の「クロスオーバーデザイン」というコンセプトに基づく、オフィス、住宅、ホテルなどの異なる領域の要素を融合した空間デザインに順い、用途に応じて働く場所を変えるなどの働き方もできる、心地よい空間づくりをサポートしています。

具体的には、エリア別にクラウド経由で柔軟に設定可能な日時/人ごとの鍵権限による入室制御、デジタルな合鍵の発行やアプリからの遠隔解錠を活用した、受付業務の無人化と効率化、ICカード社員証を活用したシンプルで使いやすい入退室フローが実現できました。

-APIによる外部システムとの連携とはどのようなものでしょうか?

河瀬:サービスの拡張性をより一層高めるために、外部システムとの連携が可能なAPIを公開しています。これにより、外部システムからの入退室履歴などの各種情報の取得や遠隔での解錠・施錠の操作などが可能となります。

また、ユーザーのシステムやサービスと「Akerun入退室管理システム」を連携させたり、外部のパートナー企業との間でAPI連携させた勤怠管理、生体認証などの認証システム、会員管理システム、決済システム、IoT監視カメラなどとの共同ソリューションを活用したりすることもできるようになっています。

例えば、ジェイアールバス関東様では、乗務員向けの宿泊所の運営にあたり、次のような課題がありました。バスの乗務員は、担当する便の運行時刻によって勤務時間が日々変動するため、これまでは営業所の社員が運行計画をもとに予め宿泊所の部屋割りを作成したり、各部屋の鍵の貸し出しや使用状況を管理するための社員を常駐させたりしておく必要があったのです。

同社の社員証にはSuicaの機能がついているため、それを鍵として使える入退室管理システムや、自社で構築した宿泊管理、予約管理システムとAPIで連携しました。指定時間帯のみ利用できる鍵権限の発行を自動化し、多くの部屋に導入することから、初期費用などの導入コストを低く抑えられました。そして、業務効率化、宿泊所の稼働率向上、施設運営コストの大幅な削減を達成されています。

 

2021年末、東証マザーズ上場と主要KPIの推移

-上場はいつ決意されましたか?

河瀬:2014年9月に創業したそのときから上場は考えていました。セキュリティ商材という特徴から世の中の信頼を得ることが重要ですし、投資家から資金調達しましたので、それに報いるためでもありました。

ただ、先々の成長もはっきりと見通せるようになり、実際に準備を始めたのは2018年です。その時点では、役員も若く事業系の人材がほとんどで、財務やファイナンスに長けた役員がいない。そこで、大きな会社の上場経験者で、取締役も務め、オーナーシップをもっている人材を探し出し、今隣にいる髙橋に声をかけた次第です。

-髙橋取締役がフォトシンスに参画された経緯を教えてください。

髙橋:大学時代に会計士の資格を取りましたので、キャリアのスタートは、自然な流れで監査法人に入所しました。監査法人にも、それぞれカラーがあるので自分と合う、トーマツを選んだという次第です。

会計士として、多くの企業の監査を手掛けていく中で、外から見えているだけではなく、中に入ったときにしか見えない企業の課題があることに気づきました。このとき、外からものを言うのは簡単ですが、実際に自分が課題解決できるのだろうかと考え、できるかどうか試してみようと前職の事業会社に転身しました。そこでは幸いに、会社を上場させる経験をすることもできました。

前職でもそうでしたが、事業に参画するにはまず、プロダクトが好きになることが大切です。AkerunはWeb広告を見て知ってはいましたが、Akerunの実物が実際に目の前で動いたときには正直、感動しました。見た目シンプルで、すでに日常的に浸透していてもまったく不思議ではないこのプロダクト。なぜ、今までなかったのだろうか?このプロダクトを生み出せる発想力は凄いと思いましたね。

最先端技術で若いメンバーがこれまで築き上げてきたことに可能性を感じ、自分が参画すれば今までのキャリアを活かし、経理や財務、内部統制の体制を築き上げることができる。この会社なら、間違いなく上場させられるという確信がありましたね。

-上場にあたって苦労したことは?

髙橋:上場準備にあたっては、上場前ラウンドの資金調達、システムの入れ替え、ガバナンスやコンプライアンス体制の構築・・・といったことに取り組みました。そして、必須の予実管理のPDCAを回すといったことも。この点は皆さん同じ苦労をされているかと思います。

あとは、当社特有の困難さで言えば、証券審査時のマルチプルの類似企業やバリエーションを決める時でしたね。結局、有名なSaaS企業を類似企業にすることで落ち着きました。また、事業内容を伝えるうえでは、当社はHESaaSであり、Webサービスだけの業態ではなく、ハードがあるので、Webサービスだけの企業よりは伝えやすかったと思います。ただ、サービス内容は説明すると概ねご理解頂いたものの、ハードを活用したクラウドベースの事業はまだまだ日本では認知が低かった。なので、日本だけだと高い評価を出してもらうことが難しい状況がありました。

そこで、株価においては、クラウド業態を熟知している、海外の投資家へのアプローチを積極的に行い、われわれの理想とする株価に近づくようアロケーションを形成していきました。また、赤字上場だったので、将来の経営計画の蓋然性を説明する必要があり、これに苦労した面もありましたね。

-上場して良かったことは?

河瀬:あくまでマイルストーンではあるものの、早く突破したい地点ではありました。すばらしいチームに恵まれて、達成できたことには感慨深いものがあります。一方で身が引き締まる思いです。上場して、まだそれほど時間がたっているわけではありませんが、知名度が上がり、取引企業様から見ても、上場によってより信頼感を持って接して頂いていると感じます。

-重要視している指標は?

髙橋:まずはARR(Annual Recurring Revenue)を伸ばすことを重視しています。SaaS型ビジネスモデルの企業として、スポット収益ではなくストック収益を強く意識しており、サステナブルな事業であることをしっかり示していきたいと思います。このARRを支えるサブスクリプション収益の比率としては、現に事業収益全体の約90%を占めています。

そして、次に契約社数の増大と、ARPUの拡大です。契約社数が増え、単価を増やすことで
事業の安定的な成長が実現できています。

一方で、解約を減らすことも重要です。現在MRR(Monthly Recurring Revenue)ベースのChurn Rate(サービスに関する解約率)は平常時で1%台半ばの低い水準に抑えられています。比較的大規模なオフィスや施設向けの「Akerunコントローラー」の導入の進展、大企業とのAPI連携によって、さらにChurn Rateを減らしていける見込みです。

これらの指標を追いつつ当面の目標としては、2024年には、何としてもARR50億円と、黒字化を達成したいです。

 

今後の成長拡大のための取り組み

-働き方改革などの定着も追い風になりそうです。

河瀬:その通りで、働き方改革関連法により、企業では客観的な方法による従業員の労働時間の把握や、残業時間の上限規制、勤務間インターバル制度など、従業員の勤務時間を正確に記録、管理することが求められています。

そこで、労働時間の正しいログを取らなければならない。出社率を可視化、その場所にいた人を特定しなければならない。と、いったニーズも発生しています。これによって物理空間における認証基盤へのニーズはますます拡大していくものと認識しています。

さらに現在では、企業努力による働き方改革の進展や直近の新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけに、勤務する場所も従来のオフィスだけでなく、自宅に加えてコワーキングスペースやシェアオフィスなどの分散型オフィスの活用が進展しています。

こういった、オフィスや施設における従業員の出社や在室の状況などをモニタリングし、出社率、人の動静の把握や、従業員による出社予約とそれに伴う鍵権限/入室権限の付与を連動させるホテリング(座席予約)へのニーズも高まってきています。

そして、直近では新たな都市開発手法としてミクスドユースも注目を集めており、オフィス、商業施設、住宅などの様々な用途の空間をシームレスに行き来する空間利用が今後も普及していくと考えられます。

-中小企業ではどうなのでしょうか?

河瀬:個人情報保護法の中小企業への対象拡大により、個人情報マネジメントの基礎である、入退室管理をしっかりしていないと、元請けから仕事が受けられないといった事態も生じてくるようになりました。中小企業においても安全管理措置に基づき、個人情報に対する物理セキュリティ及び情報セキュリティの対策を強化する必要があるのです。

-住宅領域ではどのような動きがありますか?

河瀬:現在、日々の生活の様々な場面でデジタル化が大きく進展し、家事代行サービスや宅配サービス、空間利用等の不動産や自動車等の動産を有効活用するシェアリングエコノミーの台頭にみられるように消費者の行動様態は大きく変化しています。

また、日本では高齢化の進展により、高齢者の一人暮らし世帯の増加とその世帯への生活支援、健康管理、安全管理などのケアサービスの提供が課題となっています。

そこで、住宅領域では、2021年1月、サービスやプロダクトの提供にあたり、建築用錠前で国内最大手の美和ロック株式会社(以下、美和ロック)との合弁会社となる株式会社MIWA Akerun Technologiesを設立しました。

-具体的にはどのような展開をされていますか。

コロナ禍の影響もあり、在宅勤務なども含めた住宅を中心とした生活環境でのライフスタイルは変化してきています。また、この変化に伴ってネットショッピングの利用拡大や宅配便取扱量の増加、そして置き配など新たな宅配便の受取方法へのニーズも高まってきました。

そこで、先日、ヤマト運輸の「マルチ デジタルキー プラットフォーム」と連携することで、オートロック付き集合住宅向けの置き配を可能とするソリューションを発表しました。

これにより、オートロック付き集合住宅でも、利用者の事前承諾のもと、安全・安心な方法で配達員がエントランスを通過できるようになるため、これまで実施が難しかった集合住宅エントランスの通過と玄関前などへの置き配が実現できます。

このように美和ロックが有する営業チャネルを活用して住宅向けスマートロック及びサービス利用のためのプラットフォームを展開することで、集合住宅や戸建住宅への提案を強化していきます。

-ビッグデータのプラットフォームとしての外部効果はどのようなものが考えられますか?

セキュリティ及び認証のプラットフォーム化による社会インフラとして、今後は住宅領域も加え、さらに広範な基盤を通じたビッグデータの取得・活用により、様々な周辺サービスへの展開を加速させます。

次のグラフは、Akerun認証基盤のデータを集計し、コロナ禍におけるオフィス稼働状況を示したものです。

このようなビックデータをもとに、企業は稼働状況を踏まえつつ最適なオフィス配置戦略を考えることができるようになってきました。

将来的には、プラットフォームに蓄積されたビッグデータを活用することで、人の動静に合わせた効率的なエネルギー利用による環境負荷の低減や、社会や時勢の変化に合わせた柔軟な働き方をサポートしたい。また、既存の空間を活用した効率的な社会インフラの構築、認証、移動、決済等のソリューションの提供を通じて、オフィス領域から住宅領域のあらゆるシーンで効率的かつ持続可能な社会の構築に貢献していけるものと考えています。

 

企業文化と実現したい世界

-組織の特徴を教えてください。

髙橋:あえて外からの目線でコメントすると、創業から8年弱の若い会社で、チャレンジ精神にあふれているという印象があります。ハードウェアを伴うSaaSビジネスであるがゆえの、今までにない連携や、新しいビジネスが生まれる可能性を秘めており、市場も大きいので、事業展開の余地も大きいです。

実際に、入社して間もない方が、社長に直談判して、こんな組織をつくりたいと提案したところ、その提案が通り、今では大きな組織に発展しているケースもあります。常に新しい提案を受け入れ実現していけるという環境があるのです。

そして、セールス、開発、CSと様々なセクションが、フラットでオープンな関係で仕事を進めています。今までは、気軽に相談できる風土をつくるため、ランチ会などの社内イベントも重視していました。コロナ禍で中断していましたが、これから、また復活させていきます。

気軽にコミュニケーションでき、色々な方と話せる風土づくりには特に力を入れています。

-将来的に実現したい世界の姿を教えてください。

河瀬:お話してきたことのまとめになりますが、物理的な鍵による制約を無くし、1つのICカードや個人を特定する物理的なIDであらゆる扉やゲートにスムーズにアクセスできる、扉の数と鍵の数がN:1の関係になる世界をつくりたいですね。

この社会インフラとしての鍵の制約のない社会を実現することで、人々や社会の利便性の向上やさらなる価値の享受に資するものと考えています。また、フォトシンスグループでは、ヴィジョン・ステートメントを定め、「世界から、鍵をなくそう」という決意表明をいたしました。

歴史的には、紀元前2000年頃、安心安全のために生まれた鍵は、時代とともに強固に、複雑に、そして増加してきました。しかし、一方では壁をつくり、世界を分断することにもつながっています。

様々な分断を超えて、あらゆる物事がシェアされ、世界が広くつながっていくことが求められる時代だからこそ、もっと簡単に、もっとスマートに、それでいて安全につながりたい。「鍵を無くす」、われわれは、このキーレス社会の実現を目指して日々邁進していきます。

 

 

 

<プロフィール>
河瀬航大(かわせ・こうだい)

2011年4月 株式会社ガイアックス入社
2014年9月 当社設立 代表取締役社長(現任)

髙橋謙輔(たかはし・けんすけ)

2005年3月 監査法人トーマツ(現・有限責任監
査法人トーマツ)入所
2008年5月 公認会計士登録
2012年4月 株式会社ホットランド入社
2012年9月 同社財務経理部長
2014年12月 同社経営管理本部長
2015年3月 同社取締役経営管理本部長
2018年5月 当社入社 経営管理部長
2019年3月 当社取締役(現任)
2021年1月 株式会社MIWA Akerun Technologies
監査役(現任)

株式会社 Photosynth (フォトシンス) / Photosynth inc.
https://photosynth.co.jp/

設立2014年9月1日
所在地:本社〒108-0014 東京都港区芝 5-29-11 G-BASE田町15階
事業内容:    
(1)IoT関連機器の研究開発
(2)「Akerun入退室管理システム」の開発・提供

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